なぜ女はメルカリに、男はヤフオクに惹かれるのか? の書評

C2Cとは消費者対消費者取引のこと。ただし「消費者」という捉え方だけでは一人ひとりの個性まで見えてくることはありません。ヤフオクのようなオークションサイトはC2Cにあたると言えます。これに対してP2Pとは、「対等な仲間同士がつながる」という意味を含んだ、大きな広がりと可能性に満ちた概念です。「メルカリ経済圏」が、アマゾンにすら対抗できる可能性を秘めた存在として注目されている理由も、ここに隠されています。(田中道昭)


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メルカリがシェアリングエコノミーのプラットフォームである理由

田中道昭氏と牛窪恵氏はマーケティングのプロフェッショナルで、今までに何冊もの良書を世に送り出しています。その二人がタッグを組んで、日本を代表するベンチャーのメルカリやLineをケーススタディにしながら、マーケティング用語をわかりやすく解説した一冊が、本書なぜ女はメルカリに、男はヤフオクに惹かれるのか? アマゾンに勝つ! 日本企業のすごいマーケティングです。

P2P、シェアリングエコノミー、STP、キャズム、サブスクリプションなど今のビジネスパーソンが理解しておかなければならない知識をコンパクト、かつわかりやすく解説してくれました。本書の最新のケーススタディを読み進めていくうちに、マーケティングとビジネストレンドが同時に学べるようになっています。

田中道昭氏は「シェア」という新しい価値観をメルカリ躍進のキーワードにおきます。「シェア」という考え方が私たちの消費スタイルの変化だけではなく、経済のあり方、社会のあり方、私たちの生き方まで変えようとしていますが、その動きを上手に捉えたのがメルカリなのです。C(消費者)ではなく、P(仲間)というつながりの中で洋服をシェアするのが、メルカリの新しさであり、強みになっています。

田中氏は牛窪氏の仮説を用いながら、STP分析によって、国民の人気を2分するメルカリとヤフオクを比較します。
■セグメンテーション(Segmentation)
規模が大きすぎる市場や顧客を、何らかの切り口をヒントに、同じようなニーズ、傾向を持ったセグメントへと細かく分解すること
■ターゲティング(Targeting)
商品を 「誰に」売るのかを明確にする
■ポジショニング ( Positioning)
夕ーゲットに対し、自社を差別化できるポジションを見つけること。その際、企業の論理ではなく、顧客の頭の中をイメージし、そこで独自の地位を占められるよう自社を差別化する

●メルカリ(お下がり、女性脳的)
売り手「共感×捨てずに活かす」(共感してくれる相手に売って、捨てずに活かしたい)
買い「安心・納得して×買いたい」(安心・納得して買いたい)

●ヤフオク(競い、男性脳的)
売り手「競う×できるだけ高く売る」(競い合わせながら、できるだけ高く売りたい)
買い手「競う×買いたい」(競い合いながら、欲しいものを買いたい)

メルカリには競争心や「高く売りたい」気持ちよりも、共感できる人に売りたい、安心・納得して買いたいというユーザーが集まっています。対照的にヤフオクは、できるだけ高く売りたい側と、できるだけ安く買いたい側、どちらも競争心がポイントになっています。「女性的な」メルカリ、「男性的な」ヤフオクという対比として見ることもできるでしょう。縦軸に「共感 」 「競う 」という対比を 、横軸に 「できるだけ高く売りたい 」 「捨てずに活かしたい 」という対比をとることで、メルカリとヤフオクの違いが明確になります!

メルカリのようなシェアリングサービスのプレイヤーは、その価値観自体をシェアすることで共感を生み出し、ユーザーを増やし、また強く結びつけています。卸売や小売などの中間業者がいないため、消費者と消費者がメルカリというプラットフォームで直接取引します。そこでは出品者の「自分にとって不要になったからといってただ捨てるのではなく、まだ使えるものなら命をつないでいきたい、世の中の役に立ってほしい」といった思いが共有されています。

一般的には、フリマアプリと言われるメルカリですが、シェアリングエコノミーのプラットフォームと捉えた方がよいと田中氏は言います。メルカリのユーザーは、所有という概念をもはや持っていないのです。自分の都合に合わせてメルカリから服を借りている=メルカリを通じて服をシェアしていると言った方が、ユーザーのマインドのフィットしています。ライドシェアがクルマ、ホームシェアが家をシェアしているなら、メルカリは衣服をはじめとする日用品をシェアするプラットフォームを提供しているのです。

 

メルカリのシェアリングエコノミーがもたらした7つの変化

シェアリングエコノミーのプラットフォームであるメルカリは短期間のうちに、ユーザーの行動を変えてしまいました。田中氏はその変化を7つにまとめました。
① 「資産」の定義を変える
② 「価格の決定権」をシフトする
③ 「評価方法」を変える
④ 「買い物の仕方」を変える
⑤ 「プロセルシューマー」を生み出す
⑥  ファッションにおける「イノベーションのジレンマ」を解決する
⑦ 「ファッションは出会い」を再現する

