ファリード・ザカリアのパンデミック後の世界 10の教訓の書評


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パンデミック後の世界 10の教訓
著者:ファリード・ザカリア
出版社:日本経済新聞出版

本書の要約

パンデミック対応に成功している国家には、学んできた経験のある「善き政府」があると著者は指摘します。台湾や香港はよその国で成功しているシステムを採用しました。SARSやMERSを自ら体験し、ここから徹底的に学び、テクノロジーを積極的に取り入れることで、コロナを撃退したのです。

政府の「質」がコロナ対策の結果を左右する?

これまで何世紀も、政治は左と右の区別によって整理されていた。左派は経済において国家が大きな役割を果たすことを要求する。右派は頑として自由市場を擁護する。20世紀における最大の政治的争点は、経済に対する政府の規模と役割だったつまりは政府の「量」だ。だが、今回の危機において最も重要だったのは、政府の「質」だったのではないか。(ファリード・ザカリア)

世界的コラムニストであるファリード・ザカリアは独自の視点で、アフターコロナ時代のヒントを私たちに提示してくれました。今回のパンデミックは中国のコウモリが原因になっていましたが、都市の開発が進み人間とコウモリの境界がなくなる中、以前からウイルスの脅威が高まっていました。以前から、ウイルスの危機が予測されていたにも関わらず、人は対策を怠り、昨年ついに新型コロナパンデミックが武漢で爆発してしまったのです。

当初、中国は情報を隠し、ウイルスを世界中に広めてしまいましたが、その後は国民の行動をコントロールし、一気にウイルスを収束させることに成功します。一方、感染対策で最も進んでいると考えられていたアメリカとイギリスではウイルスが蔓延し、多くの死者を出し続けています。

本書で著者は、以下の10の授業を通して、私たちに新しい生き方を提示しますが、今日はイギリスとアメリカが失敗し、台湾が成功した理由について考えてみたいと思います。LESSON 2によると政府の質が高かった台湾や香港には、よその国から学ぶという姿勢があったのです。

LESSON 1  シートベルトを締めよ
LESSON 2  重要なのは政府の「量」ではない、「質」だ
LESSON 3  市場原理だけではやっていけない
LESSON 4  人々は専門家の声を聞け、専門家は人々の声を聞け
LESSON 5  ライフ・イズ・デジタル
LESSON 6  アリストテレスの慧眼――人は社会的な動物である
LESSON 7  不平等は広がる
LESSON 8  グローバリゼーションは死んでいない
LESSON 9  二極化する世界
LESSON 10  徹底した現実主義者は、ときに理想主義者である

■パンデミックに素早く反応する
■広く検査を実施する
■感染者の行動を追跡する
■感染拡大のスピードを遅らせる
これらすべての施策を限定的なロックダウンのもとで実施し、ウイルスとの戦いに勝利した国がいくつかあります。

台湾、韓国、香港、シンガポールのいずれもの国は、年間数百万の中国人観光客を受け入れていたにも関わらず、コロナ対策に成功しています。(※韓国は2020年末から再び感染者数が増加している)

アジアの成功国の政府は大きな政府ではありません。経済に対する政府支出の割合は比較的小さく、予算が潤沢にあるわけではありません。香港の経済に対する割合としての公的支出は驚くほど少なく、わずか18%に過ぎず、フランスの数字と比べれば3分の1でしかありません。にもかかわらず、香港で7月下旬に確認されている死者数はたった18人でした。

同じく7月下旬現在で、人口2300万人の台湾では、死者が7人しか出ていないません。台湾の医療支出はGDPのわずか6%で、アメリカの3分の1程度です。

一方でドイツ、デンマーク、フィンランドも、パンデミックにきわめて効果的に対処しています。これらの国々は、おおむねどの指標で見ても、大きな政府です。つまりウイルスを撃退している国家には大きな政府の国もあれば、小さな政府の国もあることがわかります。両者の共通点は有能で、しっかりと機能する、信頼を得た統治がなされているということでした。政府の「質」が高い国が、コロナ対策で結果を出していたのです。

善き政府がコロナウイルスを撃退する!

アメリカでは州同士が投資や労働人口を競い合い、それによって成長が促されてきました。しかし、週ごとに権限が異なる中で、異なる政策を行っていても、コロナウイルスを撃退できません。コロナウイルスは、州境など意に介さず、人々に襲いかかります。

特に、新型コロナウイルスの検査に関して、各自治体の標準がばらばらなのが致命的だと著者は言います。台湾では単一のデータベースに、関連する医療情報をすべて集約していますが、アメリカでは州ごとに管理手法が異なります。

また、アメリカ政府は政府機関の予算を減らし、緊縮財政によって専門家の力を削ぐという過ちを続ける中、コロナウイルスに襲われる不幸を経験しました。イギリスのポリス・ジョンソン政権も同様で、専門家を侮蔑し、官僚機構の意義を強く疑ってきました。ジョンソン政権は新型コロナウイルスの初期対策で、異例なほど下手に動き、自らも罹患するという失策を招きます。ウイルスは間違った政策を行う国を狙い、被害をすぐに大きくします。一度失策を行うだけで、短期間に新型コロナウイルスは広がり、取り返しがつかなくなるのです。

