先進国が分断される理由。橘玲氏の上級国民/下級国民の書評

農業革命が人口爆発を起こしたとすれば、産業革命は「ゆたかさの爆発」を引き起こしました。ユリウス・力エサル(紀元前100~前44年)の時代のローマ人が中世のローマにタイムスリップしたとしてもほとんど違和感を覚えなかったでしょうが、江戸時代(1603~1868年)の日本人が現代の東京にタイムスリップしたら、あまりの変化に自分がいるのが同じ惑星だということすら理解できないでしょう。(橘玲)

Background photo created by freepik – www.freepik.com

自由に生きられるようになった現代人

橘玲氏の上級国民/下級国民書評を続けます。この200年で世の中は劇的に変化し、江戸時代以前の人の生活とは全く異なる時間を過ごしています。 物理学で言う所の「相転移」(激しい変化)を私たち現代人は日々体験しています。私たちが生きている近代(モダン)とは、それまでの歴史世界とは異なる「アナザーワールド」になっているのです。

18世紀半ばの産業革命においてゆたかさの相転移が起きたとすれば、20世紀半ばに価値観の相転移が起き、ひとびとは新たなアナザーワールドを生きるようになりました。これが「自由な社会」です。

日本では戦前すら、「人生を選択する」ことはできませんでしたが、1960年代になると、こうした前期近代の価値観(生き方)は「過去の歴史」と見なされるようになったのです。昭和の初期までできなかった自由恋愛や職業の自由を私たち現代人は手に入れたのです。

自由を手に入れた私たちにも問題が起こっています。一人一人が自由に生きることで、過去の共同体は解体されてしまいました。人間関係は学校や会社などの固定的なものから、ネット上のコミュニティのようなものが好まれるようになりました。仕事のやりかたも会社主体ではなく、今後はフリーエージェントが集まってプロジェクト単位で行なわれるようになっていくはずです。論理的思考やテクノロジーの知識のあるクリエイティブクラスが、プロジェクトを主導し、稼ぐ存在になり、収入格差が拡大していきます。アメリカではブルジョワ・ボヘミアン(BOBOS)と呼ばれる高収入な人が増えています。

自分の実力で高いポジションをつかみ、高収入を得るBOBOSが増加する一方で、落ちこぼれる人も増えているのが、21世紀の先進国の現実です。

この劇的な変化に適応できないひとたちがあちこちに吹きだまり、社会を大きく動揺させることになります。こうして「上級/下級」の分断を加速させる後期近代の光と影は、ますますくっきりと見えてくるのです。 テクノロジー爆発によってとてつもなくゆたかな「知識社会」が到来すると、ひとびとは共同体のくびきから逃れ、一人ひとりの自由な意思によって自己実現を目指すようになります。これが「リベラル化」で す。「進化」したテクノロジーは、国境を越えたヒト、モノ、カネの移動を可能にします。これは「グローバル化」と呼ばれます。このように、「知識社会化」「リベラル化」「グローバル化」は三位一体の現象です。

「知識社会化・リベラル化・グローバル化」が進む中で、これらの能力を持たない人が、「右傾化」を推し進めています。「反知性主義、保守化、排外主義」を信条にする人たちが増え、アメリカではトランプを支持し、イギリスでは半数の国民がブレグジットを選択したのです。

[商品価格に関しましては、リンクが作成された時点と現時点で情報が変更されている場合がございます。]

上級国民/下級国民 (小学館新書) [ 橘 玲 ]
価格:885円(税込、送料無料) (2019/8/8時点)

楽天で購入

 

先進国が二分される理由

世界がどんどん「リベラル化」しているにもかかわらず「右傾化」しているように見えるもう半分の理由は、先進国を中心に「知識社会」に適応できないひとたちが増えているからです。知識社会が高度化するにつれて、仕事に要求される知能のバー(ハー ドル)は上がっていきます。

シリコンバレーが「知識社会化」を牽引するアメリカであるなら、アメリカの工場地帯には、落ちこぼれた白人が増加しています。「プアホワイト」とか「ホワイトトラッシュ(白いゴミ)」と呼ばれるブルーワーカーがアメリカの社会問題になっています。

アメリカでは平均寿命は延びつづけていますが、25~29歳の白人の死亡率は2000年以降、年率約2%のペースで上昇しています。50~54歳の白人では、なんと年率5%のペースで死亡率が上がっているのです。それは、白人のなかでも高卒以下のひとたちの死亡率が、全国平均のすくなくとも2倍以上のペースで上昇しているからです。アメリカの低学歴層の白人はドラッグ、アルコールや自殺によって、早死にしてるのです。この白人の「見捨てられたひとびと」を味方につけたのが、アメリカの現職大統領のドナルド・トランプです。

