アラップがイノベーションを起こせる理由。デイビッド・ローワンのDISRUPTORS 反逆の戦略者――「真のイノベーション」に共通していた16の行動の書評

 

DISRUPTORS 反逆の戦略者――「真のイノベーション」に共通していた16の行動
著者:デイビッド・ローワン
出版社:ダイヤモンド社

本書の要約

イノベーションを起こすために、時代に適応した優秀なメンバーを集める必要があります。世の中の課題が複雑になる中で、経営者は多様な組織をつくらなければなりません。メンバー全員がスキルを組み合わせ、難題を解決するうちにイノベーションを起こせるようになります。

アラップがイノベーションを起こせる理由

この会社は巨大で効率的に運営されていますが、人間的であり友好的でなければなりません。だれも指揮命令系統の一部、官僚機構の一部として扱われることがあってはならないのです。一人の幸福が全員の関心事であるような組織、人間が手段ではなく目的であるような組織にしなくてはなりません。(オーヴ・アラップ)

アッラプ(Arup)という会社をご存知でしょうか?アッラプは、国際的な総合エンジニアリング・プロフェッショナルサービス企業で、難しい建設工事で結果を残すスーパーカンパニーです。アラップは多様な分野の専門家が協働し、品質の高い建設プロジェクトを次々達成し、数々の実績を残しています。

WEBサイトを見ると、彼らが建設分野で世界をより、よくしようとしていることを理解できます。有名なシドニーのオペラハウス、ヒースロー空港ターミナル5、シンガポールマリーナ・ベイ・サンズ、クパチーノのアップルパーク、香港国際金融センターも彼らが関わっています。

建設分野でイノベーションを起こし続ける同社は、何もかもチームで取り組むようにしています。優れた人材がいて、挑戦しがいのある課題があれば、人はクリエイティブになることで、とてつもない成果を出せることをアラップは証明しています。人間が手段ではなく、目的である組織をつくることをアラップの創業者である、オーヴ・アラップは目指し、それを実践してきました。1970年のスピーチでオーヴ・アラップは次のように語っています。世界トップクラスの人材を集めるためには、給与よりも仕事内容の方が重要です。

才能ある人材を引き付けるものは、創造力を発揮できる、面白くてやりがいのある仕事です。自分を最大限に伸ばし、成長させてくれ、責任を持たせてもらえる仕事です。形式主義を感じたり、誰かに仕事ぶりをのぞき込まれたり、自分の仕事に関する決定に関われなかったり、あるいは同意できない決定に異議を唱えられなかったりすれば、彼らは荷物をまとめて会社を去っていくでしょう。そうでなくてはならない。だから私たちには、才能のある個人がのびのびと働ける環境を用意できるかどうかが問われているのです。意思決定の権限は、可能な限り下へ下へと広げなくてはなりません。

アラップの社員は上から押さえつけられない場合に最高の仕事をします。メンバーのスキルを組み合わせることで、様々な難工事(挑戦しがいのある課題)を乗り越え、実績をつくってきました。そのために優秀な人材を雇い、命令されずとしても協力して働く環境づくりが重要です。社員を満足させるプロジェクトを用意し、彼らのやる気を引き出す必要があります。そんな強い組織のアラップにも課題があります。

イノベーションを起こすためには、才能豊かな社員集団が必要。

テクノロジーが急激に進化する中で、アラップの人材戦略も変わります。新しい世代の考え方、前提、適応スピードについていけなくなれば、人材獲得競争に負けるとアラップは考えています。アラップ会長のトリストラム・カーフレイは、テクノロジーによって、アラップにおいても世代交代が起こるのは致し方ないと考えています。

いまや勤続35年の社員より新入社員のほうが優れた知識とスキルを持つている時代なのです。いつ人材の混乱が起きてもおかしくない。たとえば ブロックチェーンや機械学習の話に、いまのリーダーはほとんどついていけない。そこに限ればもう役立たずです。組織の中だけを見て、互いに慰め合っている内向きの集団では、現実の世界で生きていけません。(トリストラム・カーフレイ)

自分のネットワークを通じて問題を解決し、ユーチューブで自己教育するような若手社員は、ベテラン社員とのコミュニケーションや協業に関して、ネガティブな態度を示します。いきなり起業することも普通な時代に、才能のある優秀な若手を引きつけておける組織を作らなければなりません。年功序列にこだわっていると、若い社員から見向きもされずに、組織を弱体化させてしまいます。

優秀な若手社員が組織に対する考え方を変える中で、アラップも風通しのよい会社を作る必要があります。ネットワーク効果があり、外の優秀な人々と簡単につながれる組織、自由に出たり入ったりできる会社を理想にすべきだとカーフレイは考えています。

アラップは、ブロックチェーン、ロボット工学、機械学習といった新しいテーマに関するワークショップに社員を参加させます。新しいスキルを得たい社員は会社と同僚にそれがどう役立つかを説明するだけで、簡単に助成を受けられます。アラップでは社員の能力を高めるために流動性、信頼、そして好奇心を注入しています。

ベテラン社員のディネシュ・パテルは、アラップの強みは、才能豊かな社員集団であると指摘します。

アラップがクライアントに提供できる最高の価値は、アラップの理念にコミットした、さまざまな専門分野にまたがる才能豊かな社員集団です。少なくとも、私たちには気にしなければならない株主はいません。会社の運命は、働いているわれわれだけが握っているのです。(ディネシュ・パテル)

全員参加型でイノベーションを起こすアラップは、創造的な仕事を行ったメンバーには終身フェローという肩書きを与えます。彼らは自分のスキルを高めるために自己投資を行い、プロジェクトに貢献することを目指します。アラップは社員に自律心と好奇心を持たせ、ワクワクするプロジェクトを選ばせることで、社員の満足度を高めています。

今後のテクノロジーの変化で社員に求められるスキルも変わります。イノベーションを起こすために、時代に適応した優秀なメンバーを集める必要があります。世の中の課題が複雑になる中で、経営者は多様な組織をつくらなければなりません。

この記事を書いた人
徳本昌大

■複数の広告会社で、コミュニケーションデザインに従事後、企業支援のコンサルタントとして独立。
特にベンチャーのマーケティング戦略に強みがあり、多くの実績を残している。現在、IPO支援やM&Aのアドバイザー、ベンチャー企業の取締役や顧問として活動中。

■多様な講師をゲストに迎えるサードプレイス・ラボのアドバイザーとして、勉強会を実施。ビジネス書籍の書評をブログにて毎日更新。

■マイナビニュース、マックファンでベンチャー・スタートアップの記事を連載。

■インバウンド、海外進出のEwilジャパン取締役COO
IoT、システム開発のビズライトテクノロジー 取締役
みらいチャレンジ ファウンダー
他ベンチャー・スタートアップの顧問先多数 

■著書
「ソーシャルおじさんのiPhoneアプリ習慣術」(ラトルズ)
「図解 ソーシャルメディア早わかり」(中経出版)
「ソーシャルメディアを使っていきなり成功した人の4つの習慣」(扶桑社)
「ソーシャルメディアを武器にするための10ヵ条」(マイナビ)
など多数。
 
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