① 「資産」の定義を変える
メルカリには、多くの人の目には「ただのゴミ」にしかならないものが売りに出され、実際に買い手も付いています。一見何の役にも立たないようなものに価値があると感じる人と人がつながるためのプラットフォームがメルカリなのです。例えば、工作に使いたい人がトイレットペーパーの芯を買うことで、本来価値のないものが新たな資産に生まれ変わったのです。メルカリというプラットフォームでは、資産の定義そのものが変化しているのです。服や雑貨などの中古品のマッチングがメルカリで可能になったことで、不要なものに値段がつき、あらゆるものが資産になったのです。「あなたにとっての不用品が、誰かにとっての宝物」になると感じる消費者がメルカリに集まってきています。

②「価格の決定権」をシフトする
メルカリは、価格の決定権を、消費者側にシフトさせる力を持っています。メルカリの登場で「その商品にいくらの価値があるか」が瞬時にわかるようになりました。メルカリには中古品だけでなく、未使用の新品も出品されています。そこには、消費者が「買ってもいい」と思う値段も、ダイレクトに表示されています。メルカリのプラットフォーム上の新たな価格が力を持ち始めています。

③「評価方法」を変える
メルカリは「メルカリならいくらで売れるか?」という考え方、つまり処分価格によって評価する手法を、一般的なものにしました。 

④「買い物の仕方」を変える
「メルカリで中古品の値段を確認してから買う」という消費行動が一般的になることで、若者の買い物スタイルが大きく変化しています。

⑤「プロセルシューマー」を生み出す
「プロセルシューマー」というのは著者の田中氏の造語です。アルビン・トフラーは、生産者(プロデューサー)と消費者(コンシューマー)が融合する「プロシューマー」の出現を指摘しました。メルカリはこの「プロシューマー」を進化させ、みずからからモノを生産する消費者「プロセルシューマー」を生み出しました。さらにメルカリはC2Cのプラットフォームでもあるため、モノを販売する多数の「セル(sell)シューマー」も作り出しています。プロシューマーであり、なおかつセルシューマーでもある消費者は、みずから生産し、みずから販売するプロセルシューマーへと進化を遂げています。

⑥ファッションにおける「イノベーションのジレンマ」を解決する
よかれと思ったイノベーションが、ユーザーが本当に望む需要から乖離して、新たな市場への参入が遅れてしまう現象が「イノベーションのジレンマ」です。(「イノベーションのジレンマ」はクレイトン・クリステンセンが提唱)。ファッション業界でもこの「イノベーションのジレンマ」が起こっています。シーズンが変わるたびに新しい服を発表し、トレンドを作り出そうとするものの、毎回のトレンドをキャッチアップしようとする感度の高い消費者はあまり多くいません。メルカリはトレンドをあまり追わないマジョリティのために、中古のファストファッションを流通させることに成功します。店頭からすぐに消えてしまうファストファッションの洋服をメルカリならば手に入れられるというブランドイメージを獲得することで、売り上げを伸ばしたのです。自分のライフスタイルや価値観に合った服が欲しいと考える多くの消費者の声に応えるプラットフォームをメルカリは提供しています。

⑦「ファッションは出会い」を再現する
メルカリの魅力は商品がグチャグチャに並んでいることです。メルカリは目的なしにブラブラとウインドウショッピングを楽しみたいときに使えるプラットフォームとして支持されています。意外なアイテムに心惹かれ、衝動買いしてしまうといった買い物の楽しさをメルカリはデザインしているのです。

Wiredの元編集長のケヴィン・ケリー〈インターネット〉―未来を決める12の法則の中で、新しいシェアの形を見つけた会社が勝ち組になると書いています。

これからの30年を考えると、最大の富の源泉そして最も面白い文化的イノベーションはこの方向の延長線上にある。2050年に最も大きく、最速で成長し、一番稼いでいる会社は、いまはまだ目に見えず評価もされていない新しいシェアの形を見つけた会社だろう。シェア可能なもの思想や感情、金銭、健康、時間は何でも、正しい条件が揃い、ちゃんとした恩恵があればシェアされる。(ケヴィン・ケリー)

田中氏はまさにメルカリがこのポジションにいると述べています。仲間を中心にしたメルカリというシェアリングプラットフォームがメルカリ経済圏というエコシステムを作り出し、やがてはアマゾンを苦しめる存在になるかもしれません。P2Pとシェアリングいう新たな潮流によって、メルカリはグローバル企業の勝ち組になりそうです。

まとめ

フリマアプリとして多くのユーザーから支持されるメルカリは、P2Pプラットフォーム企業としての存在感を増しています。シェアリングエコノミーのプラットフォームであるメルカリは短期間のうちに、ユーザーの買い物行動を変えてしまいました。P2Pとシェアが広がりを見せることで、メルカリはアマゾンの脅威になるはずです。

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