世界は経営でできている (岩尾俊兵)の書評

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世界は経営でできている
岩尾俊兵
講談社

世界は経営でできている (岩尾俊兵)の要約

経営の目的は短期的利益を追求することではなく、価値を創造し、自己実現を達成し、社会貢献を果たすことにあります。本来の経営概念に立ち返ることが、個人の幸福と社会の豊かさを回復させる鍵となります。私たちは長期的な視野での価値創造と相互の尊重に基づく経営を、人生の様々な分野で積極的に取り入れる必要があります。

人生に経営視点を取り入れた方が良い理由

ありふれた日常における経営は間違った観念で支配されたまま、他者との関わりに苦痛と不幸をもたらし続けている。(岩尾俊兵)

東大初の経営学博士の岩尾俊兵氏の世界は経営でできているは、人生の様々な側面で経営との関連性を論じたものであり、経営とはお互いの幸せを目指し行動することだと述べています。

しかし、現代社会では、真の経営の精神が忘れ去られているようです。かつての経営の理念は薄れ、代わりに短期的な利益を追求し、他者を出し抜く、騙す、利用し、搾取するような利己主義が広がっています。この俗悪な風潮は、恐ろしい速度で社会に浸透し、「本来の経営」を追いやってしまいました。

著者は、私たちが直面する職場や個人生活の課題が、実は経営の問題に深く根ざしていると述べています。仕事の本質の誤解、組織のリーダーシップの欠如、あるいはプライベートな悩みが、経営の原則や目的の見失いに起因することが多いと指摘します。

特に、自分自身と他者の幸福を追求することの重要性を見落としている状況が、これらの問題を引き起こしていると説明します。経営に対する誤った理解は、個人に害をもたらすだけでなく、社会全体を冷酷なものにしてしまいます。

私たちは自分の人生の経営者であるかのように、自己と他者の幸福を高める義務があります。しかし、日常生活で経営者のような視点を持つことはとても難しいことです。

経営の視点を欠くことによる問題の一つが、目的の設定とそのための明確な目標設定の欠如です。具体的な目標がないと、成果を出すことが難しく、行動も目的を持たずに散漫になりがちです。これでは成果を出せるわけがありません。

この経営の不備は、人間関係にも悪影響を及ぼすことがあります。十分なコミュニケーションや協力が欠けると、チームや組織全体の成果に影響を及ぼすことになります。共通の目的を実現するためには、リーダーとしての経営者としての視点が必要になります。加えて、経営の不足は自己管理能力の問題とも関連します。効果的な時間やエネルギーの管理は適切な経営には不可欠ですが、これが不足すると日々のタスクに圧倒されてしまいます。

経営の原則を日常生活に取り入れることで、これらの課題に対処する方法を見つけ出すことが可能です。このアプローチにより、職場やプライベートの問題を解決し、より充実した生活を送るための道を切り拓くことができます。

本来の経営は「価値創造(=他者と自分を同時に幸せにすること)という究極の目的に向かい、中間目標と手段の本質・意義・有効性を問い直し、究極の目的の実現を妨げる対立を解消して、豊かな共同体を創り上げること」だ。

経営の真髄は、自分自身と他者の幸せを同時に追求することにあります。この理念のもとでは、私たちは皆、自己と共同体の豊かさを高めるための経営者となります。人間は誰しも幸せを求め、他者との関わりを持ちながら生きています。自分だけの幸せを追求することも、他人のために自分を犠牲にすることも、両方とも実は理にかなっていません。これは道徳的な問題ではなく、論理的な誤りです。

本書では、私たちが日常的に行っている生活の選択や決断は、実質的には「人生の経営」であると主張しています。著者は様々な視点から、人生と経営について語り尽くしています。
・貧乏は経営でできている
・家庭は経営でできている
・恋愛は経営でできている
・勉強は経営でできている
・虚栄は経営でできている
・心労は経営でできている
・就活は経営でできている
・憤怒は経営でできている
・健康は経営でできている
・孤独は経営でできている
・老後は経営でできている
・芸術は経営でできている
・科学は経営でできている
・歴史は経営でできている

多くの人が間違った経営概念に基づいて行動しており、それが個人的な不合理や社会的な不条理を生み出しています。もし私たちが経営の本質を理解し、それに基づいて行動するようになれば、個人も社会もより豊かになれると著者は主張します。

人生を正しく経営するための3つのポイント

著者は人生を正しく経営するための3つのポイントを明らかにしています。
①本来、私たちは皆、自分の人生を経営していますが、その事実に気づいている人は少ない。
②間違った経営観に基づく行動が、私たちの人生に不合理や不条理を引き起こしている。
③真の経営理念に立ち返ることで、私たちは個人としても社会としても豊かさを実現することができる。

私たちの日々の生活は、実は自分自身の人生を「経営」しているということに他なりません。経営とは、目標を明確に定め、計画を策定し、行動を起こして結果を得る過程です。これはビジネス界に限定されず、学業、家庭内での家事や子育てなど、日常生活のあらゆる面に当てはまります。

しかし、この重要な事実に気付いている人は意外と少ないのです。 誤った経営理念に従って行動することで、私たちの人生には不合理や不条理が生じがちです。正しい経営理念に基づく行動は、目先の金銭や地位の追求ではなく、長期的な幸福や人間関係、健康の維持に重点を置くべきです。

間違った目標に向かって行動することは、結果的に満足のいく生活を送ることを妨げ、不幸や苦悩を引き起こします。

それに対して、真の経営理念に立ち返ることで、私たちは自己実現や社会への貢献といった、より大きな価値を生み出すことができます。本来の経営理念に則った行動をとることで、自身の成長や幸福を実現し、同時に周囲の人々や社会全体にも良い影響を与えることが可能になります。

