メタバースと経済の未来 (井上智洋) の書評


メタバースと経済の未来
井上智洋
文藝春秋

本書の要約

AIによって頭脳資本主義が到来していますが、メタバースによって、今後も頭脳資本主義が加速し、格差は今以上に拡大します。著者はそれを解決するために、国民全員に生活に必要な最低限のお金を給付する社会保障制度「ベーシックインカム」を導入すべきだと言います。

近未来にはメタバースが当たり前になる?

人類は今から20年以内に、目覚めている多くの時間をコンピュータ上の仮想空間で過ごすようになる。(井上智洋)

著者で経済学者の井上智洋氏は、近未来に私たちが暮らす空間が仮想空間になると指摘します。テクノロジーの進化のスピードは激しく、私たちは10年前と異なる世界を生きていますが、今後、世界はもっと激しく変化するはずです。2007年以前にiPhoneの登場を予期した人は少なかったですし、多くの人はここまで人々のライフスタイルの影響を及ぼすとは考えていなかったはずです。

メタバースや仮想空間もこうなる可能性が高いと考えた方がよさそうです。著者はこれから短期間のうちに雪崩を打って仮想空間へ移り住むようなことがあってもおかしくはないと言います。

ビジネスの分野では、オンライン会議の延長上でメタバースが普及していきます。すでにメタバース内でバーチャルオフィスが提供されていますから、仕事のオンライン会議の場からメタバースが普及するという道筋が示されるはずです。そこから、教育や娯楽、人々の交流などにメタバースが広がっていきます。

メタバースが普及するには、仮想空間へのアクセスがもっと簡単になり、UI/UXの進化が求められます。今後、ツールが手軽で使いやすくなれば、イノベーターだけでなく、一般層にも普及していきます。5年から10年程度という時間軸で、メタバースが私たちの生活の中で当たり前になっていくのです。

遠くない未来に、人間の頭脳はAIに、身体はAIを組み込んだロボットに、そして世界はメタバースによってそれぞれ置き換わっていくというわけです。そして、この3つがそろえば森羅万象すべてが機械化されデジタル化されるという、ある意味恐ろしい状況がもたらされるわけです。  

21世紀前半はGAFAMの時代でしたが、Web3の世界の非中央集権型の分散化社会では、勢力図が変わると言われています。しかし、著者は各社がデジタル系のプラットフォームを持っていること、限界費用ゼロやネットワーク外部性という特質がなくならないことから、GAFAMの独占・寡占の地位は揺るがないと指摘します。

また、著者はメタバースのデジタル経済では、リアルの世界に比べて、生産にさほど金がかからないので、資本家の力はそれほど強くならないと述べています。

では、メタバース領域では、誰が力も持つのでしょうか?AIやロボティクスが普及しても人間の仕事は部分的には残りますし、それと同様にメタバースが普及しても、実空間での人間の営みは部分的には残ります。

メタバースにおける経済の主な担い手は、資金を提供する資本家でもなく、モノを物理的に作ったり運んだりする肉体労働者でもなく、アバターやデジタルな洋服をデザインするクリエイターになります。結果、メタバースの普及とともに、クリエイティブ・エコノミーはますます加速していくのです。

メタバースで日本が勝ち残る方法

未来に訪れる「純粋機械化経済」では、もはや機械を操作する人間の労働者が必要なくなります。AIが人間に代わって機械を操作するだけでなく、工場全体をコントロールする「スマートファクトリー」がこれまでの工場にとって代わります。 機械化経済における機械と労働という二つの生産要素から労働がなくなり、AI、ロボットを含む機械だけでおよそ生産活動が行えるようになる。そうした純粋機械化経済が、2045年から60年くらいに実現するだろうと私は予測しています。  

純粋機械化経済の時代が到来しても、人間がまったく必要なくなるわけではありません。新しい技術を研究開発したり、新しいビジネスや商品を世に送り出したりするような「クリエイティビティ系」の仕事は確実に残ります。

一方、メタバース内で生まれる経済を著者は「純粋デジタル経済」呼びます。純粋デジタル経済は「デジタルな財・サービスのみが供給される経済」と定義できます。この経済ではデザインしたら生産活動は終わりで、物質的なモノを製造する必要がありません。ここが純粋機械化経済とは異なるポイントになります。

メタバース内の経済である純粋デジタル経済には以下の特徴があります。
・資本財ゼロ
・限界費用ゼロ
・独占的競争
・供給の無限性
・空間の無限性
・移動速度の無限性

メタバース内の経済では資本財をほとんど必要としないため、資金需要は減ります。 ここでは、デザインできる人が圧倒的に有利になります。また、メタバース内ではいろいろなイベントが開催されるため、プロデュース能力の高い人や面白いアイデアを出せる人が活躍します。メタバースの勝ち組は、頭で稼げるクリエイティブ系の一部の人になりそうです。AIによって頭脳資本主義が到来していますが、メタバースによって今後も頭脳資本主義が加速していくのです。

頭脳資本主義が加速することで、格差は今以上に拡大します。著者はそれを解決するために、国民全員に生活に必要な最低限のお金を給付する社会保障制度「ベーシックインカム」を導入すべきだと言います。

最終章で紹介されている未来予測を私は特に興味深く読みました。日本人の知的好奇心は世界で最も低く、今後のWeb3やメタバースなどテクノロジーが進化する世界では、勉強しない日本人が負け組になるというのです。デフレ時代に政府が未来への投資をやめたことが敗因の一つに上がっていますが、今後も財務省主導の政策が続くなら、厳しい未来を避けられそうにありません。

ただ、日本がこの領域で勝利できる可能性も残っています。メタバース空間では日本のお家芸であるアニメや漫画が武器になります。このコンテンツにゲーム開発者のスキルを組み合わせることで、メタバースで日本が勝者になれるかもしれません。AIやロボティックスで負け組になった日本に残された最後の可能性がメタバースであるならば、政府や企業はここに積極的な投資を行うべきです。


 

この記事を書いた人
徳本昌大

■複数の広告会社で、コミュニケーションデザインに従事後、企業支援のコンサルタントとして独立。
特にベンチャーのマーケティング戦略に強みがあり、多くの実績を残している。現在、IPO支援やM&Aのアドバイザー、ベンチャー企業の取締役や顧問として活動中。

■多様な講師をゲストに迎えるサードプレイス・ラボのアドバイザーとして、勉強会を実施。ビジネス書籍の書評をブログにて毎日更新。

■マイナビニュース、マックファンでベンチャー・スタートアップの記事を連載。

■インバウンド、海外進出のEwilジャパン取締役COO
IoT、システム開発のビズライトテクノロジー 取締役
みらいチャレンジ ファウンダー
他ベンチャー・スタートアップの顧問先多数 

■著書
「ソーシャルおじさんのiPhoneアプリ習慣術」(ラトルズ)
「図解 ソーシャルメディア早わかり」(中経出版)
「ソーシャルメディアを使っていきなり成功した人の4つの習慣」(扶桑社)
「ソーシャルメディアを武器にするための10ヵ条」(マイナビ)
など多数。
 
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