インサイト中心の成長戦略 (中村陽二)の書評

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インサイト中心の成長戦略
中村陽二
実業之日本社

インサイト中心の成長戦略 (中村陽二)の要約

新規事業の選定には、豊富な背景知識を基に現象を解釈して得られるインサイトが欠かせません。成功している経営者たちは、儲かっている先行者の分析、情熱を持てる分野の探索、市場の構造変化の観察、そして実務経験から得られる気づきという4つのアプローチで、事業機会を見出しています。

新規事業にインサイトが重要な理由

新規事業創出において重要なプロセスは、①事業領域の選定②インサイトの発見③事業の立ち上げの3つだ。新規事業の成否は様々な要因に左右されるが、この3つのプロセスを理解した上で戦略的に実行された事業の成功確率は高くなると確信している。(中村陽二)

規事業を創出する際には、事業領域の選定、インサイトの発見、そして事業の立ち上げという3つのプロセスが重要です。この3つのプロセスを戦略的に実行することで、事業の成功確率を大幅に高めることができると株式会社ストラテジーキャンパスの中村陽二氏は指摘します。

企業が全ての領域で成果を上げる必要はありません。むしろ、自社の能力が発揮できる範囲を明確にし、その中で適応力を高め、持続的な競争力を発揮し続けることが肝要です。

著者は、特に新たな事業領域への進出において、情報収集とインサイトの発見を重要な鍵として挙げています。これらの過程では、新鮮で正確な情報を幅広いネットワークから収集し、それを的確に分析する能力が求められます。

新規事業を選定する際には、インサイトを基軸としたアプローチが求められます。インサイトとは、単なるデータや表面的な情報ではなく、豊富な経験や知識を土台に、市場で起きている出来事の真の意味を見抜く深い気づきのことです。それは、数字やトレンドの背後にある、ビジネスチャンスや市場の本質を見出す力です。

新たな事業領域に進出するためには、常に広範な情報網を駆使し、正確で鮮度の高い情報を収集することが重要です。その上で、インサイトを見つけ出し、それを基に戦略を構築することが成功への鍵となります。多くの実業家たちは、以下の4つのルートを通じて新たな事業領域を見つけ、選定を進めています。 
①儲かっている先行者の情報
②情熱を持てるもの
③構造変化
④実務を通じたインサイト

「儲かっている事例を聞き、自社でもなんらかの類似事業に取り組めないか」と考えることである。

①儲かっている先行者の情報
上場を実現した経営者たちは、成功している先行企業の事例に注目し、自社の能力を活用し、勝てる見込みがあれば、そこに参入します。ゼロから新しいサービスを創り上げることには多大なコストと不確実性が伴いますが、成功事例を分析することでそのリスクを軽減し、効果的な参入戦略を策定する手助けとなります。

具体的には、先行企業の強みと弱みを見極めることで、参入の可能性がある隙間を発見します。特に、成功している事業は上場を果たすなどの実績がある場合が多く、そのプロセスから得られる知見は非常に貴重です。

新規参入を検討する際、「市場に類似のサービスが存在するから参入の余地がない」という単純な判断は、ビジネスチャンスを見逃す大きな要因となります。実際の市場では、先行企業が存在していても、そのサービスには必ず改善の余地があり、新たな参入機会が潜んでいるのです。

成功している企業の事例を深く観察すると、その成功の裏には必ず独自のインサイトが存在することがわかります。たとえば、ある企業が高い収益を上げているとしても、そのサービスには改善の余地が残されています。実業家たちは、このような状況を詳細に分析し、「確かにあの企業は成功しているが、重要な要素が欠けている。自社の強みを活かせば、より優れたサービスを提供できる」という視点で参入戦略を組み立てています。

新規事業者にとって、適切なインサイトの獲得は事業成功への重要な鍵となります。市場の成功事例と失敗事例の両方から学び、自社の強みを最大限に活用することで、競争が激しい市場環境においても、効果的な参入戦略を立案することが可能です。

特に注目すべきは失敗事例からの学びです。一見すると失敗に終わった事業であっても、そのプロセスには数多くの貴重な情報が含まれています。これらの事例を丁寧に分析し、その要因を理解することで、自社の戦略立案において重要な示唆を得ることができます。失敗から得られた教訓は、次なる挑戦における大きな強みとなるのです。

市場参入を成功に導くためには、先行企業の存在を単なる参入障壁として捉えるのではなく、そこに潜む機会を見出す視点が重要です。自社の強みを活かせる領域を見極め、市場の未充足ニーズを的確に捉えることで、後発であっても十分な成功機会を見出すことができます。既存市場への参入は、適切な戦略と実行力があれば、新たな価値創造の機会となり得るのです。

このように、市場参入の成否は、単純な先行優位性だけではなく、むしろ自社独自のインサイトと、それを実現する能力にかかっています。市場を深く理解し、独自の視点で価値を提供できる企業であれば、後発であっても十分な成功チャンスがあるということを、多くの実例が示しているのです。

