ゆるい職場-若者の不安の知られざる理由 (古屋星斗) の書評

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ゆるい職場-若者の不安の知られざる理由 
古屋星斗
中央公論新社

本書の要約

経営者や上司、人事担当者は、優秀な若手の社外活動を積極的に応援し、成長を促すとともに、会社に対する気持ちをポジティブにしていくべきです。彼らとの人的ネットワークを作ることで、退職後もアルムナイやプロジェクトベースで自社に貢献してもらうのです。こうしたメンバーシップ型を超えた「ハイパー・メンバーシップ型」の組織によって、ゆるい職場の時代に勝てる会社をつくれるようになります。

ゆるい職場とは何か?

若年失業率の異質な低さは、少子高齢化が進む日本のなかで、若者への企業のニーズがこれまで以上に高まっていることを表している。そして同時に、若者をどう育て、どう経済社会を担う戦力にしていくかという問題の切迫感は、過去例がないほど高まっているのだ。(古屋星斗)

リクルートワークス研究所の2022年3月の調査によると大手企業に入社した新卒社員の36%が自分の職場をゆるいと感じていると言います。

最近の早期離職率の数字を見ると大手企業のみが上がっていることが明らかになりました。その理由の一つとして、リクルートワークス研究所主任研究員の古屋星斗は労働法改正による職場の運営ルールの変化をあげています。ブラック企業の問題を解決するために2015年に若者雇用促進法が施行されました。また、2018年施行の働き方改革関連法や2020年施行のパワハラ防止法によって、大企業の職場の空気は変わり、ゆるい職場が増加しているのです。

著者は、2021年の年末にかけて、20社程度様々な業種の大手企業の新入社員に仕事について、インタビューを実施した際に、職場がゆるくなっていることに気づきます。残業の減少、負荷の低下、叱責がないことに不満を感じており、実際、以下の返答でゆるい職場の実態を明らかにしました。
「正直言って、余力があります」
「ゆるい。社会人ってこんなものなんですね」
「学生時代に近くて肩透かしです」

「ゆるい職場」とは働く若者の能力や期待に対して、著しく仕事の負荷が少なく、やりがいや成長の機会が乏しい職場を指します。コンプライアンス対応を強化したり、コミュニケーションスタイルの変化によって、このゆるい職場が日本に増えていることは間違いありません。今後このゆるさが優秀な人材を離脱させる原因になると著者は指摘します。若者はゆるい職場にいることに不安を感じ、そこから逃げ出そうとしているのです。

ゆるい職場にいては、社外で通用しなくなる、自分を成長させられないと考える若者が多数存在することを経営者や人事担当者は認識し、正しい解決策を考えるようにすべきです。

ゆるい職場のパフォーマンスを高める方法

キャリアへの焦燥感や根源的な不安は、仕事の負荷の低下や職場環境の改善によっては消失しておらず、むしろ強まっているようにすら感じられる。

・この職場にいると転職できなくなるのではないか?
・自分の会社でしか生きられない人間になってしまう。
・同年代と比較して活躍できるようになるイメージがわかない。
・会社の仕事を続けていると、キャリアの選択肢が狭まるように感じる。
このような声は、いくら労働時間を削減し、職場環境を改善してもなくなることはありません。

本書のデータによると職場が「ゆるいと感じる」新入社員では、合わせて57.2%が「すぐにでも」「2、3年程度で」で退職したいと答えています。

また、若者の意識が二層化していることも明らかになっています。「現在の会社長く勤めたい」か「魅力的な会社があれば転職したい」かと聞くと、52:48という回答になっています。

現代の若者の能力や就業態度は、人によって大きく異なっています。前の世代に比べ、優秀な学生は企業や社会との関わりを深めています。1ヶ月以上のインターンシップを10%の学生が経験したり、ビジネスプランやハッカソンの参加が3.9%、起業や法人設立をした学生も2.9%いました。この入社前の体験の広がりが、新入社員の仕事観にも大きな影響を及ぼしています。

