節目を力に変える思考法 (鈴木孝博)の書評

書籍:節目を力に変える思考法
著者:鈴木孝博
出版社:リーブル出版
ASIN ‏ : ‎ B0H3ZBBNN6

【書評】鈴木孝博氏の『節目を力に変える思考法』

私たちが直面している現代は、テクノロジーの指数関数的な進化と社会構造の地殻変動が、かつてないスピードで進行する激動の時代です。特に生成AIのビジネス実装が本格化する中、昨日までの「最適解」や「成功パターン」が、明日には完全に陳腐化してしまうパラダイムシフトが日常的に起きています。

こうした非線形で予測困難な環境下において、私たちは自らのキャリアや経営戦略、そして人生そのものをどのように設計し直せばよいのでしょうか。

今回取り上げる鈴木孝博氏の著書『節目を力に変える思考法』は、変化の激しい時代をどう生きるかという難しい問いに、人生を見直すための本質的なヒントを与えてくれます。 心理学で知られる「ジャネーの法則」によれば、時間の感じ方は年齢とともに変化します。20歳を過ぎた頃から一年が短く感じられ、年齢を重ねるほど、時間の流れは速くなっていきます。

私自身、ベンチャー企業の成長を支援し、社外取締役としてIPOに向けた経営の最前線に立つなかで、時間が加速していく感覚を強く抱いています。同時に、変化のスピードが増す時代に、立ち止まっている余裕はないという焦りを感じることもあります。

だからこそ、ただ急いで走り続けるのではなく、人生の「節目」でいったん立ち止まり、自分の現在地と進む方向を見直すことが重要です。本書は、その節目を停滞ではなく、次の成長へ踏み出す力に変えるための思考法を教えてくれます。

しかし、日本の社会を見渡すと、長年にわたって「変わらないこと」を良しとする態度が育まれてきました。一見すると恵まれた治安や制度に守られたこの表面上の安定志向は、実は意思決定の遅延や、テクノロジー活用における構造的な硬直化を招き、社会全体に停滞期をもたらしています。

変わらないことが美徳とされる空気は、新たな波が来ているにもかかわらず、それを受け身で咀嚼することに時間をかけすぎ、結果として甚大な「機会損失」を生む土壌となっているのです。

もはや「良い学校に入り、良い会社に就職する」という一本道の価値観は崩壊し、無数の選択肢が同時に並び立つ時代が現実となりました。この正解のない世界において求められるのは、他人の正解を探すことではなく、自分自身の経験から知恵を絞り出し、自らの「軸」を羅針盤として生きることです。

本書『節目を力に変える思考法』は、異動・失敗・理不尽といった避けがたい出来事を、受け身で耐える対象ではなく、自分を再設計する契機として読み替えるための一冊です。キャリア論でありながら、成熟や言葉、時間との向き合い方を問う、人生後半における自己変革論でもあります。

著者は順調な成功談によって読者を鼓舞するのではなく、迷い、痛み、割り切れなさを抱えた局面で、どう自分を立て直すかを扱っています。思い込みに騙されず、物事を構造で捉え、判断の質を上げるための知的生産の枠組みとして、本書がいまのAI時代になぜ重要なのか。実務家の視点を交えながら深く掘り下げていきます。

この記事でわかること

・「節が芽を生む」という比喩から学ぶ、外的変化を自己変容へ昇華するプロセス
・新しい環境で直面する「再社会化の洗礼」と、静止摩擦を動摩擦へ変える行動戦略
・忍耐の美化ではなく「主体性の回復」を促すための、内なる言葉と3つの問い
・組織内の人間関係における「2:3:5の法則」と、他者の評価から自由になる方法
・過去の経験から「最大公約数」を見出し、未来の「最小公倍数」を描くキャリア設計

