書評 弘子ラザヴィ氏のカスタマーサクセスとは何か

モノ売り切りモデルで勝ってきたモノづくり大国こそ、意識して成功の自縛を解かねばならない。なぜなら、デジタル時代に世界を相手に事業をする企業はリテンションモデルから逃れられないからだ。ではいったいどうすればよいのだろうか?その答えが「カスタマーサクセス」だ。(弘子ラザヴィ)

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リテンションモデルとは何か?

弘子ラザヴィ氏のカスタマーサクセスとは何か――日本企業にこそ必要な「これからの顧客との付き合い方」を読むとメーカーもリテンションモデルを採用しなければ、生き残れないことがわかります。

まず、リテンションモデルを理解するために、リテンションモデルの定義を本書から引用します。
1、利用者が、日常的・継続的にそのプロダクトを利用し、モノの所有に対してではなく成果に対して対価を払う。
2、利用者が、いつでも利用を止める選択権を持ち、かつ初期費用が非常に少なくてすむ。

3、利用者が、それ無しでは生活や仕事ができない・使い続けたいと断言できるほど明らかにプロダクトが常に最新状態に更新・最適化され続ける。
4、利用者が、自分にとって嬉しい成果を得られるならば、自分の個人データをプロバイダーが取得することを許す。

デジタルシフトが進み、ミレニアム世代が価値観をモノからコトに変える中で、「売り切りモデル」が力を失い、
リテンションモデルが存在感を増しています。サブスクリプションモデルが当たり前になり、UberやNetflixなど顧客データを持つサービスプラットフォーマーが成功を収めています。

リテンションモデルでは、売った後もずっとプロダクトの価値が最新・最適化され続けます。そのため、一つの収支モデルで一定期間にコスト回収するというビジネスモデルは成り立たなくなります。供給者は収支モデルの変化を前提に事業計画を作り変えなければなりません。

「リテンション=カスタマーを虜にする」ことだと頭を切り替え、自分のビシネスの未来について考えてみましょう。リテンションモデルの背景にあるトレンドを整理した以下のチャートを何度も読み、カスタマーとの関係を再構築すべきです。

 

なぜ、カスタマーサクセスが重要なのか?

利用者は、より優れたプロダクトが登場して自分の生活や仕事環境が改善することへの期待感から自分の詳細データ(取引履歴・行動履歴など)を供給者がもつことを許す。供給者からすると、カスタマーから詳細データをもらい続けるには、常に将来を期待される存在であり続けなければならない。

本書では13のトレンドシフトが紹介されていますが、これらのトレンドがループすることで、リテンションモデルへのシフトが加速していきます。ループが回るコトで、企業は顧客からの期待値を高め、膨大な顧客データを取得できるようになります。

未来を変えていく期待感を持つ企業が生き残るとすれば、ただ単にモノを製造するだけでは勝ち目はありません。顧客の期待値がモノからコトにシフトしていく中で、顧客を虜にし、LTVを高める企業になるためには、常に将来を期待される存在であり続ける必要があるのです。

著者はカスタマーサクセスを以下のようにわかりやすく説明します。

サザエさんにでてくる三河屋の三平さん、分かりますか?彼がしていたことの現代版ですよ。

三河屋さんは絶えず顧客との接点を持ち、買っていただいた後でも顧客を満足させようとします。昭和の時代の三平には顧客の顔が見えていましたが、大量消費社会の売り切り型の世界にシフトする中で、買った後の顧客の態度変容の重要性を多くの企業が忘れてしまったのです。

本書にはマトリックスパートナーズのデビット・スコック氏のシミレーションモデルの説明があります。私もあるイベントで著者からこの話を聞きましたが、チャーン(離脱率)の重要性をこのグラフから学びました。

売上ゼロで事業を開始し、初月に月額定額(売上)1万ドルの新規契約を獲得、以降は月額定額2000ドルの新規契約が毎月積み上がるという前提で月次の売上をシミュレーションしました。点線はチャーンゼロで毎月リニューアルされる単月売上となります。ダウントレンドの2本の実線はそれぞれ毎月2.5%、5.0%のチャーンでとり逃す月次売上を示しています。開始直後の数年はチャーンでとり逃す売上はそれほど大きくありませんが、60ヵ月後つまり5年目末に近づくにつれ、チャーンの比率(2.5%)は小さくても新規契約で穴埋めするのは非常に困難な水準(月6万ドル)、特に比率が高い(5%)場合は深刻な水準(月9万ドル)まで膨らみます。

一方、右肩あがりの実線はカスタマーから毎月2.5%のアップセルないしクロスセルを獲得した場合に追加で積み上がる月次売上となります。(売上の増分はチャーンの減少なので比率は「▲2.5%」と表示しています)。注目すべきは、比率は一定なのに顧客基盤が拡大するため金額は加速的に増え、5年目の終わりには毎月18万ドルほど月次売上に貢献するのが明らかになります。

次の図は各シナリオの単月売上を合計した各月の売上高となります。アップセルないしクロスセルがありネットリテンションが102.5%(=100%+2.5%)の場合は、チャーンが2.5%、即ちネットリテンションが97.5%(=100%12.5%)の場合よりも5年間で3倍近く大きな事業に成長します。当然、新たに顧客を獲得するよりアップセルやクロスセルの方がコストはかかりませんから、企業の利益率はアップします。

学びは2つある。事業が成長すると「買ってくださったお客さま」、即ちカスタマーの数が増え、売上に占める割合も上がる。どんどん増えるカスタマーへのケアが十分行き届かないと、さまざまな要因からチャーンが生まれその比率も高まる。その時、チャーンに伴う売上減少を補うためにより多くの新規契約を獲得しようと躍起になると、売上の成長スピードは大幅に減退する、という点が1つ目の学びだ。2つ目はその逆シナリオで、「買ってくださったお客さま」を大切にケアする、即ちチャーンを抑制しながら買い増しも促せると、売上の成長スピードは大幅に加速する。つまり「商いは買っていただいた後が大切」は単なる精神論ではなく複利的に加速する力強い売上成長に直結する。

まとめ

デジタル時代は「商いは買っていただいた後が大切」の精神を取り戻し、「カスタマーに成功を届ける」ことが必須になります。カスタマーサクセスの本質を理解し、それを実践した企業が顧客を虜にし、リテンションモデル時代の勝者になるのです。

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この記事を書いた人
徳本昌大

■複数の広告会社で、コミュニケーションデザインに従事後、企業支援のコンサルタントとして独立。
特にベンチャーのマーケティング戦略に強みがあり、多くの実績を残している。現在、IPO支援やM&Aのアドバイザー、ベンチャー企業の取締役や顧問として活動中。

■多様な講師をゲストに迎えるサードプレイス・ラボのアドバイザーとして、勉強会を実施。ビジネス書籍の書評をブログにて毎日更新。

■マイナビニュース、マックファンでベンチャー・スタートアップの記事を連載。

■インバウンド、海外進出のEwilジャパン取締役COO
IoT、システム開発のビズライトテクノロジー 取締役
みらいチャレンジ ファウンダー
他ベンチャー・スタートアップの顧問先多数 

■著書
「ソーシャルおじさんのiPhoneアプリ習慣術」(ラトルズ)
「図解 ソーシャルメディア早わかり」(中経出版)
「ソーシャルメディアを使っていきなり成功した人の4つの習慣」(扶桑社)
「ソーシャルメディアを武器にするための10ヵ条」(マイナビ)
など多数。
 
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