勘違いが人を動かす 教養としての行動経済学入門 (エヴァ・ファン・デン・ブルック, ティム・デン・ハイヤー)の書評

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勘違いが人を動かす 教養としての行動経済学入門
エヴァ・ファン・デン・ブルック, ティム・デン・ハイヤー
ダイヤモンド社

勘違いが人を動かす 教養としての行動経済学入門の要約

私たちは情報を選択する際に、特定の情報に偏って注意を払う傾向があります。このような現象、つまり「一見すると小さなことが人の行動に大きな影響を及ぼす」ことを「ハウスフライ効果」と呼びます。最近では、人々が望ましくない行動をとらないように導くために、「ナッジ」という概念が利用されています。

人の行動を変えるハウスフライ効果とは?

私たちの行動は、思いも寄らない何かに影響されている。(エヴァ・ファン・デン・ブルック, ティム・デン・ハイヤー)

本書はオランダの行動経済学者のエヴァ・ファン・デン・ブルックと、広告業界でクリエイティブ・ディレクターとして活躍するティム・デン・ハイヤーによって執筆された刺激的な一冊です。著者の一人のエヴァは学術的な視点を持ち、ティムは認知バイアスの応用と深く関わるビジネス現場での経験が豊富です。

この本では、私たちの生活を取り囲む様々な認知バイアスについて詳しく説明されています。認知バイアスとは、人々が情報を処理する際に生じる思考のゆがみや誤解のことです。例えば、私たちは情報を選択する際に、一部の情報に偏って注意を向ける傾向があります。また、過去の経験や先入観に基づいて判断を下すこともあります。

本書は、男子トイレに蝿を描くことでトイレが綺麗になるという有名なナッジの話から始まります。著者はこの「一見すると小さなことが人の行動に大きな影響を及ぼす現象」を「ハウスフライ効果」と呼んでいます。この名称はトイレに描かれたハエからヒントを得たものであり、バタフライ効果にも由来しています。小さな合図やナッジというハウスフライ効果によって、人は選択や行動を変えるのです。

バタフライ効果とは、物事の予測不可能な連鎖反応を説明する概念で、「フィレンツェで蝶が羽ばたくと、連鎖反応によってテキサスで竜巻が起きる」というように表現されます。この本では、ハウスフライ効果を認識し、時には避けたり目標にしたりする方法について探求しています。

高速道路の坂道でのスピード低下を求めるサインを設置すると、渋滞が起こりにくくなります。このようなナッジは、交通の流れをスムーズにするために重要な役割を果たしています。坂道では、車のスピードが自然と低下するため、そのまま走行すると渋滞の原因になる可能性があります。しかし、運転者にスピード低下を注意する看板を設置することで、事前にスピードを落とすことができ、渋滞を防ぐことができます。

ウェブサイトにおける学資ローンの申し込みページでの一つの興味深い事例として、「上限額まで借りる」というデフォルト設定を変更することがあります。この変更により、学生が借りる金額を大幅に減少させることができるのです。これは、認知バイアスを活用した「ハウスフライ効果」の一例と言えます。

これは、小さな設計の変更が大きな行動変化を引き起こす典型的な例であり、ユーザーの意思決定においてデフォルトの選択肢がいかに重要であるかを示しています。

これらの現象は、人間の行動においてごく小さな要素が大きな影響を与えることを示しています。人々は、自分たちの経験や先入観に基づいて判断を行い、その結果として行動をとります。 これらの影響は、人々の認知バイアスによってもたらされるものであり、科学的な研究によって理解されつつあります。今後もさらなる研究と共有が進められることで、より良い社会の実現に向けて貢献していくことが期待されます。

ダニング=クルーガー効果を避ける方法とは?

