「組織と人数」の絶対法則―人間関係を支配する「ダンバー数」のすごい力(トレイシー・カミレッリ, サマンサ・ロッキー, ロビン・ダンバー)の書評

A group of people standing in a circle with their hands together

「組織と人数」の絶対法則―人間関係を支配する「ダンバー数」のすごい力
トレイシー・カミレッリ, サマンサ・ロッキー, ロビン・ダンバー
東洋経済新報社

「組織と人数」の絶対法則の要約

スライブ(繁栄、成長、成功)する組織は、リーダーの努力とメンバーの協力で築かれます。つながりと学びの機会を提供し、帰属意識と目的意識を育む環境を整えることで、人間らしい才能を伸ばす文化が生まれます。これにより、仕事は個人の成長と組織の発展が調和する場となり、持続可能な成功をもたらします。

人間の社会集団の健全性の3つの法則

幸福で生産性の高い従業員は、意義のある仕事につき、その仕事で成長できると感じる必要がある。そして職場の人間関係が良好で、公正な環境であるならば、困難を経験しても恐怖に押しつぶされることはない。これも、「スライブ(繁栄、成長、成功)」という概念の重要な部分である(トレイシー・カミレッリ, サマンサ・ロッキー, ロビン・ダンバー)

現代のビジネス環境において、効果的な組織運営とチームワークの構築は重要な課題となっています。本書は、この課題に対して新たな視点を提供しています。彼らは、人間の「社会脳(ソーシャルブレイン)」に焦点を当て、その生物学的な制約が現代の組織にどのような影響を与えているかを探究しています。

トレイシー・カミレリサマンサ・ロッキーロビン・ダンバーという異なるバックグラウンドを持つ3人の著者が、それぞれの専門分野からの知見を結集させ、スライブ(繁栄、成長、成功)する組織の法則を明らかにしています。

人間の社会集団の健全性は、私たちの生物学的な特性に深く根ざした3つの重要な原則に基づいています。これらの原則は、私たちの遺伝子に組み込まれており、無視することはできません。

第1の原則は、集団の規模が健全性を大きく左右するという点です。人は他者を知り、また他者から知られている環境で最も活躍します。つまり、適切な規模の集団が、個人の能力を最大限に引き出すのです。

第2の原則は、第1の原則から派生しています。集団の規模が大きくなるにつれて、相互関係の質が低下するという事実です。私たちは社会的活動の時間の大半を、ごく少数の人々との交流に費やします。具体的には、その60%をわずか15人との関係に充てています。このことから、私たちが親密な関係を築く相手を慎重に選ぶことの重要性が浮かび上がります。

第3の原則は、私たちの身体的な反応、特にホルモンの働きに関するものです。恐怖やストレスによって分泌されるコルチゾールは、様々な悪影響をもたらします。一方で、エンドルフィンなどの神経伝達物質は、安心感や幸福感を生み出します。 このポジティブなホルモン反応を引き起こすのが、「社会的毛づくろい」と呼ばれる行為です。

人間の場合、これは物理的な接触や共通の経験を通じて行われます。例えば、抱擁や愛撫、握手、食事を共にすること、経験を共有することなどが該当します。これらの行為は、脳にエンドルフィンの分泌を促し、社会的な絆を強化します。

これらの原則は、人間の社会性の根幹を成しています。現代社会において、効果的な組織運営やチーム構築を行うためには、これらの生物学的な特性を理解し、尊重することが不可欠です。適切な規模の集団を維持し、質の高い人間関係を築き、ポジティブな社会的交流を促進することで、個人と組織の健全性を高めることができるのです。

特に「ダンバー数」と呼ばれる150という数字が、私たちが意味のある社会的関係を管理できる最大の人数であるという考え方が中心に据えられています。この数字は、進化の過程で私たちの脳が自然に設計された集団の大きさを反映しており、軍隊や企業の組織構造にもその影響が見られます。

ダンバーが示した「親密な関係」から「知り合い」までの階層構造は、進化の歴史に根ざしており、社会集団の大きさに適応したものです。1〜2人の親密な関係、5人の親友、15人の親しい友人、50人の良い友人や主要な社会的サークル、150人の単なる友人といった関係の層は、それぞれが内側の層の約3倍の大きさになっております。

