人生の岐路に立ったとき、あなたが大切にすべきこと
ブルース・ファイラー
クロスメディア・パブリッシング(インプレス)
人生の岐路に立ったとき、あなたが大切にすべきこと(ブルース・ファイラー)の要約
ブルース・ファイラーの『人生の岐路に立ったとき、あなたが大切にすべきこと』は、人生の変化=ライフクェイクにどう向き合うかを探る一冊です。著者は、人生は非線形であり、誰もが30〜40回の破壊的要因に直面すると説きます。変化を「危機」ではなく「物語の再構築」と捉え、エイジェンシー・ビロンギング・コーズの3要素を軸に、再生への選択と儀式が重要だと伝えます。人生の意味は、語られる物語によって形づくられていくのです。
人生は線形に移行するのではなく、非線形に移行する!
ライフストーリー・プロジェクトがもたらした最も明確な発見のひとつは、人生が線形に移行するという考えが間違っていることである。(ブルース・ファイラー)
人生がうまくいかない——そんな感覚を抱えたまま、眠れぬ夜を過ごしたことはありませんか。仕事で大きな失敗をした日、大切な家族を失った日、あるいは、どれだけ努力しても結果が出ないとき。何を信じて進めばよいのか、自分の人生はこのままでいいのか——そんな漠然とした不安に苛まれている方も多いかもしれません。
体調を崩して断酒したとき、独立を決意して会社を辞めたとき、行動を続けているのに結果が出ずにもがいていたとき。その都度、私は「人生設計が狂った」と感じていました。しかし、その度に書籍や周りの人の力でそれを乗り越えてきました。ただし、それには時間がかかり、明確な解決策があるわけではありませんでした。
今回、ブルース・ファイラーの人生の岐路に立ったとき、あなたが大切にすべきことに出会うことで、ハードシングスの乗り越え方のルールが明確になりました。
ファイラーは、米国の著述家であり、著書のうち7冊がニューヨーク・タイムズ紙のベストセラーに選ばれた実績を持ちます。また、彼のTEDトークの再生回数は400万回を超え、世界中の人々に影響を与えてきました。人間関係、家族、変化への適応をテーマとした執筆活動を続け、その深い洞察と共感的な語り口には定評があります。
「ライフクェイク」とは、人生を根本から揺さぶるような大きな転機を意味し、それは複数の「破壊的要因」が連鎖することで起こります。破壊的要因とは、人生の流れを断絶させるような出来事であり、失業、離婚、病気といったネガティブなものに加え、昇進や結婚のようなポジティブな出来事も含まれます。
彼自身も複数のライフクェイクを経験しており、その体験が本書の土台となっています。 本書は著者が人生の転機をいかに乗り越え、成長の機会へと変えるかについて、豊富な実例とともに深く掘り下げた一冊です。
ファイラーは、人生の転機は誰にでも訪れる普遍的な現象であり、それをどう受け止めるかがその後の人生を大きく左右すると説きます。著者はまた、人生を上昇と下降を繰り返す非線形の物語と捉え、人は常に災難に見舞われるという事実を直視すべきだとも主張しています。
人生には、苦闘、試練、危機、問題、ストレスといった破壊的要因(ライフクェイク)が52項目もあると言います。平均的な成人は一生のうちに30回から40回の破壊的要因に直面し、人は平均して1年から1年半ごとにこうした出来事に遭遇しているのです。
破壊的要因の価値は中立であり、それらは人生の転機に大きな意味を持つ経験となります。うまく対応できれば、再出発(人生の移行)も可能になります。特に印象的なのは、変化を「危機」ではなく「物語の再構築のチャンス」として捉える視点です。
バランスのとれた生活に必要なABC
最終的には、バランスのとれた生活に必要な3つの要素を特定した。ここではそれを意味を示すABCと呼ぶ。
ファイラーは225人のライフストーリーをインタビューし、その中から意味のABCという概念を構築しました。これはAgency(主体性)、Belonging(帰属意識)、Cause(大義)を表しており、私たちは皆、人生に主体性を求め、何かに属していると感じたいと思い、自分より大きな何かのために立ち上がりたいという願望を共有しているのです。
