新しい封建制がやってくる―グローバル中流階級への警告(ジョエル・コトキン)の書評

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新しい封建制がやってくる―グローバル中流階級への警告
ジョエル・コトキン
東洋経済新報社

新しい封建制がやってくる(ジョエル・コトキン)の要約

現代社会において、富が限られた富裕層に集中する現象は、新たな形の封建制の出現につながっています。かつて民主主義国と考えられていた多くの国々でも、強力な中央集権政府と結びついた新しい形の封建的貴族制、すなわち寡頭制のような社会構造が現れ、中流階級が減り、格差が一層助長されています。

新しい封建制とは何か?

地平線に見え隠れする未来は、いかなる国にとっても、また自分の子どもたちにとっても望ましい未来ではない。(ジョエル・コトキン)

現代社会において、封建制が新たな形で再び現れ、未来を暗くしていると未来学者のジョエル・コトキンは指摘します。過去に歴史の中に消え去ったと思われていた封建制ですが、その復活は昔とは異なる姿をしています。騎士や家臣、そしてカトリック教会のような強大な権力を象徴する存在は登場しません。

代わりに、アメリカをはじめとする国々で見られるのは、新しい形の貴族制です。この現象は、見かけ上は昔の封建制とは異なりますが、その根底には似たような構造や原理が存在しているのかもしれません。

20世紀後半には、多くの先進国で中流階級が拡大し、労働者階級の地位向上が見られ、繁栄が広範囲にわたって享受されました。この現象は途上国においても同様でした。しかし、現在では経済成長の恩恵を受けているのは、主に各国の最富裕層に限られています。

このような富の蓄積は、世代を超えて受け継がれることが多く、結果として閉鎖的な貴族階級のような層が形成されています。これらの人々は、法律上の特権的地位や政治権力を直接相続するわけではありませんが、彼らの富によって政治的・文化的な影響力を手に入れることができます。

この結果、民主主義国であると考えられている国々においても、強力な中央集権政府と結びついた新しい封建的貴族制、すなわち寡頭制のような構造が出現しているのです。

民主主義社会における階級間の格差はますます広がり、特権はより強固なものとなっている。階級がほぼ固定化されている現実は、今日の状況が封建時代に最も似たところである。ただし、中世後期に強力な君主たちが台頭してくるまで封建制を特徴づけていた分権的統治は存在しない。社会的階層化が進んだ結果、中道派の政党や政治家は隅に追いやられてしまった。

コトキンの分析は、社会の階層化と停滞の進行を深く理解するための重要な視点を提供しています。彼は、世界中の中流階級に向けた警告を発し、これらの変化が社会のバランスにどのような影響を及ぼすかを考察しています。

彼の住むカリフォルニア州を事例として挙げることで、かつて機会に溢れた地域が中流階級と労働階級の流出、そして高い貧困率に苦しむ州へと変貌している実態を明らかにしています。

このような現象は、中流階級が社会の安定と繁栄に果たしてきた重要な役割の減退を示唆しており、経済的・社会的な不安定さが増していることを意味しています。

テックブームの中心地であり、有史以来最も急速に富が蓄積された場所、カリフォルニア州のベイエリアは、新富裕層(mass affluence)を生み出すどころか、新たなデストピアを生み出しています。

カリフォルニア州のベイエリアは、サンフランシスコやシリコンバレーなど、数多くのテクノロジー企業が集まる地域です。長年にわたり、ここでのテックブームは人々に富と成功をもたらしました。

しかし、その一方で、この急速な富の蓄積は新たな問題を引き起こしています。 一部の人々は、ベイエリアの富の集中が社会の格差を広げ、住宅価格の高騰や貧困層の増加などの問題を引き起こしていると主張しています。富裕層と貧困層の間の格差はますます拡大し、低所得者や中間所得者はますます生活の厳しさを感じています。

