田中道昭氏のアマゾンが描く2022年の世界の書評

アマゾン効果とは、もともとはアマゾンが従来から主たる事業領域としてきたECや小売業界に対する影響力を意味する言葉でしたが、アマゾンの影響力が増大するにしたがって、さまざまな産業や国の金融・経済政策にまで影響を及ぼしていることを意味するように定義が進化しているのです。(田中道昭)


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アマゾンの一人勝ちが世界を不幸にする?

田中道昭氏のアマゾンが描く2022年の世界
アマゾンをテーマにした近未来予測ですが
本書の「はじめに」を読むだけでも
今後の私たちライフスタイルを実感できます。
もはや、私たちの生活に欠かせない存在になっているアマゾンが
ネット空間だけでなくリアルの生活にどんどん侵食し
2022年には私たちの生活の一部になっているはずです。

オンライン書店だったアマゾンはもはや
巨大な産業を有するコングロマリットなのです
田中氏は「アマゾンとは何の企業であるのか?」と問いかけ
彼らの事業やミッション・ビジョンを4階層分析(国家・産業・企業・人)
5ファクターメソッドというフレームワークを使って徹底分析しています。
著者はアマゾンやベゾスの英語のニュースや財務数字などを
フレームワークで読み解き、アマゾンを丸裸にしています。
本書は300ページを超えるボリュームで内容も多岐に渡りますので
以下、私なりの視点で本書を紹介していきたいと思います。

本や家電の通販というイメージが強いアマゾンですが
急激に事業領域を拡げ、ネット空間からリアル店舗
最近では宇宙にまでビジネスを拡げています。

私はアメリカに行くたびにホールフーズで買い物を楽しんでいますが
そのホールフーズがアマゾンに買収発表されたのが今年の6月です。
アマゾンはこの高級スーパーのホールフーズを傘下におくことで
リアルの小売業・オーガニック食材分野に事業領域を拡げました。
リアル店舗にアマゾンのテクノロジーが融合されることで
アマゾンと生活者の関係はより身近になり、生活者の利便性はアップします。
当然、プライム会員の購買行動はアマゾンに筒抜になり
アマゾンのレコメンデーションはより精度が高まります。
これで競合が付け入る隙がなくなり
多くの企業が企業価値を下げてしまったのです。

アマゾン恐怖銘柄指数というアマゾンによって
打撃を受ける54の企業の株価指数がありますが
これがホールフーズの買収発表後に急落しました。
主に流通企業で構成されていた指数なのですが
アマゾンが流通業を牛耳り、価格支配権を握ることで
P&JやJ&Jといった消費財メーカーの株価にも影響を及ぼしたのです。
まさに、デス・バイ・アマゾン(Death by Amazon)で
アマゾンの一挙一動に、アメリカだけでなく
世界中の企業が影響を受けるようになったのです。
当然、日本企業も例外でなくなり、アマゾンの動きに一喜一憂せざるを得ません。

アマゾンは日々多くの産業に侵食し、影響度を増しているのです。
アマゾンの事業戦略や指数を参考に
日本企業もアマゾンへの対抗策を戦略的に考えるべきだと田中氏はいいます。

また、アマゾンの影響は産業レベルだけでなく、国家にも影響を及ぼしています。

さらにアマゾン効果は、最近では国の金融・経済政策への影響までをも意味するようになってきました。とくにホールフーズの買収以降は、アマゾンの低価格戦略がリアル店舗にも拡大され、国全体の物価までもが押し下げられるのではないかという懸念が金融当局の間でも共有されているといわれています。

恐ろしいことに国の物価をもアマゾン一社が押し下げると
アメリカの政府関係者は心配しています。
アマゾンは税金を払わないことで有名ですが
生活を便利にするアマゾンがあまりに巨大になり過ぎると
法人税がどんどん減ってしまうのです。
競合企業の利益が下がり、アマゾンが税金を払わない状態が続くと
国家の税収が減じ、結局は多くの国民が損をしてしまうのです。

最近では小売やコンテンツ産業に止まらず
アマゾンはITや宇宙産業にも食指を伸ばしています。
利益の面を見てもアマゾンは小売で稼いでいるのではなく
AWSで収益をあげています。
そして、このAWSが宇宙データの領域の稼ぎ頭になるかもしれません。
アマゾンは地球だけでなく、AWSによって
宇宙のプラットフォームになろうとしています。
イーロン・マスクのSPACE Xなどのロケット事業が話題になりがちですが
実は衛星データ活用がビジネスの主戦場で
その中心にAWSのアマゾンがいるのです。

