老人支配国家 日本の危機(エマニュエル・トッド)の書評


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老人支配国家 日本の危機
エマニュエル・トッド
文藝春秋

本書の要約

少子化と高齢化により、日本は老人支配国家になっています。老人支配社会が続くことで、若者が活躍する場所が限られ、活力が低下しています。日本政府は今まで人口問題を軽視してきましたが、今こそ積極的な少子化対策や移民政策を打たなければ、やがて労働力に支障をきたし、経済が停滞するはずです。

日本政府が出生率を高める政策を優先すべき理由

日本について気になるのは、「出生率の低さ」です。(エマニュエル・トッド)

フランスの歴史人口学者のエマニュエル・トッドは、人口減少が日本の最大の課題だと指摘します。著者のトッドは人口や死亡率いう視点から、今までにさまざまな予測を的中させてきました。

■1976年の『最後の転落』で「ソ連崩壊」
■2002年の『帝国以後』「米国発の金融危機」
■2007年の『文明の接近』で「アラブの春」
最近では、トランプ勝利や英国EU離脱などを予測したことで、彼の著書は日本でも人気になっています。アメリカでは高等教育を終えていない白人の自死率が高まっており、その不満がトランプを当選させる原動力になったのです。

“社会としての活力”すなわち”生産力”は、「老人の命を救う力」よりも、「次世代の子供を産み育てる力」にこそ現われます。新型コロナの被害を最小限に抑えた日本ですが、唯一にして最大の危機は、「少子化」です。

日本政府は今まで人口問題を軽視てきましたが、思い切って積極的な少子化対策を打たなければ、日本は今の生活レベルを確保できなくなります。自民党が高齢者を優遇し、少子化政策を先延ばししたことで、日本の人口はアンバランスなものになっています。若者の減少が、日本の活力を削いでいるのです。

国家は今こそ、出生率を上げるための社会制度を整えることを優先すべきです。 人口問題は、数十年の潜伏期を経て一気に発現して、日本の未来を蝕みます。

少子化と高齢化により、日本は老人支配国家になっています。老人支配社会が続くことで、若者が活躍する場所が限られ、活力が低下しています。また、政治が保守化し、経済も停滞する中で、イノベーションが起きにくくなっています。

移民受け入れは避けて通れない重要課題

日本と同じ直系家族システムのドイツも同様に少子高齢化に悩んでおり、出生率も日本とほぼ同様の1.4と低い。そのためどんどん移民を労働力として受け入れて、経済的パフォーマンスを高めています。ただし、あまりにも拙速すぎる移民受け入れは、いずれ社会問題を引き起こすと思いますが。日本の家族システムには移民受け入れを阻害している要因が存在します。それは秩序を守ろうとする”完璧さ”です。日本人が排外的だとは思いませんが、もう少し社会に移民のような無秩序な要素を受け止める寛容さが必要でしょう。

今後、日本は「移民受け入れ」と「少子化対策」を同時に進める必要があります。低出生率のまま移民受け入れのみを進めてしまえば、若い世代において、「ホスト国住民」と「移民」との人ロバランスが崩れてしまいます。移民の健全な社会統合を考えると、出生率を上げ、若い世代を増やす必要があります。

トッドはヨーロッパの事例を紐解きながら、「多文化主義」ではなく「同化主義」で移民政策を考えるべきだと述べています。ヨーロッパでは、かつて英国やドイツが多文化主義を唱え、「移民を無理に統合させようとせず彼らの自主性に任せる」という政策を採りました。しかし、結局うまくいきませんでした。

移民に対し「同化主義」を採用してきたのは、フランスです。フランス中央部の伝統的な家族構造は、「平等主義核家族」(子供が成人すると親と別居して独立し、親の遺産は兄弟間で平等に相続する)です。この家族構造にもとうくフランス人の平等主義と普遍主義は、移民を本質的に「異なる人間」とは見なしません。 「同化」を自然なことと見なす大部分のフランス人は、「外から来た人はフランス人になるべきだ」と考えます。

その国の主流の言語を話し文化を守るなら、肌の色や出身国は関係ないと考えることで、よりよい社会を存続できます。日本なら、日本語と日本文化を主流として、「同化主義」を採ればよいというのがトッドの考え方です。

