人はなぜ物を欲しがるのか (ブルース・フッド)の書評

photo of woman holding white and black paper bags

人はなぜ物を欲しがるのか
ブルース・フッド
白揚社

本書の要約

私たちは、所有物を通じて個人のアイデンティティを表現し、社会との関係性を築き、安全や安心感を得ることがあります。物質的な財産を所有することによって、幸福や満足を享受できるという信念が存在します。しかし、物質的な財産は持続的な幸福や満足を提供するものではありません。このルールのもと、所有に対するマインドを変えたほうがよさそうです。

人は所有によって幸せになれるのか?

人間を人間たらしめているもの、それが所有である。所有が心に及ぼす力は強力で、所有物を守るために命を危険にさらす人さえいる。(ブルース・フッド)

ブルース・フッドは、イギリスのブリストル大学で発達心理学を専門に教えている教授です。本書でフッドは「所有」という概念を探求し、それが私たちの心理や行動にどのように影響を与えるかを明らかにしています。心理学を交えた広範な考察を通じて、彼は人間と所有物との複雑な関係性を解き明かしてくれました。

私たちは、所有物を通して、自分自身を表現し、社会とつながり、安心感を得ています。 彼の研究は、私たちの生活に大きな影響を与える可能性があります。私たちが所有物とどのように関わっていくのか、彼の研究は私たちにヒントを与えてくれます。

私たちはこの貴重な人生を生きる機会を与えられています。しかし、私たちは生きるための時間を、所有という目標に集中し、物質的な財産の蓄積に執着しています。大切な時間をモノの購入や所有欲に支配されているのです。

私たちは、物質的な財産を所有することで、幸福や満足を得ることができると信じています。しかし、物質的な財産は、私たちの幸福や満足を永続的に与えてくれるものではありません。むしろ、物質的な財産は、私たちの欲望を膨らませ、私たちを不幸に導く可能性があります。心理学者ダン・ギルバートはこれを「欲求ミス」と名付け、人間がよく陥る誤解であると指摘しています。

私たち現代人はますます多くの物を所有したいという不満足な欲求に駆られ、物質的な世界の中で何でも手に入れようと熱望しています。しかし、この所有したいという欲求は自己満足でしかなく、実際には無意味な浪費であることが分かります。実際、基本的なニーズや快適さが満たされた後、さらなる所有が真の充実感をもたらすことはめったにありません。

私たちが物を手に入れた時の喜びや満足感を完全に予測するのは困難で、特にこの現象は所有に対する考え方に顕著です。消費者向け広告の多くが「この商品を手に入れることで幸せになれます」というメッセージを伝えており、これは私たちの予測の誤りを利用した戦略です。私たちは、マスメディアやSNSを通じて、頻繁に、所有することで幸せになれるという幻想を与えられています。

所有は競争を激化させる。相手よりつねに一歩先んじようとするこのレースに勝つのは、並大抵のことではない。前方には絶えず新たな競争相手が現れ、後方からは他の競争相手が追い上げてくるからだ。  

所有という欲求は、人々にとって果てしないものであり、隣人や友人の所有物に興味を持ち、彼らとの無意味な競争に陥ることで、貴重なお金や時間を浪費してしまう傾向があります。この所有欲は、しばしば社会的な地位や幸福感と結びついて考えられることもあります。しかし、実際には、所有欲が満たされたとしても、人々の幸福感や満足度は一時的であり、持続的な充足感を与えることはありません。 所有欲が際限なく存在することは、さまざまな研究によっても裏付けられています。

例えば、隣人や友人が新しいスマートフォンや高級車を手に入れたという話を聞いたとき、我々は自然と物欲を刺激され、同じようなものを手に入れたいと思うことがあります。この状況は、社会的な比較や競争心から生じるものであり、しばしば個人の経済的な負担や心理的なストレスを引き起こすこともあります。

さらに、所有には長期的な悪影響も存在します。多くの人々が必要以上にモノを買い、消費することは、後世を考えない無責任な行為であることを十分に理解しています。資源は限られており、エネルギー消費と温室効果ガス排出も増え、気候変動が引き起こされています。

所有をめぐる競争という現実から目を背けず、持続可能な消費と資源の効率的な利用に取り組むことが、私たちが直面する課題に対する解決策となり得るのです。私たちが意識を変え、無駄な所有を減らすことで、地球環境を改善できるのです。

