
ジミー・ソニ
ダイヤモンド社
ネットワーク効果で成長をはかろう!ペイパルから私たちが学べること。
ネットワーク効果がすべてに勝るからだ。(ケン・ハウリー)
コンフィニティの共同創業者のケン・ハウリーはネットワーク効果のメリットをこう表現します。戦略家のピーター・ティールが率いるペイパル(コンフィニティ)はこのネットワーク効果で成長を加速させたのです。
ネットワーク効果は、1900年代初めに電話の普及を説明するために生まれた経済原理です。この原理によれば、電話網に新たな電話が追加されるごとに、既存の電話全体の価値が上昇し、電話を持っていない人々が電話を購入するインセンティブが高まります。
イーベイのオークションでペイパルでの支払いを受け入れる出品者が増えると、ペイパルに登録する購入者も増え、また、ペイパルで支払いをする購入者が増えると、さらに多くの出品者がペイパルを受け入れるようになります。
このようなネットワーク効果の例は、インターネットの時代でもよく見られます。新たな参加者が増えることで、既存の参加者の価値や利益が向上し、それがますます多くの人々を引き寄せるという好循環が生まれます。ネットワーク効果は、ネットワークを形成する要素が相互に関連し合い、その規模が大きくなることでより強力になるという経済原理です。
コンフィニティは、戦略的な動きによって、イーベイという強力なネットワークを利用して自身のネットワークを拡大することを目指しました。彼らはイーベイのサイトから無断でデータを収集し、それを活用してオークションの購入者や出品者が彼らのオークションページで利用できる便利な機能やパーツ(ウィジェット)を作りました。
例えば、彼らはロゴのサイズ変更ツールや、イーベイの決済ページでのオートコンプリート機能(ペイパルが事前に選択される機能)などを開発しました。また、イーベイの出品者が一度ペイパルを受け入れると、その後の決済方法が自動的にペイパルにリンクされる「自動リンク」という機能も提供しました。
これらの取り組みにより、「自動リンク」機能を通じて登録数が驚異的な速度で増加しました。ユー・パンは「自動リンクのおかげで、登録数がとんでもない勢いで増えていった」と述べています。 コンフィニティの戦略は、イーベイのネットワークを活用しながら、新たな機能や便利さを提供することで自身のネットワークを成長させるというものでした。彼らの取り組みは、ユーザー数を増やし、ネットワークの規模を拡大する上で大きな成果をもたらしました。
ペイパルの合併でもネットワーク効果が鍵を握った??
バックにセコイアがついていた。うちのノキア・ベンチャーズとはわけが違う。ずっと懐が深くて、破壊力も大きい。(ジャック・セルビー)
ピーター・ティールは、X.comが資金力を武器にコンフィニティを追い詰める可能性を早い段階から察知していました。コンフィニティの利用者数は順調に伸びていましたが、その成長を維持するための顧客獲得費や人件費も膨らんでいました。
このまま消耗戦を続ければ、勝者が決まる前に両社が共倒れになりかねません。 そもそも決済サービスは、利用者が増えるほど利便性と価値が高まるネットワーク型の事業です。支払い相手がいなければ送金サービスは使われず、受け取る相手がいなければ決済ネットワークは成立しません。
同じ市場で二つのサービスが同時に拡大するよりも、利用者を一つのネットワークへ集約したほうが、その価値は飛躍的に高まります。 この構造を理解したコンフィニティの経営陣は、X.comとの合併を検討し始めます。
ただし、交渉を有利に進めるには、自社の企業価値を高めなければなりません。そこで同社は、資金が枯渇するリスクを承知のうえで、イーベイ上での新規会員獲得をさらに加速させました。
当初、X.comが提示した合併比率は92対8で、コンフィニティにとって極めて不利なものでした。しかし、PayPalの利用者が増えるにつれて交渉力も高まり、比率は55対45まで改善します。合併の実現が目前に迫ったものの、土壇場でマスクが交渉を打ち切りました。
膠着した状況を動かしたのが、当時X.comのCEOだったビル・ハリスです。ハリスはコンフィニティ共同創業者のマックス・レヴチンの自宅を訪ね、50対50という対等な合併条件を提示しました。
ハリスにとって、合併は競争から逃れるための防御策ではありませんでした。二つのネットワークを統合し、市場を一気に支配するための攻撃的な戦略だったのです。
彼は、ネットワークの価値が接続数の増加に伴って大きくなるというメトカーフの法則を理解し、オンライン決済事業では規模の獲得が勝敗を左右すると考えていました。 ハリスは交渉力を発揮してマスクを説得し、X.comとコンフィニティの合併を実現させます。
合併後、ハリス自身はCEOの座を退くことになりますが、彼の決断がなければ、その後のPayPalの成長も、イーロン・マスクやピーター・ティール、マックス・レヴチンら「ペイパル・マフィア」の誕生もなかった可能性があります。
この合併が示しているのは、ネットワーク型ビジネスでは、競争に勝つことと競争を終わらせることが、必ずしも別の戦略ではないという事実です。資金を投じて相手を倒すだけでなく、統合によって利用者を集約し、市場全体の価値を高めるほうが合理的な場合があります。 X.comとコンフィニティは、激しい消耗戦の末に合併という選択をしました。
その結果、PayPalは世界的なオンライン決済プラットフォームへと成長します。ピーター・ティール、マックス・レヴチン、ビル・ハリスらの決断は、ネットワーク効果を理解し、競争相手との関係まで含めて戦略を組み替えることの重要性を示す象徴的な事例です。
本書の要約
X.comとコンフィニティの合併は、ネットワーク型ビジネスでは、競争そのものよりも規模の獲得が重要であることを示しています。両社は資金を消耗する競争を続けるのではなく、合併によって利用者基盤を統合し、PayPalの価値を飛躍的に高めました。ピーター・ティール、マックス・レヴチン、ビル・ハリスらの判断は、ネットワーク効果を見極め、競合との統合を成長戦略へ転換した好例です。














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