移民の第一世代が、日本語や日本文化になじまず、異質のままであっても、それを認め、第2、第3世代が日本への帰化を望めば、それを歓迎する。そうした寛容で柔軟な「同化」政策こそ求められます。 移民が受け入れ国に「同化」するというのは、そこで「場所のシステム」が作用している、と言い換えることもできます。

移民の子孫は、2世代目か3世代目になると、元の家族システムがどのようなものであったとしても、受け入れ社会の家族システムを採用します。親が子供に教え込むことで、ある価値が伝達されます。しかし、価値伝達のメカニ ズムは、それだけではありません。学校、街、近所、企業など、家族よりも広い環境で価値観が再生産され、伝達されるメカニズムも存在します。これが「場所のシステム」です。

だからこそ、多くの移民を受け入れながらも、米国は米国であり続け、カナダはカナダであり続け、オーストラリアはオーストラリアであり続けているのです。移民に対して否定的な考え方を持つのではなく、移民成功国を参考にし、人口問題を解決していくべきです。

特に職業レベルや教育レベルの高い外国人労働者の受け入れることで、日本を再び成長軌道に乗せられます。外国人がさまざまな階層に分散することで、「同化」がスムーズに行われていきます。

ある程度の移民が来なければ、日本の労働力が不足することは間違いありません。ヨーロッパのような政策が日本においてうまくいくかは分かりませんが、移民政策を最初から頭ごなしに否定するのではなく、選択肢の一つにしてもよいのではないでしょうか?実際、都心のコンビニや飲食店では、移民無しではビジネスが成り立たなくなっています。

移民政策を進める先には、外国人労働者の出身国と人数に配慮し、出身国を多元化することを意識する必要があります。

フランスでも見られることですが、北京政府は、外国に渡った中国人同胞との絆を維持する政策を明らかに採っています。つまり、求めに応じた中国系移民が、北京政府による他国介入のエージェント役を果たす可能性があるということです。

フランスと日本は地理的条件が異なるため、フランスとは異なる対策を考えた方がよさそうです。フランスに来た中国系移民は、個人主義的なフランスの文化にほぼ完全に「同化」してしまいますが、日本にとって中国は、地理的に近い大国で、その影響力は無視できません。中国政府が日本への同化ではなく、中国政府に従うように指導すれば、国家としての日本の基盤が危うくなります。

日本政府は「用心の原則」に則って、中国出身の移民は最小限に留めるようにすべきです。中国政府が移民を増加させ、日本の政治を混乱させる可能性があるのですから、中国からの移民を上手にコントロールすべきです。

移民の受け入れは、日本にとって、「第二の明治維新」といった大変革になります。人口減少社会が到来する中で、移民政策は避けては通れない重要課題だとトッドは言います。

移民政策を検討すると同時にテクノロジーの活用も行うべきです。AIやロボティククスを職場に導入することで、労働力不足の解消につながります。また、イノベーションが起こりやすくなるように、単純労働者だけでなく、優秀な人材が日本に集まるように移民政策を変更すべきです。

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この記事を書いた人
徳本

■複数の広告会社で、コミュニケーションデザインに従事後、企業支援のコンサルタントとして独立。
特にベンチャーのマーケティング戦略に強みがあり、多くの実績を残している。現在、IPO支援やM&Aのアドバイザー、ベンチャー企業の取締役や顧問として活動中。

■多様な講師をゲストに迎えるサードプレイス・ラボのアドバイザーとして、勉強会を実施。ビジネス書籍の書評をブログにて毎日更新。

■マイナビニュース、マックファンでベンチャー・スタートアップの記事を連載。

■インバウンド、海外進出のEwilジャパン取締役COO
みらいチャレンジ ファウンダー
他ベンチャー・スタートアップの顧問先多数
iU 情報経営イノベーション専門職大学 特任教授 

■著書
「最強Appleフレームワーク」(時事通信)
「ソーシャルおじさんのiPhoneアプリ習慣術」(ラトルズ)
「図解 ソーシャルメディア早わかり」(中経出版)
「ソーシャルメディアを使っていきなり成功した人の4つの習慣」(扶桑社)
「ソーシャルメディアを武器にするための10ヵ条」(マイナビ)
など多数。
 
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