「採用は人事に任せてある」——その一言が、会社を静かに滅ぼす? 世界標準の採用(小野壮彦)の書評

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書籍:世界標準の採用
著者:小野壮彦
出版社:日経BP
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30秒でわかる本書のポイント

【結論】優秀な人材が採れない原因は「仕組みの欠陥」にあります。採用をTA(Talent Acquisition)という経営戦略として設計・運用する組織が、これからのウォー・フォー・タレント(人材獲得競争)を制します。
【原因】日本企業の多くは、採用を「人事部の仕事」として後回しにし、「求人票を出して待つ」受動的なアプローチを取り続けています。一方で、Googleをはじめとするグローバル企業は2000年代中頃から採用を経営最重要テーマと位置づけ、データ駆動・スピード重視の採用システムを構築してきました。このギャップが、今や取り返しのつかない人材競争力の格差となりつつあります。
【対策】採用を「補充コスト」ではなく「未来への投資」として再定義しましょう。TAシステム・探索システム・面接官育成システム・エンゲージ・システム・ホリスティック・システムという「世界標準の5つの採用システム」を実装し、経営者自らが採用の本丸に立つことで、採用の自己増殖性を組織内に宿らせることができます。

本書の3行要約

「採用とは、商売です」——この一言に、著者・小野壮彦氏の採用哲学のすべてが凝縮されています。ともに歩む仲間を選び、未来の利を育むこと。その本質を忘れた日本企業が人材競争力という根源的な武器を失い続けている現実を、Googleの採用革命から日本のスタートアップの胎動までを圧倒的な密度で解き明かしたのが本書です。採用をシステムとして設計できる組織だけが、これからの時代を生き抜けます。

おすすめの人

・「良い人材が採れない」と感じながら、採用のやり方を根本的に見直せていない経営者の方
・採用を「人事部門の仕事」と思い込んでいるすべてのビジネスリーダーの方
・スタートアップ・成長企業で採用を経営直結課題として位置づけたい方
・自社の採用が「守り」になっており、攻めの採用戦略を構築したいCHROや人事責任者の方
・採用の世界標準を俯瞰し、日本企業の現在地を客観視したいコンサルタントや投資家の方

読者が得られるメリット

・「グーグル以前」と「グーグル以降」で何が変わったのか——採用革命の歴史的文脈が理解できます。
・ポジション起点から個人起点への採用パラダイムシフトの本質が腑に落ちます。
・TA(Talent Acquisition)という新しい採用機能の設計方法と5つの世界標準システムが習得できます 。
・「採用の自己増殖性」という強力な概念によって、採用を経営投資として語れるようになります。

「採用革命」に乗り遅れるな!

グーグルでは、採用こそがリーダーの主要業務であると明確に位置づけられていました。(小野壮彦)

「なぜ、うちには優秀な人材が集まらないのか」と悩む経営者からの相談が増えています。採用メディアだけでは優秀な人材を獲得できなくなっている現実に、多くの企業が直面しているのです。どうすれば、採用はうまくいくのでしょうか?

実は、この問いへの答えはとうの昔に出ていました。世界のトップ企業は、採用の常識を根底から覆す「革命」を、2000年代の中頃にすでに実施していたのです。その事実を日本のビジネスリーダーに届けるべく書かれたのが、本書 世界標準の採用です。

著者・小野壮彦氏は、アクセンチュアを経て起業し、楽天、ヴィッセル神戸への経営参画、ZOZO SUIT事業責任者を経た後、グローバル・エグゼクティブサーチ大手のエゴンゼンダーでパートナーを務めた、採用の世界に長年向き合ってきた実践者です。(小野壮彦氏の関連記事

 本書が最初に問いかけるのは、「採用革命の起点」です。2004年頃からGoogleが持ち込んだデータドリブンの採用手法が、シリコンバレーのベンチャーキャピタルやスタートアップへ瞬く間に伝播しました。さらに2003年にLinkedInが誕生したことで、ダイレクトリクルーティングという新たな採用インフラが生まれ、採用の主導権は「掲載して待つ企業」から「能動的に探しにいく企業」へと完全に移行しました。

グーグルが推進した採用革命は、「社会的ウイルス」のような存在だったともいえます。強い伝播力によって、ネットワークにおける一つのノード(結節点)から他の無数のノードへと波及し、最終的には世界中のあらゆる企業がその影響を受けるに至りました。グーグルがもたらした新しい採用の波は、地理的な境界や業種の壁を超え、全世界をのみこんでいったのです。

やがてこのグーグルモデルは、導入先の企業ごとに微妙に変異しながら、世界規模のパラダイムシフトを引き起こし、採用スタイルを大きく変革したのです。 この「社会的ウイルス」という比喩は、採用革命の本質を鮮やかに言い表しています。

