意味レイヤーの時代に私たちがすべきこと

2030年 ビジネスの未来地図 これからを生き抜くための戦い方
著者:藤井保文ほか
出版社:PHP研究所

本書の要約

個々人がどう生きるべきか、社会がどうあるべきか、といった意味レイヤーが、今後、先進国の重要なテーマになっていきます。意味レイヤーの領域でイノベーションを起こしている企業が海外で増える中、日本はこの分野で出遅れています。この現状を打開するためには、世界観を明らかにし、顧客のペインを取り除くべきです。

便利レイヤーと意味レイヤーがもたらすもの

今後10年で起こり得る社会の変化グローバルレベルでは既に「進行中」である変化は、大きく捉えると二つの潮流から語れるのではないかと思います。それを考えるうえでまず押さえておきたいのが、「便利レイヤー」と「意味レイヤー」という概念です。(藤井保文)

2030年 ビジネスの未来地図 これからを生き抜くための戦い方書評を続けます。今日はUXのスペシャリストのビービット 東アジア営業責任者の藤井保文氏の未来からの提言を紹介します。今日のキーワードは便利レイヤー意味レイヤーという概念です。

成長途上の社会においては、消費者が求めるのは「便利さ」で、その指標は、安全性や効率、スピードなど、比較的シンプルです。これらを満たすべく企業が競争し、うち少数の勝者が大企業として発展していくことになります。

その成長曲線は、便利レイヤーが飽和するに従い、緩やかになります。先進国の消費者が求めるのは、「意味」に変わり、生活者は便利だけでなく、面白さや楽しさや充実感、そして究極的には「自分らしさ」を満たしたいと考えるようになります。

意味レイヤーを満たす指標は無数にあり、消費のありようは必然的に多様化します。先進国の経済成長は鈍化しますが、自分らしさを求めるという大きなうねりが起こり始めています。個々人がどう生きるべきか、社会がどうあるべきか、といった意味性が、重要なテーマとなってきています。SX(サスティナビリティー・トランスメーション)を企業が意識しているのも、生活者が地球環境や労働環境などの意味性を意識し始めたからです。今後、先進諸国においては、こうした意味性の中で新たなビジネスが生まれると藤井氏は予測します。

もう一方の「便利レイヤー」においては、新興国が主な担い手となります。ここに先鞭をつけたのは、世界第2の強国となった中国です。中国には整わないインフラ、行き届かない医療、あらゆるプロダクトの低品質など数多くの 「ペインポイント」が存在します。

中国には多くの社会課題が存在し、起業家たちが強い危機感を持ち、デジタル革命を起こしていったのです。便利レイヤーにおいては、社会的基盤が脆弱である国の方が、大いなる飛躍を生み出せます。まさに、LEAPFROG現象が、中国、東南アジア、東欧、アフリカなどで起こっています。

先進国の仲間入りを果たした中国では最近、便利レイヤーから意味レイヤーへの移行の兆しが見られていると言います。西洋の模倣ではなく、中国や東洋の文化を基盤としたものを使おうという運動である「国潮」がトレンドになっています。

今後、インド、東南アジア、アフリカなど、社会的に課題を抱えた国や地域が、便利レイヤーの主役になり、ここから新たなイノベーションが生まれます。私はコロナ前に、エストニアやベトナム、インドネシアなどペインが多い国を訪問しましたが、そこから次々に新しい新しいテクノロジーが生まれていることを実感しました。これらの国のイノベーションを起こすスピードは凄まじいものがあります。インフラが整っていないことを逆手にし、一気に新しいテクノジーを導入し、生活者のペインをなくしています。

意味レイヤーの時代に私たちがすべきこととは?

