「儀式」で職場が変わる(クルシャット・オゼンチ, マーガレット・ヘイガン)の書評

people running on grassfield under blue skies at daytime

「儀式」で職場が変わる――働き方をデザインするちょっとヘンな50のアイデア
クルシャット・オゼンチ, マーガレット・ヘイガン
英治出版

「儀式」で職場が変わるの要約

著者たちは、組織やチームの絆を深める上で、儀式的な要素が重要な役割を果たすと指摘しています。「お陀仏プロジェクトのお通夜」「サプライズ現場視察」「機内モードの午後」などの儀式を通じて、メンバー間の結束力が強化され、より強固な組織文化が育まれるとしています。

儀式というボトムアップ型のアプーローチが組織を変える理由

儀式は、日々の仕事の質を高める効果的な戦略になりえます。そして、日頃からおこなうことで、目指している姿に近づきやすくなります。チームの結束が強まる、対立を乗り越える、パフォーマンスを向上させる、変化に対応する、といったことにつながるのです。(クルシャット・オゼンチ, マーガレット・ヘイガン)

現代の職場が抱える課題に対し、日常的な「儀式」を活用した革新的な解決策を提案しているのが、「儀式」で職場が変わるです。 著者のクルシャット・オゼンチは、デザイン専門のイノベーションコンサルタントです。スタンフォード大学dスクールで「儀式デザインラボ」を率い、儀式の力を組織に活かす研究を行っています。

共著者のマーガレット・ヘイガンは、リーガルデザインラボの所長として、アメリカの司法制度をより分かりやすくする活動に取り組んでいます。彼女もdスクールで教鞭を執っています。

2人の著者は、日々の小さな儀式が持つ大きな可能性に着目しました。本書では、これらの儀式が職場環境を改善し、個人の成長を促進し、組織全体の生産性を向上させる方法を詳しく解説しています。 読者は本書を通じて、儀式の力を活用し、より活気に満ちた、創造的な職場づくりのヒントを得ることができるでしょう。

現代の職場では、従業員の意欲低下やストレス増加、働きづらい環境、組織改革の失敗など、様々な問題が山積しています。本書は、これらの課題に対する効果的な解決策として「儀式」の活用を提案しています。

著者らが紹介する50のケースは、儀式が持つ驚くべき力を明らかにしています。これらの儀式は、上からの押し付けではなく、メンバーが自主的に参加できるボトムアップ型のアプローチを採用しています。

著者らは儀式を以下の5つに分類しています。
①クリエイティビティやイノベーションを引き出す儀式
定期的なブレインストーミングや自由な発想を促す環境設定で、革新的なアイデアを生み出します。新しいアイデアを披露するアイデアパーティを行うことで、意見を交換を行い、アイデアの質を高められます。

②パフォーマンスの向上やフローにつながる儀式
集中時間の設定や進捗確認ミーティングにより、生産性と効率を高めます。元大リーガーのイチローは試合前にカレーを食べることを習慣にしたり、打席での独特な動作など、独自の儀式を行っていました。これらの儀式が、彼の類まれなパフォーマンスを支えていたのです。

③対立の解消やレジリエンスの向上につながる儀式
チームビルディング活動やオープンな対話で、チームの結束力と回復力を強化します。この考えは古くから存在し、例えばネイティブアメリカンの文化にも見られます。彼らは部族間の対立時に「燻の儀式」を行い、共に時間を過ごすことで感情を鎮め、和解への道を開きます。

現代の職場でも、こうした儀式的な活動を取り入れることで、チームの一体感を醸成し、困難に立ち向かう力を育むことができます。定期的な対話の場を設けたり、共同体験の機会を創出したりすることで、より強固で柔軟なチーム作りが可能となるのです。

④コミュニティやチームづくりにつながる儀式
成功祝賀や歓迎セレモニーを通じて、チーム内の信頼関係と協働の質を向上させます。スポーツイベントの応援では、試合前に特別なコスチュームを着たり、食事会や壮行会を行ったりします。こうした活動を通じて、チームのアイデンティティを再確認し、選手や応援メンバーの絆を強化します。

