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人新世の「資本論」
著者:斎藤幸平
出版社:集英社
本書の要約
行き過ぎた資本主義が地球環境を破壊しています。資本主義の暴走を止めなければ、温暖化が進み、未来の子供たちに大きな負債を残してしまいます。著者は気候変動の時代には、晩期マルクスの思想を取り入れるべきだと言います。コミュニズムこそが「人新世」の時代に選択すべき未来だと言うのです。
人新世の時代に、私たちは何をすべきか?
近代化による経済成長は、豊かな生活を約束していたはずだった。ところが、「人新世」の環境危機によって明らかになりつつあるのは、皮肉なことに、まさに経済成長が、人類の繁栄の基盤を切り崩しつつあるという事実である。気候変動が急激に進んでも、超富裕層は、これまでどおりの放埒な生活を続けることができるかもしれない。(斎藤幸平)
私たちは「人新世(アントロポセン)」の時代を生きていますが、人類が主役になることで、環境破壊が当たり前になり、地球は危機的状況に陥っています。際限のない人間の欲望が自然環境を破壊し、温暖化が進むことで、庶民のほとんどがこれまでの暮らしを失う可能性が高まっています。
政治家や専門家は現状維持を選択するために、温暖化はどんどん進んでいます。「人任せ」にしておけば、超富裕層が優遇されるだけで、庶民の生活は放って置かれてしまいます。良い未来を選択するためには、市民の一人ひとりが当事者として立ち上がり、声を上げ、行動しなければならないのです。
SDGsのような対策がメディアでも盛んに取り上げられるようになっている裏で、世界の二酸化炭素排出量は不思議なことに毎年増加しています。メディアで議論されているにも関わらず、問題の本質はうやむやにされ、「人新世」の気候危機は深まっています。
この破局を避けるために、2100年までの平均気温の上昇を産業革命前の気温と比較して1.5℃未満に抑え込むことを科学者たちは求めています。すでに1℃の上昇が生じているなかで、1.5℃未満に抑え込むためには、今すぐ行動を起こさなければならないのです。
具体的には、2030年までに二酸化炭素排出量をほぼ半減させ、2050年までに純排出量をゼロにしなくてはなりません。もし、現在の排出ペースを続けるなら、2030年には気温上昇1.5℃のラインを超えてしまい、2100年には4℃以上の気温上昇が起こってしまうことが予測されています。
哲学者の斎藤幸平氏は気候危機にブレーキを踏みながら、生活を豊かにする方法があると説きます。晩期マルクスの思想を取り入れることで、地球環境を守り、格差もなくすことが可能になると言うのです。
たった3.5%の力が世の中を変える!
世界規模で見れば、億単位の人々が現在の居住地から移住を余儀なくされることになる。そして、人類が必要とする食料供給は不可能になる。経済的損失も莫大で、年間27兆ドルになるという試算もある。こうした被害が恒常的に続くのだ。
グローバル・ノースにおける大量生産・大量消費を続ける帝国的生活様式は、先進国に暮らす人たちには豊さを実現しますが、反対にグローバル・サウスの地域や社会集団の富を収奪しています。このような収奪や代償の転嫁なしには、帝国的生活様式は維持できないのです。
また、資本主義による収奪は、グローバル・サウスの労働力だけでなく、地球環境全体に対しても行われています。資本主義は、自然もまた単なる掠奪の対象とみなし、破壊を続けています。資本主義が無限の経済成長を目指せば、地球環境が危機的状況に陥ってしまうのです。
先進国の人々が大きな問題に直面するころには、この惑星の少なからぬ部分が生態学的には手遅れの状態になっているだろう。資本主義が崩壊するよりも前に、地球が人類の住めない場所になっているというわけだ。
経済成長をしながら、二酸化炭素排出量を十分な速さで削減するのは、ほぼ不可能であることが明らかになっている以上、私たちは何かしらの対策を打つ必要がありますが、その際、晩期マルクスの思想が役立つと言うのが著者の主張です。
