2040年アパレルの未来: 「成長なき世界」で創る、持続可能な循環型・再生型ビジネス
福田稔
東洋経済新報社
2040年アパレルの未来 (福田稔)の要約
アパレル業界は、短期的な利益追求を超えて、長期的な視点で持続可能な未来を築くべきです。今後、アパレル企業は持続可能性、リサイクル、健康志向へとシフトすることが求められています。アパレル業界は環境に優しい事業展開を通じて、長期的な経済的持続可能性を追求する必要があるのです。
アパレル業界に訪れる3つの変化とは?
衣食住のビジネスを展開する企業が、環境保全と企業活動が両立する循環型・再生型のビジネスモデルを創造し、お客様に対してカーボンフットプリントを加味した持続可能なライフスタイルを提案・提供していくこと。そして、循環型・再生型モデルを高級品にとどめず、マスを含めた経済全体に広めていくこと。これがカーボンニュートラルを目指す社会のあるべき方向性ではないでしょうか。(福田稔)
KEARNEYシニアパートナーの福田稔氏によると、コロナパンデミックとロシア・ウクライナ戦争によるインフレーションがアパレル市場に3つの重大な変化をもたらしていると言います。これらの予想外の変化が世界に衝撃を与え、アパレル業界の未来は今後も大きく変わことが予測できます。
①「多く作り、多く売る」時代の終わり
消費者の購買行動の変化と持続可能性への関心の高まりが、大量生産・大量消費の時代に終止符を打つことになります。
②中古品市場の世界的な拡大
エコ意識の高まりと経済的要因により、中古品市場が世界的に拡大しています。
③ウェルネス関連市場の拡大
健康と快適さを重視する消費者の増加が、ウェルネス関連製品の市場拡大を促進しています。
これらの変化は、アパレル業界が持続可能性、リサイクル、健康志向へとシフトするきっかけとなり、業界の将来に大きな影響を与えると考えられます。
最近のインフレによって、電気や食料品の価格は大幅に上昇していることがわかります。一方、アパレル業界では価格上昇が限定的であるという点が特筆されています。洋服が不要不急の商材であり、消費者の買い控えを企業は恐れているため、値段を上げられずにいるのです。
また、ブランド力の違いによる価格転嫁の難しさも指摘されています。 アパレル市場のグローバルな状況を見ると、ラグジュアリーブランドには成長の余地がありますが、全体としては成長が停滞していることが示されています。
アジアや中東など一部の地域では成長市場が存在するものの、量的な拡大による成長の時代は終わりを迎えているというのが著者の見解です。 インフレとサステナビリティへの意識の高まりを背景に、中古品の二次流通市場が活性化しています。
特に衣料品市場はその代表例で、消費者は新品の購入を控え、新品と中古品を組み合わせた賢い購買行動を取るようになっているとのことです。 このように、「新品が売れない代わりに中古品が売れる」という現象や、物を購入しなくても幸福度が上昇するというウェルネス傾向が、アパレル市場を通じて現代の社会動向を反映していると考えられます。
2040年に生き残る消費財・小売企業の共通点
2040年という時間軸で見ると、人々の生活を担うプラットフォーマー企業が、より包括的なサブスクサービスを提供しているかもしれません。 たとえば、アマゾンはアメリカで銀行業に参入しようとしており、その可否を巡り当局と議論をつづけています。 仮に参入が認められた場合、たとえば月に一定の金額がアマゾン銀行から引き落とされ、衣服、食料、日用品など生活に必要なものがアマゾンのPBで届けられるというようなサブスクサービスが生まれるかもしれません。
プラットフォーマーが力を持つ中で、アパレルを含めたさまざまなサブスクサービスが当たり前になり、競争が激化しそうです。
2040年に間違いなくアマゾンのようなプラットフォーマーが新たなサービスを提供するでしょうし、SHINEのような新たなイノベーターが今後も現れる可能性もあります。時代の変化とともに、ディスラプターが登場する中で、既存事業者は何をすればよいのでしょうか?
著者は、2040年に生き残る消費財・小売企業が持つべき3つの共通点を明らかにしています。
・カーボンニュートラルへの取り組みとコミュニケーション
企業はカーボンニュートラルを目指し、その進捗を市場や消費者と適切にコミュニケーションする必要があります。この取り組みは、環境への配慮を示すと同時に、社会的責任を果たすことを意味します。
・循環型・再生型ビジネスモデルの拡大
地球の環境限界を超えないように、バージン素材に依存しない循環型や再生型のビジネスモデルを事業に取り入れることが重要です。これにより、製品の生産過程で環境負荷を軽減し、資源の効率的な利用を実現することができます。
・持続可能な未来のための長期思考
企業は短期的な利益よりも、持続可能な未来を創造するための長期的な経営戦略を優先すべきです。循環型や再生型のビジネスモデルを新しい事業として取り入れ、企業活動による環境負荷を最小化し、さらには環境の再生に貢献することが望ましい姿です。
新しい事業として取り入れたいモデルが、循環型や再生型のビジネスです。人間の活動が地球のキャパシティを超えた環境限界に達していることを踏まえると、今後は循環型や再生型の事業を増やしていくことが必要です。目指すべき姿は、企業活動による環境負荷が最小化されるだけでなく、企業活動そのものが環境の再生につながることです。
循環型や再生型のビジネスは、将来の持続可能なビジネスモデルを形成するための基盤となります。これにより、企業は環境と共存し、長期的な成功を実現することができるでしょう。
環境との共生を目指すパーパスを持った商品は、顧客の支持を得ることによって、環境を保護すると同時に売上を向上させる可能性があります。企業が環境に優しい製品やサービスを提供することで、環境意識の高い消費者からの支持を受け、持続可能なビジネスモデルを構築することができます。
アパレル業界もサーキュラーエコノミー(循環型経済)の3つの原則を経営に取り入れるべきです。
①廃棄物と汚染の排除
製品の設計段階から廃棄物と汚染を排除することに重点を置きます。これは、製品の寿命が終了した後に廃棄物が生じないように、また製造過程での汚染が最小限に抑えられるように設計することを意味します。
②製品と素材の循環
製品や素材が使用され続けることを保証することです。これは、製品の寿命を延ばし、修理、再利用、リサイクルを通じて製品やその構成素材を経済内で循環させることを意味します。この原則により、リソースの消費を減らし、廃棄物の発生を最小限に抑えることができます。
③自然システムの再生
自然システムの健全性を回復し、再生することです。
これらの原則は、環境への影響を最小限に抑えつつ、持続可能な方法で資源を使用し、コントロールすることを目指しますが、この原則を守ることで、顧客からの支持を得られるようになります。
グリーン・トランスフォーメーションを成功させるためには、以下の3つのモジュールを実践すべきです。
①事業ポートフォリオの再構築
②ビジネスモデル・サプライチェーンの改革の実行
③循環型・再生型モデルをビジネスに取り組む
環境問題への取り組みが重要視される中、リデュース(削減)、リユース(再利用)、リサイクル(再生利用)の3Rにリペア(修理)とレンタルを加えた5Rのコンセプトの重要性が高まっています。この観点から、企業が環境に配慮したビジネスモデルへの転換を進めるべきだという著者の考え方に共感を覚えました。
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