スタンフォード大学の共感の授業―人生を変える「思いやる力」の研究(ジャミール・ザキ)の書評

three men laughing while looking in the laptop inside room

スタンフォード大学の共感の授業―人生を変える「思いやる力」の研究
ジャミール・ザキ
ダイヤモンド社

本書の要約

他者との接触を増やすことで、共感力が高まることがわかっています。「思いやりの心」は、自分で伸ばせる能力だと信じて、他者との接点を増やしましょう。意見が異なる人と話す際には、決めつけを排除し、相手の話を真剣に傾聴します。自分の態度を変えることが他者との関係を変えてくれるのです。

共感力は高められるのか?

やさしさの行動は、たいていの場合、共感に端を発するものだ。共感力の高い人ほど、より多くの寄付をして、より頻繁にボランティア活動をする。ほんの一瞬でも共感の心が動くと、人は他人を助ける行動に出やすくなる。(ジャミール・ザキ)

スタンフォード大学の人気准教授のジャミール・ザキは共感力を高めることは可能で、結果、よりよい人生を送れるようになると述べています。

友情、芸術、コミュニティ形成など、さまざまな場面でふさわしい対応を選ぶことで、私たちは共感力を高め、やさしさを広げることができると言うのです。

共感力が経験によって形成されることが様々な研究からわかっています。1歳のとき、共感力の高い親に育てられていると、2歳になった時点で、同年齢の子どもと比べて、他人に関心を示したり、人を心配したりすることが多くなります。4歳では人の気持ちになって考えることができ、6歳では人に対して寛大な行動をとれるようになるのです。

ルーマニアの心理学者のチームが孤児たちの調査をしたところ、だいたいは発育不良で、ネグレクトを受けていました。ほとんどの子が他人から愛情を向けられた経験がなく、他人を思いやる方法を学んだこともなく、サイコパスの特徴に似た共感力欠如の兆候を示していたのです。2歳前後で、引き取り手が決まった一部の孤児はトラブルがなくなることで、一般的なレベルの共感力が育っていくことがわかりました。特に、養父母にあたたかく迎えられた場合は、その傾向が顕著になりました。

大人になってからも、環境や状況によって共感の位置が固まってしまうことがあります。うつを経験すると、その後の数年間、共感力は低下します。このように共感は環境によって左右されますが、共感力はマインドセットを変えることで、高められることがわかっています。

著者はマインドセット「やればできる! 」の研究キャロル・S・ドゥエックの教えのもと、マインドセットを変えれば、共感力は伸ばせることを実験を通じて明らかにします。(キャロル・S・ドゥエックの関連記事

共感力は伸ばせると信じるなら、共感力は伸びる。しかし、それは現代社会の主流の考え方ではない。僕たちは「こころ固定説」で生きている。やさしさを発揮しにくい壁に囲まれて、その中で「こころ固定説」の情報ばかりを見聞きしている。そしてまたやさしさを塞ぐ壁が増える。悪循環だ。だが、この悪循環を打ち壊し、人間の本性僕たちの知能、性格、そして共感力はある程度は自分しだいで変わると思えるなら、そこから「こころ移動説派」として生きていくことも不可能ではない。

共感力を高められると信じるマインドセットを手に入れることで、私たちの思考と行動は変わります。まずは、マインドセットを変えることから始めましょう。

共感力を変えれば、行動が変わる!

共感力が伸びれば、日常生活での態度が変わる。人から聞いた話に、どう反応するか。出会った相手に、どんなふうに接するか。デジタルの世界で、どんな言葉を発信するか。上手に背中を押されれば、共感の発揮は険しい上り坂ではなく、軽々と走れる下り坂になる。

本書には白人至上主義者が子育てやメンターとの出会いを通じて、共感力を高めるストーリーが紹介されています。異なる他者との接触を通じたコミュニケーションが、過激な人のマインドと行動すら変えてしまうのです。

25万人以上を分析した最近の研究によると、他者と一緒に過ごす時間が長ければ長いほど、人は偏見を示しにくくなることが明らかになっています。接点をもつと、さまざまなタイプの他者に対して情が湧くようになります。

ふたりのアメリカ生まれの若者は、両者とも異性愛者で、能力が高く、白人ですが、片方は多様な集団に知り合いがいます。もう片方は、他人と距離を置いた生き方をしています。前者のほうが黒人やヒスパニック系の人々、それからアジアやメキシコや中央アメリカからの移民、そして高齢者、障がいのある人、さらにはLGBTQコミュニティに対する差別意識が低くなることが研究で確認されています。

別の研究では、接点を持とうと意図がなくても変化がもたらされることもわかっています。秋に大学に入学した白人学生を、ランダムで黒人学生と寮の同室にしたところ、白人同士で同室になった場合と比べて、春になった時点で人種的な偏見が薄れていたのです。

他者と一緒に働き、生活し、遊んでいれば、分断の壁を乗り越えられる。

人間は人とのつながりを求め、社会的団結を強めるための努力をします。よそ者が友人や同僚という立場で自分のチームに加わっているならば、彼らに共感することで目的を達成できるようになります。

他者との接触を増やすことで、共感力が高まることがわかっています。「思いやりの心」は、自分で伸ばせる能力だと信じて、他者との接点を増やしましょう。意見が異なる人と話す際には、決めつけを排除し、相手の話を真剣に傾聴することが重要だと著者は指摘します。自分を大切にできる人は他者にも思いやりを示せます。接触の効果とは実は自分自身に対する見方を変えられるのです。

未来の自分を明確にイメージできる人はより賢明な行動ができるようになります。自分の顔をデジタル加工で老けさせた写真を見せたると、被験者は老後のために積極的に貯金をするようになります。未来の自分に接したことで、その自分を支えようという気持ちが生まれるのです。

また、自分と同じ境遇から立ち直った人に出会うと人は自分の行動を変えられるようになります。ヘイトや人種差別者ですら、この方法で自分の人生を変化させ、よりよい人生を送れるようになっています。

前述のキャロル・ドゥエックのチームは、イスラエル人とパレスチナ人を対象に、個人も変われるし集団も変われる、と説得する実験を行いました。アラブの春やEU結成といった歴史的経緯を例に説明したところ、この説明を受けた被験者はイスラエル人もパレスチナ人も、半年経ってもお互いの存在を肯定的に受け止め、これからの平和の可能性に対して希望をもっていました。対立する両者は「平和を実現するために歩み寄ってもいい」と考えていたのです。

マインドセットが変わると、接触の効果も高まる。「よそ者」と出会ったときに協力しようとする意欲も強くなる。 周囲の人々を自分の仲間だと認識し、しっかり団結して協力しあう。そんな未来を思い描くことができるなら、叶えるためにがんばろうという思いも生まれる。

他者への思いやりを示すような接触を行えば、私たちはより良い人間関係を手に入れ、幸せな時間を過ごせるようになります。敵対する関係でも思考と行動を変えるヒントを与えることで、相手への共感を示せるようになります。

他者の価値を理解し、自分自身の価値も信じることがでれば、お互いに協力する気持ちが生まれ、より強い人間関係を気づけます。本書の知見やケーススタディを活用すれば、共感力を育めるようになります。



Loading Facebook Comments ...

コメント

タイトルとURLをコピーしました