日常生活には、私たちの行動を誘導しようとする様々な仕掛けがあふれている。 そして、その一番の共犯者はあなた自身の脳なのだ。

私たちの脳は、情報を処理する際に無意識のうちに「認知バイアス」と呼ばれる様々な偏見をかけています。例えば、「注意バイアス」とは、関心のある情報や過去の経験に基づいて興味を引く情報に注意が向きやすくなることです。

また、「認知的な節約」というバイアスでは、情報を処理する際に既存のスキーマやステレオタイプに頼ることで、効率的に情報を整理しますが、新しい情報や異なる視点を見落とすこともあります。 これらのバイアスの理解は、ビジネスや公共分野における意思決定や戦略策定において重要です。

例えば、商品の広告では注意バイアスを利用して消費者の関心を引き、政策やキャンペーンの計画では認知的な節約の影響を考慮して情報の伝達を効果的に行うことができます。

ダニング=クルーガー効果は、自分の能力を過大評価する心理現象です。社会心理学者のデビッド・ダニングとジャスティン・クルーガーの研究によると、低い能力の個人が、自分の能力や知識を正しく評価する能力も不足しているため、自分のパフォーマンスを過大評価をすることが明らかになりました。

この効果の核心は、不足しているスキルが自己評価の誤りを理解するためにも必要であるため、低い能力を持つ人々は自分の不足を認識できないという点にあります。その結果、彼らは自分の能力や知識を過大評価する傾向があります。一方で、高い能力を持つ人々はしばしば自分の能力を過小評価し、平均的な人々が自分と同じレベルの知識やスキルを持っていると誤って考えることがあります。

これを防ぐためには、以下のステップが有効です。
・自己評価の客観化
自己評価を客観的に見直し、自分が他人と同じような能力を持っていると認識することが大切です。これは、自己中心的な思い込みや「自分は特別だ」という誤った信念を避けることを意味します。

・自己過信の理解
人は自分を過信する傾向にあることを理解し、これを踏まえて大局的な視野を持つことが重要です。自己評価が不適切だと、能力を過大評価し、実際の能力と乖離した行動を取るリスクがあります。

・他人の意見の受容
他人の視点や意見を取り入れることで、自己評価を客観的に見つめ直すことが可能です。他人とのコミュニケーションを通じて得られるフィードバックは、自己評価の修正に役立ちます。

・自己啓発と学習
自己啓発を通じて、自分の能力を客観的に見つめ直し、適切な自己評価を行うことが重要です。学習を継続し、自身の能力を向上させる努力を惜しまないことが大切です。

ダニング=クルーガー効果を避けるためには、自己評価を常に客観的に見つめ直し、他人の意見やフィードバックを積極的に取り入れ、自己啓発と学習を継続することが有効です。これらのアプローチによって、自己過信を避け、より適切な自己評価を行うことができます

本書は400ページを超える力作ですが、それぞれのストーリーが短く区切られているため、読みやすく、行動経済学のイロハがわかりやすく学べます。入門書として最適な一冊です。数回に分けて面白いケースを紹介していきます。


この記事を書いた人
徳本昌大

■複数の広告会社で、コミュニケーションデザインに従事後、企業支援のコンサルタントとして独立。
特にベンチャーのマーケティング戦略に強みがあり、多くの実績を残している。現在、IPO支援やM&Aのアドバイザー、ベンチャー企業の取締役や顧問として活動中。

■多様な講師をゲストに迎えるサードプレイス・ラボのアドバイザーとして、勉強会を実施。ビジネス書籍の書評をブログにて毎日更新。

■マイナビニュース、マックファンでベンチャー・スタートアップの記事を連載。

■インバウンド、海外進出のEwilジャパン取締役COO
IoT、システム開発のビズライトテクノロジー 取締役
みらいチャレンジ ファウンダー
他ベンチャー・スタートアップの顧問先多数 

■著書
「ソーシャルおじさんのiPhoneアプリ習慣術」(ラトルズ)
「図解 ソーシャルメディア早わかり」(中経出版)
「ソーシャルメディアを使っていきなり成功した人の4つの習慣」(扶桑社)
「ソーシャルメディアを武器にするための10ヵ条」(マイナビ)
など多数。
 
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