この革命が意味したのは、ポジション起点の採用から、個人起点の採用への根本的な移行です。従来は「募集要項ありきで、それにマッチする人を探す」というアプローチが主流でした。しかし採用革命以降は、候補者一人ひとりのプロフィールをつぶさに見た上で、「この人なら、こんなことができるのではないか」「今回探していたポジションとは違うが、これから開拓する予定のこの領域にぴったりフィットするかもしれない」と思索することが可能になりました。

ポジションへのフィットありきではなく、人物として魅力的な人は、ポジションがなくても確保してしまおう。「個の可能性」を引き出す方策を考えてから、採る。そんなアプローチが可能になったのです。

この動きが加速すると、採用はもはや特定の時期だけに集中するイベントではなくなります。毎日が採用活動となり、組織全体が常時タレントを探し続ける文化へと変貌していくのです。

TA タレントアクイジション(Talent Acquisition)とは何か?

タレント=才能ある人材」を「アクイジション=獲得」するという積極的な響きは、採用の新しいパラダイムを象徴するものとなりました。

著者は「タレントアクイジション(Talent Acquisition)」、略してTAという概念を本書で紹介します。「タレント=才能ある人材」を「アクイジション=獲得」するという積極的な響きは、採用の新しいパラダイムを象徴するものとなりました。

TAに特化したチームを設置する企業が次々と現れ、先進テクノロジーと膨大なデータを駆使して最高レベルの人材を探索・アプローチする活動が広がっていきます。

この変化は、従来バックオフィス的な要素の強かった人事部に、プロフィットセンターの性質が加わったことを意味します。現場の感覚としては、やっていることはもはや人事というより、むしろ営業に近いものとなっているのです。

外資系・国内メガベンチャー・スタートアップという3種類のプレイヤーが、この新しい採用モデルを一斉に推進したことで、その余波は日本国内の様々な企業にも及びました。これまでなら辞めることなど考えもしなかったトップクラスの人材が次々と姿を消していく——。そして今、国内の名門とされる伝統的大企業においても、ついに上層部が深刻な経営問題として認識するに至りました。

著者は「採用とは、商売だ」と断言します。なぜなら、採用とは、商いの究極の形だからです。それは、ともに歩む仲間を選ぶこと。それは、未来の利を育むこと。優れた人材を見出し、育てることが最も重要な「商い」であるという考え方です。

「採用の担当者を増やしても、良い人が来ない」——この嘆きは、採用を「人事機能」として捉えているうちは、永遠に解決しません。 本書が提示する最も重要な視点転換は、採用をTA(Talent Acquisition)という「経営直結の営業活動」として再設計することです。

情報の非対称性を解消し、候補者を能動的にソーシングし、競合他社より先に動き、優秀なタレントとの関係を構築し、彼らをいち早く入手させることに注力します——これはまさに、営業プロセスそのもの論理です。

本書が体系化する「世界標準の5つの採用システム」は、その実装の全体地図となります。
・世界標準の採用システム1:TAシステム
採用チームは、求人に対する応募を待つのではなく、「才能ある人材=タレント」の「獲得=アクイジション」に向けて積極的に動きます。TAのための独立した組織とシステムを持つことが、世界標準となります。

・世界標準の採用システム2:探索システム
トップタレントを獲得するには、トップタレントを探し出さなければなりません。そのためには、社内に専門部署(TAチーム)を立ち上げた上で、外部の採用エージェンシーと連携していくことが不可欠です。採用チームには「エージェントマネジメント」のスキルが求められます。

・世界標準の採用システム3:面接官育成システム
トップタレントの獲得にこだわるといっても、誰がトップタレントであるかを見抜くのは容易ではありません。世界標準の採用においては、面接官の面接力の底上げが喫緊の課題となり、各社の不断の努力によって徐々に水準が引き上げられていきます。

・世界標準の採用システム4:エンゲージ・システム
超優秀なトップタレントとなれば、本人に転職の意思がなくとも多くの会社から声がかかるのが常です。採用する側が、自社で働く魅力を候補者に提示し、引きつけなくてはなりません。戦略的なアトラクトにより、候補者をエンゲージする手法を開発する必要があります。

・世界標準の採用システム5:ホリスティック・システム
採用革命を経て、経営における採用の重要度は飛躍的に増しました。タレント獲得は、全社を挙げて取り組むべき経営課題です。グローバルな先進企業における採用活動は統合的かつ有機的で、全従業員が人材獲得に向けて積極的に動く組織文化が根づいています。

