理念経営2.0 ── 会社の「理想と戦略」をつなぐ7つのステップ
佐宗邦威
ダイヤモンド社
本書の要約
これからの企業は、単なる収益追求だけではなく、意義を生み出す場として存在することが求められます。そのために、企業の核となるのは、その企業が持つ哲学や思想、つまり企業理念です。企業理念は、社員に対して「意義」を感じる体験を提供することで、社員のモチベーションを高め、イノベーションの促進につながります。
現代の企業に企業理念が必要な理由
この状況を抜け出すために、新しいかたちの経営が求められている。そして、その流れのなかでミッション、ビジョン、バリュー、パーパスに代表される理念を策定しようという動きが生まれているのだ。(佐宗邦威)
最近、パーパスやビジョン策定が経営者の注目を集めてます。かつては、企業が利益を上げ続けることさえできれば、その企業は生き残ることができました。しかし、現在では本当にその企業が「社会や環境にとって良いことをしているのか」という点が問われています。
なぜなら、企業活動が必ずしも社会や環境に良い影響を与えているとは限らないからです。極端に言えば、「良いことをしていない企業は社会には必要ない」とまで言われるような時代が訪れています。 このような背景には、人口減少の日本において働き手が減少し、働く意義を示せない企業は存続が難しくなっているという事情もあります。
社会が求める価値や意義に対応できない企業は、従業員の採用や人材の確保にも苦しむことになります。結果として、企業としての存在意義が問われる時代となっています。 現代の経営者としては、利益追求だけでなく、社会や環境に対する責任を重視することが重要です。
企業は持続可能な発展を目指し、社会的な価値創造や環境への配慮を取り入れるべきです。具体的には、CSR(企業の社会的責任)の実践やサステナビリティへの取り組み、社会貢献活動の推進などが挙げられます。
また、企業の存続と成長において、従業員の働きがいやモチベーション向上も重要な要素となります。働く意義や目的を明確にし、従業員が自己の成長や貢献を感じられる環境づくりが求められます。
働き手の減少が進む中で、人材の確保や定着に取り組むことが、企業の生存戦略に不可欠です。 経営者としては、社会や環境への影響や社会的な価値を考慮しながら、企業活動を展開することが求められます。企業の持続的な成長と社会の発展を両立させるため経営者としては、社会や環境への影響や社会的な価値を考慮しながら、企業活動を展開することが求められます。
著者がさまざまな経営者と対話する中でわかったことは、さまざまな場面で経営者には企業理念が要請されているということです。以下の4つの文脈で理念経営が求められていると言います。
①従業員からの要請
近年、リモートワークと自律的な働き方が若い世代を中心に普及し、仕事の社会的意義を実感して働きたいという動機を持つ人々が増加しています。そのため、従業員を強制的に働かせることは不可能になってきています。代わりに、従業員自身が自らのモチベーションを高め、本業務の意義を実感できるようサポートする必要があります。経営側がこれを実現できない場合、低いエンゲージメントスコアに直面することになります。
②株主からの要請
現在、株主からはESG投資および人的資本開示に関する要求が高まっています。事業の継続にとってリスクとなる要因について開示および対策を求められており、自社の事業における社会および環境の意義やインパクトについても開示が必要とされています。
このような意義やインパクトを確定するにあたり、企業理念を明確化することが不可欠です。また、2023年度決算より上場企業には人的資本の開示が義務化されることになりました。そのため、人材への投資や組織力についての情報開示も求められることになります。
③パートナー企業からの要請
現代において、社会課題解決のためには複雑な課題が発生し、また、その課題は一社だけでは解決が難しくなっています。このような課題を解決するためには、業界を横断した協業や共創が必要になってきています。協業相手を選択する上で重要な考慮は、企業理念の共有です。長期的に共に成長し、社会的責任を果たす企業を選定することが求められます。
④ユーザーからの要請
最近になって、消費者が商品やサービス選びの基準として、企業の社会的な姿勢を重視する傾向が高まっています。特に、継続して関わるようなサブスクリプションサービスの増加により、消費者は単なる顧客ではなく、会社の企業理念を肯定し、一緒に成長していくサポーターになることがあります。このような背景から、消費者に共感を呼び、応援をもらえるような企業理念の構築が、ますます重要になっています。
経済学者のアーロン・ハーストは、アメリカ人の3割が、仕事によって得ることができる働きがいや生きがいを職務遂行の主な目的としていることを指摘します。ここで言う「働きがい」「生きがい」とは、お金や名誉、成長に伴い得られるものではなく、自分の仕事が社会的に好ましい影響を与えたり、「より大きなこと」につながったりすると感じることであり、このような状況において、自分がもたらす成果に喜びを感じることを指します。
また、企業の存在意義に共感を持っている社員は、そうでない社員と比べて在籍年数が長くなるというデータがあり、自分の仕事に意義を感じる人は、意義を感じていない人に比べてパフォーマンスが高いということも報告されています。
会社の役割は意義を生み出す場所にシフトする!