所有に頼らず幸せになる方法

人は何も持たずにこの世に生まれ、何も持たずにこの世を去る。だが生と死の狭間、人生という舞台に立つこのわずかなひとときだけは、あたかも自分という存在が所有物によって定義されるかのように、人は所有を誇示し、所有に思い悩む。多くの人はこの絶え間ない所有の追求にがんじがらめになった一生を送り、ときには自分や子どもたちの命の危険をも顧みず、果ては地球の未来すら棒に振ろうとする。

私たちが人生をより豊かなものにするためには、所有という概念、その起源、所有が引き起こす動機付け、そして所有に頼らずに幸せを得るための方法を理解することが必要です。 私たちはしばしば、モノを所有することが幸せをもたらすと考えます。

しかし、所有によって逆に不幸になるケースも少なくありません。財を溜め込むことに一生を捧げ、その後に「ああ、良い人生だった」と心から語れる人は果たして何人いるでしょうか?

所有の追求に執心する毎日の中で、所有が自身や人類、さらには地球全体に何をもたらし、何を奪い去るのかを、私たちは真に深く理解することは稀です。物質的な豊かさを追求することにいくらの努力を費やし、いくらの競争に挑み、いくらの失望を経験し、いくらの不正を働き、最終的にはどれだけの損失を引き起こしているかを考えれば、常に所有物を求める人生は驚くほど虚しく映ることでしょう。

私たちが所有に依存せず、幸せを見つけるためには、どうしたら良いのでしょうか?これが私たちが向き合い、深く考え、学ぶべき課題だと著者は指摘します。私たちは所有に関する人間の特性を理解する必要があります。

私たちの人生を絶えず駆り立て、充実させているのは、欲求や追求する心です。欲しいと思うものを手に入れようとする動機づけが働くと、目標ができ、やる気が生まれます。

目標を達成できなかった場合、失望や挫折を感じるかもしれませんが、実は目標を達成した場合にも、私たちは満足感を得られないことがあります。獲得が成功したからといって、期待したほどの喜びを感じることは稀なのです。

実際、多くの買い物好きは、購買そのものよりも購買の期待に抗いがたい魅力を感じると証言しています。購買の期待は、新しいアイテムや体験を得ることへの興奮や喜びを含んでいます。この期待感が高まることで、一部の人々は狂乱状態に陥ることもあります。 購買の期待は、さまざまな要素によって引き起こされます。

例えば、新しい商品やセールの情報を知ること、他人からの羨望や称賛を得ること、自己満足感や快楽を感じることなどが挙げられます。また、広告やマーケティング手法も購買の期待を高めるために使用されます。 一部の人々は、この購買の期待感によって魅了され、買い物に執着することがあります。彼らは新しい商品や特別なオファーについての情報を追い求め、購買行動に関与することで興奮や喜びを感じるのです。

所有したいと欲する対象物は、自己意識にアピールすることもありますが、むしろ新奇性や追い求めるスリルに反応する脳のシステムを刺激することがあります。たとえば、アップル信者であれば、最新のアップル製品を見ると「絶対に買わなければならない」という気持ちに駆られるでしょう。これはそのためです。

新奇性やスリルは、脳の報酬系を刺激し、興奮や快感をもたらすことが知られています。新しい製品や技術の導入は、我々の好奇心や探求心を刺激し、新しい体験や満足感を得る可能性を秘めています。 アップル製品の例を挙げれば、同社は革新的なデザインや機能、優れたユーザーエクスペリエンスを提供することで知られています。

そのため、アップル信者は新製品が発表されると、それに対する期待や興奮を感じることがあります。新製品を手に入れることで、最先端の技術やデザインに触れ、他の人と差をつけることも期待されます。

ただし、これは個人の感情や好みによるものであり、アップル製品に限らず他のブランドや製品にも当てはまることです。人々は新しいものに対して興味を持ち、それを手に入れることで自己表現や満足感を得ることがあります。

問題は、たいていの人はすぐに自分の所有物に飽きてしまい、新たな獲得を目指して渉猟するようになる点だ。こうした情動的な動因は強力で、いくら所有をしても容易には満たされることがない。なかには、ただひたすら休みなく獲得を続け、ついにはモノの獲得に人生を乗っ取られてしまい、あふれる所有物に文字通り窒息しかねない状態に陥る人もいる。

