TALENT——「人材」を見極める科学的なアプローチ(タイラー・コーエン、 ダニエル・グロス)の書評

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TALENT——「人材」を見極める科学的なアプローチ
タイラー・コーエン、 ダニエル・グロス
クロスメディア・パブリッシング(インプレス)

本書の要約

人材を採用する際には、学歴だけでなく、個々の能力や適性を重視しましょう。また、新しい視点や異なるバックグラウンドを持つ候補者にもチャンスを与えることで、より多様な才能を引き出すことができます。さらに、適切な選考手法や面接プロセスを導入し、人材の多様性を尊重することで、真のポテンシャルを持つ人材を育て、イノベーションを促進することができます。

優秀な人材の2つの定義とは?

重要なインターネット革命の多くは、隙間市場と見られていた分野の商品から始まったからだ。こうした人々は、少数のファンを喜ばせることに全力を注ぎ、彼らに絶賛されながらスキルを身に付け、人脈を広げることで、最終的に幅広い人々に商品を売ることができた。したがって、大成功しそうなスタートアップ企業を見つけたければ、直感には反するが、少なくとも最初は、ごく一部の変わり者に喜ばれることを目的としている人々を探すとうまくいくことが多い。(タイラー・コーエン、 ダニエル・グロス)

タイラー・コーエンは、米国ジョージ・メイソン大学の経済学教授であり、コラムニスト、ブロガー、ポッドキャスターとして活躍しています。彼は、経済学、金融、テクノロジー、政治など、幅広い分野の知識、体験、人脈をることで、才能ある人を見出しす方法を発見します。

ダニエル・グロスは、ダニエル・グロスは、ゲーマーでした。彼は23歳のときに、テクノロジー業界でCueを起業しました。Cueは、アップル社に売却されました。ダニエルは、当時飛躍的な成長を遂げようとしていたアップル社のディレクターとなりました。

次に、ダニエルは、スタートアップ企業に投資するY Combinator社のパートナー兼ファウンダーを務めました。彼は、同社においてベンチャーキャピタルおよび人材発掘に対する、恐らく世界で最も影響力のある体系的なアプローチを確立し、制度化しました。

2018年にダニエルはサンフランシスコを拠点とするスタートアップ企業のベンチャー投資会社、Pioneer社を立ち上げました。 Pioneer社は、推薦と面接という従来の方法に加え、オンラインおよびゲームを活用して、世界中の新しい人材探しに力を入れています。ダニエルとPioneer社は、たとえば新しい分野や意外な分野に目を向ければ、はるかに多くの人材が見つかると確信しています。

コーエンとグロスは、優秀な人材は、企業の成功に不可欠であると主張しています。彼らは、優秀な人材を採用するためには、明確な基準を設定し、候補者の能力を慎重に評価することが重要であると考えています。

日々の熱心な努力を通じて自己成長を追求し、社交的な常套句に頼らない人々の中には、クリエイティブな要素にこだわり、大きな変革をもたらす可能性が高いと著者らは述べています。これらのアウトサイダーたちは、イノベーションを起こす確率が高いと指摘されています。

著者らは「人材」=TALENTを
①本当にその組織にとっての、「かけがえのない人材」
②その組織を変革できる、「才能ある人材」
と定義し、様々な角度から分析します。その上で、彼らは、優秀な人材は、企業の成功に不可欠だと主張しました。

Y Combinatorのサム・アルトマンは、成功するファウンダーと失敗するファウンダーの違いに関する豊富なデータを持っています。そのデータを元に、成功の要因として迅速な行動力と判断力が重要であると指摘しています。これは、スタートアップ企業が大企業に対して持つ利点であり、成功するためには機敏性とスピード、コンセンサスにこだわらない姿勢、投資の集中、驚異的な集中力が関連していると述べています。

具体的に言えば、迅速な行動力は競争優位性を確保し、市場シェアを獲得するために重要です。また、判断力は複雑な状況や情報を正確に評価し、リスクを適切に管理する能力を指します。 スタートアップ企業にとって機敏性とスピードは重要な利点であり、市場の変化に迅速に対応し競合他社に先手を打つことができます。

また、スタートアップ企業は個別のビジョンや目標に集中することができるため、コンセンサスにこだわる必要がありません。 さらに、成功するファウンダーは有望なアイデアや成長の可能性があるプロジェクトに投資を集中させます。これにより、限られたリソースを効果的に活用し競争力を高めることができます。

