脳科学が解き明かした 運のいい人がやっていること(毛内拡)の書評

a green coffee mug with the words lucky day written on it

脳科学が解き明かした 運のいい人がやっていること
毛内拡
秀和システム

脳科学が解き明かした 運のいい人がやっていること(毛内拡)の要約

運は偶然ではなく、脳の使い方で引き寄せることができると脳科学者の毛内拡氏は述べています。運がいい人は「自分は運がいい」と信じ、脳を健康に保ちながら前向きに行動し続ける傾向があります。視覚化や自己暗示、ポジティブな意味づけが脳の報酬系を活性化し、行動の好循環を生み出します。BOOCS法やDHAの摂取なども脳の健康に有効であり、日常習慣によって運のよさは育てていけると説いています。

運がいい人の特徴は?

運のいい人というのは確かに存在します。彼ら/彼女らに共通している特徴の一つが、「自分は運がいい」と自覚しているということです。(毛内拡)

世の中には運のよい人とそうでない人がいますが、その違いはどこにあるのでしょうか?脳神経科学者の毛内拡氏は、「脳が健康で常に活性化されている状態を保つことが、運の良し悪しを左右する」と断言します。そして、これを実現するには、身体や精神を含めた全身の健康維持が不可欠であると論じています。

運のいい人というのは確かに存在します。彼ら/彼女らに共通している特徴の一つが、「自分は運がいい」と自覚しているということです。実際、私の周りの経営者にもそう考えている人は多く、私自身も「自分は運がいい」と信じることで、人生をより良くできていると感じています。その意味でも、著者のメッセージには非常に共感を覚えます。

毛内氏の脳科学が解き明かした 運のいい人がやっていることは、脳科学の視点から「運」という一見非科学的な概念に切り込み、運が良いとされる人々の行動や思考の特徴を明らかにした一冊です。単なる精神論や根性論ではなく、脳の仕組みに基づいた具体的なアプローチが紹介されている点が、本書の大きな魅力です。

また、本書は、当ブログでもたびたび取り上げているJ.D.クランボルツ博士の計画的偶発性理論と、脳の活用法というコンセプトのもとに構成されています。(計画的偶発性理論の関連記事

本書で一貫して語られているのは、「運」は偶然に左右されるものではなく、脳の使い方次第である程度コントロール可能であるという視点です。著者は、運のよい人が無意識に行っている行動や思考が、脳の特定の機能と密接に関連していることを、最新の脳科学の知見を交えて丁寧に解説しています。

さらに、脳科学の専門家としての立場から、日常生活に取り入れるべき習慣についても提案しています。意識的にこれらを実践することで、「活発で行動的な自分」になることができると説いています。

「運がいい」とは、偶然に良いことが起こるという現象ですが、単に待っているだけではそのような出来事は訪れません。ラッキーな出来事とは、何かに向かって前向きに行動しているときに、思いがけず舞い込んでくるものであり、そうした偶然にこそ私たちは「運がいい」と感じるのです。

運がいい人は経験を大切にし、そのなかから学びを得て、さらに行動を継続する傾向があります。そうした姿勢が、さらなる幸運との遭遇を引き寄せる土壌を育んでいるのです。

運のいい人は、自己コントロール感を何よりも重視し、それをうまく乗りこなし、自らの手で運命を切り開いていくことを最もよしとしているのです。

自己コントロール感とは、「自分の行動や感情を自らの意志で調整できている」という感覚を指します。この感覚があることで、人は外部環境に左右されず、自分の目標に向かって主体的に行動することができます。

このため、著者は「活発で行動的な人」でいるための脳の健康習慣の重要性を強調しています。そして、占いや性格診断などのスピリチュアルな要素に依存することを避けるべきだと警鐘を鳴らしています。こうした依存は、むしろ脳の健康を損なう可能性があるからです。

脳が健康であれば、自然と行動的になり、行動すればするほどラッキーとの遭遇率も高まります。つまり、運のよさは偶然に頼るものではなく、日々の生活習慣の積み重ねによって形づくられるのです。 著者は、運のいい人はチャンスを見つけたり、良い結果を得たりしたときに、脳の報酬系が活性化しやすい傾向があると指摘します。この活性化によりポジティブな感情が生まれ、さらに行動を促すという好循環が形成されるのです。

