マーケターキャリアパス 10年後も活躍し続けるための成長戦略 (勅使川原晃司)の書評

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マーケターキャリアパス 10年後も活躍し続けるための成長戦略
勅使川原晃司
翔泳社

マーケターキャリアパス  (勅使川原晃司)の要約

『マーケターキャリアパス』は、キャリアの方向性に悩むマーケターに向けた実践的なガイドブックです。マーケティング業務を5つの領域で整理した「実務におけるマーケティングの共通認識」と、短期・長期の視点で自身を多面的に見つめ直せる「キャリアキャンバス」により、個人の価値観やスキルに基づいた戦略的なキャリア設計を可能にします。

マーケターにとって、キャリアビジョンが重要な理由

マーケターとしての具体的なキャリアビジョンを描くことは、職業人生において不可欠です。明確な目標設定なしにキャリアを進めることは、地図も持たずに見知らぬ土地を探索するようなものです。具体的な像を描くことで、自身のキャリアパスに明確な方向性と目的を持たせることができるのです。(勅使川原晃司)

明確なキャリアビジョンを持つことは、マーケターとして成長を続けるために欠かせません。それが日々の意思決定や学びに一貫性をもたらし、長期的な成果につながります。こうしたビジョンの構築に明確な指針を与えてくれるのが、勅使川原晃司氏によるマーケターキャリアパス 10年後も活躍し続けるための成長戦略です。

本書の大きな特徴は、3,000人以上のマーケターのキャリアパスを徹底的に分析し、そこから抽出された実践的なスキルマップにあります。単なる理論紹介や経験談にとどまらず、現場に根ざしたデータに基づき構築されているため、マーケターとしての戦略的な成長ロードマップを具体的に描くことができます。

著者の勅使川原氏は、デジタルマーケティング、ブランディング、CRM運用などの幅広い分野で実務経験を積み、現在はコンサルティング会社の経営者として企業支援を行うと同時に、大学で非常勤講師も務めています。こうした多面的なバックグラウンドをもとに、理論と実務を融合させた独自のキャリア設計のフレームワークが提示されています。

本書の要となっているのが、「実務におけるマーケティングの共通認識」を整理したフレームワークです。特に第1章では、複雑化するマーケティング業務を5つの主要領域に分類し、それぞれを図解によって視覚的に整理しています。

戦略設計、商品開発、顧客接点の最適化、テクノロジーの活用、パフォーマンスの可視化といった各領域を横断的かつ俯瞰的に捉えることで、読者は自身の業務の全体像を客観的に俯瞰できるようになります。この視点の獲得こそが、キャリアを中長期的に自律的に設計するための第一歩といえるでしょう。

私自身、広告会社での経験を経て、現在は取締役およびコンサルタントとして複数企業の戦略立案やマーケティング支援に携わっていますが、本書の提示するフレームワークが極めて実用的であることを実感しています。現場でマーケティングを推進する際、全体構造を頭の中で明確に描けるか否かは、戦略の整合性や施策の一貫性に直結します。そうした意味でも、本書は単なる理論書ではなく、実務の現場に即した「使える知識」が詰まった一冊といえます。

さらに、勅使川原氏が本書で提示するマーケターの本質的なミッション、「ドライブ(推進力)」の概念は、特に注目すべき視点です。マーケティングの成果は、単に広告や施策の巧拙に依存するものではなく、組織や人を動かし、仕組みを構築し、顧客の行動を変容させ、KPIという数値的な成果に反映させ、最終的にビジネス全体を推進するという、一連のドミノのようなプロセスに支えられています。

マーケターのミッションは「ドライブ」にあると勅使川原氏は指摘します。以下の①から⑤を動かすことによって、ドライブにコミットするのがマーケターの仕事なのです。

①組織や人を動かす
マーケターの仕事はまず社内を対象に始まります。効果的なマーケティング戦略を実行するには、組織全体の協力が不可欠です。

②仕組みを動かす
組織や人が動き出したら、次はマーケティングの具体的な仕組みや戦略を実行に移します。

③顧客を動かす
仕組みが動き出したら、その仕組みを通じて顧客にアプローチし、顧客に行動を促します。

④数字を動かす
顧客の行動変化は、様々な指標(KPI)の変動として現れます。

⑤ビジネスを動かす
最終的に、④に挙げた数字の変動は企業全体のビジネスパフォーマンスに影響を与えます。このKPIの変動は企業の売上やブランド価値など、ビジネス全体のパフォーマンスに大きな影響を与えることになります。

したがって、マーケターの本質的な役割とは、単なる「施策の実行者」ではなく、企業の成長を牽引する「推進者」であるという認識が求められるのです。

マーケター成長のための「マーケターキャリアキャンバス」とは何か?

充実したキャリアを築くには、目先の満足と将来の成長の両立を意識する必要があります。現在の満足感を大切にしながら、未来の成長につながる選択を心がけましょう。

マーケターの未来の成長にそのための一つの有効なアプローチが、「マーケターキャリアキャンバス(Marketer Career Canvas)」というフレームワークです。

マーケターキャリアキャンバスとは、マーケターが自身のキャリアを戦略的かつ体系的に計画し、評価・見直しを行うための実践的なツールであり、キャリアの羅針盤として機能します。このキャンバスの優れた点は、単なるキャリアシートにとどまらず、個人の価値観やスキルセット、置かれている環境、そして短期的な目標と長期的なビジョンを包括的に整理できる点にあります。

その結果として、目先の選択に迷うことなく、納得感のある意思決定が可能になります。 加えて、このフレームワークは現在の職場と次なるキャリア候補との比較にも適しており、キャリア選択における客観的な判断基準としても非常に有効です。