⑤組織の変革期や転換期に適応を促す儀式
チームが変革している際には、キックオフミーティングや過去の成功体験を振り返るレトロスペクティブセッションが効果があります。

これらの儀式を適切に活用することで、組織の生産性、創造性、そして結束力を高めることができます。

儀式が人々の心理状態やパフォーマンスに与える影響について、興味深い研究結果が報告されています。これらの研究は、日常生活や職場環境における儀式の重要性を示唆しており、私たちの生活の質を向上させる可能性を秘めています。

アリソン・ウッド・ブルックスの研究では、人前でのパフォーマンス前に行う儀式が、不安を軽減させ、結果的にパフォーマンスの向上につながることが明らかになりました。この研究では、歌唱コンテストの参加者を対象に実験が行われました。参加者は、自分の気持ちを絵に描き、その絵に塩をふりかけ、声に出して5つ数えてから絵を丸めてゴミ箱に捨てるという儀式を行いました。

この儀式の効果は、参加者の主観的な気持ちの報告と心拍数の測定によって評価されました。結果として、儀式を行ったグループは、任意の行動をとった対照グループや儀式を行わなかった対照グループと比較して、不安レベルが低下していることが確認されました。

この研究は、緊張を伴うタスクの前に儀式を行うことで、心理的な安定がもたらされ、それがパフォーマンスの向上につながる可能性を示唆しています。

一方、フランチェスカ・ジーノとマイケル・ノートンによる研究は、儀式が悲しみや喪失感を乗り越える助けになることを明らかにしました。彼らは、大切な人を亡くした人々を対象に、追悼儀式の効果を調査しました。その結果、儀式を行うことで悲しみが軽減され、不安や孤独感の中でも気持ちを落ち着かせる効果があることがわかりました。

これらの研究結果は、儀式が単なる形式的な行為ではなく、人々の心理状態や行動に実質的な影響を与える可能性があることを示しています。パフォーマンス向上や心理的な安定、さらには喪失感からの回復など、儀式はさまざまな場面で効果を発揮する可能性があります。

私も毎朝の深呼吸や日記やブログを儀式にしていますが、これにより心が落ち着き、やる気がチャージされるようになりました。儀式という習慣の力が、私のパフォーマンスを高めてくれています。

儀式で職場を変えよう!

クリエイティビティやイノベーションは、型どおりの発想から離れ、意外なものが結びつくときに生まれます。儀式というしくみを活用することで、創造的マインドセットに切り替わり、ありふれた発想の枠を越えやすくなります。アイデアを試しやすいチーム文化を育むことにもつながります。

今日は50の中から、私が気になった儀式を紹介します。「お陀仏プロジェクトのお通夜」は、失敗を前向きに捉える組織文化を育てる独創的な儀式です。この儀式の目的は、失敗したプロジェクトや中止されたアイデアを振り返り、それらを恥じるのではなく、貴重な学びの機会として捉えることにあります。

進め方としては、プロジェクトの「お通夜」を象徴的に開催し、チーム全体で失敗の経緯や得られた教訓を共有します。これにより、失敗から学ぶ姿勢が強化され、新しい挑戦への恐れが軽減されるとともに、チームの結束力も高まることが期待されます。

さらに、この儀式は組織文化にも大きな影響を与えます。失敗を隠さずオープンに議論する雰囲気が醸成され、結果としてイノベーションを促進する環境づくりにつながります。 「お陀仏プロジェクトのお通夜」を通じて、組織は失敗を成長の糧とし、より強靭で創造的なチームを育てることができるのです。

日々の業務に追われるリーダーや現場を知らないデザイナーたちに、新鮮な視点と活力を与える斬新な取り組みが注目を集めています。その名も「サプライズ現場視察」です。この革新的な儀式は、オフィスや役員室に籠もりがちなリーダーやデザイナーたちを、突如として現場へと送り出します。

