シナン・アラルのデマの影響力の書評

television showing man using binoculars
デマの影響力
シナン・アラル
ダイヤモンド社

本書の要約

デマにはあっという間に拡散するという特性があります。ソーシャルメディアにはフェイクニュースが溢れ、さまざまな偽情報が短期間で広がっています。デマは速く、広く、そして力強く世の中に拡散していきます。便利なソーシャルメディアには、デマを拡散するハイプ・マシンという一面があることを忘れてはいけません。

世界はデマに動かされている?

ソーシャル・メディアでは、嘘は光の速さで広がっていくが、真実は糖蜜が流れるくらいの速度でしか広がらない。しかも、ソーシャル・メディアを流れるあいだに情報は歪曲されていくことになる。(シナン・アラル)

デマにはあっという間に拡散するという特性があります。ソーシャルメディアにはフェイクニュースが溢れ、さまざまな偽情報が短期間で広がっています。デマは速く、広く、そして力強く世の中に拡散していきます。今回のコロナ禍によって、SNSやメッセンジャーアプリ、SlackやZoomなどのコミュニケーション・ツールが一気に一般層にも普及し、フェイクニュースがますます力を持つようになっています。

私たちが日々接しているSNSや情報サイトは、巨大テック企業に支配されていると著者のシナン・アラルは指摘します。著者は現在、MITのイニシアティブ・オン・デジタル・エコノミー(IDE)の理事長を務めています。IDEは、デジタル・テクノロジーの世界への影響を調査する機関としては世界最大級なものになります。彼はMITの社会分析研究所の所長も兼務するソーシャルメディアやデジタルメディアの権威で、長年の調査から嘘と真実を明確に分ける手法を明らかにしています。本書を読むことで、世界が如何にデマに溢れているかを知ることができます。

ソーシャル・メディアの背後には巨大企業の経済原理が働いていることを忘れてはいけません。彼は最新のテクノロジーと行動心理の知見を活用しながら、世の中を動かし始めているのです。

実際、フェイスブック、ツイッター、インスタグラム、ユーチューブは、人々のコミュニケーションに大きな影響を与えています。これらのツールが私たちの生活に必要不可欠なものになりました。私たちが無料でこれらのツールを使ううちに、私たちのさまざまなデータが巨大テック企業にわたり、プライバシーを侵害しています。

ソーシャルメディアには、デマを拡散するハイプ・マシンという一面があることを忘れてはいけません。ハイプマシンの利便性の裏には、情報操作というリスクが隠されています。

著者は今のウクライナ危機を予言するような分析を行なっていました。2014年にロシアはツイッターやフェイスブックの情報を操作し、親ロシアの投稿を増やしていたと言います。親ロシア勢力は、ハイプ・マシンを積極的に活用して、クリミアの出来事についてのウクライナの世論、国際世論を操作しました。存在しないアカウントからフェイクニュースを流し、デマを拡散させ、ロシアを優位な立場に置きます。クリミアの併合はクリミア市民自身の意思に沿うものであるという認識が広まるよう仕向けたことが、成功の要因になったのです。

同じようにロシアは2016年にフェイクニュースを流すことで、アメリカ大統領選挙にも影響を及ぼしました。これまでの分析の結果、アメリカ大統領選挙の直前の3ヶ月間に(ロシアが関与したものであるか否かに関係なく)、フェイスブック上で最も関心を集めた20個の選挙関連のフェイク・ニュースは、最も関心を集めた20個の本物のニュースを合わせたよりも多くシェアされ、コメントも反応も多く得たことが明らかになりました。

ロシアがトランプに勝たせるために行ったあまりに的確な情報操作を知ると恐ろしくなります。選挙結果を作用する少数のアカウントを狙った情報操作が、投票行動に影響を及ぼし、激戦区で効果を発揮した可能性を示しています。著者は選挙結果に影響を及ぼしたかどうかについて明確な答えを出していませんが、影響を完全には否定できないと言及しています。選挙自体を疑わしいものに変える力をフェイクニュースは持っているのです。

著者によれば、政治に関するフェイク・ニュースと、都市伝説に関するフェイク・ニュースが最も伝染性が高く、最も速く、広く拡散することがわかっています。

フェイク・ニュースの拡散には、協調して動く多数のボットと、無意識の人たちの両方が関わっています。両者が共生関係になり、互いに助け合うことで、情報が拡散されてしまうのです。

ハイプ・マシンが今や、偽情報、誤情報の拡散経路になっているのです。フェイクニュースは扇情的で短期間にシェアされることで、人々の印象により残りやすくなり、行動に影響を及ぼします。マスメディアから権威者が偽情報を流し、SNSでフィードバックループが起こると手がつけられなくなるのです。

ハイプ・マシンの標的は人間の心である。私たちの神経細胞を刺激し、購買行動、投票行動、運動の仕方などに影響を与える。誰を愛するかにまで影響を与えることもある。私たち一人一人を分析し、その結果を踏まえて、読むもの、買うもの、信じるものの選択肢を与える。

ハイプ・マシンは私たちの選択を学習し、提案を最適化することを繰り返し、その精度を高めています。私たち一人一人が何を好み、欲し、何に関心を持っているのか、いつ世界のどこで何をしたのかといったことをすべてデータとして蓄えています。そして、私たちの資産を狙うための広告の最適化を行い、人の行動を操作することで、大金を生みながら、成長を続けています。

「新奇性の仮説」とは何か?

