人口減少社会のデザイン (広井良典)の書評

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人口減少社会のデザイン
広井良典
東洋経済新報社

人口減少社会のデザインの要約

人口が減少する中での社会デザインには、都市や地域のバランスを保ちつつ、「多極集中」のまちづくりが求められます。歩きやすく、生活しやすい都市作りを進めるとともに、都市と農村が相互に支え合う再分配の仕組みを構築する必要があります。さらに、企業も成長だけを追求するのではなく、持続可能な経営を心がけるべきです。

人口減少社会が進む日本での2つの選択肢とは?

令和という時代の中心テーマが、「人口減少社会のデザイン」であるということは、半ば自明のことであると言えるだろう。(広井良典)

昭和の時代は「拡大・成長」の目標のもと繁栄を築けましたが、平成に入るとその経済環境が変化し、目標と現実の間に大きなギャップが生まれました。これは「成長至上主義」のもと、産業構造、人口減少や高齢化の課題を先送りにしてきた結果、いつの間にか日本は周回遅れの国になっていたのです。国家の借金も増加し、課題先進国とも揶揄されています。

著者はAI技術を用いて、「幸福度」を含む将来シミュレーションを行い、人口減少が当たり前になる日本社会の未来のシナリオと必要な対策を研究しました。著者は149の社会的要因を取り上げ、AIシミュレーションで2018年から2052年までの2万通りの予測を実施。これを23のグループに分け、最終的に6つの代表的なグループに分類しました。

分類にあたっては、①人口、②財政・社会保障、③都市・地域、④環境・資源という4つの局面の持続可能性と、(a)雇用、(b)格差、(c)健康、(d)幸福という4つの領域に注目したと言います。

そこから以下の結論を導き出します。2050年を見据えた2つの主要な未来シナリオが浮上しています。「都市集中型」と「地方分散型」です。都市集中型のシナリオでは、都市における技術的革新と人口の集約が進展しますが、これに伴い格差が拡大し、健康寿命も短縮し、幸福感も下がりそうです。

一方で、地方分散型のシナリオでは、人口が地方に分散し、出生率の上昇や経済的な格差の縮小が進む中、個人の健康寿命や幸福感が向上すると考えられます。しかし、地方分散の動きには一定の落とし穴が存在します。

具体的には、地方分散が政府の財政や環境問題、特にCO₂の排出量の増加といった課題を引き起こす可能性が指摘されています。そのため、このシナリオを持続可能かつバランスの取れたものとして実現させるには、慎重な検討と計画が不可欠です。

地方分散型シナリオを現実のものとし、持続可能性を重視するならば、環境課税の導入や再生可能エネルギーの普及促進など、約17~20年間にわたる一貫した政策の実施が不可欠となります。

8~10年後には、都市集中型と地方分散型の2つのシナリオが明確に分かれ、その後でこれらの道筋が交錯することは考えられません。この選択の岐路は、日本の未来を大きく左右する重要な時期となるでしょう。これからの日本の未来を左右する重要な選択の時期が迫っていること、この課題を先送りできないことを私たちは強く認識する必要があります。

人口減少社会のデザインとは?

では、減少人口が進む中、日本人は幸せになれるのでしょうか?経済が成長し、1人当たりの所得がある一定の水準を越えた後、それ以上の所得増加と幸福度との関係は弱くなります。それでは、この水準を超えた後の社会で、「幸福」、つまりある国や地域の住民の平均的な幸福度をどのような要因が左右するのでしょうか。

幸福には、以下の4つの要因が特に重要とされています。
①コミュニティの質
これは人と人との関係やその質、ソーシャルキャピタルとも呼ばれる「社会関係資本」と深く関連しています。

②平等と格差
所得や資産の分配が平等である社会は、幸福度が高くなりやすいとされています。

③自然とのつながり
人々の自然環境との関わり方は、精神的な満足感や健康に直結します。

④精神的・宗教的支え
多くの人々にとって、精神や宗教は生きがいや安定をもたらす大きな要因です。

これらの要因は、特に経済的に一定の成熟を遂げた国や地域、例えば日本のような場所での、社会の豊かさや幸福を考える上でのキーとなるテーマです。そして、「人口減少社会のデザイン」を議論する際の中心的な柱として扱われるべき課題群となっています。

