コミュニティドリブン経営 ファン起点で広げるビジネスの新潮流
小父内信也
幻冬舎
コミュニティドリブン経営(小父内信也)の要約
コミュニティドリブン経営は、企業文化の変革にも大きな役割を果たします。顧客中心の思考が社内に浸透することで、従来の社内向けの発想から、顧客視点での思考へと変化していきます。この文化的変革は、製品開発だけでなく、カスタマーサポートやマーケティングなど、企業活動のあらゆる面に影響を与えます。
コミュニティドリブン経営とはなにか?
コミュニティを通じて顧客と信頼関係を構築し、ブランド・商品・サービスをともに創るパートナー(ロイヤル顧客)となっていく。それによって事業成長を実現する経営を、私たちは「顧客中心の経営」と定義しています。(小父内信也)
iU(情報経営イノベーション専門職大学)の私の授業でも、コミュニティマーケティングの重要性を学生たちに話していますが、わかりやすくコミュニティの価値を伝えてくれる一冊をSNS経由で見つけました。
今日は株式会社Asobica・取締役CCOの小父内信也氏のコミュニティドリブン経営 ファン起点で広げるビジネスの新潮流を取り上げます。
小父内氏は、コミュニティを通じて顧客との信頼関係を構築することの重要性を強調しています。顧客をブランドや商品、サービスを共に創るパートナー、すなわちロイヤル顧客へと発展させることで、事業成長を実現する経営手法を「顧客中心の経営」と定義しています。
コミュニティは、企業と顧客をつなぎ、育成する場として機能します。一見シンプルな構造ですが、その効果は想像以上に大きいものがあります。著者は、この効果を最大限に引き出すためには様々なノウハウが必要だと指摘しています。
特に重要なのは、顧客を単なる消費者ではなく「仲間」として捉える視点です。 この考え方を体現している企業の一つが、小父内氏が所属するAsobicaです。同社は「顧客中心の経営をスタンダードにする」というビジョンを掲げ、企業向けのコミュニティサイトをノーコードで構築できるソフトウェアを提供しています。
同社では「顧客中心」を略した「コキャチュウ」を合言葉にし、200社以上のクライアントのコミュニティ支援を行っているといいます。
コミュニティマーケティングは、単なるマーケティング手法の一つではありません。それは、企業と顧客の関係性を根本から変える可能性を秘めています。顧客をパートナーとして捉え、共に価値を創造していくことで、持続的な事業成長を実現する――これが、小父内氏が提唱する「コミュニティドリブン経営」の本質です。
この新しい経営アプローチは、デジタル時代における企業の在り方に新たな視点を提供しています。顧客との対話を重視し、その声に真摯に耳を傾けることで、企業は革新的な製品やサービスを生み出すことができるでしょう。また、顧客との強固な信頼関係は、ブランドロイヤルティの向上にもつながります。
「顧客中心の経営」が注目を集めている背景には、現代のビジネス環境における重要な課題があります。人口減少に伴う顧客数の減少、製品の均一化、競争の激化など、企業を取り巻く環境は厳しさを増しています。
このような状況下で、企業が生き残り、成長するためには、顧客との関係性を深め、顧客生涯価値(LTV)を高めることが不可欠となっています。
このメソッドでは、単に顧客満足度を高めるだけでなく、顧客をビジネスの中心に据え、共に価値を創造していくパートナーとして捉えます。これにより、企業は独自の価値を生み出し、顧客の愛着心やブランド力を強化することができます。 情報が氾濫する現代社会では、信頼できる価値ある商品やサービスを提供し、顧客に選ばれ続けることが重要です。
「顧客中心の経営」を実践することで、ロイヤル顧客の維持・拡大が可能となり、安定した収益基盤を築くことができます。さらに、満足度の高い顧客からのレコメンドによって、新たな顧客獲得にもつながります。
コミュニティドリブン経営を成功させるためには、次の3つのステップを踏むことが欠かせません。まず、自社にとっての理想の顧客を定義することから始めます。次に、その理想の顧客の価値観や課題を深く理解します。そして最終的には、顧客の声やインサイトを軸にあらゆる意思決定を行うことを目指します。
コミュニティドリブン経営は、単なるマーケティング戦略ではありません。それは企業全体の姿勢や文化を変革し、顧客との深い関係性を構築することで、持続可能な成長を実現する経営哲学です。この経営スタイルをを採用することで、企業は変化の激しい現代のビジネス環境において、競争力を維持し、成長を続けることができるようになります。