入社前に社会的経験があると会社への”見切り”が早くなる傾向があります。新入社員の離職率が、経験が多い層ほど高い結果となっているのです。初職離職率が、経験「多数」では25.4%に上り、「単発」や「複数」グループでは20%前後。他方で「全くない」は11.7%と低くなっています。この結果は、自社のことを高く評価し、前向きに業務に向かっている新入社員が必ずしも定着しているわけではないことを示しています。

優秀な若者を自社に定着させるためには、成長実感を与えることが鍵になりそうです。

仕事の量的負荷は成長実感には関係がなく、質的負荷が高まると成長実感も高まり、関係負荷が高いと成長実感が低くなる、という状況にある。こうした結果から重要になるのは、「関係負荷をかけずに質的負荷をかけるアプローチが必要になる」ということだと言えよう。

リクルートワークス研究所の調査によると副業や兼業などの社外での活動経験がある人ほど会社への評価が高いことが明らかになりました。自社への評価が高い人ほど社会活動スコアが高いのです。他社と比べて初めて、自社の評価が高まります。外から自社を客観視することで、強みや良さを再認識できるのです。しかし、この社外活動している人の転職率が、社外活動をしていない人に比べ、10%高いこともわかっているので注意を払う必要があります。

社内での新たなコミュニティづくり、副業や出向などを通じて、若手にさまざまな経験を積ませることで、自社の業務へのフィードバックがもたらされます。外側の世界で若手を成長させることで、やる気のある社員の自社への好感度を高められます。

また、従業員、企業の双方のリスクを下げるために、最近では「コミットメントシフト」という動きが出始めています。次職の仕事内容、職場環境、そして上司の雰囲気を確認するなど、転職前にまずは一定期間、一緒に働いてみる仕組を作ることで、転職での失敗も防げ、原職に戻れる環境も整えておけます。

コミットメントシフトには以下のメリットがあります。
・次職参加時の扱いが、「はじめまして」ではなくなります。副業などで一緒に働いたことがある人がジョインしてくるという「仲間の本格参加」になります。
・次職とミスマッチがあった場合の対応も、かつては再転職しか手がありませんでしたが、コミットメントを残している原職へ戻れば良いのです、この際、原職に戻る社員のロイヤリティはデータ的には上がることが明らかになっています。
・コミットメントシフトでは事前に一緒に働く期間があるため、今までは分からなかった情報が手に入り、お互いを可視化した上で転職できるため、当たり外れがなくなります。

これまでのように自社にしがみつく人材を育てるのではなく、外の世界とも比較して、消去法ではなくポジティブな理由で自社を選ぶ人材をつくっていく。これが日本企業の現状を、さらにはこれから企業の中核を担っていく若手の仕事への姿勢やキャリアづくりを変えていくのではないか。

自社に愛着を持つ退職者をアルムナイネットワークにすることで、彼らの知見を自社に還元できるようになります。また、自社の若手を外に出すとともに、外からメンバーを連れてくることで、強い組織を作れるようになります。既存の社員にも外の空気を感じてもらうことで刺激を与えられ、組織によい循環が生まれます。

経営者や上司、人事担当者は、優秀な若手の社外活動を積極的に応援し、成長を促すとともに、会社に対する気持ちをポジティブにしていくべきです。彼らとの人的ネットワークを作ることで、退職後もアルムナイやプロジェクトベースで自社に貢献してもらうのです。こうしたメンバーシップ型を超えた「ハイパー・メンバーシップ型」の組織によって、ゆるい職場の時代に勝てる組織をつくれるようになります。

本書の関係負荷なく質的負荷を与え、若手社員を成長させる方法(横の関係で育てる)は参考になります。
・若手中心のチーム編成
・目的、期限のある業務を任せる
・成果が可視化やすい業務とする
ぜひ本書をご一読いただき、優秀な若手を自社に定着させ、成長させる方法を実践ください。


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