デビッド・ロブソンのThe Intelligence Trap(インテリジェンス・トラップ) なぜ、賢い人ほど愚かな決断を下すのかの書評


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The Intelligence Trap(インテリジェンス・トラップ) なぜ、賢い人ほど愚かな決断を下すのか
著者:デビッド・ロブソン
出版社:日本経済新聞出版社

本書の要約

自分が信じたいものに対しては判断が甘くなり、簡単に認めてしまう「動機づけられた推論」と他人の欠点には敏感であっても、自らの偏見や思考の誤りには気づきづらいという「認知の死角」が結びつくと、どんなに賢い人でも判断を間違え、大きな過ちを犯します。

賢い人ほど愚かな決断を下す理由

知能が高い人は自分なら問題が発生してもうまく対処できると思い込み、「危ない橋」を渡ろうとする傾向があることが指摘されている。理由がなんであれ、経済学者の予想に反して、賢い人ほどお金を合理的に使うわけではないのは明らかだ。これも知能は必ずしも優れた判断力につながらないというサインである。(デビッド・ロブソン)

「知能の高い人ほど判断力も優れている」と考えるのは、間違いだと科学ジャーナリストのデビッド・ロブソンは指摘します。IQが高い人、賢い人は独善的になりやすく、普通の人が陥らないような罠にかかり、大きな失敗を犯してしまうことがあるのです。

リーズ大学のウェンディ・ブルーン・ドブルーンの調査によると、学業で成功を収めた人が、必ずしも合理的判断ができるわけではないことがわかりました。知能が高い人でも合理性に欠けることがあり、時に人生に重大な悪影響を及ぼすことがあるのです。

賢い人は合理的な判断が苦手な人が多く、アルコールやお金で失敗しがちです。ロンドン・スクール・オブ・エコノミクスが2010年に発表したある研究では、IQが比較的高い人はアルコール消費量が多い傾向があり、また喫煙や違法ドラッグを摂取する傾向も強いことが明らかになりました。これは高い知能は必ずしも短期的利益と長期的弊害を比較するのに役立つわけではないという見方を裏づけました。

また同じように、IQが高い人は、ローンの返済に蹟いたり、破産したり、クレジットカードの負債を抱えたりといったお金のトラブルにも直面しやすいのです。IQ140の人では14%がクレジットカードの限度額まで使ったことがあるのに対し、100という平均的IQの人では8.3%にとどまりました。

また、IQ140の人は長期的な投資や貯蓄にお金を回す傾向も強くはなく、毎年の資産の増加分は平均的な人よりわずかに多いだけでした。IQの高い人は稼ぐ力には長けていますが、資産運用には問題がある人が多かったのです。

アーサー・コナン・ドイルはなぜ、騙されたのか?

知能が高い人々が愚かな行動に走る主な原因は3つあると著者のデビッド・ロブソンは指摘します。
1、人生で起こる問題に対処するのに不可欠な、創造的知能や実務的知能が欠けていること。
2、「合理性障害」があり、偏った直感的判断を下してしまうこと。
3、「動機づけられた推論」によって、自らの立場と矛盾する証拠を否定するために優れた知能を使ってしまうこと。

今日はアーサー・コナン・ドイルの失敗から、「動機づけられた推論」について学ぼうと思います。ドイルはシャーロック・ホームズを生み出したほどの賢人にも関わらず、超常現象や迷信的考えを信じていました。テレパシー、透視などの超感覚的知覚 (ESP)や「心霊療法」は、いずれも信頼性のある科学的根拠によって繰り返し否定されていました。しかし、きわめて高い知能を持つドイルが、いとも簡単に騙されていたのです。

二重システム理論(速い思考と遅い思考)によれば、ドイルは認知能力がおそろしく低いということになります。科学的に説明のつかない現象を信じるのは、自らの信念の根拠として、分析的で批判的な推論ではなく、本能や直感に頼ろうとするためなのです。

実はドイルは、考えすぎないことではなく、考えすぎたことで問題を引き起こしていました。1917年ドイルは16歳のエルシー・ライトと9歳のフランシス・グリフィスに出会います。彼女たちは、ウエストヨークシャー州のコティングリーの川辺で妖精の群れが躍っている写真を撮影したと主張したのです。

周囲はこの写真にかなり懐疑的でしたが、ドイルは少女たちの話を鵜呑みにしました。実際には写真に写っていた妖精たちは、 絵本の挿絵をボール紙に写し取り、切り抜いたものでしたが、彼はあらゆる疑義を否定するために膨大な量の文章を執筆しました。