私たちの関心はヒトの生物学の精妙さと欠陥に照らして我が身を振り返り、人間心理の何が不変であるかを突き止めることにある。ヒトの生物学が社会的であるのは明白だ。それは社会の機能と企業の組織の基盤である。

組織運営における「社会脳」の役割を深く理解することで、効果的なグループを形成し、成長する組織を作れるようになります。著者たち、信頼と友情を築くための「7本柱」という概念を明らかにしています。

これらの柱は、言語、生まれ育った場所、教育とキャリア上の経験、趣味、世界観、ユーモア、音楽の好みから成り立っています。これらの要素は、ホモフィリー効果を通じて、人々の絆を深める上で重要な役割を果たします。 ホモフィリー効果とは、類似性に基づいて人間関係が形成される傾向を指します。

つまり、私たちは自分と似た特徴や背景を持つ人々に自然と引き寄せられるのです。この効果を理解し、適切に活用することで、組織内のコミュニケーションや協力関係を促進することができます。

さらに、組織を身近な存在に変えるための方法として、起業の物語を語ることやブランドロイヤリティを高めることが挙げられます。これらの手法は、従業員や顧客の帰属意識を強化し、組織との絆を深める効果があります。例えば、企業の創業者の苦労話や成功体験を共有することで、従業員は組織の価値観や使命に共感し、より強い帰属意識を持つことができます。

また、ブランドロイヤリティを高めることで、顧客との長期的な関係を構築することができます。これは単に製品やサービスの質を高めるだけでなく、顧客との感情的なつながりを作り出すことを意味します。例えば、顧客の価値観に合致した社会貢献活動を行うことで、ブランドへの信頼と愛着を醸成することができるのです。

人とのつながりが組織を強くする!

 エンドルフィンの放出につながる活動は、何であれ人々を結びつけ、人々の最良の部分を引き出してくれる。

人間の生物学的特性を理解し、それを組織運営に活かすことの重要性が、ますます認識されるようになっています。特に、エンドルフィンの放出につながる活動が、人々を結びつけ、彼らの最良の部分を引き出す力を持つことが注目されています。 エンドルフィンは、脳内で分泌される神経伝達物質の一種で、幸福感や安心感をもたらすことで知られています。

このホルモンの放出を促す活動を意図的に取り入れることで、組織内のコミュニケーションや協力関係を大きく改善できる可能性があります。 例えば、困難な決断を迫られている状況では、単に会議室で議論を重ねるだけでなく、チームで昼食や夕食を共にしたり、散歩に出かけたりすることが、より良い結果につながる可能性があります。

特に、一緒に歩くという行為は、参加者全員のエンドルフィン系を活性化させる効果があります。このような同調した行動は、決断をより迅速に、友好的に、そして深い信頼感を持って下すことを可能にします。 このことから、「ウォークショップ(walkshop)」という概念が生まれました。

これは従来の会議室での「ワークショップ(workshop)」よりも効果的だと考えられています。歩きながら会議を行うことで、参加者の思考がより活性化され、創造的なアイデアが生まれやすくなるのです。

さらに、共同参加型の活動全般が、より大きな幸福感、健康、そして高い生産性につながることが指摘されています。これは、単に仕事の効率を上げるだけでなく、従業員の全体的な満足度や健康状態を改善する可能性を秘めています。 この知見は、ポストコロナの世界において特に重要性を増しています。

パンデミックを経て、多くの組織が在宅勤務やハイブリッドワークを導入し、従来の働き方が大きく変化しました。このような環境下で、リーダーたちは、いかにしてチームの絆を形成し、一致団結させるかという新たな課題に直面しています。

リーダーの決断は、従業員の心の健康や、互いと会社に対する忠誠心に大きな影響を与えます。そのため、エンドルフィン放出を促す活動を意識的に取り入れることが、組織の健全性を維持する上で重要になってきています。

例えば、オンラインでの共同作業ツールを活用しつつ、定期的に対面でのチームビルディング活動を行うなど、バーチャルと実際の交流をバランス良く組み合わせることが効果的でしょう。 どのような勤務形態や方針が採用されるにせよ、深い絆に支えられたチームは、多くの利点を持ちます。そのようなチームは、安心感を持って仕事に取り組むことができ、高い生産性を発揮します。