30秒でわかる本書のポイント

【結論】
・人生や仕事で起こる「外から与えられた転換点」は、意味づけを変えることで自らの成長の節目(芽を生む起点)に変わる。
・理論を権威としてではなく、弱さや迷いに触れたときの「杖」として扱い、思考の地層を耕すことが重要。
・本書は「不遇な環境で我慢しよう」という忍耐の書ではなく、主体性を回復するための実践的な自己変革論である。
【原因】
・日本特有の「安定の裏側にある変わらないことを良しとする態度」が、意思決定を遅らせ停滞をもたらしている。
・嘆きや自虐といった消極的な内なる言葉は、信念や自己効力感を縮小させ、目の前の機会を逃す結果につながる。
・全ての人に理解されようと無理にエネルギーを浪費することで、自分本来の軸(最大公約数)を見失ってしまう。
【対策】
・新しい環境での違和感(再社会化の洗礼)から目をそらさず、小さな一歩を踏み出して「静止摩擦」を乗り越える。
・望まない状況に陥った際は、「能力・人脈」「仕事の意味」「環境を変えるタイミング」の3つを問い直し、行動を選択する。
・過去の価値観を否定せず、経験の最大公約数で自分軸を固め、未来に向けた最小公倍数を他者と模索する。

本書の要約

本書『節目を力に変える思考法』が伝えるメッセージは明快です。人生や仕事で訪れる転機は、ただ経験するだけでは成長につながりません。 重要なのは、その出来事をどう受け止め、どのような意味を見いだし、次の行動へつなげるかです。たとえ思いどおりにならない変化であっても、自分なりに捉え直すことで、未来を切り開く「成長の節目」に変えられます。

著者の鈴木孝博氏は、証券・IT・経営の現場で積み重ねてきた経験をもとに、転機をどう活かすか、変化の中でどのようにリーダーシップを発揮するかを、実践的な思考法として整理しています

「節が芽を生む」という象徴的な比喩が示すように、植物の節は成長を止める場所ではなく、新たな枝や葉が生まれる起点です。キャリア上の停滞や挫折も、これまでの延長線ではない成長を可能にする折り目になり得ます。

環境が変わるたびに経験する「再社会化の洗礼」や、その際の「静止摩擦」を乗り越えるためには、心の中で発する「内なる言葉(つぶやき)」のコントロールが欠かせません。

また、理不尽に直面した際は「2:3:5の法則」でコアな仲間を見極め、算数で学ぶ「最大公約数」で自らの譲れない軸を確固たるものとし、「最小公倍数」で未来のビジョンを描きます。

本書は単なる自己啓発本ではなく、組織のなかで自分の役割を引き受けながら働く人のための、主体性を回復する内省書として極めて高い価値を持っています。

こんな人におすすめ

・異動、昇進、退職、独立、失敗など、キャリアの転換点(節目)にいる人
・組織の理不尽や人間関係に消耗し、自分の仕事の意味を見失いかけている人
・若手・中堅の成長支援や、1on1、キャリア面談に関わるマネジメント層・管理職
・短期的な成果だけでなく、「いい仕事」と「いい人生」をどう接続するか考えたい人
・表面的な自己啓発ではなく、本質的で持続可能な「知的生産」と「自己変容」の枠組みを求めている人

本書から得られるメリット

・停滞や挫折を「次なる飛躍の芽を生む起点」としてポジティブに意味づけできるようになる
・理論を振りかざすのではなく、迷った時の「杖」として活用し、思考の地層を耕す習慣が身につく
・望まない異動や理不尽な環境下でも、忍耐に逃げず「主体性」を取り戻すための問いを立てられる
・全員に好かれようとする思い込みを捨て、コアな2割の仲間にエネルギーを集中する戦略的思考が手に入る
・過去の経験から「最大公約数(譲れない価値観)」を抽出し、AI時代に代替されない揺るぎない自分軸を構築できる 

AI時代の意思決定と「変わらないこと」の致命的リスク

あなたがこれまでに越えてきた〝節〟にも、きっと意味があった。そして、これから出会う〝節〟にも、きっと意味がある。(鈴木孝博)

私たちが身を置く現代のビジネス環境は、情報環境の劇的な変化によってかつてないほどに多様化し、複雑化しています。生成AIをはじめとするテクノロジーの波は、あらゆる産業の構造を根底から書き換えており、もはや「昨日までの常識」に固執することは最大の経営リスクへと変貌しました。

AIが膨大なデータから論理的な最適解を瞬時に導き出す時代において、前例踏襲型の意思決定は完全に価値を失いつつあります。

しかし、日本の社会の根底には「変わらないこと」を美徳とし、表面上の安心感を優先する空気が依然として強く存在しています。この見せかけの安定の裏側で、企業や個人の意思決定は遅れ、デジタル新世代の台頭に対して受け身の姿勢を取り続けることで、莫大な機会損失を生み出しています。