アメリカやイギリスと対照的に動いたにが、ギリシャでした。ギリシャの民主主義はまだ歴史が浅く、発展途上で、過去の腐敗した官僚機構の遺産が残っているにもかかわらず、この国はパンデミック対策で成功します。ギリシャ政府は科学を信じ、優れた統治の必要性を確信したからです。

有能で専門知を持つリーダーに率いられてた国家は、コロナ対策で成功します。国家トップの姿勢が、国民の幸福を左右してしまうのです。医療やテクノロジーの専門家に権限と裁量を与えた国がパンデミックを抑え込むことに成功します。台湾のオードリー・タンがその象徴で、科学と医療の力を信じた政府がコロナを撃退できることを証明しました。

独立した政府機関を設置し、専門知を有する官僚に権限と裁量を与え、システムとして効果的な働きを確保することの重要性を、アメリカ以外の多くの西側諸国は政府の規模を問わず確信している。一言で言うならば、「善き政府」であることに対する誇りがあるのだ。

パンデミック対応に成功している国家は、学んできた経験のある国家だと著者は言います。彼らはよその国で資本主義が奏功しているのを見て、それを自国の社会に採用してきました。最新のテクノロジーを積極的に取り入れ、それゆえに発展の段階を一足飛びで進むことができたのです。

香港や台湾は、SARSやMERSを体験し、これらの疫病から徹底的に学び、コロナ対策に取り入れます。次に発生する感染症流行に向けて準備を整えていたのです。彼らは他国の様子を観察し、模倣すべきベストプラクティスを見つけるという発想を持ち続けてきました。そして歴史的に、これらの国々が学んできた対象は、たいていアメリカだったのです。

アメリカはあまりにも成功しすぎている。それゆえに一気に倒れることはありえない。だが、急速に変化する経済と機能不全な政治というちぐはぐな組み合わせのもと、緩慢に衰退に向かっていくおそれはある。アメリカの軍事力は今も他国を引き離しているかもしれないが、平均的なアメリカ人の生活で見れば、海外の明らかな成長から今後は差をつけられていくのではないか。この国は絶対に特別だという幻想に浸りながら、いっそう偏狭になり、国際性が薄れ、影響力と革新力を失っていくのではないか。これまでの数十年間、世界はアメリカから学ぶ必要があった。しかし今、アメリカが世界から学ぶ必要がある。最も学ぶべきは統治のあり方だー大きい政府でもなく、小さい政府でもなく、善き政府とは何であるか、学んでいかなければならない。

アメリカという国名を日本に置き換え、私は本書を読み進めました。一部の政治家に忖度し、秋口にGo to travelやGo to eatを実施したことが、感染の再拡大の始まりです。医療費を削減し続け、ベッド数を減らした「つけ」を今、日本国民は支払っています。

PCR検査を積極的に行わず、挙げ句に陽性者を自宅療養にするなど、やることなすこと全てがデタラメでは、ウイルスの蔓延を防げるわけがありません。早すぎた規制解除、政治家の気の緩み、検査の不徹底など、複数の誤りが日本でのウイルスの拡大を加速させています。

2020年が日本を衰退させる分岐点になったなら、あまりにも悲劇的です。無能なリーダーを総理にし、悪い政策にブレーキをかけられなかったことが、失敗の原因です。国民が政治に対して無関心な姿勢を示し続けたことが、結果として、コロナウイスを蔓延させてしまったのです。

台湾のような善き政府を作るために、国民は今こそ真剣に政治家に向き合うべきです。善き政府とは何かをアメリカ国民だけでなく、日本国民も学ぶ必要があることを本書が教えてくれました。

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この記事を書いた人
徳本昌大

■複数の広告会社で、コミュニケーションデザインに従事後、企業支援のコンサルタントとして独立。
特にベンチャーのマーケティング戦略に強みがあり、多くの実績を残している。現在、IPO支援やM&Aのアドバイザー、ベンチャー企業の取締役や顧問として活動中。

■多様な講師をゲストに迎えるサードプレイス・ラボのアドバイザーとして、勉強会を実施。ビジネス書籍の書評をブログにて毎日更新。

■マイナビニュース、マックファンでベンチャー・スタートアップの記事を連載。

■インバウンド、海外進出のEwilジャパン取締役COO
IoT、システム開発のビズライトテクノロジー 取締役
みらいチャレンジ ファウンダー
他ベンチャー・スタートアップの顧問先多数 

■著書
「ソーシャルおじさんのiPhoneアプリ習慣術」(ラトルズ)
「図解 ソーシャルメディア早わかり」(中経出版)
「ソーシャルメディアを使っていきなり成功した人の4つの習慣」(扶桑社)
「ソーシャルメディアを武器にするための10ヵ条」(マイナビ)
など多数。
 
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