会社は「意義を生み出す場」にシフトしていく。
これからの企業は、単なる収益追求だけではなく、意義を生み出す場として存在することが求められます。そのために、企業の核となるのは、その企業が持つ哲学や思想、つまり企業理念です。企業理念は、社員に対して「意義」を感じる体験を提供することで、社員のモチベーションを高め、イノベーションの促進につながります。
社員が「意義」を感じる体験を得ることで、自発的に仕事に取り組み、結果としてイノベーションが生まれやすくなります。なぜなら、社員は企業の理念や思想に共感し、それに基づく仕事に取り組んでいるからです。そして、そのイノベーションが実現されることによって、社員は新たな「意義」を感じる体験を得るのです。
こうしたサイクルが生まれることで、企業は持続的な価値創造を実現することができます。 このような意味で、企業が「意義を生み出す場」にシフトしていくことが重要です。企業の理念こそが経営資源の核となり、社員が共感し、活かせる価値を生み出す源泉となるのです。経営者としては、企業理念を明確にし、社員に共有することが求められます。
また、社員が企業理念を具体的な行動に結びつけられるような環境や仕組みを整えることも重要です。 企業の持続的な成長と社会的な貢献を両立させるためには、経済的な成果だけでなく、社員の「意義」や価値を重視し、それを具現化する体験を提供することが不可欠です。企業理念が経営の指針となり、社員が意義を感じる働き方や成果を生み出せる環境を築くことが、価値創造を継続的に実現する鍵となるのです。
今後の経営理念は、「社長の誓い」ではなく、「みんなの物語」の源泉としての性格を持つようになります。そんな理念をつくるには、組織のなかに暗黙裡に存在する思想を掘り起こし、言語化していくことが必要になると著者は指摘します。
「社長の誓い」としての企業理念を植えつけていく経営スタイルが理念経営1.0であるとすれば、あくまでも「みんなの価値創造の物語を生むためのソース」として企業理念を位置づけていくあり方は理念経営2.0と呼ぶことができるだろう。
VUCAと呼ばれる時代において、私たちは自身を常に変化させ続けることが合理的であると認識しています。しかし、あまりにも変化しすぎると、私たち自身の核がぼやけてしまうことがあります。したがって、変化しながらも変わらない核を持つことが重要です。このような矛盾を解消するためには、私たちが社会に対して果たし続ける役割を明確に表明する必要があります。それが、ミッションやパーパスとしての意思表明です。
事業の核が揺らいだ時こそ、ミッションやパーパスを作り直したり見直したりするタイミングだと言えるでしょう。 ビジョン、バリュー、ミッション/パーパス、ナラティブ、ヒストリー、カルチャーは、理念経営2.0を支える経営資源であり、その生態系(エコシステム)の構成要素です。
価値創造を追求する組織において、ミッション・ビジョン・バリュー・パーパスなどのWHYが意味創造の基盤となります。これらの企業理念は、私たちがなぜ存在し、何を追求するのかを明確に示すものです。ビジョンは将来の理想像を描き、バリューは行動指針や価値観を示し、ミッションやパーパスは社会への果たすべき役割を表明します。 これらの経営資源は組織内に浸透し、共有されることで組織の文化や行動の基盤となります。
組織の一員として、私たちは自らの行動や意思決定がミッションやパーパスに合致しているかを常に考え、それを追求することが重要です。 私たちの存在意義を明確にし、ミッションやパーパスを持つことで、組織は経営資源を活かし、意味創造の旅に進むことができます。私たち自身がWHYに基づいて行動し、共通の目標に向かって協力することで、より意義ある成果を生み出すことができるのです 。
ミッション・ビジョン・バリュー・パーパスを共通の土台にした創発の場・仕組みづくりがこれからの企業における肝なのだ。
重要なのは、人々がよりよく協働して、アイデアを生み出しやすい場やコミュニティを作り上げることです。このためには、バリューに基づく濃密な組織文化を築き、心理的安全性の高い社内コミュニケーション環境を整える必要があります。これが「HOW」の一環となります。 共創文化のある開かれた場には、優れた人材やパートナー、顧客が集まってきます。そこで質の高い人的リソースが集結すると、新たなチエが生まれやすくなります。