『ブルームバーグ都市研究所(CityLab)』は、シリコンバレーのあるベイエリアを「隔離されたイノベーション・エリア」と呼び、上流階級は繫栄し、中流階級は衰退し、下流階級は貧窮し、その状態が固定化しつつあるとしている。

シリコンバレーの社会構造は、明確な階層に分かれています。最上層にはベンチャーキャピタリストや会社設立者たちのエリート層が存在し、彼らは高い経済的利益と社会的地位を享受しています。

そのすぐ下の階層には、高度な技術を持つ専門技術者が位置しており、彼らは高い給与を得ていますが、シリコンバレーの高い物価や税金のため、一般的な中流階級の生活を送っています。

さらに下の階層には、ギグワーカーと呼ばれる大量の労働者が存在しており、彼らは低賃金で働いています。彼らの多くは不安定な雇用状況にあり、経済的な困難に直面していることが一般的です。そして、社会の最底辺には、ホームレス、薬物依存症者、犯罪者など、いわゆる「不可触民階級」に属する人々がいます。これらの人々は、極度の貧困や社会的排除に直面し、厳しい生活環境に置かれています。

本書のカリフォルニアやシリコンバレーの事例によて、中流階級の将来に暗雲が立ち込めていることを理解できます。

新たな封建制が未来を暗くする理由

封建時代にエリート聖職者と貴族が権力を分け合っていたように、新しい封建制の中核には、有識者層と寡頭支配層の連鎖関係がある。

現代社会においては、新しい形の封建制が形成されつつあり、その中核には「有識者層」と「寡頭支配層」の間の連鎖関係が存在しています。この2つの階級は、ニューヨーク、サンフランシスコ、ロンドンなどの大都市において、しばしば同じ学校に通い、同様の地区に居住することが多いです。彼らは共通の世界観を共有し、大半の問題において協力する傾向にあります。

有識者層とは、高度な専門知識や教養を持ち、専門分野での権威を持つ人々を指します。彼らは大学教授や研究者、専門職の人々であり、その知識やスキルを社会に貢献するために活用しています。

コトキンによると、この「有識者」の範囲はさらに広く、教師、コンサルタント、弁護士、政府官僚、医療従事者、ジャーナリスト、芸術家、俳優など、物資的生産以外の仕事に従事する者たちも含まれます。これらの人々は、自分たちの専門知識や影響力を用いて、社会のさまざまな領域での意思決定や価値観の形成に影響を与えています。

この現象は、現代社会における権力構造と価値観の形成に大きな影響を及ぼしています。有識者層と寡頭支配層の連携は、政策決定、経済動向、社会的傾向において重要な役割を果たしており、彼らの影響力は多岐にわたります。また、彼らの共通の見解や価値観が、社会全体に広がることにより、グローバルな規模での社会的・文化的な変化を促進していることも見受けられます。

アメリカ、ヨーロッパ、東アジアでは将来に対する悲観論が主流となり、日本や韓国では少子化に歯止めがかからなくなっています。

最も悲観的な国の一つが日本で、調査に回答した日本人の4分の3が、次世代はもっと状況が悪くなると考えている。

現状への不満が様々な層から噴出しているのが、現代の封建制度の特徴になります。先進国の人口減少は、労働力の縮小を引き起こし、経済成長に影響を及ぼし、福祉国家の財政的持続可能性を損なう可能性があります。このため、欧米諸国を含む多くの国々は、出生率の高い貧困国からの移民を積極的に受け入れています。

2050年までに世界人口の半分の増加がアフリカで見込まれていることから、貧困国と富裕国間の人口バランスの変化が予想されます。このような人口動態の変化は、過去にヨーロッパやアジアの古代帝国の崩壊を引き起こした大規模な移民の再発を引き起こす可能性があります。また、貧困国からの大規模な移民による社会的対立は、すでに欧米の政治において顕著な特徴となっており、今後数十年でさらに深刻化する可能性が高いと考えられます。