また、偶然の幸運、すなわち「セレンディピティ」は、ただぼんやりと待っているだけでは訪れません。脳が新たな情報やパターンを認識し、既存の知識と結びつける能力が、セレンディピティを引き寄せるうえで重要な役割を果たすとされています。

ポジティブな感情も見逃せない要素です。ネガティブな感情は脳の視野を狭め、チャンスを見逃しやすくします。一方で、ポジティブな感情は脳の柔軟性を高め、より多くの可能性に気づく手助けをしてくれます。 加えて、運は行動によって引き寄せられます。失敗を恐れずに新しいことへ挑戦し、その過程から学ぶことが、脳の学習メカニズムと深く関わっているのです。

最終的に重要なのは、「自分は運がいい」と思えるかどうか。それが、自身の行動を前向きに変える原動力になるのです。

脳をうまく騙すことで運が良くなる?

運が良い人は、自分の脳を騙すということを積極的に行っています。

運のいい人は、自分の脳をうまく「騙す」ことも知っています。たとえば、大勢の前で話す場面で、「自分ならきっとうまくできる」と繰り返し自分に言い聞かせることは、単なる気休めではありません。実際にそのような自己暗示が脳に作用し、パフォーマンスを引き上げる効果があることが、さまざまな研究でも示されています。

さらに、結果が思い通りにいかなくても、「自分としてはうまくいった」と前向きに捉える姿勢が、次の行動へのエネルギーを生み出します。

このような一連のプロセスは「自己成就予言」と呼ばれ、自分が信じたことが行動に影響を与え、結果として現実になるという心理的・脳科学的現象です。運のいい人は無意識のうちにこの仕組みを利用しており、「うまくいく」というイメージをあらかじめ脳に刷り込むことで、実際に成功確率を高めています。

このときに鍵を握るのが「ビジュアライゼーション(視覚化)」です。これは、理想の自分の姿や成功した未来のシーンを、まるで映画のワンシーンのように具体的に想像する技術です。脳は現実と想像を明確に区別することが苦手であるため、繰り返しポジティブなイメージを持つことで、脳はその状態を「実現すべき目標」として認識します。結果として、その目標に向かうための行動が自然と選ばれるようになるのです。

トップアスリートや成功した起業家の多くがこの技法を実践しているのは、その効果が科学的にも裏づけられているからに他なりません。

実は、私自身も毎朝、その日のシミュレーションをポジティブにイメージすることから一日をスタートさせています。会う人との会話や仕事の流れを前向きに思い描くことで、心が整い、実際に良い流れが生まれやすくなるのを感じています。この習慣を続けるうちに、自然と「運がいい」と思える出来事が増えていき、私も運のいい人の仲間入りができたのです。

「フレーミング」と「リフレーミング」もの脳を騙す手法の一つです。フレーミングとは、ある出来事や情報をどのような枠組みで捉えるかという認知の枠のこと。たとえば、「仕事の失敗」を「自分は無能だ」と捉えるか、「成長の材料が見つかった」と解釈するかで、行動は大きく変わります。リフレーミングは、この既存のフレームを意識的に変更し、ネガティブな出来事を新たな文脈でポジティブに捉え直す技法です。

これにより、脳は失敗からも報酬を得られるように反応し、行動を止めずに前進し続けることが可能になります。 脳科学的に見ても、これらの認知的工夫は「脳の報酬系」を活性化させる点で非常に効果的です。

報酬系とは、達成感や喜びを感じたときに働く神経回路のことで、ここが活性化するとポジティブな感情が生まれ、さらなる行動への動機づけとなります。つまり、自己暗示や視覚化、ポジティブな意味づけは、脳の神経回路そのものに変化をもたらし、「運がいい状態」を引き寄せる下地をつくっているのです。

そして、こうした一連のプロセスは、脳の「シナプス可塑性」によって支えられています。シナプス可塑性とは、神経細胞同士の接続が経験や学習によって強化・変化していく脳の性質です。たとえば、同じ行動や思考を繰り返すことで、その神経回路が強化され、より速く、効率的にその処理が行えるようになります。

特に、新規体験や情動を喚起する出来事は、シナプスの変化を促進する最良の刺激です。感情を伴った経験は記憶に残りやすく、また脳の回路を再構築しやすくします。これは、単に「記憶に残る」だけでなく、「その経験を次の選択に活かすための判断力や直感力を鍛える」という点で、運のよさとも深く関係しています。