貧乏は個々人の問題として経営できる部分があることを知っておくべきだろう。 極端にお金を貯めようとすると、時間の余裕がなくなったり、知識・情報の蓄積ができなかったり、人からの信頼をなくしたりする。お金の面での心配はなくなっても、常に忙しくて時間の余裕がなくなったり、生きるのに必要な知識・情報が貧弱になったり、人的ネットワークを失ったりするわけである。  

貧乏という状態は、お金、時間、知識、信頼といった重要な資源の収入と支出のバランスが崩れてしまうことにより生じると言えます。これらの資源のいずれかのバランスが崩れると、他の資源のバランスにも悪影響を及ぼし、結果として全体のバランスの崩れを引き起こします。この連鎖反応は、個人が貧乏の状態から脱出することを難しくする要因の一つとなり得ます。

例えば、借金を恐れて貸与奨学金を避け、大学休学中に学費を稼ぐ選択をする学生は多くいます。しかし、このような選択は、新卒での就職市場における不利な立場に立たされ、結果的に生涯年収の機会損失を招くという失敗に繋がりがちです。

同様に、現代の夫婦においては、共働き家庭ではお金はあるものの、夫婦間で余暇時間を奪い合うことになり、一方で片働き家庭では時間はあるものの、お金を夫婦で奪い合うという状況が見られます。 しかし、価値創造と問題解決に焦点を当てるマインドセットを持つことで、このような奪い合いのサイクルから脱却することが可能です。

それには、資源の収支バランスを整えるための意識的な努力と、互いに支え合い、共有することの価値を認識することが求められます。このアプローチを通じて、個人や家庭は貧乏という状態から脱却し、より豊かで充実した生活を手に入れることができるでしょう。

結婚や恋愛において、目的と手段が逆転してしまうことで生じる経営失敗の例は数多く存在します。恋愛や結婚はあくまで手段であり、その先にある真の目的は自分自身と相手の幸福に他なりません。この真の目的に焦点を当てることで、恋愛や結婚における様々な心労もコントロールが可能になります。大切なのは、小さなプロセスに囚われ過ぎず、相手のことを過度に気にしすぎないことです。

また、部分にばかり目を向けて全体を見失ったり、短期利益を追求して長期的な利益を見逃したりすることは、健康問題においても同様に適用される経営の問題です。健康もまた経営であり、価値ある健康を創造するためには、健康を妨げる障害を除去することが不可欠です。それには、自身の内にある様々な対立を解消し、健康を維持・促進するための健康法や習慣を確立していく必要があります。

世界は経営でできている。 それに気が付かないと不条理と不合理から誰も抜け出せない。

経営の概念を人生全体に適用することで、ビジネスの世界だけでなく、私たちの日々の生活においても深い洞察と価値を提供することができると岩尾氏は指摘しています。積極的に自分の人生を「経営」として捉えることで、個人の成長と社会全体の豊かさへの道を切り拓くことが可能になります。

この経営思考法は、生活の様々な側面でガイダンスを提供し、人生を充実させるための重要なツールとなり得るのです。 本書では、価値創造を核として、個人や社会が真に豊かになるためには、経営の本質に立ち返ることが必須であると論じています。その際、相手という顧客や関係者への思いやりがキーワードになります。

著者は、経営の理念に基づき、人生を経営する役割において、私たち一人ひとりが能動的な参加者となるべきだと力説しており、究極の目標を達成するための障害となる対立を解消し、より豊かな共同体を構築することの重要性を強調しています。 人生における目的と手段の不一致や目的と手段の逆転は、多くの問題を引き起こす根源となります。

これらの経営上の課題に取り組み、相互に利益をもたらすWin-Winの関係を目指すことで、人生をより良い方向へと導くことができるのです。このように経営概念を生活の中で積極的に応用することにより、私たちはより意義深く、充実した人生を送ることができるようになります。

経営を忘れた人間はサルの群れと大差はない。人間が人間として生きられるのは価値創造ゆえだ。人間とは、価値創造によって共同体全体の幸せを実現する、「経営人」なのである。

価値は有限ではなく、無限に創造できるとマインドセットを変えることで、奪い合いがなくなり、お互いへの貢献ができるようになるのです。社会問題を解決する新たな価値創造によって、イノベーションが日本からも生まれるようになります。今こそ、私たちは経営人を目指すべきなのです。


この記事を書いた人
徳本

■複数の広告会社で、コミュニケーションデザインに従事後、企業支援のコンサルタントとして独立。
特にベンチャーのマーケティング戦略に強みがあり、多くの実績を残している。現在、IPO支援やM&Aのアドバイザー、ベンチャー企業の取締役や顧問として活動中。

■多様な講師をゲストに迎えるサードプレイス・ラボのアドバイザーとして、勉強会を実施。ビジネス書籍の書評をブログにて毎日更新。

■マイナビニュース、マックファンでベンチャー・スタートアップの記事を連載。

■インバウンド、海外進出のEwilジャパン取締役COO
みらいチャレンジ ファウンダー
他ベンチャー・スタートアップの顧問先多数
iU 情報経営イノベーション専門職大学 特任教授 

■著書
「最強Appleフレームワーク」(時事通信)
「ソーシャルおじさんのiPhoneアプリ習慣術」(ラトルズ)
「図解 ソーシャルメディア早わかり」(中経出版)
「ソーシャルメディアを使っていきなり成功した人の4つの習慣」(扶桑社)
「ソーシャルメディアを武器にするための10ヵ条」(マイナビ)
など多数。
 
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