②情熱を持てるもの
次に挙げられるのは、情熱を持てるものを基盤とする方法です。長時間にわたって情熱を持ち続けられるものこそ、事業の持続的な優位性を築く源泉になります。特に、細部にまでこだわり抜く情熱があるかどうかが、最終的な業績を大きく左右します。

しかしながら、情熱は成功に必要な要素ではありますが、それだけで十分とはいえません。情熱を戦略や実行力と結びつけることで、初めて成果につながるのです。

③構造変化
3つ目は市場の構造変化を出発点とするアプローチです。たとえ巨大市場を発見しても、その市場に変化がなければ、新規参入の余地はほとんどありません。参入の隙間は、顧客の需要と既存サービスの間に生まれるものです。特に、構造的な変化が大きい領域では、こうした隙間が発生しやすく、それを突くことが成功への近道となります。構造変化による新たな市場の隙間を的確に見極め、そこから事業領域を拡大していく企業も少なくありません。

④実務を通じたインサイト
日々の事業活動の中で得たインサイトを基に、新たな事業機会を見出すのは、多くの成功事例に共通する基本的なアプローチです。この場合、インサイトを発見した後、「この領域全体の環境はどのようになっているのか」というマクロな視点で環境を把握することが重要です。

例えば、業務の中で見つけた課題や改善点を出発点に、それを取り巻く市場や顧客ニーズを調査し、新たな事業を展開するケースが多く見られます。

これらの4つのアプローチは、それぞれ異なる角度から事業領域を見つける方法ですが、共通して重要なのは、収集した情報や気づきを基にインサイトを深め、それを具体的な戦略へと昇華させることです。

能力の組み合わせが重要!

実務から得られるインサイトは、競争戦略の観点からも極めて価値の高い要素です。この実務経験に基づくインサイトは、単なる市場理解を超えた独自の強みとなり得ます。 日常的な業務の中で得られる気づきや発見は、その業務に直接携わっていない企業には容易に把握できないものです。

顧客との直接的なやり取り、現場での課題解決、サービス提供のプロセスなど、実際の業務経験を通じてのみ得られる深い洞察があります。これらのインサイトは、外部からは見えにくい市場の機会や課題を浮き彫りにすることがあります。 このような実務経験に基づくインサイトは、参入障壁としても機能します。

なぜなら、同じ領域での実務経験を持たない企業にとって、これらのインサイトを獲得することは極めて困難だからです。結果として、実務経験のない企業は市場機会を認識できず、参入を見送る可能性が高くなります。これは、実務経験を持つ企業にとって、競争が比較的限定的な環境で事業を展開できることを意味します。

企業はあらゆる能力を持つことは不可能であり、かつその必要もない。得意領域において勝利し続けることを目指すべきだ。  

企業経営において、あらゆる面で卓越した能力を持つビジネス集団を目指すという構想は、一見理想的に映ります。しかし、実務の観点からこの理想を実現することは極めて困難です。

実際には、多くの成功企業は特定の領域に焦点を絞り、その中で複数の事業を展開しているのが現状です。 しかしながら、過去に獲得した能力のみに依存し続けることは、企業の将来に大きなリスクをもたらします。市場環境が急速に変化する中で、新たな能力の獲得を怠れば、競争力の低下は避けられません。

この課題に対処するためには、計算されたリスクを取りながら新規事業を創出し、同時に新規顧客の開拓や新商品開発を通じて、継続的に能力の拡張を図ることが不可欠です。

□営業・マーケティング=他社より売る能力が強い
□製品企画・開発=他社より優れた製品を企画・デザインできる
□製造・サービス提供=他社より安定的かつ大規模にサービス・商品を製造し提供し続けられる
□マネジメント=他社より大規模かつ効率的な組織を形成し運用できる

事業の成功を支える重要な要素として、マーケティング、営業、製品企画、マネジメント、製造・サービスなどの分野における高度な能力が挙げられます。これらの能力は独立して機能するのではなく、相互に補完し合うことで最大の効果を生み出します。これらの能力を機能全体と捉えることで、自社の競争力が高まります。

企業が持続的な成長を実現するためには、日常的な能力獲得の取り組みが不可欠です。この能力獲得の具体的な方法として、新規顧客の開拓、新商品の投入、そして新規事業の創出という3つの要素を継続的に推進していく必要があります。

 

インサイトへのフィードバックが重要

特定の顧客のみを対象とし、過去のヒット商品に依存する収益構造を取っている企業が向かう先は衰退である。

特定の顧客層にのみ依存し、過去のヒット商品に頼り続ける企業は、長期的には衰退の道を辿ることになります。確かに、既存の主力顧客や実績のある商品からの収益は、新規の顧客開拓や商品開発と比べて、はるかに効率的で確実性が高いものです。既存の取引関係や商品の成功パターンを活用すれば、相対的に少ない労力で安定した収益を上げることができます。

しかし、このような安定志向は、実は大きなリスクを内包しています。市場環境は常に変化し続けており、顧客ニーズや競争環境も刻一刻と変化しています。現在の成功パターンが永続的に機能する保証はないのです。

