経営に新たな視点をもたらす「統合知」の時代
PwCコンサルティング合同会社、PwC Intelligence
ダイヤモンド社
経営に新たな視点をもたらす「統合知」の時代の要約
変化が激しい現代では、経営者の責務がますます広がっています。マクロ経済、サステナビリティ、地政学、サイバーセキュリティ、テクノロジーを基盤に、業界の専門知識を踏まえ、洞察力、データ分析、専門家ネットワークから「統合知」を創出することで、複雑な経営上の問題に包括的な解決策を見つけ出すことができます。
インテリジェンスの視点で統合知から経営を考える!
1つひとつの情報をインテリジエンスとして形づくるには、それぞれの事実の文脈・行間を整理・統合して、全体像を「知識・知恵」として提供することが必要となる。(PwCコンサルティング合同会社、PwC Intelligence)
人口増大、気候変動、地政学リスクなど、世界規模で新たな社会課題が次々と起こり、企業の持続可能性に大きな影響を及ぼしています。VUCA時代とも言われるこの不確実な現代において、企業を取り巻くマクロ環境についてはテクノロジーを活用することなどにより、今後の見通しを一定程度予測し、かつ説明することは可能です。
しかし、世の中にあふれる多様かつ膨大な量の情報を適切に解釈することは困難であり、そのための羅針盤が今、必要とされています。 この複雑な状況下で、PWCコンサルティングのシンクタンク部門として設立されたPWC Intelligenceは、企業が直面する課題に対する新たな指針を提供しようとしています。彼らが追求する「統合知」は、まさにこの時代が求める羅針盤としての役割を果たそうとしているのです。
PWC Intelligenceは、マクロ経済、サステナビリティ、地政学、サイバーセキュリティ、テクノロジーという5つの専門領域を基盤としています。しかし、その真価はこれらの領域を単に並列させることにあるのではありません。むしろ、これらの専門分野を有機的に結びつけ、さらに業界別の知見を加えることで、より深遠で実践的なインテリジェンスを生み出すことを目指しています。
この「統合知」アプローチの真髄は、単なる知識の寄せ集めではありません。それは、各分野のスペシャリストが持つ深い洞察力、客観的なデータ分析、そして社内外の有識者ネットワークという3つの要素を巧みに融合させることにあります。
長きにわたるデフレ経済の中で、日本企業は独自の競争スタイルを確立してきました。それは、競合他社と似た製品を少しずつモデルチェンジしながら、互いの動向を注視し、自社のポジションを確保するという方法でした。しかし、この「競争」のあり方は、新たな事業領域を開拓し、そこでの利益を独占するという本来の競争とは大きく異なるものでした。過当競争と価格引き下げの悪循環に陥り、企業の成長を阻害する要因となっていたのです。
しかし、今、日本経済は大きな転換点を迎えています。円安・インフレの時代が到来し、高金利が定着しつつある中で、日本企業はこれまでの競争のあり方を根本から見直す必要に迫られています。これが「競争有意」の時代の幕開けを意味しているのです。
この新しい時代において、日本企業は競合他社が手をつけていない領域に果敢に挑戦し、そこでの利益を確保する真の意味での競争を展開しなければなりません。そうでなければ、グローバル市場での生き残りは困難になるでしょう。 インフレと高金利の環境下では、金融の役割が一層重要になります。資金の循環が活発化し、市場の拡大も進むことが予想されます。
この変化は、これまでの「出る杭は打たれる」「他人と同じでよい」という保守的な企業文化を根底から覆すきっかけとなるでしょう。 人手不足が深刻化する中、個性豊かな人材の重要性が増しています。リスクを恐れずチャレンジする姿勢が、これまで以上に評価される時代が到来しているのです。
また、新興国での事業展開の魅力が薄れる一方で、円安傾向と相まって、国内回帰の重要性が高まっています。 政治面では、大きな政府への志向、規制強化、ポピュリズムの台頭といった変化が見られます。これらの変化は、老朽化が進む国内産業インフラの再構築と相まって、日本企業にとって新たな機会をもたらす可能性があります。
さらに、企業の存在意義を示す「大きな物語」や「パーパス」の重要性が増しています。単なる利益追求ではなく、社会にどのような価値を提供するのか、その明確なビジョンを持つことが求められているのです。
日本企業に求められているのは、世界最高水準の財・サービスを学び、自社の提供できる価値を再定義することです。対象とすべき顧客は誰なのか、その潜在的ニーズは何なのか、徹底的に分析し把握する必要があります。そしてその上で、他社との差別化戦略を構築・実行し、自らが世界最高の財・サービスを生み出していく覚悟が必要なのです。
日本企業がかつて持っていた「人」を重視する経営理念や、人材を活かすための技術、そしてそれらを十分に機能させるための投資。これらを最大限に活用することで、人が主役となる新しい形の企業改革を実現することができるでしょう。 こうした改革の波がさまざまな産業に広がれば、日本経済は長年の停滞から脱却し、知らぬ間に大きく変貌を遂げているかもしれません。
グローバル時代の日本の立ち位置とは?