コミュニティの質で参考になるのが、ドイツなどのヨーロッパの国々です。ヨーロッパの多くの国は、日本と比較して、人口や人口密度が低いです。しかし、日本の地方都市の空洞化や「シャッター通り」、農村の過疎化が「人口減少社会」のせいだと一概には言えません。問題の根本は、どのように住むか、どのような都市や地域を作るか、そしてどのような公的政策や社会制度を導入するかという選択にあります。このテーマを、著者は「人口減少社会のデザイン」と呼んでいます。

日本の現代都市における問題として、道路で分断された都市構造や、住居と職場の距離の遠さ、さらに車に依存した生活スタイルが挙げられます。その結果、「買い物難民」と呼ばれる人々が600万〜700万人ともいわれるほど存在しています。これにより、都市内の「コミュニティ感覚」が大きく損なわれていると言われています。車を使ずに、高齢者が暮らしやすい地方コミュニティを形成することが、人口減少社会のテーマになるのです。

日本はかつてアメリカ型の政策を取り入れてきましたが、今後はヨーロッパのアプローチを学ぶべき時です。
●アメリカ:経済的成長と小さな政府の方針
●ヨーロッパ:環境を重んじる大きな政府の下での政策
●日本:方向性が不明確で、問題の先送りが目立つ

現在の日本の問題は、アメリカやヨーロッパと比べると、社会保障の給付とそれに伴う税や負担の不均衡が顕著です。このため、今の世代が問題を先送りし、その責任を将来の世代に丸投げする姿が見受けられます。アメリカのように、現世代が自らの問題に真摯に取り組む態度と対照的に、日本の現状は将来世代への負担を増やす形となっており、この点が最も批判の的となると著者は指摘します。

日本は伝統的な価値や「相互扶助」と「自然」を現代的に再評価し、持続可能な福祉社会の実現に向けて新しい福祉思想の構築が求められています。都市と農村の間の非対称性を考慮し、「歩いて楽しめるまちづくり」や再分配システム(例:農業版べーシック・インカム「BI」、地域版・若者版BIなど)の導入が必要で、企業も持続可能性を重視する方向にシフトすべきです。

21世紀は、高齢化と人口の定常化が進む時代です。日本は、これらの変化の先駆けとして、「グローバル定常型社会」を目指していく必要があります。この新しい社会モデルは、環境、福祉、経済のバランスを重視しなければなりません。

また、日本独自の「福祉思想」の再構築や、伝統的な「神仏儒」の価値観の再帰も求められています。平成の時代には、成長志向のもとで多くの問題が先送りされ、政府の負債が増加しました。しかし、令和の時代は、「人口減少社会のデザイン」を中心に据え、多くの課題の解決を地域の幸福という視点で行うべきです。


 

この記事を書いた人
徳本昌大

■複数の広告会社で、コミュニケーションデザインに従事後、企業支援のコンサルタントとして独立。
特にベンチャーのマーケティング戦略に強みがあり、多くの実績を残している。現在、IPO支援やM&Aのアドバイザー、ベンチャー企業の取締役や顧問として活動中。

■多様な講師をゲストに迎えるサードプレイス・ラボのアドバイザーとして、勉強会を実施。ビジネス書籍の書評をブログにて毎日更新。

■マイナビニュース、マックファンでベンチャー・スタートアップの記事を連載。

■インバウンド、海外進出のEwilジャパン取締役COO
IoT、システム開発のビズライトテクノロジー 取締役
みらいチャレンジ ファウンダー
他ベンチャー・スタートアップの顧問先多数 

■著書
「ソーシャルおじさんのiPhoneアプリ習慣術」(ラトルズ)
「図解 ソーシャルメディア早わかり」(中経出版)
「ソーシャルメディアを使っていきなり成功した人の4つの習慣」(扶桑社)
「ソーシャルメディアを武器にするための10ヵ条」(マイナビ)
など多数。
 
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