エンベデッド・ファイナンスでエコシステムを拡大するアマゾン


エンベデッド・ファイナンスの衝撃―すべての企業は金融サービス企業になる
城田真琴
東洋経済新報社

本書の要約

アマゾンが積極的に金融サービスの提供に乗り出す目的は、「エコシステムの拡大」です。出品者と消費者を増やすためには、出品者となる小規模事業者と消費者が、Amazon.com内でストレスなくビジネスをしたり、ショッピングをしたりできる環境や仕組みをエンベデッド・ファイナンスとして提供しています。

アマゾンが行なっているエンベデッド・ファイナンスとは?

アマゾンはその気になりさえすれば銀行免許を取得できる可能性はあるものの、敢えてそれはしないということだ。手間も時間もコストもかかる銀行免許を取得する代わりに、「アマゾン帝国」とも呼ぶべき同社のエコシステムの発展にリソースを振り向ける方が賢明という判断である。銀行免許が必要な業務については、従来同様にパートナーの力を借りればよい。(城田真琴)

城田真琴氏のエンベデッド・ファイナンスの衝撃―すべての企業は金融サービス企業になる書評を続けます。金融以外の事業を展開する非金融企業が、既存サービスに金融サービスを組み込んで提供することが増えています。「金融以外のサービス提供企業(非金融企業)が、既存サービスに金融サービスを組み込んで金融サービスを提供する」ことを「エンベデッド・ファイナンス(Embedded Finance)」と言います。

エンベデッド・ファイナンスでは、以下の5つの領域が主要マーケットになります。
■エンベデッド・ペイメント(決済)
■エンベデッド・レンディング(貸付)
■エンベデッド・インシュアランス(保険)
■エンベデッド・インベストメント(投資)
■エンベデッド・バンキング(銀行)

アマゾンは以前から、エンベデッド・ファイナンスを展開しています。
■アマゾン・レンディング(Amazon Lending)
「アマゾン・マーケットプレイス」の出店事業者向けの融資サービス
■アマゾンペイ(Amazon Pay)
Amazon.comのアカウントに登録された住所情報とクレジットカード情報を使って他社サイトでも支払いができる決済サービス
■アマゾン・キャッシュ(Amazon Cash)
スマートフォンに表示させ たバーコードを使ってアマゾンギフト券にチャージできるサービス

アマゾンは自ら銀行免許取得し、アマゾン銀行を設立するのではと噂されていますが、著者は銀行業に参入するのではなく、アマゾンはエンベデッド・ファイナンスによって金融サービスの提供を続けていくと指摘します。

エンベデッド・ファイナンスでエコシステムを拡大するアマゾン

■アマゾンの主な金融サービス
 (1)アマゾン・ストアカードとアマゾン・プライムストアカード
アマゾンでのショッピングのみに使えるクレジットカードでシンクロニーバンク(Synchrony Bank)との提携によって発行。このカードはアマゾンのアカウントを持っている消費者だけが申し込めます。プライムストアカードはプライム会員のみが申し込める上位力ードで、買い物のたびに5%のキャッシュバックが受けられます。

(2)アマゾン・リワード・ビザ・シグナチャー・力ードとアマゾン・プライム・リワード・ビザ・シグナチャー・力ード
アマゾンでのショッピング以外にも使えるクレジットカードでJPモルガン・チェースとの提携によって発行。

●アマゾン・リワード・ビザ・シグナチャー・カード
Amazon.comのほか、ホールフーズマーケットでの買い物で3%のキャッシュバックが受けられます、また、ガソリンスタンド、レストラン、ドラッグストァでは2%、それ以外の買い物でも1%のキャッシュバックを受け取ることができます。
●アマゾン・プライム・リワード・ビザ・シグナチャー・カード
Amazon.comとホールフーズマーケットでの買い物でキャッシュバック率が5%にアップします。それ以外の買い物でのキャッシュバック率は変わりません。非プライム会員をプライム会員に勧誘することを目的として導入されたカード。

(3)アマゾン・ペイコード
Amazon.comでの買い物時に、銀行口座やクレジットカードを持っていない消費者でも現金で支払いができるようにするサービス。主に中南米(チリ、コロンビア、ジャマイカ、ペルーなど)や東南アジア(マレーシア、インドネシア、フィリ ピンなど)、アフリカ(ケニア、タンザニァ)で展開されてますが、米国でも2019年9月から利用できるようになっています。

(4)アマゾン・レンディング
アマゾン・マーケットプレイスに出店する小規模事業者向けの融資サービス。2011年に一般的なビジネスローンでは融資を受けられない事業者を対象に単独で始めましたが、2018年にはバンク・オブ・アメリカとの提携を発表しています。融資可能額は1000ドルから75万ドルで、返済期間は最長で1年。招待制のため、融資を希望する事業者すべてが融資を受けられるわけではなく、アマゾンからオファーがあった事業者だけが申し込めます。

融資審査はマーケットプレイス内での売上実績や顧客からの評価などのアマゾンが持つデータのみを判断材料としていたため、リスク評価に限界があったため、2020年6月に発表されたゴールドマン・サックスとの提携では、融資の引き受けの判断を全面的にゴールドマン・サックスに委ねるとされています。