さらに、ファイラーによると、転機はこれら3つのカテゴリーに分類され、誰も同じ順序や方法でそれらを経験することはありません。また、転機には「長いお別れ」「面倒な中間期」「新しい始まり」という3段階が存在します。
私たちはある段階では強く振る舞える一方で、別の段階では困難を感じることもあります。興味深いことに、ファイラーの研究では47%の人がこの「面倒な中間期」を最も困難と感じていると報告されていますが、この割合は常に変動しており、転機が固定されたものではなく、継続的なプロセスであることを物語っています。
そして最終的には、バランスのとれた生活に必要な3つの要素を特定しました。ここではそれを意味を示すABCと呼びます。
まず、AはAgency(主体性)であり、自発性、独立性、創造性、習熟性を通じて、自分は周囲の世界に影響を与えられるという信念です。
次に、BはBelonging(帰属意識)であり、婚姻関係、コミュニティ、友人、家族といった、自分を慈しみ育んでくれる人々とのつながりを意味します。
そして、CはCause(大義)であり、神のお召し、使命、目標、目的など、人生を超えた何かに向けた献身的な姿勢を指します。
加えてファイラーは、これらABCの3要素に対応する「3つの物語的アイデンティティ」があることを示唆しています。
ひとつ目は「私個人の物語」であり、そこでは自分が主人公であり、行為者であり、創造者です。つまり、自分自身で行為主体性(Agency)を発揮し、そこから充足感を得ている状態を指します。
次は「私たちの物語」であり、家族やコミュニティ、チームの一部としての自分を意識し、帰属意識(Belonging)を育むことを意味します。
そして3つ目は「あなた方の物語」であり、理想や信仰、大義に身を捧げることで、より大きな存在の一部として自分を位置づける在り方です。
こうした3つの視点を持つことで、私たちは自らの意味の源を多層的に捉えることができ、ABCのいずれかに偏ることなくバランスを取ることが、人生の安定にもつながるのです。
さらにファイラーは、人々が自分の人生の形を象徴的にどのように捉えているかを調査し、その回答を次の3つのカテゴリーに分類しました。
第1のバケツは「ライン(Line)」です。これは、人生がある軌跡を描いて進むものとして認識され、上昇や下降を繰り返しながらも一定の方向性を持つという見方です。象徴としては川、曲がりくねった道、ジグザグ、山脈などが挙げられます。このカテゴリーの特徴は、人生を能動的に切り開くという「Agency(行為主体性)」への重視にあり、「私個人の物語」に通じる傾向があります。
第2のバケツは「サークル(Circle)」です。これは心、家、バスケット、ボウルなど、空間的な囲いの中に大切な人間関係を包含するイメージです。約40%の人がこのカテゴリーを選択しており、「Belonging(帰属意識)」を象徴します。人生を共有し合う「私たちの物語」を重視する人々に多く見られる選択肢です。
第3のバケツは「スター(Star)」です。これは電球、地球儀、十字架、無限大記号、蝶といった象徴的な形で表され、理想、信仰、大義への奉仕を意味します。この形を選んだ人は、自分自身の信念や世界の救済、他者への奉仕といった「Cause(大義)」に重きを置き、「あなた方の物語」を大切にしている傾向があります。
これら3つのバケツは、それぞれABC(Agency、Belonging、Cause)の意味の源に対応しており、同時に私たちの物語的アイデンティティの3つの構成要素にも一致します。重要なのは、どれか1つが優れているのではなく、これらが調和している状態が人生における意味と安定をもたらすという点です。もしどれかに偏りが生じれば、私たちの人生全体のバランスもまた崩れかねません。
私たちは今、「予測不能な時代(VUCAワールド)」のただ中にいます。変動性、不確実性、複雑性、曖昧性が交錯するこの時代では、従来の直線的な人生設計は通用しません。
だからこそ、ファイラーの提唱する非線形的な人生観と、それを支える具体的なツールや概念が、現代を生きる私たちにとって重要な指針となるのです。
物語を人生に活用しよう!
