場から未来を描き出す――対話を育む「スクライビング」5つの実践
ケルビー・バード
英治出版
場から未来を描き出す(ケルビー・バード)の要約
自分自身を信じることとメンバーとの信頼関係を築くことは、集団のエネルギーを引き出し、正しい解答に近づくために重要です。まだ形になっていない考えがスクライビングによって視覚化されることによって、人々は内省を深め、自らが主体となる意識を高めます。結果、新しい洞察、ビジョン、そして未来を生み出せます。
スクライビングとは何か?
私たちは共感するために、そして描くために、聴きます。(ケルビー・バード)
アーティストであり、世界的に認められているスクライビングの実践者のケルビー・バードは、対話を深めるための実践的アプローチを探求しています。この本は、単に言葉を交わすだけではなく、描画を通じて対話を促進し、共に未来を構想する方法を提案しています。
ここで紹介されている「スクライビング」という技術は、参加者が自分の考えや感情を絵や図に表現することで、より深いレベルのコミュニケーションを実現する方法です。スクライビングは、複雑なアイデアや感情を視覚化し、それによって具体的に理解を深めるのに特に有効です。
この本では、スクライビングを実践する具体的な方法や手順も詳細に説明されており、どのレベルの経験者にも有益な情報が含まれています。ケルビー・バードによるこのアプローチは、対話をより深め、共感を生み出す新たな方法を提供します。参加者が自らの考えや感情を視覚化し、共有することにより、より有意義なコミュニケーションが促されることが期待されます。
「スクライビング」という動作は、可視化する行為です。アーティストが、人々の話していることを言葉と絵で配置していき、話している人たちは、ひとつの描写ができあがっていく過程を目の当たりにすることができます。そしてその描写が、話している内容をつなぎ、洞察を与え、意思決定に手助けをします。
「スクライビング」とは、会話や議論を視覚化する技術です。この方法では、アーティストが現場で言葉やイラストを用いて、人々が話している内容を図や絵で表現します。これにより、参加者は自分たちの考えや感情がどう共有され、結び付いているかを直感的に理解することができます。
このプロセスを通して、参加者は自分の意見が尊重されていると感じ、集団全体で共通の理解を築くことができます。スクライビングによって視覚化された情報は、議論を円滑に進め、複雑な問題を整理しやすくするため、意思決定や問題解決の過程で重要な役割を果たします。
また、この手法は参加者が議論の流れを追いやすくし、具体的な方向性を定めるのに役立ちます。 スクライビングは、単なる描画やメモ取り以上のものとされています。この手法を用いることで、言葉だけでは伝えきれない情報や感情を共有し、対話や共創を促進することができます。
特に著者が実践する「生成的スクライビング」と呼ばれる手法では、その場のエネルギーや可能性を感じ取り、参加者がまだ言葉にできていない内容を形にします。アーティストは、場のエネルギーに調和し、意識を広げながら、生態系全体を考慮して描きます。
これにより、社会的な場に新しい現実が現れるのを助け、参加者は自分たちが属するシステム全体をより深く理解することができます。
スクライビングによって生み出される関係性は参加型で、互いに影響し合い、共に創造するものです。この相互作用を通じて、参加者は自分たちの対話がもたらすシステムの文脈を超えた新しい理解へと導かれます。この方法は、単に情報を交換するだけでなく、相互理解を深め、共同の未来を描く上で重要な役割を果たします。
スクライビング=参加型のソーシャル・アート
スクライビングは本質的には参加型のソーシャル・アートです。
スクライビングはソーシャル・アートの形態として、集団の中で行われる対話的な創作活動です。このプロセスでは、アーティストが会場でリアルタイムに言葉やイラストを用い、参加者たちの会話や議論を視覚的に表現します。このやり取りは公開され、その場の人々の目に触れ、フィードバックによって形を変えていきます。
複数の人々の参加が必要であり、個々人の声や視点が共鳴し合いながら、有機的に展開していきます。 この方法では、アートの創造は一人のアーティストだけのものではなく、多くの参加者のインプットによって成り立っています。参加者は自分たちの言葉や感情がどのように共有され、繋がっているのかを視覚的に確認することができ、それによって相互理解を深めます。
スクライビングを通じて、参加者は自分の考えや意見が価値を持っていると感じることができます。これは、グループ全体としての共通の理解を形成するのを助け、議論を進めやすくします。この視覚化プロセスは、複雑な問題を整理しやすくするとともに、より効果的なコミュニケーションと協力を促進します。
スクライビングによって、参加者は自身の考えが尊重され、共有されることを感じ、グループ全体としての共通の理解を深めることができます。さらに、可視化された情報は議論をスムーズに進行させ、複雑な問題を整理しやすくする役割も果たします。
スクライビングには「開かれた思考」「開かれた心」「開かれた意志」という3つの重要な能力が求められます。開かれた思考は、新しいアイデアや視点に対して好奇心を持ち、常に学び続ける姿勢を意味します。開かれた心は、他者の意見や感情に共感し、思いやりを持って受け入れることを指します。最後に、開かれた意志は、新しい挑戦に果敢に取り組み、自らの考えやビジョンを表現する勇気を持つことです。
これらの能力をバランスよく持つことで、スクライビングを通じて豊かな対話や革新的なアイデアを生み出すことができます。私たち全員がこれらの能力を育て、スクライビングを通じてより明るい未来を共に描くことができれば、社会全体がより豊かで理解し合う場へと進化していくでしょう。
マサチューセッツ工科大学のオットー・シャーマー博士が提唱したU理論は、問題解決のための独自のアプローチを提案するプロセスであり、スクライビングはこの理論の理解を深める手段として活用されます。
スクライビングでは、自分自身の在り方を整えることが、問題解決の出発点とされています。技術や方法論も重要ですが、描く際の心構えや表現の姿勢がそれらよりもさらに重要とされています。
スクライビングは、存在する(在る)、一体化する(融合する)、認識する(捉える)、理解する(知る)、表現する(描く)の5つのステップに基づいています。それぞれのステップは、問題解決や創造的な対話において本質的で興味深い要素を持っています。
時間が経過するにつれ、集団が変化の意思を示すようになったら、彼らがビジョンのレベルを上げ、更新された今の現実に気づくのを助けることができます。集団がどこから来てどこをめざしているかにリズムを合わせることにより、私たちはその道筋を可視化します。そして、選択のための状況を整えることができるのです。
自分自身を信じることと、参加しているメンバーとの信頼関係を築くことは、集団のエネルギーを引き出し、正しい解答に近づくために重要です。まだ形になっていない考えがスクライビングによって、視覚化されることによって、人々は内省を深め、自らが主体となる意識を高めます。これにより、新しい洞察、ビジョン、そして未来が生まれるのです。
コメント