Invention and Innovation 歴史に学ぶ「未来」のつくり方(バ-ツラフ・シュミル)の書評

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Invention and Innovation 歴史に学ぶ「未来」のつくり方
バ-ツラフ・シュミル
河出書房新社

Invention and Innovation(バ-ツラフ・シュミル)の要約

著者は発明とイノベーションの歴史を紐解くことで、今後何をすべきかを明らかにしています。新しい技術やイノベーションを活用して環境負荷を減らし、同時に人々の生活水準を向上させることが重要です。それにより、持続可能な未来を築く基盤が整備され、世界中の人々がより豊かで健康な生活を送ることができるようになります。

過去の知見からイノベーションの未来を予測する

私たち人類の進化は身体と行動が変化してきた歴史であり、さまざまな発明の成果と密接に結びついている。(バ-ツラフ・シュミル)

バーツラフ・シュミル教授はカナダのマニトバ大学で特別栄誉教授を務めており、カナダ王立協会のフェローであり、「Innovation for Cool」(ICEF)プロジェクトの運営委員会メンバーとしても活躍しています。

本書Invention and Innovation 歴史に学ぶ「未来」のつくり方では、人類の進化が身体的な変化と行動の変化、そして様々な発明と密接に結びついていることを詳細に探っています。

シュミル教授は、発明を「手製の道具」、「機械」、「新素材」、「製造・管理方法」という4つの主要なカテゴリーに分けています。また、「発明」と「イノベーション」という用語は意味が重なる部分が多いものの、イノベーションは新たな材料、製品、プロセス、アイデアを取り入れ、それらを習得し、活用する過程として定義されています。

彼は失敗したイノベーションを3つのカテゴリーに分類します。
・歓迎された後に問題が指摘されるようになった発明
有鉛ガソリン、DDT、クロルフルオロカーボン類。これらが環境や健康に与えた負の影響を与えました。

・災害を引き起こした発明
飛行船や原子力発電、超音速飛行。技術革新が成功するためには安全性や環境への配慮が不可欠です。

・未だ実現されていないが期待されている技術
ハイパーループによる輸送、窒素を固定する穀物、完全に制御された核融合。

本書には多様なテクノロジーの未来像が提示されていますが、一般の人々が科学技術の基本原理を理解せずに誤った情報に惑わされる可能性が高いと言います。シュミル教授は、現実的な視点を提供し、SF的なアプローチやハイプ(誇大な情報)を排除するアプローチをとっています。著者は多くのメディアやユヴァル・ノア・ハラリやレイ・カーツワイルのエクスポテンシャルな予測は、期待値が高すぎ、間違いがあると指摘します。

2017年、次のような予想が発表された。2022年には火星植民地化を目的とした最初の飛行がおこなわれ、その後すぐに火星を「テラフォーミング」する(大気をつくりだして居住可能な世界にする)準備をととのえ、やがては人類による大規模な植民地化が進むだろう、と。SFの設定なら、これは古くからあるネタで、独創性のかけらもない寓話である。実際、多くの作家がこの設定をとりあげてきた。

過去を振り返れば、エクスポテンシャルな予測の多くは実現していないか、あるいは時間軸がずれていたのです。

半導体などのテクノロジーの進化も鈍化しています。ムーアの法則に基づくチップの小型化の速度は、徐々に遅くなっています。

全世界で走行している約14億台の自動車の中で、電気自動車の割合はわずか2%ですが、実際にはこれらが「グリーン」であるとは言い難い状況です。その理由は、走行に必要な電力の大部分が化石燃料の燃焼から得られており、2022年において、一般的な電力供給の約60%が石炭や天然ガスの燃焼によって生成されていたからです。 このような現状を踏まえると、技術革新が進む中でも、実現には時間と新たな挑戦が伴うことが予想されます。

将来を見据える上で、科学技術の進歩だけでなく、持続可能な社会の実現に向けた取り組みが重要であることを認識する必要があります。イノベーションは日々進んでいますが、実現可能性には現実的な制約や限界が存在します。

たとえば、環境に配慮した飛行機の導入は技術的に可能でも、その規模や実施のタイミングには大きな課題が伴います。シュミル教授は、2040年までに水素航空機が普及する見通しは低いと述べ、航空業界の地球温暖化対策プランが非現実的であると批判しています。多くの乗客をカーボンフリーで飛行させる目標は、前例のない発明が行われる必要があり、その実現が極めて困難であると指摘しています。

正しいイノベーションの起こし方とは?

