2040年の日本
野口悠紀雄
幻冬舎
本書の要約
テクノロジーが大きく進化する中で、長期視点での未来予測の重要性が高まっています。世の中の課題が複雑になる中で、ビジネスのやり方も大きく変わるはずです。未来の世界が今とは異なると考え、未来について真剣に考え、見通しを立てる必要があります。
2040年の未来予測から明らかになる日本の実態とは?
数カ月後や数年後であれば、社会の状況がいまとあまり変わらないと考えても、大きな間違いはない。しかし、10年後、20年後となれば、そうはいかない。社会の基本的な構造が大きく変わってしまうことが、十分にありうる。 (野口悠紀雄)
20年前にはSNSやiPhoneは存在していませんでした。TeslaやSlack、Uberも生まれておらず、日本企業もまだまだ元気でした。産業構造はこの20年で大きく変化し、働き方も随分変わりました。これから20年後の2040年はテクノロジーが今より遥かに進化し、新しい職業が登場していることは間違いありません。
生活や文化、働き方も大きく変わっているはずです。 テクノロジーの進化でメタバース内で働くことが当たり前になりそうです。自動運転が普及すれば、仕事や住宅の選び方も大きく変わるはずです。
テクノロジーが大きく進化する中で、長期視点での未来予測の重要性が高まっています。世の中の課題が複雑になる中で、ビジネスのやり方も大きく変わるはずです。未来の世界が今とは異なると考え、未来について真剣に考え、見通しを立てる必要があります。
日本の人口は今後減少を続け、2040年には2020年の88%に減少し、 2050年には、81%になります。一方、人口減少が始まった中国の2060年のGDPは、2020年の2.64倍になります。その際の中国の経済規模は、アメリカの1.70倍。日本の9.81倍になります。インドも2040年代にアメリカを抜き、世界第2位の経済大国となることが予測されています。今後、世界経済の中心は、日欧米から中国、インドにシフトしていきます。
中国、インド、アジア各国が成長する中で、日本のGDPは2020年との比較で、2040年に1.15倍、2060年に1.24倍になるだけです。この結果、世界経済の中での日本の比重は大きく低下します。 2060年には、中国やアメリカと比較し、日本の存在感ははるかに低下します。日本はその際、今の北欧諸国にように経済規模が小さくとも存在感を示せる存在になるべきだと著者は指摘します。
人口減少、少子高齢化が日本の年金や社会保障システムを破壊する確率が高まっています。現役世代の総人口に対する比率は、現在は約6割ですが、2060年頃には約5割にまで低下し、高齢者人口とほぼ同数になることは間違いありません。
年金を貰える年齢も今後は引き上げられそうですし、過去に払った金額を取り戻すことも難しそうです。年金の受給年齢が70歳まで上がれば、団塊ジュニア層が影響を受ける可能性が高まりますし、生活保護の受給者の増加を招くはずです。
病気になったときに、医療保険が頼りにならなくなるかもしれません。日本社会を維持するためには社会保障や年金の問題は避けて通れない大きな課題なのです。超高齢化社会では多くの人が要介護・要支援状態に陥ります(85歳ではその確率が5割、90歳以上では78.2%).結果、2040年の医療・福祉関係の就業者は全体の18.8%になると予測されています。
近視眼的バイアスに左右されずに、長期視点で未来を考えるべき理由
日本が今後とも成長できるか否かは、「今後の超高齢化社会において、高齢者を支えることができるか」という差し迫った必要性を満たせるかどうかを決める、最重要の条件なのである。例えば、成長率が0.5%になるか1%になるかによって、負担や受けられるサービスが大きく変わってくる。
高齢者を支えるためには、日本の成長が欠かせません。 想定していた高い成長率が実現できないと、税収や保険料収入が確保できなくなるのです。
