ダイバーシティ&インクルージョンが、日本企業にとって重要な理由


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マッキンゼー ネクスト・ノーマル―アフターコロナの勝者の条件
小松原正浩,住川武人,山科拓也
東洋経済新報社

本書の要約

欧米などの先進国に比べ、明らかに日本のダイバーシティ&インクルージョンは遅れています。企業は自社内の女性管理職候補者がその経験や実力をリーダーとして発揮していける環境を整備していくことで、売上や利益を上げるだけでなく、さらなる飛躍を目指せます。

ダイバーシティ&インクルージョンとは何か?

企業が新型コロナからの回復を図る中、改めてダイバーシティ&インクルージョンに関して積極的に施策を打っていくことが、短期的な回復にとどまらず、中長期的にインパクトを創出し、より強靱性(レジリエンス)の高い社会を形成するチャンスである。(小松原正浩,住川武人,山科拓也)

マッキンゼー ネクスト・ノーマル―アフターコロナの勝者の条件書評を続けます。今日は「ダイバーシティ&インクルージョン」について考えてみたいと思います。

ダイバーシティ&インクルージョンとは、性別、年齢、障がい、国籍などの外面の属性や、ライフスタイル、職歴、価値観などの内面の属性にかかわらず、それぞれの個を尊重し、認め合い、互いの良いところを活かし、結果社会を豊かにすることです。

しかし、日本においてこのダイバーシティ&インクルージョンは大きな課題になっています。2019年の世界経済フォーラムが毎年発表するジェンダー・ギャップ指数においては、153力国中121位と過去最低ランクになっています。当然、先進国のなかで最低水準にとどまり、この改善を急ぐ必要があります。

ダイバーシティ&インクルージョンが企業の業績に与える影響を分析するため、マッキンゼーでは10年以上継続的にサーベイを実施し、企業の多様性とその業績の相関性の分析を行ってきました。15力国、1000以上の企業(売上150億ドル以上の企業)を対象に調査を実施しました。

この調査では、対象とする企業をダイバーシティの度合いの高い順に4つのグループに分け、特に最上位と最下位のグループを比較して、EBIT(税引き前利益)との相関性を分析しています。 2014年の調査では、最上位の企業の財務的業績は、その業界の平均利益率を54%の確率で上回ることがわかりました。最下位の企業では、その確率は47%にとどまっており、その差は7%になっています。

3年後の2017年に実施した調査では、その差は55%対45%で、10%ポイントと差が広がっています。さらにその2年後、 2019年に実施した調査では55%対44%で、差は11%ポイントとなりました。

同社では、取締役会や経営陣の中にいる女性比率を使って、似たような分析を行いました。経営チーム内の女性の比率が30%超の企業、10~30%の企業、10%以下の企業の3つのグループに分け、それぞれの会社が業界平均利益率を超す確率を試算したのです。

その結果、女性比率が増すごとに、業界平均利益率を超す確率が高くなっていき、30%超の女性比率を持つ会社と10%以下の会社を比較すると、前者が63%の確率で平均を上回る利益率を実現し、後者の確率は43%にとどまっていたのです。

2014年から2019年まで、各企業のダイバーシティの度合いの変化を追った結果、企業を以下の5つのタイプに分類し、経営状態を比較しました。
①先進グループ:もともとダイバーシティの度合いが高く、近年さらに強化または維持してきた企業
②急成長グループ:もともとダイバーシティの度合いは低かったが近年強化してきた企業
③停滞グループ:もともとのダイバーシティは高かったが、近年低下してきている企業
④緩慢成長グループ:もともとダイバーシティの度合いが低く、近年少しずつ高めている企業
⑤落ちこぼれグループ:ダイバーシティの度合いがもともと低く、現在も何も取り組みがされていない企業

①先進グルーズ ②急成長グルーズ ③停滞グループの3つのグループが、52~62%の確率で業界平均を上回る利益率を創出しています。一方、④緩慢成長グルーズ ⑤落ちこぼれグループでは多くの場合、業界平均を下回る確率が高くなっています。

ダイバーシティに対して感度の高い企業グループは女性比率を上げているのに対し、感度が低いグループはさらに女性比率を落としていることがわかりました。ダイバーシティに関する取り組みが、売上や利益に影響を及ぼしています。そして、その差は年々拡大しているのです。

ノルウェー、オーストラリア、スウェーデン、米国などでは、90%以上の企業において必ず一人は経営チーム内に女性が在籍しており、平均的な女性割合も2割を超えています。一方、日本においては、女性が経営チームにいる割合は17%と低く、また、平均的な女性比率は3%にとどまっています。

日本においてもダイバーシティと財務的業績の相関性は高いことが証明されています。経済産業省と株式会社東京証券取引所が共同で、女性が活躍する会社を選定した「なでしこ銘柄」の株価の推移を見ると、明らかにTOPIX指数を大きく上回っています。また、財務的業績についても、東証一部銘柄の平均と比べて、高い売上高、営業利益率、配当利回りを実現しています。

日本の多くの企業は、⑤落ちこぼれグループに属し、今後もダイバーシティ格差が広がっていく可能性が非常に高くなっているとマッキンゼーは指摘します。この指標が売上や利益、成長性を左右するのですから、日本企業は早急にダイバーシティの取り組みを実施すべきです。

日本のダイバーシティ&インクルージョンの遅れ成長を阻害する?