フェイスブック、グーグル、ユーチューブ、ツイッターなどのソーシャル・メディアには……何十億という人々が集まる。こうしたプラットフォームの基礎を成すアルゴリズムには、怒りや恐れを引き起こすような話ばかりを選んで広める性質がある……。フェイク・ニュースが真のニュースよりも広まりやすいのはそのためだ。嘘が真実よりもはるかに速く広まることは数々の研究でも確かめられている。(サシャ・バロン・コーエン)

イギリスのコメンディアンのサシャ・バロン・コーエンは、ソーシャルメディアを史上最大のプロパガンダ・マシンと呼びます。実際、フェイスブックはトランプの差別的な発言を放置し、同社の社員の離反を起こし、メディアやユーザーから非難を浴びました。

ハイプ・マシンのデメリットや危険性だけを語っても意味はありません。著者はハイプ・マシンには希望もあれば、絶望もあると言います。ハイプ・マシンは今生きている人たち、そして次の世代の人たちすべてに関係があり、これを避けて通ることはできなくなっています。

私たち人間の脳がソーシャル・メディアに引きつけられやすい性質を持っていることや、感情、社会、経済、様々な要因が私たちをソーシャル・メディアに結びつけていることも知った。

ハイプ・マシンは、国家や企業の目的に合うように操作されていることを忘れてはなりません。政府や企業は個人の行動もコントロールできるのです。SNSやブログでやりとりされる情報に手を加えることで世論を変化させ、人々の行動を変えてしまうことが可能になっています。

今回の新型コロナウイルス感染症の流行によって、ハイプ・マシンの影響力はさらに高まっています。人々が直接、会って対話することが減り、ソーシャル・メディアへの依存を強めているために、デマが拡散しやすくなっています。

SNS上では友達関係がクラスター化しがちです。友達をレコメンドするアルゴリズムにはクラスター化を促進する傾向があるので、それに従って仲間の選択を行えば、似たような友人が増えていきます。ソーシャルメディアの世界はスモールワールド(閉じた世界)になり、外との関係が希薄になります。

人間関係が濃いスモールワールドにフェイクニュースが投げ込まれることで、情報を疑わない人たちそれをシェアします。閉じた世界では情報伝達速度が速くなるために、デマが一気に拡散してしまうのです。

実際、2019年の最初の4ヶ月にコメントの多かったフェイスブックの記事トップ10のうち5つは、ファクトチェックの結果、内容が虚偽だったことがわかっています。フェイスブックのアルゴリズムが提示する動画やニュースにはデマが混じっていると考えておかないと私たちは間違った情報によって、行動を左右されてしまいます。

逆に、私たちがアルゴリズが提案する情報を吟味し、正しい行動をとれば、ソーシャルメディアのアルゴリズムをよりよくできるのです。ハイプ・マシンの特性を十分に学べば、アルゴリズムの方ももそれに対応して変わっていくはずです。

著者とソルーシュ・ヴォソウギ、デブ・ロイの3人は、「新奇性の仮説」でフェイクニュースの拡散を説明します。

新奇なものは人間の注意を引きつける。驚いたり、感情を大きく動かされたりすると、その原因となったものに注目するのだ。それまでの価値観、世界観を変えさせられるような事実を知ると、人はそれを誰かと分かち合いたいと思う。誰かに知らせれば、知らせた相手も自分と同じように、新たな秘密を知り得た特別な人間になれると思うのだ。

実際、著者たちが調査したところ、この「新奇性の仮説」の正しさが証明されました。ユーザーたちのリプライの内容を調べた結果、嘘の噂のほうが、真実の噂に比べ、ユーザーに大きな驚きや強い嫌悪感を抱かせていました。逆に、真実の噂のほうは、悲しみや期待、喜び、信頼などを抱かせることが多かったと言います。

この結果を見ると、新奇性に加え、フェイク・ニュースのどのような要素が人々にリツイートを促すのかもわかります。人間がフェイクニュースに影響を受けやすい存在であることを私たちは理解する必要があります。

ソーシャルメディアが登場したときには、その期待値がとても高かったのですが、今ではそのデメリットも明らかになっています。本書を読むことで、如何に私たちが日頃からフェイクニュースに接しているかを理解できます。実際、企業や国家が悪用し、フェイクニュースを発信するケースが増えています。

今日はフェイクニュースの実態を明らかにしましたが、次回は拡散するデマに対する対処法について紹介したいと思います。



 

この記事を書いた人
徳本昌大

■複数の広告会社で、コミュニケーションデザインに従事後、企業支援のコンサルタントとして独立。
特にベンチャーのマーケティング戦略に強みがあり、多くの実績を残している。現在、IPO支援やM&Aのアドバイザー、ベンチャー企業の取締役や顧問として活動中。

■多様な講師をゲストに迎えるサードプレイス・ラボのアドバイザーとして、勉強会を実施。ビジネス書籍の書評をブログにて毎日更新。

■マイナビニュース、マックファンでベンチャー・スタートアップの記事を連載。

■インバウンド、海外進出のEwilジャパン取締役COO
IoT、システム開発のビズライトテクノロジー 取締役
みらいチャレンジ ファウンダー
他ベンチャー・スタートアップの顧問先多数 

■著書
「ソーシャルおじさんのiPhoneアプリ習慣術」(ラトルズ)
「図解 ソーシャルメディア早わかり」(中経出版)
「ソーシャルメディアを使っていきなり成功した人の4つの習慣」(扶桑社)
「ソーシャルメディアを武器にするための10ヵ条」(マイナビ)
など多数。
 
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