このような環境下で、私たちが個人のキャリアにおいて「なんだか上手くいかない」と感じる時期があります。『節目を力に変える思考法』の著者の鈴木孝博氏はこれを、人間の発達プロセスにおける「停滞期」と呼びます。

焦って無作為に行動するのではなく、現在の社会構造の歪みや自らの課題を冷静に見つめ直し、思い込みに騙されずに「判断の質を上げる」ための思考の土台を構築することが、これからの時代を生き抜く絶対条件となります。

私たちの人生には、加速する時間の中で様々な出来事や成長のサイクルが訪れます。本書の中心メッセージは、人生や仕事で起こる「外から与えられた転換点」は、それ自体では成長を保証しないが、出来事の意味づけを変えることで、自らの成長の節目に変えられるというものです。

ここで著者の「節が芽を生む」という比喩が極めて象徴的です。植物の節は成長を止める場所ではなく、新たな枝や葉が生まれる起点でもあります。同じように、キャリア上の停滞や挫折も、これまでの延長線ではない成長を可能にする折り目になり得るのです。

著者は、異動、ピンチ、失敗といった、誰もができれば避けたい場面を、将来の芽を生む「節」として捉え直します。本書は、順調な成功談によって読者を鼓舞するのではなく、迷い、痛み、割り切れなさを抱えた局面で、どう自分を立て直すかを扱っています。

外から見える客観的な時間の区切りを「節目」、内で感じ取る成熟のシグナルを「折節」と捉え、外的な変化を内面的な成熟のトリガーとして活用するメタ認知能力こそが、これからのビジネスパーソンに不可欠な資質なのです。

環境が大きく変わる節目において、私たちが必ず直面するのが「再社会化の洗礼」です。新しい環境に身を置くと、誰もが少なからず環境の違いからくる戸惑いや軋轢の波に飲み込まれます。

新しい環境において、それまで自分が身につけた「当たり前」が通用しないとき、心には強い戸惑いが広がります。この違和感から目をそらさず、他者の感覚に触れて自分の前提を疑う過程は痛みを伴いますが、同時に自分の成長の余白がある証拠でもあります。

新しい視点や考え方を受け入れることには、しばしば激しい反発が伴います。物理学の法則と同じく、動き出す前の「静止摩擦」は非常に大きいのです。しかし、小さな一歩を踏み出しさえすれば、抵抗は相対的に小さな「動摩擦」へと変わり、変化を続ける限り摩擦は消えることはありません。この静止摩擦を乗り越える勇気こそが、再社会化の第一歩となります。

思考の杖としての「内なる言葉」と、主体性を回復する問い

心理学において、自己に繰り返し投げかける言葉は、信念や自己効力感を形成する上で極めて重要であるとされている。嘆きや自虐は、その言葉に呼応するように思考を縮ませ、行動を消極的にし、実際に目の前の機会を逃すという結果につながるものである。逆に、「私は幸運な人間だ」「この経験にも何か価値がある」と宣言する勇気は、思っているよりも大きな力を持つ。なぜなら、自分の未来に対して〝希望の前提〟を打ち立てる行為だからである。

理不尽な状況を乗り越えるうえで、本書が重視するのが「内なる言葉」、すなわち自分自身に向けたつぶやきです。嘆きや自虐的な言葉を繰り返していると、自分には何も変えられないという認識が強まり、思考や行動の選択肢が狭くなります。

一方で、「この経験から何を学べるか」「自分にできることは何か」と問い直せば、同じ状況でも異なる意味を見いだせます。 ただし、これは不遇な環境を無条件に肯定し、我慢し続けることを意味しません。節目を力に変えるとは、与えられた状況を受け入れるだけでなく、その中で何を選び、どこへ向かうのかを考え直すことです。

例えば、望まない部署への異動を命じられた場合、「ここで耐えれば、いつか報われる」と自分を納得させるだけでは、主体的な変化にはつながりません。その経験からどのような能力や人脈を得られるのか、現在の仕事に自分なりの意味や改善の余地をつくれるのか、将来像と大きく乖離しているなら、いつ、どのように環境を変えるのかを問い直す必要があります。

つまり「節目」とは、忍耐を美化する言葉ではありません。自分の置かれた状況を捉え直し、選択肢を増やし、主体性を回復するための転換点なのです。 逆境や異動などの転機では、自分の価値観だけでなく、周囲の人との関係性も明確になります。