この儀式のポイントは、メンバーの日常を意図的に乱すことにあります。予定されていた会議やデスクワークは一旦脇に置き、丸一日を顧客との対話と現場視察に充てるのです。この予期せぬ現場体験は、リーダーたちに新たな気づきと刺激を与えます。

「サプライズ現場視察」の真の狙いは2つあります。1つは、現場で働く人々への深い共感を育むこと。もう1つは、クリエイティブな発想への新たな糸口を見出すことです。顧客の生の声を聞き、従業員の日々の奮闘を目の当たりにすることで、リーダーやデザイナーたちの視野は大きく広がります。

この取り組みは、組織全体に正の影響を及ぼします。リーダーやデザイナーたちは現場の実情をより深く理解し、より適切な意思決定を行えるようになります。同時に、現場の従業員たちも、リーダーの突然の訪問に刺激を受け、モチベーションが向上します。 

「機内モードの午後」では、特定の時間帯にチーム全体で通信機器をオフにし、集中作業を行います。この儀式は、深い集中を要する作業や創造的思考の促進に効果的であり、常時接続の現代社会において意図的に「切断」する時間を設けることで、ストレス軽減にも繋がります。

音楽をシェアする「リモートプレイリスト」の仕組みは実にシンプルです。各地に散らばるチームメンバーが定期的に、例えば毎週、自分の好きな曲や最近ハマっている曲をシェアします。これらの曲は一つのプレイリストにまとめられ、チーム全員がアクセスできるようになります。

この取り組みの魅力は、会議やメールといった公式のコミュニケーション以外で、互いのことをより深く知る機会を提供することにあります。音楽の趣味は個人の内面を映す鏡のようなもの。同僚の意外な一面を発見したり、共通の音楽的興味を見つけたりすることで、新たな会話のきっかけが生まれます。

また、「リモートプレイリスト」は、知らない曲や思いがけない曲に出会う貴重な機会にもなります。普段聴かないジャンルの音楽に触れることで、メンバーの視野が広がり、創造性が刺激されることも期待できます。

ビジネスの世界では、イノベーションと効率性が常に求められています。その中で、従来の会議スタイルを一新する「ウォーキング・ミーティング」が注目を集めています。この斬新な会議手法は、屋内外を歩きながら議論を行うもので、参加者の創造性を刺激し、自由な発想を促進する効果があるとされています。

アップル社の共同創業者であるスティーブ・ジョブズが、歩きながらミーティングを行っていたことは有名です。彼のイノベーティブなアイデアは、この歩行中の対話から生まれていたのです。

この手法をチームに取り入れることで、様々なメリットが期待できます。まず、環境の変化が脳を活性化させ、新しい視点や発想を生み出しやすくなります。オフィスの閉鎖的な空間から解放されることで、思考の枠も広がるのです。また、歩くという行為自体がリラックス効果をもたらし、より自由でオープンな議論を促進します。

さらに、ウォーキング・ミーティングには健康面でのメリットもあります。長時間のデスクワークによる健康リスクが指摘される中、適度な運動を取り入れることは非常に重要です。歩くことで血流が良くなり、脳にも酸素が行き渡ります。結果として、集中力や生産性の向上にもつながるのです。

著者たちは音楽や物語の共有、宴の開催、散歩会議といった儀式的要素が、チームや組織の結束力強化に重要な役割を果たすことを強調しています。これらの儀式を参考にし、自社の儀式づくりにチャレンジしてみると良いと思います。

リーダーや個人が難題に取り組む際に活用できる実践的なツールとして、本書は参考になると思います。儀式が組織の活性化と個人の成長を促す新しいアプローチの一つだと言えます。日々の仕事の質を高め、目指す姿に近づくための具体的な方策として、本書の提案する儀式の導入を検討する価値は十分にあると考えられます。

儀式の導入は、組織の変革や問題解決のための唯一の方法ではありません。しかし、従来のアプローチとは異なるボトムアップの視点から職場環境の改善を図る有効な手段の一つになりそうです。儀式を通じて、組織の価値観や行動規範、目標を可視化し、実行に移すことができれば、それは大きな変化の起点となる可能性を秘めています。

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