大局的に見れば、既存の手法を改善し、それをだれもが利用できるようにするほうが、より短期間でより多くの人たちが恩恵を得られるようになる。それは発明に過剰なまでの期待を寄せ、奇跡のようなブレイクスルーが起こるのを待つよりよほどいい。

イノベーションは社会や産業にとって重要な役割を果たしていますが、過度な期待はしばしば失敗や誤解を招くことがあります。シュミル教授の警告は、技術の進化を推進する一方で、現実的な目標設定や持続可能な発展への努力が重要であることを強調しています。私たちが未来を築く際には、技術の限界を認識し、現実とのバランスを取りながら進む必要があります。発明やイノベーションが成熟期に差し掛かるにつれ、この認識がさらに重要になります。

著者は、最も必要とされる分野に焦点を当て、現状を変えることの重要性を強調しています。彼によれば、現在最も重要なことは、富裕国と生活が困難な30億人以上の間に存在する著しい格差を解消することです。感染症の流行や早死にが多い国々では、平均余命が短く、健康、教育、収入の不平等が大きな問題となっています。そのため、これらの不平等を改善する必要があります。

具体的には、生命維持に必要な水、食料、エネルギーの確保が先決です。これらの基本的な物質的必要を満たすことが、人々が健康で生きるための基盤となります。しかし、現在の世界では、資源の不均衡やアクセスの不平等が存在し、特に途上国ではこれらの必需品に十分なアクセスがない状況が続いています。

したがって、技術革新や持続可能な開発を通じて、世界中の人々が健康で豊かな生活を送れるような環境を整えることが重要です。

著者が指摘するように、格差の解消と基本的な生活必需品の確保は現在最も重要な課題であり、これらの問題に取り組むことが世界全体の持続可能な未来を築くための第一歩です。 新たな発明を追い求める姿勢は、持続可能な社会を築く上で重要な役割を果たすことができます。

新しい技術やイノベーションを取り入れ、資源を効率的に活用し、再生可能エネルギーを普及させることで、環境負荷を減らし、同時に人々の生活水準を向上させる必要があります。これらの取り組みによって、持続可能な未来を築く基盤が整備され、世界中の人々がより豊かで健康な生活を送れるようになります。

前例のない挑戦からも、経験の欠如からも、当然のことながら設計ミスが生じるだろうし、人間の好み、人間がつける優先順位、人間の偏見、特定の研究への不合理な愛着のせいで、何度も何度も大きな失敗が生じるだろう。その意味で、また発明のスピードは加速化しているという誤った主張とは対照的に、「日の下に新しきものなし」なのである。

著者は、超音速の輸送手段を普及させるなど失敗する可能性の高いイノベーションよりも、数億人もの子どもの健康に悪影響を及ぼしている微量栄養素の欠乏を撲滅すべきだと考えています。

人類は過去と現在を切り離して考えがちですが、実際には過去の発明や技術を活用しながら、進化が継続してきました。これらの発明や技術は、社会の発展や生活の向上に貢献する一方で、環境や人命に悪影響を及ぼすこともあるため、注意を払う必要があります。

現代社会では科学技術の進歩が目覚ましいものですが、それに伴い地球環境や気候変動などの課題も浮き彫りになっています。持続可能な未来を築くためには、過去の失敗経験から学び、科学的な知識を活用しながら、地球と調和した方法を模索する必要があります。歴史は過去だけのものではなく、私たちが今日行う選択が未来を形作ります。。

シュミルは、それぞれの発明と成果、イノベーションと私たち人類の関係について、歴史と時代背景から丁寧に分析することで、失敗や誤算から導き出される教訓を明らかにしています。彼のアドバイスから、私たちは地球環境や人類の未来を考慮し、何を優先すべきかを考えるべきです。


 

この記事を書いた人
徳本

■複数の広告会社で、コミュニケーションデザインに従事後、企業支援のコンサルタントとして独立。
特にベンチャーのマーケティング戦略に強みがあり、多くの実績を残している。現在、IPO支援やM&Aのアドバイザー、ベンチャー企業の取締役や顧問として活動中。

■多様な講師をゲストに迎えるサードプレイス・ラボのアドバイザーとして、勉強会を実施。ビジネス書籍の書評をブログにて毎日更新。

■マイナビニュース、マックファンでベンチャー・スタートアップの記事を連載。

■インバウンド、海外進出のEwilジャパン取締役COO
みらいチャレンジ ファウンダー
他ベンチャー・スタートアップの顧問先多数
iU 情報経営イノベーション専門職大学 特任教授 

■著書
「最強Appleフレームワーク」(時事通信)
「ソーシャルおじさんのiPhoneアプリ習慣術」(ラトルズ)
「図解 ソーシャルメディア早わかり」(中経出版)
「ソーシャルメディアを使っていきなり成功した人の4つの習慣」(扶桑社)
「ソーシャルメディアを武器にするための10ヵ条」(マイナビ)
など多数。
 
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