人間は所有物と自己をほぼ同一視してしまうため、非合理的な行動を取ることがあります。この考え方には、避けられない矛盾が内在しているのです。私たちは所有物を自己の一部として過大評価し、手放すことをためらいます。同時に、私たちは所有物にすぐに慣れてしまい、ますます多くのものを手に入れようとします。これは終わりのない、満足できない探求の旅であり、自己をよく見せようとする欲求です。

所有物に対する過大評価は、私たちが物質的な富や成功を通じて自己価値を評価する傾向につながります。所有物の多さや高級さが、私たちが成功者であるという実感を得る手段になるかもしれません。

しかし、パラドックスとして、所有物を増やすほどに満足感は減少していくことがあります。 満足感の減少は、所有物に対する適応効果と関係しています。新しいものを手に入れると一時的な喜びや充足感を感じますが、時間が経つにつれてそれに慣れてしまい、次なる欲望が生まれます。このようなサイクルは終わりがなく、満足感を得るためにますます多くのものを追求する結果となります。 持ち物を増やすことで満足感を得るという追求は、人々が物質主義に傾倒する一因となっています。

当然、欲求の狂乱状態に陥ることは、個人や家計にとって問題を引き起こす可能性があります。 過度の買い物は、財務面や精神的な健康に悪影響を与えることがあります。そのため、購買の期待に惑わされずに、自制心や節度を持って消費することが重要です。 経済的な側面だけでなく、自己成長や幸福感においても、購買の期待に依存せずにバランスを保つことが大切です。

自己価値や満足感は、物質的な購買だけでなく、他の要素にも基づいて育まれるべきです。 したがって、購買の期待に魅了されることは理解できますが、その魅力に振り回されることなく、自身のニーズや価値観に基づいた消費を心掛けることが重要です。バランスの取れた消費行動によって、より健康的で持続可能な生活を実現することができます。

多くの人にとって、社会における自分の価値を証してくれるのが所有物だ。多く持てる者ほど社会的価値が高いとされる。この考えはさまざまな理由から間違っているが、その誤りに気づくには、所有は社会に負担を強いることで成立するという単純な事実だけでも十分だろう。単に所有物を蓄積したいがために所有を重んじれば、それは最終的には他者を害する行動を正当化していることになる。所有すればするほど、不平等は大きくなる。道徳的に好ましくないというだけでなく、環境を破壊し、政治を分断させる。さらに、所有の飽くなき追求では心は満たされず、長期的に見れば所有物の増加でかえって惨めな思いを味わう人もいるということが、科学的に立証されている。私たちはもっとシンプルで、モノに取り巻かれておらず、他人と競い合わない人生を送るべきなのだ。

自分の人生を豊かにしたければ、広告や仲間のSNSの投稿を気にするのをやめましょう。所有欲に振り回されることなく、自分自身や他人との関係を大切にし、持続可能な幸福感を追求することが重要です。所有物に執着するのではなく、価値観や人生の目的に基づいて物事を選択し、必要なものと不必要なものを見極めることが、より充実した人生を送るための鍵となるでしょう。

私たちが所有と幸せの関係について深く考え、自身の物への欲求や所有物との感情的なつながりを再評価することが重要であると言えるでしょう。そして、物質的な所有を追求することだけが人生の目的ではないということを認識することが、本当の幸せへの道となるのではないでしょうか。所有という悪魔と適度に距離を置くために、自分という存在に感謝すべきです。


この記事を書いた人
徳本

■複数の広告会社で、コミュニケーションデザインに従事後、企業支援のコンサルタントとして独立。
特にベンチャーのマーケティング戦略に強みがあり、多くの実績を残している。現在、IPO支援やM&Aのアドバイザー、ベンチャー企業の取締役や顧問として活動中。

■多様な講師をゲストに迎えるサードプレイス・ラボのアドバイザーとして、勉強会を実施。ビジネス書籍の書評をブログにて毎日更新。

■マイナビニュース、マックファンでベンチャー・スタートアップの記事を連載。

■インバウンド、海外進出のEwilジャパン取締役COO
みらいチャレンジ ファウンダー
他ベンチャー・スタートアップの顧問先多数
iU 情報経営イノベーション専門職大学 特任教授 

■著書
「最強Appleフレームワーク」(時事通信)
「ソーシャルおじさんのiPhoneアプリ習慣術」(ラトルズ)
「図解 ソーシャルメディア早わかり」(中経出版)
「ソーシャルメディアを使っていきなり成功した人の4つの習慣」(扶桑社)
「ソーシャルメディアを武器にするための10ヵ条」(マイナビ)
など多数。
 
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