テクノロジーの発展においても、意味レイヤー上のクリエイティビティにおいても、日本は流れに乗り切れていない感があります。

藤井氏は世界各国が意味レイヤーの領域でイノベーションを起こしている流れに、日本は乗り遅れていると指摘します。ここで重要になるのが、「業界」や「専門分野」に基づく発想を取り外すことです。

デジタルテクノロジーが進歩した今、生活者の課題解決には単体の製品ではなく、業界の境界線を越えたソリューションが求められています。

例えば「車で買い物に行くと荷物が多くてドアが開けづらい」という困りごとがあったとします。「足でドアを開けられる車を作ろう!」と考えるのは、自動車業界の枠の発想でしかありません。ユーザーのペインである「買い物に出かけたら荷物が大量になる」ことを見逃しています。通販やネットスーパーが、より適したソリューションを発見するためには、自分が携わっていることや作りたいものから発想するのではなく、いかにユーザーの視点に立てるかが鍵になります。その視点を突き詰めれば、最終的に企業は自社の「世界観」明らかにすべきです。

この世界観を明確に構築できている会社組織が、今後生活者の支持を得られようになります。世界観を持つ企業の一例として、藤井氏は中国のEVメーカー・NIOを取り上げます。同社は、現在、中国市場において、テスラを脅かす企業の筆頭と目されています。

NIOの基本理念は「Blue sky coming」で、排気ガスによって白く濁った北京の空を見た創業者は「空を青くしたい!」という理念を示し、EVを作るだけでなく「普及させる」ことを目指しました。NIOはバッテリー問題を解決するために、バッテリーのデリバリーサービスをスタートします。ユーザーがオーダーすれば、いつでもどこでも「NIOパワー」という充電池を積んだ車が来てくれます。「Blue sky coming」を実現するために、NIOはEVを持っていれば、競合ユーザーも含め、誰でもこのサービスを使えるようにしました。

実現したい世界を掲げて、価値あるUX(顧客体験)を提供する企業は、世界観を共有する別の企業と、業界を超えて手を組むことができます。

フィンランドの交通系アプリWhimも電車やバス、自転車のシェアリングなど、複数の業態や交通機関を一手にまとめ、サブスクリプションで自由に使えます。 Whimは、1つのアプリですべての移動モードの予約と支払いを可能にします。Whimは世界ですでに1,600万件以上の移動に使用され、人々の移動を多様でまた持続可能なものにしていて、日本でも実証実験を開始しています。

Whimが掲げているのが「ジョイントビジョン」です。目的を共にする他の業界や組織と手を組むことで、大きな社会課題に立ち向かい、世界をよりよくできるという考え方です。 目的が広く共感されるものであればあるほど、ジョイントの可能性は広がります。

千葉県柏の葉と東京エリアで展開していた実証実験の拡大に向け現在準備中で、パートナーであり出資者でもある三井不動産と共同で、モビリティサービスと不動産(マンション、オフィスビル、商業施設等)を融合させた、まったく新しいカテゴリーのプロダクトを開発中だと言います。理念を明らかにし、生活者の視点で移動を捉え、Win-Winを目指すことで、他業種とのジョイントもスムーズに行われます。

個々のビジネスパーソンにも、この意識は不可欠です。さしあたり持つべきは「視点転換力」。自分が持つ技術や自社のリソースに頼らず、 より大きな視野でソリューションを見出すスキルが必要です。先に述べた「ユーザー視点」の徹底が、その力の基盤となります。

意味レイヤーの時代には、私たちは「人助け」を意識し、生活者のペインを取り除くことを大きな視野でが考えるようにすればよいのです。そのためには、できるだけ多くの人から情報を集め、仮説を持ってビジネスにしていくことが大切になります。

生活者は「こんなことで困っているのでは?」「こんなサービスがあれば嬉しいのでは?」というようにあらかじめ考え、検証しましょう。慣れない間は見当外れでも、ブラッシュアップしてまた挑戦していきます。 その精度を高めることで。生活者に支持される意義あるプロダクトやサービスを生み出せるようになります。

藤井氏のメッセージを読みながら、野心的な目標である(MTP)とナラティブの重要性を再認識しました。なぜこれをやっているのかを明らかにし、ナラティブで語るうちに、それに共感する人たちが引き寄せられるようになります。

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