そこで本書が示すのが「2:3:5の法則」です。組織には、自分を支持してくれる「コア層」が2割、価値観や立場が相容れない「反対層」が3割、状況や利害によって態度を変える「流動層」が5割いると捉えます。

この考え方の実務的な意味は、すべての人から理解や支持を得ようとしないことにあります。反対する3割の説得に過度な時間を使えば、本来取り組むべき仕事や変革に注ぐエネルギーが失われます。

まず重視すべきなのは、目的や価値観を共有できる2割の仲間との信頼関係です。その2割と具体的な成果を生み出すことで、状況を見て判断する5割にも影響を広げられる可能性があります。 ただし、反対意見を無視してよいわけではありません。反対層の指摘に合理性がある場合は、自分の考えを修正する必要があります。「2:3:5の法則」は人を単純に分類するためではなく、限られた時間とエネルギーをどこに配分するかを考える枠組みとして活用すべきです。

本書では、人生やキャリアを考えるための道具として、算数で学ぶ「最大公約数」と「最小公倍数」が用いられています。 「最大公約数」とは、これまでの成功や失敗、仕事や人間関係など、異なる経験に共通して表れている自分の価値観です。何を大切にしてきたのか、どのような場面で力を発揮できたのか、何だけは譲れないのかを振り返ることで、自分なりの判断軸が明確になります。

この判断軸は、環境の変化やAIの進化に左右されずに意思決定するための土台になります。ただし、自分軸を固定的に捉えると、変化を拒む理由にもなりかねません。過去の経験を振り返りながら、現在の状況に応じて更新していくことが重要です。

一方の「最小公倍数」は、価値観や立場の異なる人と、将来どこで接点を持てるかを考える視点です。現在の意見が一致していなくても、共通の目的や未来像が見つかれば、協働できる可能性があります。 最大公約数によって過去の経験から自分の譲れない軸を見つけ、最小公倍数によって異なる価値観を持つ人との未来の接点をつくります。

自分の軸を守るだけでは、独善的になりかねません。反対に、他者との接点ばかりを求めると、自分の価値観を見失います。両者を往復することで、自分らしさを保ちながら、環境や他者との関係を柔軟に更新できるようになります。 本書が説く「再社会化」とは、過去の経験や価値観を捨てて別人になることではありません。

これまでの経験に新たな意味を与え、異なる環境や他者との関係を通じて、自分の役割や判断軸を更新していく継続的なプロセスです。 過去に共通する自分の価値観を最大公約数として見つけ、他者と共有できる未来を最小公倍数として描きます。そのうえで、内なる言葉を整え、限られた時間とエネルギーを適切に配分していくのです。

この一連の思考を通じて、人は逆境に耐えるだけでなく、次の行動を主体的に選べるようになります。 節目を力に変えるとは、起きた出来事を安易に肯定することではありません。その経験をどのように解釈し、何を学び、次に何を選ぶのかを自分で決めることです。本書は、そのための判断軸と実践的な思考法を提示しています。

生きるとは、単に時間をやり過ごすことではなく〝生きていることを活かすこと〟だ。そのためには、常に変化し、学び続ける姿勢が欠かせない。 成長の反対は、現状を維持する停滞ではない。現状に満足し、学びをやめ、俯瞰することを忘れたときに始まる後退である。

人生の価値は、過ぎた時間の長さではなく、そこで何を学び、どのような体験を重ね、それを次の行動にどう活かしたかで決まります。学びは体験によって確かめられ、体験は振り返ることで知恵に変わります。この往復を続けることが、自分の判断軸を磨き、人生の選択肢を増やしてくれます。

成長の反対は、単なる現状維持ではありません。過去の成功体験に安住し、新しいことを学ばず、未知の環境に踏み出さなくなることです。社会やテクノロジーが変化し続ける以上、自分だけが変わらなければ、相対的には後退します。 特にAIが知識やスキルを急速にコモディティ化する時代には、学びと体験を止めること自体が大きなリスクになります。

人生の節目は、過去を区切るだけでなく、未来を主体的に選び直す機会です。 ライフシフトとは、これまでの仕事や肩書をすべて捨てることではありません。過去の経験から得た強みや人とのつながりを活かしながら、これから何に時間を使い、何を学び、どのような役割を担うのかを再設計することです。