最後に、驚異的な集中力を持つことは成功の鍵です。困難な局面や挫折に直面しても諦めずに取り組み続けることが重要です。 したがって、成功するファウンダーにとってメールの返信スピードも重要な要素と言えます。この観点から、メールの返信が遅いCEOには投資しない方がよさそうです。

学歴偏重主義をやめ、多様な人材を採用すべき理由

過小評価されている人材を見いだすことは、個人的、組織的に優位に立つための最も有効な手段のひとつであり、それが人材探しの実用的価値だ。大企業なら高い報酬を提示して「見るからに」優秀な人材を雇うことができる。しかし、小規模な企業の場合、大手と肩を並べるのはなかなか難しいだろう。やる気に満ちた忠実な唯一無二のチームをつくるには、これまで見落とされていたキャリア後半の女性や目立たないはみ出し者のプロデューサー、隠れた天才を的確に選び出すのが一番だ。

2人の意見を参考にしながら、ベンチャー、スタートアップや中小企業が過小評価されている人材を見いだすためのヒントをいくつか考えてみます。
・多様な人材を採用する。
・経験よりも可能性に目を向ける。
・長所を見出す。
・メンターシップやトレーニングを提供して、成長を促す。

過小評価されている人材を見いだすことは、小規模な企業にとって大きなメリットをもたらします。彼らは、大企業ではあまり評価されなかったスキルや経験を持っています。ベンチャー、スタートアップや中小企業では、彼らの能力を最大限に発揮させ、組織の成長に貢献することができます。

過小評価されている人材を見いだすには、従来の採用基準にとらわれない視点を持つことが重要です。経験よりも可能性に目を向け、長所を見出すことで、優秀な人材を発掘することができます。ベンチャーは過小評価されている人材を見いだすことで、大企業に負けない競争力を身につけることができます。

グローバル化が進む中でダイバシティを採用の基軸に置くことで、良い人材に出会えます。最近ではナイジェリアが注目されています。

ナイジェリアの起業家は、世界中で急速に企業を立ち上げています。イギリスでは、数学の成績が優秀な子供たちの多くがナイジェリア系です。アメリカでは、ナイジェリア系アメリカ人の所得は着実に増加しています。しかし、すべてのナイジェリア人が世界で成功しているわけではありません。

これは、人材の採用と評価に改善の余地があることを示しています。グローバル化は、人材を探している人々にとって大きなチャンスです。しかし、人材を採用する際には、本当に能力のある人を探すことが重要です。

行き過ぎた学歴偏重主義は、採用プロセスにおいて最悪な形で表れ、人材探しにも悪影響を及ぼしていると指摘されています。数十年前までは高校卒業が就職に十分だった多くの業種でも、現在では大学卒業以上の学歴が求められるようになりました。

『ニューヨーク・タイムズ』によれば、修士号はかつての学士号と同等の価値しか持たなくなったとされています。現在では警察官や建設管理の仕事にさえ修士号を持つ人材が求められるようになりましたが、本当にこれらの職業に修士号などが必要なのでしょうか?

学歴偏重主義は、仕事に適した人材を選別する上で重要な役割を果たしています。しかし、失敗すれば候補者や雇用主の双方に損失をもたらし、経済的に余裕のない人々の経済的・社会的流動性を制限し、過度な学歴への投資を促進してしまいます。

人材探しはその自体がクリエイティブなスキルであり、音楽鑑賞や美術鑑賞に近いものです。型にはまった面接やグループ思考、アルゴリズム、パワーポイントのスキルだけでは対応できません。人材探しはより独創的なアプローチを求めるものです。

学歴だけでなく、個々の能力や適性を正当に評価する方法を探求することが重要です。従来の採用方法では、学歴や資格などのスペックが重視されることが多く、候補者の潜在能力や創造性を見抜くことが難しいことがあります。

しかし、クリエイティブなアプローチを取ることで、候補者の潜在能力や創造性を引き出すことができます。この世界にはまだ見つかっていない価値が常に存在するという前提に基づく限り、人材探しは基本的に楽観的な試みです。

人材探しのプロセスにおいては、学歴だけでなく、個々の能力や適性を正当に評価する方法を探求すべきです。新しい視点や異なるバックグラウンドを持つ候補者にもチャンスを与えることで、より多様な才能を引き出すことができます。また、適切な選考手法や面接プロセスの見直しも必要です。