多くのマーケターが感覚的な意思決定に頼りがちであるなか、このキャンバスは思考の整理と俯瞰的な視点を提供し、キャリアの可視化と定量・定性的評価を可能にしてくれます。

マーケターキャリアキャンバスには、キャリアを多角的に捉えるためのいくつかの特徴的な構造があります。第1に、「時間軸の考慮」が挙げられます。これは「現在、自分が何を求めているか」と「10年後に何を実現していたいか」を明確に対比させることで、短期と長期のバランスを意識しやすくなる設計となっています。目先の満足感だけでなく、将来の成長可能性や理想像との整合性を見直すきっかけとなるでしょう。

第2に、「多面的な評価軸」の導入が特徴です。「やりたい仕事(マーケターとしての職種や分野)」「理想とする働く環境」「期待する年収」「今後習得したいスキル」「広げていきたいネットワークや人脈」といった、多様な観点から自分自身のキャリアを見つめ直すことができます。

これにより、単なる職種やポジションの比較ではなく、「自分にとっての意味あるキャリア」とは何かを深く掘り下げることができるのです。

さらに注目すべき点として、「日常と結果の区別」という視点もあります。これは、「日々どのような業務に取り組むのか(プロセス)」と「その結果、何が得られるのか(アウトカム)」を明確に分けて捉えることで、自分が納得して向き合える日常業務と、得たい成果の整合性を検証できるというものです。この整理によって、キャリアの中長期的な満足度と達成感の両立が実現しやすくなります。

また、「キャリアの可能性」を見通すための要素として、「キャリアのルート」と「ルート上のゲート」という項目が設けられているのも特徴です。これは、自分が今後どのような経歴を持ちたいか、外部からどのように見られたいかを可視化するための視座であり、転職やキャリアチェンジの際に、自分の強みや方向性を再確認するための貴重な資料となります。

そして、マーケターキャリアキャンバスの実践的な側面として、まず理解しておきたいのが、「OSとApp」という二層構造の概念です。これは単なる知識やスキルの分類ではなく、マーケターとしての思考・行動・成果を統合的に捉えるための、本質的かつ実践的な視座です。

まず「OS」は、マーケターとしての根幹をなす基盤的な能力や価値観、行動原理を指します。OSは、日々の意思決定や課題解決の際に働く思考の軸であり、キャリアを推進する“内なるエンジン”とも言えます。

本書ではこのOSを、「考える力」「実行する力」「人を動かす力」という3つの力に整理しています。 具体的には、「考える力」は仮説構築力、構造化・論理力、分析力、検証力といった知的思考力の集合体であり、複雑な課題に直面したときに本質を見抜き、打ち手を導くために欠かせない要素です。

「実行する力」は、自走力や遂行力、そして他者と連携するためのコミュニケーション力を含み、計画を現実に落とし込む力を支えます。

「人を動かす力」は、ステークホルダーマネジメント力やメンバーマネジメント力といったリーダーシップの核であり、組織やチームを前進させる推進力となります。

これら3つの力は、マーケターにとってはもちろんのこと、私自身が取締役やコンサルタントとして仕事に向き合う中でも、常に問われ、鍛えられているスキルです。だからこそ、キャリアの土台を成すOSとして明確に言語化されている点に強く共感しました。これはどのような職種・立場においても、自分のキャリアを再設計する際の確かな指針となるものです。

そして、OSの上に積み重ねられるのが「App」です。Appとは、マーケターが成果を出すために必要な具体的な業務スキルや専門知識の総体であり、「加速させる力」と位置づけられています。

戦略策定、商品企画、ユーザー体験の設計、テクノロジーの活用、パフォーマンスの測定と改善といった5つの主要エリアに整理され、そこに合計70のAppが体系化されています。

これらのAppは、マーケターが現場で実際に成果を上げるための「実務の引き出し」と言える存在です。しかし、これらのスキルや手法が真に活きるのは、しっかりとしたOS=思考の土台があってこそです。

逆に、Appのスキルばかりを磨いても、OSが整っていなければ、そのスキルをどこにどう活かせばよいのか迷いが生じやすくなります。一方で、どれだけ考え方や価値観(OS)が明確でも、それを実行に移すAppが不足していれば、具体的な成果にはつながりません。

だからこそ、OSとAppはどちらもバランスよく育てることが大切であり、どちらか一方だけでは不十分なのです。マーケターにとって、この二層構造を正しく理解し、両輪として意識的に鍛えていくことが、長期的で本質的なキャリア成長に直結します。

加えて、本書の中で繰り返し強調されているのが、「人とのつながり」や「信頼できるメンターの存在」の重要性です。キャリアとは決して一人で築き上げるものではなく、他者との対話や助言を通じて深化し、方向性を見出していくものです。チャンスはネットワーク資産から訪れることを忘れないようにしましょう。

特に、テクノロジーや消費者行動の変化が著しいマーケティング領域においては、外部の知見を柔軟に取り入れる姿勢が、個人の成長スピードと質を大きく左右することは言うまでもありません。

本書は、単なる理論の紹介にとどまらず、マーケターが自信と納得感を持ってキャリアを築いていくための、極めて実践的かつ信頼性の高いガイドブックに仕上がっています。キャリアの初期段階にある方はもちろんのこと、すでに一定の経験を積んだ中堅層やシニアマーケターにとっても、自らの現在地を再確認し、次のステップを計画するための有効な思考フレームが満載です。

ぜひ本書を身近に置き、日々の意思決定や長期的なキャリア形成の羅針盤として、繰り返し活用していただきたいと思います。

本書は著者からご恵贈いただきました。

最強Appleフレームワーク


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