特に人生の後半では、過去の延長線上で未来を考えるのではなく、実現したい未来から現在の選択を組み立てる視点が重要になります。

何を守り、何を手放すのか。誰と関わり、どのような新しい環境に身を置くのか。節目ごとに自分の役割と判断軸を見直すことで、人生の可能性は何度でも更新できます。

学びや体験を知恵に変え、培ってきた人的資本や関係資本を次のステージで活かしていく。過去の肩書や成功体験に縛られず、自らの意思で未来を選び続けることこそが、限られた人生の時間を豊かにする「ライフシフト」なのです。

コンサルタント 徳本昌大のView

60歳を過ぎたあたりから、時間が過ぎるスピードが日々加速しています。だからこそ、私は月の半分を移動に充て、各地へ足を運びながら、現場で学ぶ「経験学習」を大切にしています。 慣れ親しんだ環境を離れ、新しい土地や人、価値観に触れると、自分の常識が通用しない場面に出会います。

最初は戸惑いや居心地の悪さを覚えますが、その小さな摩擦を乗り越えることで、固定化した思考がほぐれ、新しい視点を獲得できます。出張や移動は、私にとって知識を増やすだけでなく、自分自身を社会に適応させ直し、思考をリセットするための重要な習慣なのです。

ベンチャー企業の経営支援や組織マネジメントに携わる中で、組織が次第に硬直していく姿を何度も見てきました。そのような状況を変えられるリーダーは、例外なく自分の内側から湧き上がる言葉を意識し、困難な場面でも「この状況で、自分にできることは何か」と問い直しています。他人や環境のせいにするのではなく、自ら主体性を取り戻しているのです。

また、彼らは、組織には自分を支持する2割、中立的な3割、反対する5割がいるという「2:3:5の法則」を感覚的に理解しています。そのため、すべての人を説得しようとして、社内政治に時間やエネルギーを浪費しません。自分が譲れない価値観や目的を明確にし、そこに共感してくれる2割の仲間との関係を深め、変革を前に進めます。 

AIが論理的な最適解を瞬時に示す時代だからこそ、人間には、自らの経験に意味を与える力が求められます。痛みを伴った人生の節目から逃げず、その経験を振り返り、自分なりの判断軸へと統合していく。この地道なプロセスから、人間にしか生み出せない価値が生まれます。 変わらないことをよしとする社会の空気に流されず、あえて変化を選び、そこから生じる摩擦を引き受ける。

運はため込むものではなく、動かすものである。すると、増える。ある意味、おカネと同じだ。言葉のなかに動詞を意識して使う──行動を促し意識を活性化させる触媒になる。

著者のこの言葉に、私は強く共感しました。運は偶然に訪れるものでも、一人で抱え込むものでもありません。自ら行動し、人と関わり、得た機会を次の誰かにつなぐことで循環し、さらに大きくなっていくものだと、私自身の経験からも実感しているからです。 その循環を生み出す起点が「動詞」です。

私自身、ベンチャー企業の成長を支援し、社外取締役としてIPOに向けた実務に携わるなかで、時間の加速を強く感じています。しかし、焦って走り続けるだけでは、自分が本当に進みたい方向を見失いかねません。

私自身、名刺に書かれた「社外取締役」「コンサルタント」「大学の特任教授」といった肩書ではなく、「企業の成長を支える」「人と人をつなぐ」「知識を伝える」「未来を構想する」といった動詞で表現するようにしています。肩書は組織や立場が変われば失われますが、動詞で表される行動や役割は環境が変わっても持ち運べます。

「私は何者か」ではなく、「私は何をしたいのか」「誰にどのような価値を届けたいのか」と問い直す。その作業が、節目を停滞ではなく、新たな挑戦の出発点へと変えてくれるのです。

運を増やすために必要なのは、幸運を待つことではありません。自分から動き、周囲へ働きかけ、受け取った運を次へ渡していくことです。その積み重ねが、新たな可能性を引き寄せるのだと思います。

本書では、このブログでも繰り返し取り上げてきた「パーパス」や「ビジョン」の重要性に加え、予測困難な状況で手持ちの資源から未来をつくる「エフェクチュエーション」の理論も紹介されています。私が日々の経営支援や書評を通じて大切にしてきた考え方と重なる部分が多く、強い共感を覚えました。