資本主義での共産主義でもない、第三の道としての〈コモン〉は、水や電力、住居、医療、教育といったものを公共財として、自分たちで民主主義的に管理することを目指します。 『資本論』以降のマルクスが着目したのは、資本主義と自然環境の関係性だったのです。 気候危機の時代に、必要なのはコミュニズムであり、コミュニズムこそが「人新世」の時代に選択すべき未来だと著者は述べています。
私たちは今こそ、加速ではなく、減速を選択すべきだと著書は指摘します。
無限に利潤を追求し続ける資本主義では、自然の循環の速度に合わせた生産は不可能なのだ。だから、「加速主義」(accelerationism)ではなく、「減速主義」(deaccelerationism)こそが革命的なのである。
脱成長コミュニズムの柱①――使用価値経済への転換
「使用価値」に重きを置いた経済に転換して、大量生産・大量消費から脱却する 「使用価値」を重視するべき
脱成長コミュニズムの柱②――労働時間の短縮
労働時間を削減して、生活の質を向上させる
脱成長コミュニズムの柱③――画一的な分業の廃止
画一的な労働をもたらす分業を廃止して、労働の創造性を回復させる
脱成長コミュニズムの柱④――生産過程の民主化
生産のプロセスの民主化を進めて、経済を減速させる
脱成長コミュニズムの柱⑤――エッセンシャル・ワークの重視
使用価値経済に転換し、労働集約型のエッセンシャル・ワークを重視
利潤最大化と経済成長を無限に追い求める資本主義では、もはや地球環境は守れません。資本主義には、人間も自然も、どちらも収奪の対象にしてしまうと言う問題点があります。
減速した経済社会をもたらす脱成長コミュニズムの方が、人間の欲求を満たしながら、環境問題に配慮する余地を拡大することができる。生産の民主化と減速によって、人間と自然の物質代謝の「亀裂」を修復していくのだ。もちろん、これは、電力や水の公営化、社会的所有の拡充、エッセンシャル・ワークの重視、農地改革などを含む、包括的なプロジェクトにならなくてはいけない。
気候変動を引き起こしたのは先進国の富裕層ですが、その被害を受けるのは化石燃料をあまり使ってこなかったグローバル・サウスの人々と将来世代なのです。この不公正を解消し、気候変動を止めるべきだという認識が、気候正義と言う考え方です。
現代のグローバル資本主義に対抗するためには、人々の価値観を変えていく必要があります。一人一人が環境破壊にノーを突きつけ、行動することで、政治家やエリート層も態度を変えるはずです。
ハーヴァード大学の政治学者エリカ・チェノウェスらの研究によると、3.5%の人々が非暴力的な方法で、本気で立ち上がると、社会が大きく変わると言います。グレタ・トゥーンベリの学校ストライキなど「たったひとり」から始まり、若者に広がっていったのです。大胆な抗議活動は、社会に大きなインパクトをもたらし、ソーシャルメディアによって拡散され、デモは数万~数十万人規模になります。結果、選挙においても数百万の票が得られ、世の中を変え始めます。
これまで私たちが無関心だったせいで、1%の富裕層・エリート層が好き勝手にルールを変えて、自分たちの価値観に合わせて、社会の仕組みや利害を作りあげてしまった。けれども、そろそろ、はっきりとしたNOを突きつけるときだ。冷笑主義を捨て、99%の力を見せつけてやろう。
地球環境を守ためには、まず、3.5%の人が行動を起こすことです。環境が維持できなければ、地球が破壊されてしまい、いくら金持ちになっても意味がありません。
環境問題について真剣に考え、行動を起こすことが大きなムーブメントとなれば、資本の力は制限され、民主主義は刷新されます。結果、脱炭素社会も実現するはずです。一人一人のパワーが世の中を動かすと信じて、今こそ行動を起こすべきだと著者は言います。
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