現在、世界のGDPの創出源を、男性による労働と女性による労働で分けると、女性のGDP貢献度は全体の36%を占める。日本に限って見ると、労働人口に占める女性の労働者数は43%と特段低くはないが、女性によるGDPの貢献度は33%となっており、世界平均およびアジア平均よりも低くなっている。

ダイバーシティ&インクルージョンの重要性が高まり、日本を含めた多くの国でその重要性が説かれ、施策が展開されていた中、新型コロナによってその活動の重要性がさらに高まっています。

新型コロナにより、リモートワークが一気に普及したことで、ライフスタイルの自由度が拡大した一方、職場と家庭の境界線が失われ、女性にかかる負担が重くなっています。

会社の仕事を自宅でするようになったことで、仕事と家庭の時間の境界線があいまいになり、女性は仕事をしながら家事・育児をせざるを得ません。会社の仕事と家事、子育ての両方が女性にのしかかり、女性の仕事量の増加は顕著になっているのです。

日本においても、新型コロナの感染拡大は特に女性に対して強い負担感を与えています。特に、女性就業者数が多いサービス産業を中心に大きな打撃を受け、2020年4月には非正規雇用労働者の女性を中心に、就業者数は対前月で約70万人の減少(うち、女性が男性の約2倍)となりました。

2020年10月の内閣府の発表によれば、新型コロナ感染拡大による外出自粛で在宅期間が長くなる中、生活不安やストレスなどが原因となり、DV(ドメスティック・バイオレンス/家庭内暴力・配偶者暴力)が増加・深刻化しています。

厚生労働省は2021年の1月22日、警察庁の統計に基づく2020年の自殺者数が、前年確定値より750人(3.7%)多い2万919人になりました。特に男性の自殺者数が2年連続で減っているにも関わらず、女性の自殺者数は2年ぶりの増加しているのです。

今まで一定の成果を上げてきた女性の社会進出が、新型コロナによって後退していく可能性が非常に高まっている。こうした中、各企業は一定の施策を素早く導入してきた、これまで以上に子育てをサポートするプログラムの導入、新型コロナにより従業員を守っていくというコミュニケーションの実施、精神面のサポートプログラム、新型コロナ前後による仕事の評価基準の変化、などである。

新型コロナにより女性の進出に後退危機がある中、企業はダイバーシティの実現に積極的な取り組みをすべきです。マッキンゼーでは、以下の4つのアクションを提案しています。

■ジェンダー・ダイバーシティの重要性の周知徹底
ジェンダーを含めたダイバーシティが、企業の成長および業績向上につながることを、経営トップ層から明確に、そして繰り返し全社員への強いメッセージとして配信すべきです。

■経営管理の強化
経営陣が2~3年先を見据え、各社で目指すべき現実的なジェンダー・ダイバーシティと管理職比率の数値目標を設定した上で、その数値目標を各部署に落とし込み、モニタリングを実施。目標に到達しない場合は、その説明責任を課します。

■ロールモデルの強化
役員に限らず既に存在する女性リーダーをロールモデルとして見える化し、若手層が想像し得る未来の姿を提示します。

■昇進意向を引き出すプログラムや現管理職 層向けトレーニングの導入
スポンサーシップ(機会を与え、昇進を後押しする「スポンサー」を設ける仕組み)やメンタリング(親密な関係から助言を与えること)など、女性が管理職としての自らの将来像を描けるようサポートする制度を強化します。

世界を見ると、女性の経営者登用を義務付ける制度を確立している国が多くなっています。
●ドイツ連立政権→上場企業に対して、女性役員の任命を義務付け。
●ベルギー、フランス、イタリア、オーストリア、ポルトガルの5力国→
上場企業の役員に、性別に基づく割り当てを義務付け。
●米国の証券取引所ナスダック→全ての上場企業に対し、取締役に女性とマイノリティを選任することを義務付け。上場企業およそ3000社全てに義務付け、選任できない理由を説明できない場合は上場廃止を行う方針だと言います。

金融大手のステート・ストリート・グローバル・アドバイザーズも、2021年、女性取締役がゼロで、その理由が説明できない企業に対しては全ての取締役の選任に反対すると発言しています。同社の取り組みはPR的にも話題になっています。(関連記事はこちらから

各国に比べ、明らかに日本のダイバーシティ&インクルージョンは遅れています。企業は自社内の女性管理職候補者がその経験や実力をリーダーとして発揮していける環境を整備していくことで、売上や利益を上げるだけでなく、さらなる飛躍を目指せます。当然、企業だけでなく、政治でもジェンダーギャップを解消すべきです。

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