そのため、企業は新しい事業に挑戦し、新たな能力を獲得し続けることで、変化する環境への適応力を維持していく必要があります。 新規顧客の開拓は、企業に新たな視点と課題をもたらします。

異なる顧客層は異なるニーズと期待を持っており、それに応えるプロセスで企業は新たな能力を獲得することができます。また、新商品の開発は、技術力や商品企画力の向上につながり、市場の変化に対する感度を高めることができます。 新規事業の創出は、より本質的な能力獲得の機会となります。新しい事業領域に挑戦することで、企業は従来の枠組みを超えた視点と能力を獲得することができます。

これは単なる事業の多角化ではなく、企業の適応力と創造性を高める重要な取り組みとなります。 短期的な効率性や収益性の観点からすれば、新しい取り組みへの投資は非効率に見えるかもしれません。しかし、それは企業の将来への必要不可欠な投資なのです。現在の成功に安住せず、継続的に新たな挑戦を行うことで、企業は環境の変化に柔軟に対応できる能力を維持し、発展させることができます。

インサイトを重視した事業戦略を展開する企業は、表面的な現象の背後にある本質的な顧客ニーズや市場構造を理解し、それに基づいて独自の価値提案を行うことができます。

新規事業の成功を導くためには、適切なプロセスでインサイトを発展させ、それを具体的な戦略へと昇華させる必要があります。このプロセスは、段階的な調査、検証、実践を通じて進化します。

まず初めに、市場調査や情報収集を行い、得られた断片的なデータを基に初期的なインサイトを形成します。この段階でのインサイトは、仮説に過ぎず不完全なものですが、後の戦略構築の出発点として不可欠です。

次に、形成されたインサイトを業界経験者に提示し、彼らの豊富な知見からフィードバックを得ます。この段階は、新規事業の成否を左右する重要な局面です。業界経験者の視点を取り入れることで、初期インサイトの実現可能性や潜在的な課題が明らかになり、より質の高い洞察へと発展します。

このプロセスを経ることで、後の顧客との対話がより効果的になり、事業の進展がスムーズに進む土台が築かれます。 さらに、改良されたインサイトを整理し、顧客に提示して直接フィードバックを得る段階へ進みます。

この段階では、顧客との対話を通じてサービスや製品の改善点が明確になり、戦略が具体化していきます。顧客からのフィードバックは、製品やサービスを市場に適応させるうえで極めて貴重な情報源となります。このプロセスを通じて、インサイトは徐々に洗練され、実現可能な戦略へと進化します。

自社が進出するべき領域を実務を通じたインサイト、構造変化、社員らの情熱などから発見しよう。特に即効性があり、成果につながりやすいのは、実務を通じたインサイトから領域を発見する方法である。顧客との接点が多い現場社員は、多くの初期的なインサイトを持っている。これを優先して把握するべきだ。新領域への進出を常に模索したいならインサイト発見は日常業務に組み込まれているべきだ。

新規事業を成功させるためには、顧客のまだ満たされていないニーズを見つけ出し、先行企業の成功や失敗を分析して自社の強みを最大限に活かすことが重要です。この過程では、単純なデータ分析や論理的な考え方だけでは不十分で、より深い洞察力が求められます。

それは、日々のビジネス現場で目にするさまざまな現象をつなぎ合わせ、新しい価値を生み出すヒントを見出す能力といえます。

企業が長期的に成長し続けるには、現在の強みに満足するだけでなく、新しい能力を取り入れつつ、既存の能力をさらに磨いていく努力が必要です。この姿勢は、リスクを慎重に計算しながら挑戦を続けることと、現場で得られる実践的な洞察をうまく組み合わせることで実現します。こうした取り組みによって、企業は他社の模倣にとどまらず、独自の価値を市場に提供できるようになり、長期的な競争力を確保できるのです。

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この記事を書いた人
徳本

■複数の広告会社で、コミュニケーションデザインに従事後、企業支援のコンサルタントとして独立。
特にベンチャーのマーケティング戦略に強みがあり、多くの実績を残している。現在、IPO支援やM&Aのアドバイザー、ベンチャー企業の取締役や顧問として活動中。

■多様な講師をゲストに迎えるサードプレイス・ラボのアドバイザーとして、勉強会を実施。ビジネス書籍の書評をブログにて毎日更新。

■マイナビニュース、マックファンでベンチャー・スタートアップの記事を連載。

■インバウンド、海外進出のEwilジャパン取締役COO
みらいチャレンジ ファウンダー
他ベンチャー・スタートアップの顧問先多数
iU 情報経営イノベーション専門職大学 特任教授 

■著書
「最強Appleフレームワーク」(時事通信)
「ソーシャルおじさんのiPhoneアプリ習慣術」(ラトルズ)
「図解 ソーシャルメディア早わかり」(中経出版)
「ソーシャルメディアを使っていきなり成功した人の4つの習慣」(扶桑社)
「ソーシャルメディアを武器にするための10ヵ条」(マイナビ)
など多数。
 
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