コミュニティドリブン経営は、顧客との対話を通じて企業に多くの利点をもたらします。しかし、この経営手法を成功させるには、顧客の声に真摯に耳を傾け、それを行動に移す勇気が必要です。顧客との信頼関係を築き、共に成長していく姿勢が求められるのです。
コミュニティ成功のための3つのポイント
私は「顧客向けコミュニティ」とは、企業がロイヤル顧客やファンに提供する「信頼の場」であるべきだと考えています。逆に言えば、信頼がなければ、コミュニティが本来持つポテンシャルを発揮することはできません。ぜひコミュニティを運営する際には、「企業目線」ではなく、「顧客目線」を大切にしていただけたらと思います。
コミュニティの立ち上げと成功には、慎重な計画と段階的なアプローチが不可欠だと著者は指摘します。成功のポイントは主に3つあり、それぞれが重要な役割を果たしています。
まず、明確な目的とゴールの設定が必要です。これにより、コミュニティの方向性が定まり、メンバーの行動指針となります。 次に「焚き火理論」と呼ばれる アプローチ があります。これは、小さな火種から始めて徐々に大きな炎に育てていく過程を、コミュニティの成長に例えたものです。
最初は少数の熱心なメンバー(リーダー)から始め、徐々にフォロワーを増やしていきます。この段階的な成長は、コミュニティの基盤を強固にするために重要です。
3つ目は「コミュニティの仕掛け」です。これは、コミュニティを活性化させるための様々な施策を指します。特に立ち上げから3ヶ月間は重要な時期であり、急激な拡大を求めるのではなく、コアメンバーと共にじっくりとコミュニティを育てることが大切です。
コミュニティの仕掛けを考える際は、3つの軸を意識することが重要です。まず、設定した目的とゴールに沿っているかを常に確認します。次に、メンバーの期待を超える価値(WoW)を提供することを目指します。そして、顧客を巻き込み、共に創り上げていく姿勢を持つことです。
これらの要素が三位一体となって初めて、健全なコミュニティの成長が実現します。 コミュニティ運営において、「一度離れたユーザーは二度と帰ってこない」という意識を持つことが大切です。そのため、焦らずじっくりと、慎重にコミュニティを育てていく必要があります。
コミュニティは与えられるものではなく、顧客と共に創り上げていくものだという考え方が重要です。この「共創」の精神を実践するために、「PiDCA」という手法を著者は提案しています。これは通常のPDCAサイクルに「interview(聞き取り)」を加えたもので、計画段階から顧客の声を取り入れることで、より効果的なコミュニティ運営が可能になります。
このような取り組みは、顧客との関係強化だけでなく、社内にも大きな影響を与えます。社員が顧客インタビューに参加したり、その結果を共有したりすることで、顧客の声に耳を傾ける姿勢が社内に浸透していきます。顧客の生の声を聞くことで、社員は自分たちの仕事が顧客にどのような影響を与えているかを実感し、モチベーションの向上にもつながります。
さらに、顧客の声に耳を傾けることは、イノベーションの源泉にもなります。顧客が抱える問題や願望を深く理解することで、これまでにない製品やサービスのアイデアが生まれる可能性が高まります。
コミュニティドリブン経営は、企業文化の変革にも大きな役割を果たします。顧客中心の思考が社内に浸透することで、従来の社内向けの発想から、顧客視点での思考へと変化していきます。この文化的変革は、製品開発だけでなく、カスタマーサポートやマーケティングなど、企業活動のあらゆる面に影響を与えます。
顧客の声を経営に反映させることで、企業は真の意味で顧客に寄り添うビジネスを展開することができるようになります。これは単に顧客満足度の向上だけでなく、企業の社会的評価にも良い影響を与えます。顧客の声を大切にし、それに基づいて行動する企業は、顧客だけでなく、従業員、取引先、投資家などのステークホルダーからも支持を得やすくなります。
コミュニティドリブン経営の実践は、短期的には手間がかかるかもしれません。しかし、長期的には企業の持続的な成長と、社会からの信頼獲得につながる重要な戦略です。顧客の声に耳を傾け、それを真摯に受け止め、行動に移すことで、企業は顧客とともに成長し、より良い社会の実現に貢献できるのです。
コミュニティドリブン経営が企業の成長を加速させる!