パーパスは「何のために行動するのか」を示す判断軸であり、ビジョンは「どのような未来を実現したいのか」を描くものです。一方、エフェクチュエーションは、未来を正確に予測してから動くのではなく、「自分は何者か」「何を知っているか」「誰を知っているか」という手持ちの資源を起点に、できることから一歩を踏み出す実践理論です。(エフェクチェーション理論の関連記事

未来の目標を定め、そこから現在の行動を逆算する直線的なアプローチは、環境が安定し、目的地が明確な場面で力を発揮します。しかし、先行きが見通せない状況では、今ある資源から動き始め、試行錯誤を重ねながら進む道を見つけていく曲線的なアプローチが有効です。大切なのは、どちらか一方を正解と決めつけるのではなく、状況に応じて両者を使い分けることです。

パーパスという軸を保ち、ビジョンで目指す方向を描きながらも、必要であれば当初の計画を手放す。そして、行動の過程で生まれた偶然の出会いや予想外の出来事を、次の可能性へ変えていく。このしなやかさこそが、予測困難な時代に人生の節目を成長の力へ変える知恵です。

私自身、これまでのキャリアを振り返ると、目標から逆算して行動したことで実現できたことがある一方、思いがけない出会いや依頼を受け入れたことで、新たな仕事や役割につながった経験も少なくありません。進む目的を見失わず、計画には固執しない。本書の主張が私自身の経験と重なったことも、強い共感を覚えた理由の一つです。

FAQ

Q1. 『節目を力に変える思考法』は、単に「辛い環境でも我慢しろ」という精神論ですか?

A1. 全く違います。本書は忍耐を美化するものではなく、「主体性を回復する」ための実践的な思考法を説いています。望まない異動などがあった場合でも、ただ耐えるのではなく、「得られる能力は何か」「自分なりの意味はつくれるか」「いつ環境を変えるか」という3つの問いを立て、次へのステップ(芽を生む起点)として環境をハックすることを推奨しています。

Q2. 組織で新しい提案をすると必ず反対されます。「2:3:5の法則」をどう活用すべきですか?

A2. どんなに素晴らしい提案でも、約3割の人は感情的・生理的に反対してくるのが組織の常です。反対意見に全て対応しようとして自分軸を曲げるのは本末転倒です。まずは、あなたのビジョンに共感してくれる「コアな2割」の味方を見つけ、その層との連携を強固にすることにエネルギーを集中してください。そこがブレなければ、流動的な5割の層も次第に味方につくようになります。

Q3. AI時代において、過去の経験を「最大公約数」として振り返ることにどんな価値があるのでしょうか?

A3. AIは膨大な過去のデータから一般的な正解を出すのは得意ですが、個人の「痛みを伴う実体験」から独自の価値観を抽出することはできません。過去の喜怒哀楽や挫折の経験から「自分が絶対に譲れない価値観(最大公約数)」を見出し、それに自らの言葉で意味づけを行うことは、AIには代替不可能な、ブレない意思決定の源泉となります。

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この記事を書いた人
徳本昌大

■複数の広告会社で、コミュニケーションデザインに従事後、企業支援のコンサルタントとして独立。
特にベンチャーのマーケティング戦略に強みがあり、多くの実績を残している。現在、IPO支援やM&Aのアドバイザー、ベンチャー企業の取締役や顧問として活動中。

■多様な講師をゲストに迎えるサードプレイス・ラボのアドバイザーとして、勉強会を実施。ビジネス書籍の書評をブログにて毎日更新。

■マイナビニュース、マックファンでベンチャー・スタートアップの記事を連載。

Ewilジャパン取締役COO
Quants株式会社社外取締役
Mamasan&Company 株式会社社外取締役
他ベンチャー・スタートアップの顧問先多数
iU 情報経営イノベーション専門職大学 特任教授 

■著書
「最強Appleフレームワーク」(時事通信)
「ソーシャルおじさんのiPhoneアプリ習慣術」(ラトルズ)
「図解 ソーシャルメディア早わかり」(中経出版)
「ソーシャルメディアを使っていきなり成功した人の4つの習慣」(扶桑社)
「ソーシャルメディアを武器にするための10ヵ条」(マイナビ)
など多数。
 
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