これら5つのシステムに共通するのは、採用を「守り」ではなく「攻め」のマインドセットで設計するという思想です。これまで保有していなかった「タレント=才能ある人材」を新たに外部から「獲得=アクイジション」する活動が主になるため、「不足を補う」という発想とは真逆となります。

さらに本書は、企業が現時点でいる人材と、経営戦略から逆算して必要となる人材とのギャップを把握し、具体的な人材獲得や育成を進めるべきだと提言します。取締役会がTAシステムに関与する必要性を表明することで、その意志が社内外に伝播します。

採用は人事部門だけの仕事ではなく、経営の最上位に位置づけられるべき戦略課題なのです。 特に共感を覚えたは、採用を「短期コスト」ではなく「経営投資」と捉えるマインドセットの転換です。

従来型の採用が「足りないから補充する」「必要最低限のスペックで十分」という発想であるのに対し、TAの発想は「将来を見据えて、今はまだ余力に見える人材にも投資する」という長期視点に基づいています。育成で何とかしようとして採用が遅れることは、そのまま経営の遅れに直結する——本書のこのメッセージは、多くの日本企業の経営者が今すぐ耳を傾けるべきメッセージです。

コンサルタント徳本昌大のView

本書の真の価値は「採用の教科書」ではなく、「経営の在り方を問い直す鏡」であることにあります。 私がコンサルティングの現場で繰り返し目にしてきたのは、「採用は人事に任せてある」という経営者の言葉です。

しかしその言葉こそが、組織の人材競争力が低下し続ける根本原因であると、本書を読んで改めて確信しました。Googleでは経営トップが頻繁に参加していた事実と、日本の多くの経営者が採用会議に出席すらしない現実のギャップは、あまりにも大きいと言わざるを得ません。

「ポジション起点から個人起点へ」という視点転換は、私自身がクライアントへの助言の中で常に意識してきたテーマです。優秀な人材は「空席が出たから探す」ものではなく、「出会ったときに確保する」ものです。その発想を持てている組織と持てていない組織では、数年後の人材ポートフォリオに取り返しのつかない差が生まれます。

本書はその差がなぜ生まれるのかを、歴史的・構造的・実務的の三つの視点から解き明かしてくれています。 私が特に注目したのは、著者が「採用とは商売だ」と言い切る覚悟です。これは単なるキャッチーなフレーズではありません。

採用を顧客との商取引と同等の戦略的重要度で扱えという、経営哲学の宣言です。候補者をお客様のように迎え、候補者体験を徹底的に設計し、自社の価値を売り込む——この発想を持てた組織とそうでない組織の差は、採用市場という競争の場で日々リアルタイムに拡大し続けています。

「採用は営業と同じです」だと著者は指摘しますが、私はこのメッセージに共感を覚えました。多くの日本企業で、採用担当者は営業ではなく、事務処理担当として機能してしまっています。毎日が採用活動となる時代において、この意識のギャップは致命的です。本書が体系化した「世界標準の5つの採用システム」は、この現状を変えるための具体的なロードマップとして機能します。

「世界標準」の採用を学ぶことは、採用だけを学ぶことではありません。経営の在り方、人材との向き合い方、そして「仲間と共に未来の利を育む」というビジネスの根源的な問いと、正面から向き合うことです。 すべての経営者とビジネスリーダーの方に、今すぐ手に取ることを強くお勧めしたい一冊です。

🖋 書評:徳本昌大 書評ブロガー・ビジネスプロデューサー

最強Appleフレームワーク


この記事を書いた人
徳本昌大

■複数の広告会社で、コミュニケーションデザインに従事後、企業支援のコンサルタントとして独立。
特にベンチャーのマーケティング戦略に強みがあり、多くの実績を残している。現在、IPO支援やM&Aのアドバイザー、ベンチャー企業の取締役や顧問として活動中。

■多様な講師をゲストに迎えるサードプレイス・ラボのアドバイザーとして、勉強会を実施。ビジネス書籍の書評をブログにて毎日更新。

■マイナビニュース、マックファンでベンチャー・スタートアップの記事を連載。

Ewilジャパン取締役COO
Quants株式会社社外取締役
Mamasan&Company 株式会社社外取締役
他ベンチャー・スタートアップの顧問先多数
iU 情報経営イノベーション専門職大学 特任教授 

■著書
「最強Appleフレームワーク」(時事通信)
「ソーシャルおじさんのiPhoneアプリ習慣術」(ラトルズ)
「図解 ソーシャルメディア早わかり」(中経出版)
「ソーシャルメディアを使っていきなり成功した人の4つの習慣」(扶桑社)
「ソーシャルメディアを武器にするための10ヵ条」(マイナビ)
など多数。
 
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