成長できなければ、社会保障政策をはじめとする、あらゆる施策の財源が確保できなくなります。成長率が1%と0.5%の差は小さいと思われるかもしれませんが、20年後、40年後にはこの差が大きな意味を持ちます。1%成長と0.5%成長とでは、40年後には2割以上の差が生じるのです。
1%成長を前提として収支計画を立て、実際には0.5%しか成長できなければ、一人当たりの負担は2割増えます。あるいは、一人当たりの給付を2割減らさなければならないのです。
人口が高齢化した社会はインフレに陥りやすい。労働力不足によって供給力が落ち込むからだ。これを克服する方法は、技術革新と労働力率の向上しかありえない。
政府の経済成長率予測は民間のそれよりも高くなっています。政府のシナリオは低成長の場合は実質成長率が1%、高成長シナリオの場合は2%になっています。1%成長では10年後のGDPは1割差ができ、40年経てば5割も異なります。
著者は日本政府の見通しは甘く、低成長シナリオが現実的だと指摘します。日本政府のさまざまな長期見通しは、非現実的に高い成長率を見込むことによって、問題の深刻さの隠蔽につながっています。 財政収支試算には実質経済成長率2%という高成長シナリオが示されてきましたが、その数字はこの10年で全く実現できていないのです。
この原因を検証し、何が必要かを真剣に考えるべきです。2%成長の実現が無理であるならば、低成長に基づいた政策を考えなければなりません。
実質経済成長率は次の3つで規定されます。
①労働力
年齢別の労働力率が現在と変わらないとすると、今後の日本では、若年者が減少するために、労働力は大きく減少します。様々施策を行っても現状維持を達成できれば御の字です。バッドシナリオの場合は労働力の減少率が平均年率で1%程度になってしまう可能性もあります。
②資本
日本の設備投資は、ほぼ減価償却に見合った規模のものになっており、資本ストックは増えない状況です。したがって、資本設備の寄与はゼロと考えたほうがよさそうです。
③技術進歩率・TFP(全要素生産性)
今後の日本の成長を決める最も大きな要因は、TFPと言われる技術進歩率や規制緩和による新たな事業開発になります。とくに重要なのは、「デジタル化」とか「データ経済への移行」と呼ばれる変化に対応できるように、経済構造を変革していくことです。
TFP成長率がゼロであるとすれば(つまり、経済成長率が労働と資本の寄与だけで決まるとすれば)、日本の長期的な成長率はマイナスになってしまう恐れがあります。
野口氏は労働力率が変わらなければ、人口の高齢化によって、労働力人口が平均年率マイナス0.7~1.0%程度になると言います。女性と高齢者の労働力率の向上で、減少幅はマイナス0.5%程度に抑えることができそうです。他方で、資本ストックの増加率はほぼゼロになります。労働者の生産性を実現する労働増大的技術進歩(業務のデジタル化)が起これば、実質1%程度の成長ができますが、2%の成長には届かなそうです。野口氏の予測は政府の予測より低くなっていますが、こちらが現実的でしょう。
高い成長率見通しを政府が行うことでさまざまな問題が噴出するはずです。政治や行政は、今後2、3年のことしか考えていない「近視眼的バイアス」で政策決定を行うことで、未来に禍根を残すはずです。
財政再建はいつになっても目標は達成できず、むしろ赤字は拡大していきます。財政危機はこれから深刻化していくのです。財政健全化は、消費税の増税や社会保障費の思い切った削減を行なわない限り、実現できないと官僚は考えています。
年金も所得代替率は引き下げざるをえず、年金財政はやがて破綻を免れません。それに対処するには支給開始年齢を70歳に引き上げる等の措置が必要になるのです。岸田政権はそれらを推し進めることには積極的ですが、経済を成長させることに関しては無頓着です。
積極財政で成長を確保した上で、財政再建を行うことが正しいと私は考えていますが、岸田政権は増税や社会保険料の負担増を国民に押し付けることばかり考えています。これでは日本はますます閉塞状況に追いやられ、成長率は低下するはずです。
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