今後の日本は、日本人や国内市場だけに依拠した発想で困難を乗り越えようとするのではなく、世界のダイナミズムを自らの成長に取り込むといった「世界と組む」意識を持ち、国内にもダイナミズムを取り戻していく必要がある。
グローバル化が加速する現代において、日本は新たな国家像を模索する岐路に立っています。これからの日本は、世界の潮流に対する感度を高め、変化に適応しながら、世界のダイナミズムを自らの成長に取り込んでいく「世界と組む国」へと脱皮する必要があります。この転換は、日本の将来の繁栄と国際社会における存在感を確保するための必須の戦略となるでしょう。
日本は地理的にも文化的にもアジアと欧米の架け橋となる独特の位置にあります。この地政学的な利点を最大限に活かし、アジアと米欧双方の信頼を勝ち取ることで、日本は両者のダイナミズムを取り込む絶好のポジションを確立できます。歴史的に見ても、日本は東洋と西洋の文化を融合させ、独自の発展を遂げてきました。
まず、グローバル人材の育成に注力すべきです。語学教育の強化はもちろん、異文化理解や国際的な視野を養う教育プログラムの充実が不可欠です。また、海外留学や国際交流の機会を増やし、若い世代が早期から世界とつながる環境を整備することも重要です。
次に、イノベーションを促進する環境づくりが必要です。日本の大学の国際競争力強化、規制緩和や起業支援、高度外国人材の積極的な受け入れなどを通じて、新しいアイデアや技術が生まれやすい土壌を作り出すことが求められます。
同時に、日本の強みである製造業やサービス業の質の高さを活かしつつ、デジタル技術との融合を図ることで、新たな価値創造を目指すべきです。 さらに、国際協力の分野でもリーダーシップを発揮することが重要です。上から目線をやめ、アジアの成長のエネルギーを自社に取り組むべきです。
新興国は総じて日本よりも規制が緩く、デジタルを活用した新規性の高いサービスやビジネスモデルを導入する際のハードルは低い。こうした環境を活かし、地場の企業やスタートアップと連携しながら新しいビジネスの可能性を実証してみることは日本企業にも可能であろう。日本は規制が多く新興国とは同じことはできないと内向き志向で考えるより、新興国だからこそできる新しい取り組みを現地のパートナーとともに見つけ、ビジネスを共創していくような前向きな姿勢を持ちたい。これはアジア新興国のダイナミズムの取り込みの新しい形でもある。
この経験を活かし、現代のグローバル社会においても、異なる文化や価値観を橋渡しする役割を果たすことができるはずです。 特に注目すべきは、成長著しいアジア新興国の動向です。これらの国々では、社会課題の解決におけるデジタル技術の活用が急速に進んでいます。例えば、モバイル決済やテレヘルス、オンライン教育などの分野で、アジア新興国は先進国を凌ぐスピードで革新を遂げています。
日本企業はこれまでの固定観念を捨て、アジアに対する見方をアップデートし、これらのダイナミズムあふれる新興国から積極的に学ぶ姿勢を持つ必要があります。 日本が「世界と組む国」へと転換するためには、産業界だけでなく、政府や教育機関、市民社会全体が一丸となって取り組むことが求められます。
日本が「世界と組む国」へと進化することは、決して容易なことではありません。しかし、この転換を成し遂げることができれば、日本は国際社会において不可欠な存在となり、持続的な成長と繁栄を実現することができるでしょう。世界のダイナミズムを取り込み、自らも変化し続ける柔軟性を持つことで、日本は新たな時代における成功を掴むことができるはずです。
日本経済の再活性化に向けて、アニマル・スピリッツの復活が重要な鍵を握っていることが指摘されています。アジアの成長国に見られるような活力を取り戻すことで、日本経済に好循環をもたらす可能性が高まっています。 この好循環の始まりとして、資本への投資の活性化が挙げられます。
企業の設備投資が増加し、スタートアップへの資金流入が拡大することで、新たな事業機会が生まれます。同時に、人材育成への投資も強化されることで、労働力の質的向上が期待されます。 現代の経済環境において、無形資産への投資の重要性が増しています。
特に注目されているのが、組織再編、人的資本、ブランドといった経済的競争能力への投資です。これらの分野への投資を通じて、企業の競争力が強化され、市場での地位を確立することができます。 超高齢社会の到来に伴い、社会保障費の増加が予想されています。
デフレからインフレへの移行期にある現在、日本企業と労働者がアニマル・スピリッツを発揮し、積極的な投資姿勢を示すことが重要になっています。この投資の増加が、経済全体の活性化につながると期待されています。 投資の活性化は、生産性の向上をもたらします。
新技術の導入によるプロセス改善が進み、イノベーションが創出されることで、企業の競争力が高まります。また、労働力の質的向上も相まって、経済全体の効率性が向上していきます。 これらの変化が相互に作用することで、経済成長の加速が期待されます。GDP成長率の上昇は、雇用の拡大をもたらし、さらなる投資を呼び込む好循環を生み出します。
また、国際競争力の強化にもつながり、日本企業のグローバル市場での存在感が高まることが予想されます。 このように、アニマル・スピリッツの復活を起点とした投資の活性化は、日本経済全体に波及効果をもたらし、持続的な成長への道筋を示すものとして注目されています。
高齢化によるイノベーションが日本の武器になる?