富裕層が環境保護に熱心な姿勢を誇示している一方で、経済的余裕のない人々には高い燃料コストと住宅コストが押し付けられているという指摘があります。このような政策は、一部の人々に疎外感を生み出し、中流階級や労働者階級による現代版の「農民反乱」のような状況を作り出しています。

資産を持たない中流階級や若い世代は、「デジタル封建制」のもとでデジタル農奴となり、GAFAMなどのテック企業に個人情報を売り渡すことにつながります。

自分の財産を持たない宿命を背負わされつつある若年世代は、自己の個人データを所有する権利すら失いつつある。無料サービスと引き換えに、大量の個人情報をしばしばそうとは知らずに大手テック企業に渡しているのである。よく言われる「シェアリングエコノミー(共有経済)」ではなく、少数の企業の利益のために個人データをマイニング(採掘)することによって成り立つ経済がやってこようとしている。

この現象は、ドナルド・トランプの大統領当選やブレグジット支持の増加、ヨーロッパ各国でのポピュリスト政党の台頭など、さまざまな形で表れています。これらの動きは、政策や政治的な決定において見過ごされがちな人々の声や不満が、大きな政治的変化をもたらす力を持っていることを忘れないようにすべきです。

デジタル化が進む都市において、新しい形の封建制秩序が出現しています。この秩序の特徴の一つとして、「都市農奴階級」と呼ばれる新たな社会階層が形成されています。これらの人々は、狭いアパートでの生活を強いられ、ギグワークなどの不定期な仕事を受けながら、国の補助金や生活扶助に頼る生活を送っています。

さらに、都市のスマート化によって、監視が日常化し、市民の自由が制限される傾向が強まっています。このプロセスでは、個人のデータが集積され、利用されることが一般的になっています。このような状況は、個人のプライバシーと自由に関する深刻な問題を引き起こし、デジタル化が進む社会における新たな課題となっています。

このような現代のデジタル都市では、テクノロジーを自ら所有し、操作することができる者や、アルゴリズムを作成できる者だけが、主導的な役割を担うことができます。それ以外の多くの人々は、コンピューター化された都市環境において、単なる傍観者としての役割にとどまることになります。

デジタル都市化が進み、テクノロジーによる利便性と効率性が向上する中で、新たな社会的および経済的な不平等が生まれていることを浮き彫りになっています。

新しい富裕層の台頭に伴い、多くの人々が経済的に取り残される現象が見られ、これは新たな形の封建制度の兆しと著者は指摘しています。 このような状況において、社会的流動性の欠如が顕著になり、身分の固定化が進んでいます。

このような社会の動向に対して歯止めをかけることは急務ですが、私にはそのための道筋はますます狭く、困難になっているように見えます。

この記事を書いた人
徳本昌大

■複数の広告会社で、コミュニケーションデザインに従事後、企業支援のコンサルタントとして独立。
特にベンチャーのマーケティング戦略に強みがあり、多くの実績を残している。現在、IPO支援やM&Aのアドバイザー、ベンチャー企業の取締役や顧問として活動中。

■多様な講師をゲストに迎えるサードプレイス・ラボのアドバイザーとして、勉強会を実施。ビジネス書籍の書評をブログにて毎日更新。

■マイナビニュース、マックファンでベンチャー・スタートアップの記事を連載。

■インバウンド、海外進出のEwilジャパン取締役COO
IoT、システム開発のビズライトテクノロジー 取締役
みらいチャレンジ ファウンダー
他ベンチャー・スタートアップの顧問先多数 

■著書
「ソーシャルおじさんのiPhoneアプリ習慣術」(ラトルズ)
「図解 ソーシャルメディア早わかり」(中経出版)
「ソーシャルメディアを使っていきなり成功した人の4つの習慣」(扶桑社)
「ソーシャルメディアを武器にするための10ヵ条」(マイナビ)
など多数。
 
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