個々の能力や才能を適切に評価し、人材の多様性を尊重することで、真のポテンシャルを持つ人材が育ち、イノベーションが促進されるのです。

著者たちの人材に関する4つの考え方

2人は人材に関する4つの考え方を紹介します。
①人材探しは技術であり、科学である。
ピーター・ティール
はペイパルマフィアなど多くの人材を世に送り出した存在として知られています。彼はスタンフォード大学在学中にルネ・ジラール教授に師事し、宗教や哲学について研究しましたが、これが彼の人材発掘に影響を及ぼしていると言います。

道徳的な判断は人間にとって鋭く、意欲的な洞察の源であり、ピーター自身もベンチャーキャピタルでの人材評価においてその重要性を理解しています。そのため、彼は相手に自身が成功に値すると思うかどうかを問い、相手の感情的な質問から補足的な情報を引き出しています。道徳的な判断は人間の最も深く、最も強力な直感を呼び起こすものであります。

ジャーナリストであり、ペイパルやStripeに出資したマイケル・モリッツは、個人の持つ真摯なエネルギーに関連するストーリーを求めている存在です。著者らは彼の専門技術が、そうした背景を見出すことにあると考えています。

モリッツは特に、子供時代の忍耐力を物語るストーリーに興味を持っています。なぜなら、困難に立ち向かった経験を持つ人々は、不満を抱き、自己成長の必要性を感じており、それが成功への鍵であることを知っているからです。

彼は、サッカーの名将であるアレックス・ファーガソンの自伝のエピローグを執筆したことも偶然ではありません。ファーガソン氏はその中で、クリスティアーノ・ロナウドやリオネル・メッシなどのトッププレイヤーが自己成長に執着しているために他の人々よりも優位に立てるのだと説明しています。

モリッツは、最も重要な候補者は必ずしも大きな成功を収めた経歴を持つ人物ではなく、むしろ他の誰よりも努力し、トップに立つことを決意している人物であることを理解しています。

人材探しの理論的側面は、実行能力に関するデータが既に大量に存在する場合に最も意味を持ちます。スポーツは才能ある選手の選定と採用においてさまざまな数値・データを活用することで大きく進歩してきました。

②人材発掘のマインドセットを養う。
人材の評価能力を向上させるには、日常の生活の中で自然の実験を行い、観察を続けることで、常に自分のスキルを試し、磨いていく必要があります。

③科学的調査も重要だが、情報源を確認しよう。
間違った知識を捨て去り、驚きを素直に受け入れることは、埋もれていた人材を見つける上でとくに重要です。なぜなら、間違った知識を持っていると、その知識に縛られて、埋もれている人材を見逃してしまうことがあるからです。

④ 「人材」探し──その判断の倫理
私たちは、他人の成し遂げたことに驚いたり、失敗の原因を探したりすることがあります。しかし、これらの両方を同時に念頭に置くことが大切です。驚きは、世界が素晴らしいところだという感動を与えてくれますが、失敗の原因を探すことで、才能に対する複数の視点を得ることができます。

例えば、誰かが素晴らしい業績を達成したとします。私たちは、その人の才能や努力に驚くでしょう。しかし、その人が成功するためには、多くの失敗を経験した可能性もあります。失敗の原因を探ることで、その人の才能や努力をより深く理解することができます。

このように、驚きと失敗の原因を同時に念頭に置くことで、才能に対する複数の視点を得ることができます。これは、より良い人材育成やイノベーションにつながります。

「今、ブラウザで開いているタブは何ですか?」という質問によって、良い人材に出会えるようになります。この質問は相手の知的習慣好奇心、余暇の活動について、すべて まとめて聞いています。相手の好みや志向を探ることは、会話以上に重要です。

特に上位の求人ポジションでは、余暇に関する質問が不可欠です。優れたパフォーマーは長期間にわたって練習を怠りません。相手の話や様子から、余暇に自身のスキルを磨く時間をあまり取っていない印象を受けた場合、その人がトップの地位にふさわしいかや古い期待に応えられる能力を持っているかを判断できるでしょう。

ブラウザのタブについて尋ねることは、そのための戦略です。しかも、「どのくらい努力していますか?」や「余暇にどのくらい自身のスキルを磨く努力をしていますか?」などの質問と比べて、ぎこちなくなることはなく、誇張された回答を引き出すこともありません。

この本は、優秀な人材を採用し、育成するための貴重な指南書となっています。 ダニエル・グロスとタイラー・コーエンは、優秀な人材を採用し、育成するための様々な方法を教えてくれます。2人の著者から従来の方法にとらわれず、新しい分野や意外な分野に目を向けて、優秀な人材を発掘する方法を学べます。


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