先に特定の物語を自分に語ると、感情があとからついてくる。
変化を恐れるのではなく、それを自分らしい物語を紡ぎ直す機会ととらえる。その視点を持つだけで、人生の嵐は、私たちを成長へと導く風に変わります。
ライフクェイクや破壊的要因は避けるべき試練ではなく、新たな意味の源を見つけるための入り口なのです。改めて著者のライフクェイク定義を紹介します。それは「激変、移行、そして再生の期間をもたらす、その人の人生における変化という名の激しい爆発」とされています。
では、激変や爆発後に続く、移行と再生はどのようにして訪れるのでしょうか? ファイラーは、それが『選択』によってもたらされると説きます。つまり、変化と激変を、移行と再生へと転換するかどうかは私たち次第なのです。
最初に起こるライフクェイクは、望んでいようがいまいが避けられないかもしれません。しかし、そこから自発的に立ち上がり、自分自身の意味を再構築すること——これこそが、ライフクェイクを真に価値ある転機とするために不可欠な行為なのです。
実際、ファイラーのライフストーリー・プロジェクトが明らかにした最も重要な発見のひとつは、人生の移行は直線的に進まないという事実でした。多くの人が、人生の感情的変化はあらかじめ決められた時間軸に沿って順序よく訪れると信じていますが、実際にはそうではないのです。
ファイラーは、移行には「長い別れ」「面倒な中間期」「新たな始まり」という3つの局面があるとしながらも、それらは固定された順序で発生するのではなく、混在し、時には後戻りすることもあると強調しています。まさに人生が非線形であるように、その中にある移行もまた非線形なのです。
困難はしばしば、自分の物語(自伝)の中心となるテーマ——たとえば苦闘、自己実現、奉仕、感謝、愛といった価値——を見つけ出すきっかけとなり、自らの人生に深い意味を与える好機でもあります。
彼らは心を鎮める新たな方法を発明し、失ってしまったものを思い出させる記念の品々を集め、過ぎ去った過去を悼む行事を執り行います。指輪をはめたり、特別なパーティーを開いたり、あるいは日々の習慣の中に象徴的な行動を取り入れたりする。たとえばダイエットや断捨離を儀式に変えるのです。これらの儀式は、自己の内的秩序を取り戻し、人生に新たな章を開くための区切りとして機能します。
ファイラーがインタビューした多くの人々は、不安定な状況にありながらも、まだ実現していない未来の物語を自分自身に語り続けていたといいます。彼らは「実現するまで演じ続けろ」という発想を体現していました。つまり、言葉が先で感情があとからついてくるという逆転のプロセスで、人生をより良くしてきたのです。
物語を語ることは、自分の気持ちを整理し、これからの人生の方向性を定めるきっかけになります。人生の再生は、決して外部からもたらされるものではなく、自らの内側から始まるものであるということ。この考え方は、過去を癒やし、未来を描く力を私たちに与えてくれます。
実際、私自身もその力を実感してきました。アルコール依存から抜け出すときに多くの本を読み、自分を変える努力を重ねました。悪い習慣を良い習慣に置き換え、人生のビジョンを描くこと(物語を書くこと)で、自分の人生をより良くできました。
ダメダメだった私が著者になれたのも、社外取締役になれたのも、大学教授になれたのも、ファイラーが言うところの「物語」のおかげだと確信しています。
ファイラーは「人生の転機は訪れる。備えよ常に」と述べています。たとえどんな困難に出会ったとしても、それはまだ物語の途中であり、書きかけの一章にすぎません。そう捉えることで、辛い出来事にも意味を見出すことができそうです。本書から得たこの学びを、私自身、これからも忘れずに歩んでいきたいと思います。
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