脳は、極めて高機能である一方で、非常にエネルギー効率を重視した臓器でもあります。全身のエネルギーのうち約20%を消費するにもかかわらず、その設計思想は「無駄を省くこと」にあります。重要なのは、膨大な情報の中から本当に必要なものだけを素早く選び取り、それ以外を切り捨てる「選択的忘却」のプロセスです。これは、私たちが思考や判断を迅速に行い、注意資源を適切に配分するために不可欠な機能であり、運のよさを高めるうえでも見逃せない仕組みです。

何に注意を向け、どの情報を「意味のあるもの」と見なすか。その選択が、脳内の回路を強化し、記憶の定着や行動の方向性を決定づけます。つまり、選択的に情報を受け入れ、意図的に不要なものを忘れる力こそが、脳を「運のいい状態」に保つ鍵となるのです。

日々の暮らしの中で、新しいことに挑戦し、未知の情報に接し、感情を動かす出来事に自らをさらすこと。これこそが、脳を物理的に「運がいい状態」に変えていく、科学的かつ実践的なアプローチなのです。

脳を健康に保ち、運を良くする方法

乱雑な環境が、枠を超えた拡散的な思考を刺激し、創造性を向上させる可能性があることを示しています。

乱雑な環境が、私たちの思考にポジティブな影響を与える可能性があるという研究結果があります。どうやら人間の脳は、ものが整然と片づいている環境にいると、既存のルールや枠組みに無意識のうちに従いやすくなり、逆に散らかった空間にいると、発想が柔軟になり、既成概念にとらわれない自由な思考が促進されるというのです。

2013年のミネソタ大学のキャスリーン・ヴォースらの研究では、被験者を整った部屋と散らかった部屋に分け、それぞれに「ピンポン球の新しい使い方」を考えさせました。その結果、散らかった部屋にいたグループのほうが、ユニークで創造性に富んだアイデアを生み出す確率が高かったという興味深い結果が得られました。

また、フローニンゲン大学の研究でも同様に、散らかった環境にいた被験者のほうが、課題に対してよりシンプルで効率的な解決策を導き出す傾向があることが示されています。つまり、散らかった状態が、単なる混沌ではなく、創造性や問題解決力を高める一つの「環境刺激」として機能している可能性があるのです。

ただし、どんな散らかりでも良いというわけではありません。効果的に創造性を刺激するためには、意図的に散らかった状態を演出し、それを必要な場面に限定して活用することが大切です。

たとえば、創造的なアイデア出しやブレインストーミングの場面では、あえて整頓しすぎない空間をつくることで、発想を広げやすくなります。その一方で、集中力が求められる場面では、整理された空間のほうが適していることもあります。

結局のところ、「整っているか散らかっているか」が問題なのではなく、「自分にとって最も思考が活性化される状態は何か」を理解し、状況に応じて環境を整える柔軟性が求められているのです。人それぞれに合った片づけ方があり、それがその人の脳にとって最も自然で創造的な状態を導く手段となるのです。

また、思考のスタイルには、大きく分けて「拡散的思考」と「収束的思考」があります。拡散的思考とは、まったく無関係に見える情報やアイデアを柔軟に結びつけ、新たな発想を生み出す力のことです。

一方、収束的思考は、複数の選択肢から最も適切なものを選び、論理的に結論を導く力を意味します。どちらも創造性に欠かせない要素であり、優劣ではなく役割の違いにすぎません。

私自身は拡散的思考が得意で、アイデアを自由に広げることに強みを感じています。そのため、チームを組む際には、あえて収束的思考の得意な方とご一緒するようにしています。そうすることで、私は多様な可能性を提案し、相手がそれを実現可能な形にまとめていくという、理想的な補完関係が生まれるからです。

このように、自分の思考のクセを理解し、それに合った環境やパートナーシップを選ぶこともまた、脳のパフォーマンスを最大化し、より良い成果を引き寄せるための有効な戦略と言えるでしょう。

まず、驚くべき事実は、人間の脳の重量の約60%は脂質で構成されているという事実です。これは脳細胞が、細胞膜で覆われているためです。この膜は、私たちの思考や記憶、感情を司る脳の機能を支える上で非常に重要な役割を担っています。