アマゾンが積極的に金融サービスの提供に乗り出す目的は、「エコシステムの拡大」である。すなわち、エコシステムの参加者となる出品者と消費者を増やすことにある。そのためには出品者となる小規模事業者と消費者が、Amazon.com内でストレスなくビジネスをしたり、ショッピングをしたりできる環境や仕組みを整える必要がある。

①マーケットプレイスの出店者を増やすと同時に、各出店者の売上も増加するように支援。
②アマゾンで買い物する消費者を増やすと同時に、各消費者の購買金額が増加するようなマーケティングを実施。

モルガン・スタンレーの調査によると、「米国の平均的なプライム会員は、非会員の約5倍の2486ドルの買い物をしている」言います。顧客は119ドルの年会費の支払いを正当化したいがために、アマゾンで買い物する機会が増加します。結果的に会員の購買金額の増加という目的を達成してます。

プライム会員になると、即日、あるいは翌日配送が無料になったり、プライム・ビデオなどデジタルコンテンツを無料で利用できたりする特典もついてきます。消費者は一度プライム会員になり、「アマゾン帝国」に足を踏み入れると抜け出せなくなります。

アマゾン・レンディングは、マーケットプレイス出店者の円滑な資金調達を支援します。融資のオファーは融資審査基準を満たした出店者だけに届くため、その時点でほぼ審査は済んでいます。そのため、申し込みから融資まで最短で5日程度と早期の資金調達が実現します。

銀行で融資を受ける場合は、事前に膨大な資料を準備して銀行に出向いて面談をする必要がありますし、審査から融資までには最低でも3週間程度時間がかかります。銀行の融資では、すぐに資金を調達したいという出店者のニーズは満たせません。

返済手続きも出店者の売上が決済されるアマゾンアカウントより自動的に引き落とされるため、払い忘れるということはありません。 アマゾン・レンディングは、セールなどの大きな売上が期待できるタイミングで多くの商品を仕入れられるように出店者を資金面でサポートし、売上増加に貢献しているのです。

出店者にとっても商品の販売から在庫の仕入れに必要な資金調達までがアマゾンのエコシステム内で完結し、銀行から融資を受ける場合に必要であった一連の煩わしい手間が省けます。

エコシステムの拡大というアマゾンの目的を達成する次の手段は「BNPL」になります。BNPLはクレジットカードを使用しない後払い手段として急速に注目度が高まっています。

2021年8月には、アファームとの提携によって米国の一部顧客を対象にBNPLサービスを開始し、数カ月以内に一般の顧客に広げる計画も明らかになりました。BNPLの実験は2019年11月からオーストラリアのジップ(ZIP)と、2020年4月からはインドでキャピタル・フロート(Capital Float)、IDFCファーストバンク (IDFC FIRST Bank)と提携し、実施されています。

●オーストラリアのジップ(ZIP)
1、ジップペイ(Zip Pay)
1500ドルまでの買い物であれば常に利息なしで利用できます。
2、ジップマネー(Zip Money)
3000ドルまでの買い物に利用可能で、6カ月までの分割払いであれば利息なしで利用できます。

●インドのキャピタル・フロート(Capital Float)、IDFCファーストバンク (IDFC FIRST Bank)
アマゾンペイ・レイター
すでに200万人以上が利用登録し、1000万件以上の取引が成立しています。最大6万ルビー(約9万円)までの商品の購入に利用可能で、翌月支払う場合は利息はかからず、3・6・9・12カ月に分割して支払う場合は利息がかかります。

●日本のペイディ(Paidy)
アマゾンとペイディは以前からメールアドレスと携帯電話番号だけで申し込める「翌月あと払い」サービスを提供してきました。「3回あと払い」サービスでは、運転免許証、マイナンバーカードなどの身分証明書が必要になります。後払いの選択肢が増えることで、特に20~30代の比較的若い世代の消費者を中心に購買金額の拡大が見込めます。

さらなるエコシステムの拡大に向けてアマゾンは、エンベデッド・ファイナンスの分野でも手を緩めません。銀行を設立しなくとも、顧客や出店者を満足させるため、さまざまな金融サービスを提携先と用意しているのです。

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この記事を書いた人
徳本昌大

■複数の広告会社で、コミュニケーションデザインに従事後、企業支援のコンサルタントとして独立。
特にベンチャーのマーケティング戦略に強みがあり、多くの実績を残している。現在、IPO支援やM&Aのアドバイザー、ベンチャー企業の取締役や顧問として活動中。

■多様な講師をゲストに迎えるサードプレイス・ラボのアドバイザーとして、勉強会を実施。ビジネス書籍の書評をブログにて毎日更新。

■マイナビニュース、マックファンでベンチャー・スタートアップの記事を連載。

■インバウンド、海外進出のEwilジャパン取締役COO
IoT、システム開発のビズライトテクノロジー 取締役
みらいチャレンジ ファウンダー
他ベンチャー・スタートアップの顧問先多数 

■著書
「ソーシャルおじさんのiPhoneアプリ習慣術」(ラトルズ)
「図解 ソーシャルメディア早わかり」(中経出版)
「ソーシャルメディアを使っていきなり成功した人の4つの習慣」(扶桑社)
「ソーシャルメディアを武器にするための10ヵ条」(マイナビ)
など多数。
 
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