企業理念が共有された組織では、新しい商品、サービス、事業などが創造され、結果として戦略的な取り組みや目標が形成されるのです。 協働や共創を促進するためには、以下のような要素に注力することが重要です。
①組織文化の構築: 共通のバリューや目標に基づく組織文化を醸成。チームワークや相互尊重を重視し、アイデアの出し合いや意見交換が活発に行われる環境を作り上げましょう。
②心理的安全性の確保: 社内のコミュニケーションにおいて、意見や提案を自由に述べられる安心感を確保します。失敗を受け入れる文化を醸成し、成長や学びを奨励しましょう。
③コラボレーションの促進: 部門や役職の枠を超えたコラボレーションを推進します。異なるバックグラウンドや専門知識を持つ人々が交流し、アイデアの掛け合わせによって、より豊かなアウトプットが生まれます。
④イノベーションを支援する環境づくり
以上の取り組みによって、チームや組織がより協働し、アイデアの創造と実現が促進されます。結果として、新たな商品やサービス、事業戦略などが生まれ、持続的な成長と競争力の向上に繋がるのです。 ビジネス環境は日々変化し、時にはVUCAな状況に直面することもあります。そのような環境下で成功するためには、協働と共創を推進し、組織内外の豊富なリソースを活用することが不可欠です。
ビジョン、バリュー、ミッション/パーパスなどの企業理念が、意味創造の基盤となり、共創文化を育む経営の重要な要素となります。 私たちは共創の力を最大限に活用し、変化する環境に柔軟に対応しながら、意味ある成果を生み出していきましょう。それが経営者としての使命であり、組織の成長と社会への貢献のための重要な道筋です。
経営理念2.0の作り方
経営理念2.0とは以下の問いに答え、生み出し、それを組織に定着させることから始まります。
・ビジョン私たちは将来、どんな景色をつくり出したいか?
・バリュー私たちがこだわりたいことはなにか?
・ミッション/パーパス私たちはなんのために存在しているのか?
・ナラティブ私たちの会社はどこから来て、どこに向かうのか?私たちはなぜ、ここにいるのか?
・ヒストリー・カルチャー・エコシステム
私たちのいまをつくった原点はどこにあったのか?
私たちの会社の「らしさ」とはなんだろうか?
私たちの理念を育てるために、どんな仕組みが必要か?
ビジョン、バリュー、ミッション/パーパス、ナラティブ、ヒストリー、カルチャーは、エコシステム(仕組み)としてうまく組み合わさることで、会社としての価値創造につながる経営資源になるのだ。
ビジョン、バリュー、ミッション/パーパス、ナラティブ、ヒストリー、カルチャーは、エコシステムとして相互に組み合わさることで、経営資源となり、会社の価値創造に繋がるのです。
ビジョンは未来の理想像を描き、組織の方向性を示します。バリューは組織の信念や原則を表し、共通の行動基準となります。ミッションやパーパスは、社会への果たすべき役割を明確にします。ナラティブはストーリーテリングを通じて組織の意義や成果を伝え、ヒストリーは過去の経験と学びを活かします。そして、カルチャーは組織の行動パターンや価値観を形成し、共創と協働を促進する土壌を提供します。
これらの経営資源が有機的に組み合わさることで、組織は意味ある成果を生み出し、競争力を高めることができます。経営者としては、これらの要素を組織内外に浸透させることに注力し、組織文化を育みましょう。
組織全体が共有するビジョンとバリューに基づいた行動を奨励し、ナラティブやヒストリーを活用して組織のアイデンティティを強化します。 経営者の役割は、ビジョンやバリューをリーダーシップをもって示し、ナラティブやヒストリーを通じて組織の共通のストーリーを作り上げることです。これによって、組織全体が共感し、共有する目標や意図を明確にすることができます。
組織のカルチャーは、経営者のリーダーシップや行動によって形成されます。経営者は、自身が理念経営の理念を実践し、組織のメンバーにその理念を共有し、共鳴を生み出す役割を果たすべきです。カルチャーが育まれることで、組織内のコラボレーションや共創が促進され、イノベーションが生まれやすくなるのです。
ビジョンに基づいた戦略の策定やバリューを実践する行動、ミッションやパーパスの明確な伝達、ナラティブやヒストリーを通じたストーリーテリング、そしてカルチャーの形成と維持に取り組むことによって、イノベーションが起こり、企業は持続的に成長できるようになります。
コメント