脳の健康を保つためには、栄養面でのケアも不可欠です。とくに重要なのが、DHAやEPAなどのオメガ3脂肪酸です。青魚やアマニ油に含まれるこれらの成分は、神経細胞の構造を維持し、情報伝達をスムーズにする役割を果たします。DHAは記憶や学習能力の維持、気分の安定にも寄与し、加齢に伴う認知機能の低下を防ぐ可能性があると考えられています。

また、腸内環境も脳の働きに密接に関係しています。腸内細菌のバランスが整うことで、炎症が抑えられ、免疫機能が高まり、さらには脳内の神経伝達物質の生成にも好影響を与えます。幸せホルモンと呼ばれるセロトニンの多くが腸で生成されていることからも、「腸は第二の脳」と言われるのは納得できる話です。

さらに、グリア細胞の一種であるアストロサイトは、血管とニューロンの間をつなぐ役割を担い、栄養や老廃物の交換、神経伝達物質の再利用などを通じて、脳の働きを支えています。かつては単なる補助細胞と見なされていたグリア細胞が、今では記憶や感情、思考といった高次機能に深く関わっていることが分かってきています。

では、具体的に何を摂取すればよいのでしょうか。青魚(サバ、イワシ、サンマなど)はDHAとEPAの最良の供給源です。植物性ではアマニ油やえごま油も有効です。

腸内環境を整えるには、納豆や味噌、ヨーグルトなどの発酵食品、水溶性食物繊維を多く含む野菜や果物が役立ちます。ビタミンDやマグネシウム、ビタミンB群も脳の働きを支える栄養素として積極的に取り入れたいところです。

また、ストレスを軽減しながら脳と心を整える方法として「BOOCS(ブックス)法」も見逃せません。これは九州大学名誉教授・藤野武彦氏が提唱した、脳疲労の解消を軸にした自己ケアの仕組みです。現代社会は、知らず知らずのうちに私たちの脳を疲れさせています。

BOOCS理論では、この「脳疲労」こそが心身の不調の源だと捉え、その回復には“心地よさ”が何よりも重要だと説いています。 この理論の本質は、無理や我慢を排し、脳にとってやさしい選択を重ねていくことにあります。「嫌いなことはたとえ健康に良いことでもしない」「やめられないことは禁止しない」「健康に良く、かつ心地よいことを新たに始める」という三原則は、まさにその象徴です。

私たちは、つい義務感や罪悪感から健康法に取り組みがちですが、それではかえって脳にストレスを与えてしまうのです。

このように、脳の機能を理解し、その仕組みに沿った生活を意識的にデザインすることによって、「運のよさ」は偶然の産物ではなく、自分で引き寄せ、育てていけるものになるのです。

運のよい人は、「自分の道は自分で切り開く」という強い意志を持ち、粘り強く思考を重ねる習慣を持ち続けています。直感に頼りすぎるのではなく、多様な情報に開かれた姿勢で、常にアンテナを張っておくことが重要です。選択に迷ったときには、あえて未知の選択肢を選ぶことが、未来を切り開く大きな一歩となるでしょう。同じルーティーンにとどまらず、常に新しい経験を求めることで、脳は活性化し、柔軟な思考力が磨かれていきます。

最強Appleフレームワーク

 

この記事を書いた人
徳本昌大

■複数の広告会社で、コミュニケーションデザインに従事後、企業支援のコンサルタントとして独立。
特にベンチャーのマーケティング戦略に強みがあり、多くの実績を残している。現在、IPO支援やM&Aのアドバイザー、ベンチャー企業の取締役や顧問として活動中。

■多様な講師をゲストに迎えるサードプレイス・ラボのアドバイザーとして、勉強会を実施。ビジネス書籍の書評をブログにて毎日更新。

■マイナビニュース、マックファンでベンチャー・スタートアップの記事を連載。

Ewilジャパン取締役COO
Quants株式会社社外取締役
株式会社INFRECT取締役
Mamasan&Company 株式会社社外取締役
他ベンチャー・スタートアップの顧問先多数
iU 情報経営イノベーション専門職大学 特任教授 

■著書
「最強Appleフレームワーク」(時事通信)
「ソーシャルおじさんのiPhoneアプリ習慣術」(ラトルズ)
「図解 ソーシャルメディア早わかり」(中経出版)
「ソーシャルメディアを使っていきなり成功した人の4つの習慣」(扶桑社)
「ソーシャルメディアを武器にするための10ヵ条」(マイナビ)
など多数。
 
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