エフェクチュエーション:市場創造の実効理論(サラス・サラスバシー)の書評

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エフェクチュエーション:市場創造の実効理論
サラス・サラスバシー
碩学舎

本書の要約

エフェクチュエーションに基づく行為者は、予測できない出来事を、「出現しつつある状況をコントロールするための練習の機会」として扱うことで、不確実性を梃子として活用します。「原因と結果」の関係を理解することが全くできないような状況におかれている起業家は、エフェクチュエーションの5つの原則を採用すべきです。

ベンチャー経営者に必要なエフェクチュエーションとは何か?

「エフェクチュエーション」は、「コーゼーション」の反意語である。コーゼーションに基づくモデルは、「作りだされる効果(effect to be created)」からスタートする。そして、あらかじめ選択した目的を所与とし、その効果を実現するために、既存の手段の中から選択するか、新しい手段を作り出すか、を決定する。他方、エフェクチュエーションに基づくモデルは、逆に、「所与の手段」からスタートする。予測をもとにしない戦略を用いて、新しい目的を創り出そうとする。

インド人経営学者のサラス・サラスバシー教授は、エフェクチュエーション:市場創造の実効理論の中で、「エフェクチュエーション」と「コーゼーション」を対比させ、両方のモデルを組み合わせた経営をすべきだと述べています。ただし、創業時にはエフェクチュエーション・モデルで思考、行動した方が成功する可能性が高まります。今日はなぜ、ベンチャー経営者がエフェクチュエーション・モデルを採用した方がよいのかを明らかにしていきます。

コーゼーションのモデルは、偶発性が存在するにもかかわらず、常に、予測できない要素を避け、予め決められた目標を達成しようとします。コーゼーションに基づく戦略は、未来が予想可能で、目的が明確で、環境がわれわれの行為から独立している場合に有効となります。コーゼーションに基づく行為者は、求める「結果(effect)」からスタートし、「これを達成するためには、何をすすれば良いか」を問います。

エフェクチュエーションは、これとは対照的に偶発性を活用しようとします。エフェクチュエーションに基づく行為者は、予測できない出来事を、「出現しつつある状況をコントロールするための練習の機会」として扱うことで、不確実性を梃子として活用するのです。

エフェクチュエーションに基づく戦略は、未来が予測不能で、目的が不明瞭で、環境が人間の行為によって変化する場合に有効となります。エフェクチュエーションに基づく行為者は、「手段(means)」からスタートし、「これらの手段を使って、何ができるだろうか?」と問いかけ、再度、「これらの手段を使って、他に何ができるだろうか?」と問いかけます。 

エフェクチュエーションは、特定の目的からスタートするわけではありません。エフェクチュエーションに基づく行為者は、地図がない海を航海する冒険者(例えば、彼自身も知らなかった新大陸を発見したコロンブス)のように行動します。 

エフェクチュエーションの5つの原則

アントレプレナーシップを持った人には、以下の5つの共通点があるとサラス・サラスバシー教授は述べています。
①「手中の鳥」の原則  
この原則は、「目的主導(goal-driven)」ではなく、「手段主導(means-driven)」の行為の原則になります。所与の目的を達成するために、新しい方法を発見することではなく、既存の手段で、何か新しいものを作ることができると考えます。

②「許容可能な損失」の原則  
プロジェクトからの期待利益を計算して投資するのではなく、どこまで損失を許容する気があるか、あらかじめコミットします。

③「クレイジーキルト」の原則  
この原則は、機会コストを気にかけたり、精緻な競合分析を行ったりすることなしに、(コミットする意思を持つ)全ての関与者と交渉をしていくことに関わります。形も柄も違う様々な端切れを縫い合わせて1枚の布をつくるクレイジーキルト(パッチワーク)をビジネスに活用します。顧客や競合他社、従業員などをパートナーと捉え、一丸となってゴールを目指します。

④「レモネード」の原則  
この原則は、不確実な状況を避け、克服し、適応するのではなく、むしろ予期せぬ事態を梃子として活用することで、不確実な状況を認め、適切に対応していきます。酸っぱくて使い物にならないレモンに工夫を凝らして、甘いレモネードを作ります。予期せぬ事態が起こっても偶然をテコにして、結果を出します。

⑤「飛行機の中のパイロット」の原則  
コントロール可能な活動に行動を集中することで、良い結果を出せます。

レストランのシェフに例えると、コーゼーションの場合、まずメニューを選定し、メニューに応じた良いレシピを参考にして、必要な材料の買出しを行い、適切な用具や器材を揃えて料理を作ります。コーゼーションに基づくプロセスは、まず目的としてのメニューを選択し、その目的を達成する効果的な方法を見つけていきます。

一方、エフェクチュエーションに基づく場合は、シェフはまずキッチンの棚にある材料や器材を見て、その上で可能なメニューをデザインします。シェフが料理の準備をする中で、新たなメニューが生まれてきます。

つまり、エフェクチュエーションを用いるシェフは、所与のキッチンから始めて、可能性をデザインし、時に意図していなかった完全にオリジナルな料理さえも創作できるのです。起業家はこのシェフのように思考、行動することで、イノベーションを起こせるようになるのです。

「原因と結果」の関係を理解することが全くできないような状況におかれている起業家は、エフェクチュエーションの5つの原則を活用すべきです。



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