答えは顧客の中にある。私はいつもそう考えています。困った時は、素直に聞くことで、顧客(メンバー)は自分の意見が求められていると感じ、主体的に行動を起こしてくれるケースも多くあります。コミュニティが顧客にとって与えられたものではなく、顧客自身が能動的に動けるような環境、状態になっているかが大切なポイントです。
「答えは顧客の中にある」―― この著者の言葉は、現代のビジネス環境において、ますます重要性を増しています。顧客中心の経営が注目を集める中、多くの企業がその実践方法を模索しています。
本書には効果的な事例がいくつか紹介されていますが、ここからしゃぶ葉の「おやさい学校しゃぶしゃぶ部」とカインズの「CAINZ DIY square」の事例はを紹介します。
2社の事例が教えてくれるのは、顧客を単なる消費者としてではなく、ビジネスの共創者として捉えることの重要性です。困難に直面した際、素直に顧客の意見を聞くことで、思いもよらないソリューションが生まれることがあります。そして、自分の意見が求められていると感じた顧客は、主体的に行動を起こし、企業の成長を支援してくれます。
しゃぶ葉の取り組みでは、顧客を商品開発に巻き込むことで、ロイヤルティの高い顧客基盤を築くことに成功しています。「おだし」の開発プロジェクトでは、顧客からのアイデアを募集し、試食会を実施するなど、顧客を巻き込んだ共創の取り組みを行いました。この結果、新商品の販売数が4.3倍に増加するという成果を上げています。
また、コミュニティ内でのフリートークやアレンジメニューの共有など、顧客同士の交流を促進する仕掛けも効果的だったと言います。これにより、公式サイトや店舗では伝えきれない情報が共有され、顧客の満足度向上につながっています。さらに、コミュニティ限定の情報を共有することで、メンバーの帰属意識を高めています。
一方、カインズのCAINZ DIY squareは、DIY文化の普及とともに、顧客のロイヤル化に成功しています。コミュニティメンバーの年間購入額が一般会員の1.8倍、最高ランクのメンバーに至っては6.4倍という驚異的な数字を記録しています。これは、購買時点以外でも顧客と継続的にコミュニケーションを取り続けることの重要性を示しています。
これらの事例は、プロダクトアウト型からマーケットイン型への転換を示しています。顧客の声を直接聞き、ニーズに応えることで、より効果的な商品開発やサービス提供が可能となります。 しかし、このような「顧客中心の経営」を実行レベルで確立できている企業はまだ少数です。今後も試行錯誤を重ねながら、顧客との共創を中心に据えたマーケティングの確立が求められています。
「顧客中心の経営」を実現することができれば、ビジネスは必ず加速します。そして驚くほどに組織もパッと活気づきます。企業と顧客の共創は、私たちの想像以上のインパクトを世の中に残し、大きくその輪を広げていきます。ブランドも顧客も世の中もみんながハッピーで輝く世界は、本当に素敵です。
「コミュニティドリブン経営」の実践は、決して容易ではありません。しかし、その潜在的な効果は計り知れません。本書は、この新しい経営アプローチに挑戦しようとする企業や起業家にとって、貴重な指針となるはずです。
デジタル化が進む現代社会において、人と人とのつながりの価値が再認識されています。コミュニティドリブン経営は、そんな時代の要請に応える新しいビジネスモデルと言えるでしょう。企業と顧客が共に成長し、新たな価値を創造していく――そんな未来の姿が、本書には描かれています。
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