「リベラル化」の大潮流のなかで、アメリカでは「白人至上主義者」が「自分たちは人種主義(レイシズム)の犠牲者だ」と主張するようになりました。中産階級から脱落しかけている白人ブルーワーカーの自己像は、東部や西海岸のエリートからバカにされ、アファーマティプアクションによって黒人などから「抜け駆け」されている”被害者”なのです。

本来マジョリティである白人がアッパークラス(上層階級)とアンダークラス(下層階級)に分裂してしまったのが、今のアメリカなのです。アメリカでは、白人は歴史的に黒人を差別してきたため、アンダークラスの白人は誰からも同情されません。

アメリカの白人は、大きく「リベラル」と「プアホワイト」に分かれます。東部(ニューヨーク、ボストン)や西海岸(ロサンゼルス、サンフランシスコ)などの「クリエイティブ都市」に住むリベラルな白人は、金融、教育、メディア、IT関係などの高収入の仕事につき、黒人やヒスパニックなどのマイノリティを支援する民主党の政策を支持しています。

逆に、見捨てられたプアホワイトやホワイトトラッシュと呼ばれる白人たちは、倒産した工場が放置されるラストベルト(錆びた地帯)に住み、仕事を失い、アルコール、ドラッグ、自殺で「絶望死」しています。仕事も家族・友人もなにもかも失った彼らには、自分が「白人」であるという以外に誇るものがありません。彼らは「白人至上主義」を選び、トランプを強烈に支持しているのです。トランプ支持の白人は、民主党支持の白人リベラルをはげしく憎悪しています。アメリ力社会のマジョリティであったプアホワイトはもはや「マイノリティ(弱者)」に成り下がってしまったのです。

アメリカでも日本でも、おそらくは世界じゅうで「主流派(マジョリティ)」の分断が進んでいます。なぜなら、すべての社会が「知識社会化・リベラル化・グローバル化」の強大な圧力を受けており、そこから膨大な数のひとたちがこぼれ落ちていくのですから。

イギリスのジャーナリストのデイヴィッド・グッドハートは先進国のマジョリティをエニウェア族とサムウェア族に分類しました。エニウェア族は、仕事があればどこにでも移動して生活できるひとびとです。成果主義や能力主義に適応し、高収入を得ています。彼らはグローバル化や移民の受け入れや同性婚も許容します。

一方、サムウェア族は、中学・高校を出て地元で就職・結婚して子どもを育てているひとたちです。個人の権利より地域社会の秩序を重視し、宗教や伝統的な権威を尊重する「ふつうのひとびと」だとされます。イギリスのブレグジットもエニウェア族とサムウェア族の考え方の違いによるものです。

知識社会では、ひとびとは「知能」によって分断されてしまったのです。エニウェア族(新上流階級)=「リバタニア」は複数のアイデンティティを持っており、「白人」や「黒人」、「キリスト教」や「イスラーム」などひとつのアイデンティティに過剰にこだわることを嫌います。

サムウェア族(新下流階級)である「ドメスティックス」は、自らのアイデンティティにこだわり、白人至上主義という考え方に囚われてしまうのです。東アジアでも、「日本人」「韓国人」「中国人」などのナショナル・アイデンティティを誇示するひとたちが増えています。自分が「日本人」であるという以外に誇るものがないひとたちが「日本人アイデンティティ主義者」で、「嫌韓・反中」の「ネトウヨ」を形成しています。

「知識社会化・リベラル化・グローバル化」の大潮流のなかで、「リバタニア」というグローバルなりベラル(自由主義者)の仮想共同体と、国や人種・民族、宗教ごとに分断された多くの 「ドメスティックス」が生まれつつあります。

私たちは今「リベラル化する世界の分断」を経験しています。 グローバル化とテクノロジー化が進む中で、この動きについていけない人たちが、先進国では今後も増加していきます。

知識社会とは定義上、高い知能を持つ者が大きな優位性を持つ社会です。現代は知能の差で収入が変わる残酷な世の中です。この厳しい現実を受け入れられない人々がポピュリズムを選んでいます。「下級国民による知識社会への抵抗運動」がトランプを大統領にしたり、イギリスのブレグジットを引き起こしたのです。

まとめ

先進国の知識がない人々が社会的弱者になっています。収入の高い知識人はリベラル化し、自由を謳歌する中で、アメリカの見捨てられた白人は自己のアイデンティしか誇れるものがなくなりました。白人至上主義の彼らは右傾化し、ドナルド・トランプを支持し、アメリカは分断されてしまったのです。

ブロガー・ビジネスプロデューサーの徳本昌大の5冊目のiPhoneアプリ習慣術がKindle Unlimitedで読み放題です!ぜひ、ご一読ください。

 

 

 

 

 

Loading Facebook Comments ...

コメント