Alやロボットなどのテクノロジーはさらに進化するため、その利用環境をよりアジャイルに整える必要がある。 一日本は社会の実情に合わせてテクノロジーの実装を進める柔軟性を持つ。超高齢社会における包摂性の高いテクノロジーの活用も求められる。 一日本がイノベーティブな社会となるには、テクノロジーを進化させる人間と積極的に使う人間が集まり試行錯誤する場が欠かせない。企業も同様であり、人がカギとなる。
テクノロジーの進化に伴い、その利用環境をより柔軟に整備する必要性が指摘されています。日本は社会の実情に合わせてテクノロジーの実装を進める柔軟性を持ち、超高齢社会における包摂性の高いテクノロジーの活用が求められています。
イノベーティブな社会の実現には、テクノロジーを進化させる人材と積極的に活用する人材が集まり、試行錯誤する場が不可欠とされています。 高齢者の状況を多面的に理解し、テクノロジーの力でその生産力や判断力を支援することで、より包摂的な社会の実現が期待されています。
また、バーチャル空間、特にインターネット空間を高齢者などの弱者にとって安全で安心して利用できる環境にすることの重要性が強調されています。 生成AIの発展により、言語の壁を越えた詐欺の増加が懸念される中、高齢者や子どもたちにもテクノロジーへの理解を深めてもらいながら、「日本のインターネット空間」の安全性を確保する必要性が指摘されています。
これにより、リアルとバーチャルの両方で安心してつながれるコミュニティの構築が可能となり、特に高齢者にとって意義のある取り組みとなることが期待されています。
テクノロジーとの関わり方について、人々を3つのカテゴリーに分類する新しい視点が提唱されています。テクノロジーを進化させる人々、それを積極的に使用する人々、そしてテクノロジーとの関わりを持たない人々です。この分類は、現代社会におけるテクノロジーの役割と、人々との関係性を理解する上で重要な枠組みを提供しています。
イノベーションの創出という観点から見ると、テクノロジーを進化させる人々と使用する人々の数を増やすことが極めて重要です。イノベーションの本質は、既存の要素を新たな方法で組み合わせ、これまでにない価値を生み出すことにあります。
このプロセスを促進するためには、多様な要素が密集し、さまざまな組み合わせが自然に生まれ、試行錯誤できる環境を整備することが不可欠です。 企業がイノベーティブな存在になるためには、テクノロジーに対する姿勢が重要な役割を果たします。
最新のテクノロジーを積極的に導入し、実際に使用してみることで、自社独自の新たな結合と実装方法を見出すことができます。この過程では、確立されたルールや検証結果を待つのではなく、先駆的な姿勢で臨むことが求められます。
人生100年時代を迎え、テクノロジーの進化により「豊かさ」や「幸せ」の定量化が進んでいます。これに伴い、ウェルビーイングのあり方を再考する必要性が高まっています。データに基づくウェルビーイングの可視化を進める中で、多分野の知見を活用しつつ、人間中心の考え方を基盤としたAIとの協働を模索することが重要です。
企業や個人が積極的にテクノロジーと関わり、イノベーションを創出することで、社会全体の発展と個人のウェルビーイング向上の両立が可能となるでしょう。 さらに、この考え方は教育分野にも大きな影響を与える可能性があります。次世代の人材育成において、テクノロジーを理解し、活用する能力を養うことが一層重要になると考えられます。
同時に、テクノロジーと人間の関係性について深く考察し、倫理的な側面も含めた総合的な教育が求められるでしょう。 また、高齢化社会における課題解決にも、このアプローチは有効です。テクノロジーを活用することで、高齢者の生活の質を向上させ、社会参加の機会を増やすことができます。同時に、若い世代と高齢者がテクノロジーを通じて交流する機会を創出し、世代間の理解を深めることも可能となります。
最終的に、テクノロジーとの共存を通じて実現される「日本らしさ」のあるウェルビーイングは、グローバル社会においても独自の価値を持つモデルとなる可能性があります。日本の文化的背景と最新のテクノロジーを融合させることで、他国にはない独自のイノベーションが生まれ、国際競争力の強化にもつながるはずです。
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