写真をよく見れば、切り抜き同士を留めているピンも見つかります。しかし他者の目にはピンと映るものが、ドイルの目には妖精のへそに見えたのです。彼は妖精の存在を証明するために、近代科学の知見まで引き合いに出しています。電磁気の理論を踏まえ、妖精の体は「人間の目には見えない短い、あるいは長い振動を発する物質でできている」と書いているのです。オレゴン大学心理学教授のレイ・ハイマンは、ドイルは「自らの知能と才覚を、あらゆる反論を否定するのに使った」と指摘します。彼は自らの賢さを、自らを欺くために使ったのです。

システム2を使い、たとえ誤っていても自らの信念を合理化しようとする行為は、おそろしく悲惨な結末をもたらします。それはコナン・ドイルのような人物が、愚かな考えを抱く原因になるだけでなく、銃犯罪や気候変動のような重要な政治問題に関する激しい意見対立の原因にもなります。

なぜ、コナン・ドイルほどの優秀な人が易々と詐欺師に騙されてしまったのでしょうか?そこには、「動機付けらた推論」が働いていました。「動機づけられた推論」とは、自分が信じたいもの(信じようという動機づけがなされているもの)を人は簡単に認めてしまうというものです。コナン・ドイルは狭量な思考によって、正気を失い、正しい答えを導き出せなくなっていたのです。

この「動機づけられた推論」に「認知の死角」が組み合わさると人は判断を間違えます。認知の死角とは、他人の欠点には敏感であるのに、自らの偏見や思考の誤りに気づかない傾向を指します。あのアインシュタインも晩年に独善的になり、ドイルと同じように間違いを犯しています。

アップルの共同創業者、スティーブ・ジョブズもすばらしい知性と独創性に恵まれながら、現実世界に対して驚くほど歪んだ認識を抱くことがありました。それが彼に死をもたらすことになったのです。2003年に膵臓癌と診断されたジョブズは、主治医のアドバイスを無視して、ハーブ療法、スピリチュアル治療、果汁中心の厳格な食事療法など、自分が信じた治療法に走りました。

周囲の人々によると、ジョブズは自分の力で癌を治せると確信しており、その驚くべき知性をあらゆる反対意見を退けるために使っていたと言います。ようやく手術を受けようと決めたときには、癌は手の施しようのないほど進行していました。

すばらしい知能が論理的で合理的な思考ではなく、理屈づけや自己正当化に使われることで、多くの天才が失敗します。冷静になればわかることが、「動機づけられた推論」によって見えなくなり、間違えた判断を下してしまうのです。FBIのような専門家も近視眼的な自信過剰になり、自分が失敗するはずがないと考え、ミスを起こしているのです。

IQが高い人や専門家が、必ずしも合理的な判断を下すとは限りません。賢人やスペシャリストが陥りやすい思考の罠を知ることで、私たちは失敗を防げます。自らの判断には限界があると考え、誤りを犯さないように注意したり、自らの意見に疑問を示す別の視点や証拠を集めることが大事です。思考を柔軟に保ち、知的な謙虚さを身に着けることで、正しい判断を下せるようになります。

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この記事を書いた人
徳本

■複数の広告会社で、コミュニケーションデザインに従事後、企業支援のコンサルタントとして独立。
特にベンチャーのマーケティング戦略に強みがあり、多くの実績を残している。現在、IPO支援やM&Aのアドバイザー、ベンチャー企業の取締役や顧問として活動中。

■多様な講師をゲストに迎えるサードプレイス・ラボのアドバイザーとして、勉強会を実施。ビジネス書籍の書評をブログにて毎日更新。

■マイナビニュース、マックファンでベンチャー・スタートアップの記事を連載。

■インバウンド、海外進出のEwilジャパン取締役COO
みらいチャレンジ ファウンダー
他ベンチャー・スタートアップの顧問先多数
iU 情報経営イノベーション専門職大学 特任教授 

■著書
「最強Appleフレームワーク」(時事通信)
「ソーシャルおじさんのiPhoneアプリ習慣術」(ラトルズ)
「図解 ソーシャルメディア早わかり」(中経出版)
「ソーシャルメディアを使っていきなり成功した人の4つの習慣」(扶桑社)
「ソーシャルメディアを武器にするための10ヵ条」(マイナビ)
など多数。
 
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