セルフリーダーシップがアマゾンの強みの要因

ベゾスは強力な戦略とリーダーシップによって
アマゾンの成長を加速させています。
アマゾンというとベゾス一人に注目が集まりますが
あらゆる領域で小さな組織が作られ
社員一人ひとりが責任を持って、顧客のジョブを解決しています。

当然、事業を拡大するベゾスのリーダシップもすごいのですが
社員一人一人のリーダーシップがあるからこそ
これほど短期間で事業領域を拡大し、成果をあげているのです。
アマゾンではセルフリーダシップが重視され
一人一人が自律し、自分自身にリーダーシップを発揮しているのです
彼らは一分単位でPDCAを回し、指示を待つのではなく
自らの力で顧客第一主義を貫くことで、結果を残しています。

一方アマゾンのCSRなどの評価は低いという実態があります。
労働者の賃金を抑制したり、地域の小売業を衰退させてきたという批判が
アマゾンには絶えず付きまといます。

真の顧客第一主義とは、狭義の顧客だけではなく、広く取引先や関連業界、社会全体のことまでを大切にする価値観ではないかと考えられますあれだけ狭義の直接的な顧客への想いは毎年のアニュアルレポートのなかでも熱く語られているにもかかわらず、社会への責任についての言及がベゾスからほとんどなされていないのは、本当に残念に思うのです。

田中氏が指摘するように大きな視点での顧客第一主義が
アマゾンには求められます。
アマゾンは一部の大株主を幸せにする会社なのか?
あるいは世界中の生活者を幸せにする会社なのか?によって
アマゾンに対する今後の信頼感が左右されそうです。

影響力が巨大になったアマゾンが、共存経営を意識しなければ
やがては顧客が離脱するのではないかと私も危惧しています。
田中氏は影響力を持った今こそ、アマゾンが三法よしの考えを取り入れ
生活者を幸せにすべきだと指摘しています。
アマゾンから生活者視点の本当のミッションが生まれ
世の中をよりよくしてくれることを期待したいと思います。

まとめ

アマゾンの戦略が私たちの生活に大きな影響をあたえます。
私たちの生活を便利にする一方で、アマゾンの一人勝ちが
企業や国に悪影響を及ぼす可能性が出ています。
事業領域が広がり、つかみどころがなくなったアマゾンについて知りたい方には
本書は最適の一冊だと思います。
フレームワークを駆使して、アマゾンを丸裸にした本書は
多くのビジネスパーソンが楽しめる内容になっています。
経営者は本書でアマゾンの全貌を理解し、対抗策を考えられますし
若い起業家は戦略の作り方やリーダシップの要諦を学べます。
アマゾンをテーマにしていますが、本書は経営指南者としても使えます。
なんども読み返したいと思った一冊で、おすすめです!

今日もお読みいただき、ありがとうございます。
本書は著者から献本いただきました。

     

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この記事を書いた人
徳本

■複数の広告会社で、コミュニケーションデザインに従事後、企業支援のコンサルタントとして独立。
特にベンチャーのマーケティング戦略に強みがあり、多くの実績を残している。現在、IPO支援やM&Aのアドバイザー、ベンチャー企業の取締役や顧問として活動中。

■多様な講師をゲストに迎えるサードプレイス・ラボのアドバイザーとして、勉強会を実施。ビジネス書籍の書評をブログにて毎日更新。

■マイナビニュース、マックファンでベンチャー・スタートアップの記事を連載。

■インバウンド、海外進出のEwilジャパン取締役COO
みらいチャレンジ ファウンダー
他ベンチャー・スタートアップの顧問先多数
iU 情報経営イノベーション専門職大学 特任教授 

■著書
「最強Appleフレームワーク」(時事通信)
「ソーシャルおじさんのiPhoneアプリ習慣術」(ラトルズ)
「図解 ソーシャルメディア早わかり」(中経出版)
「ソーシャルメディアを使っていきなり成功した人の4つの習慣」(扶桑社)
「ソーシャルメディアを武器にするための10ヵ条」(マイナビ)
など多数。
 
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