また、リスクを恐れず新しい挑戦に取り組み、向社会的かつ建設的な態度で仕事に臨むことができます。さらに、仕事自体を楽しむことができるため、長期的なモチベーションの維持にもつながります。 このような知見を踏まえ、組織のリーダーたちは、従来の効率性や生産性だけでなく、「人間らしさ」を重視した組織運営を心がける必要があります。

信頼を獲得するのは難しいけれども、失うのは一瞬だとよく言われる。それは本当だ。

現代の組織運営において、信頼関係の構築と維持が成功の鍵を握っています。しかし、この信頼関係は非常に脆弱なものであり、特定の個人の行動によって容易に損なわれる可能性があります。

特に注意が必要なのは、ダークトライアドと呼ばれる人格特性を持つ個人の存在です。ナルシシズム、マキャベリズム、サイコパシーという3つの特性から成るこのダークトライアドは、組織に深刻な悪影響を及ぼす可能性があります。

ナルシシストは自己中心的で誇大妄想的な傾向があり、自身の利益のみを追求します。彼らは自信に満ちており、それがカリスマ性として誤解されることもあるため、時にリーダーシップの地位に就くこともあります。しかし、その自己中心性は長期的には組織に有害となります。

マキャベリストは戦略的思考に長けていますが、道徳的考慮を欠いています。彼らは「目的は手段を正当化する」という考えのもと、自身の目的達成のためなら手段を選びません。この行動パターンは、組織の倫理観を損ない、他のメンバーの信頼を失わせる原因となります。

サイコパスは最も破壊的な特性を持ち、共感能力の欠如と冷酷さが特徴です。彼らは他者の感情を理解する能力はありますが、それを自身の利益のために利用します。このような個人が組織内にいると、チームの士気を低下させ、健全な職場環境を破壊する可能性があるので、組織を作る際には注意を払う必要があります。

イノベーションには人が出会う空間が必要!

画期的なアイデアが生まれるかどうかは、協調、近接度、人々の集まり、多様な視点……そして思わぬ発見や幸運(セレンディピティ)にかかっている。これらの条件はどれも単純に義務化したり押しつけたりすることはできない。それでも、相互のつながりのための空間と互いのための空間を用意すれば整えることができる。

イノベーションの本質は、多くの人が想像するよりもはるかに社会的で、予測不可能なものです。共有空間が生産性の高い場所となる理由は、まさにこの予期せぬ相互作用から生まれる創造性にあります。 一般的に、イノベーションは孤独な天才による個人的な努力の結果だと考えられがちです。

しかし、歴史上の多くの偉大な発見や発明を見てみると、それらは必ずしも象牙の塔にこもった個人の成果ではありません。むしろ、異なる分野の専門家たちの偶然の出会いや、思いがけない会話から生まれることが多いのです。 共有空間の魅力は、このような予期せぬ出会いや会話を促進する点にあります。

例えば、オフィスのキッチンで偶然出会った異なる部署の社員同士が、何気ない会話から新しいプロジェクトのアイデアを思いつくかもしれません。または、ランチタイムに同僚と食事をしながら、仕事の悩みを打ち明けることで、思いもよらなかった解決策が見つかるかもしれません。 このような偶然の出会いや会話は、単なる社交の場を超えて、真の創造性とイノベーションの源泉となる可能性を秘めています。

なぜなら、異なる視点や専門知識を持つ人々が交わることで、既存の考え方の枠を超えた新しいアイデアが生まれやすくなるからです。 さらに、共有空間でのリラックスした雰囲気は、創造性を促進する重要な要素となります。緊張や圧力から解放された状態で、自由に思考を巡らせることができるため、斬新なアイデアが生まれやすくなるのです。

ランチを食べながらのくつろいだ会話が、飛躍的なアイデアにつながる千載一遇のチャンスとなる可能性があるのは、まさにこのためです。 多様な知識や経験を持つ人々が交流し、アイデアを自由に交換できる環境が、革新的な発見や発明の温床となるのです。

そのため、現代の組織は、このような創造的な相互作用を促進する環境づくりに注力しています。オープンオフィスの導入、異なる部署間の交流を促す社内イベントの開催、リラックスできる共有スペースの設置など、様々な取り組みが行われています。

職場は単なる仕事をする場所ではなく、多様な社会的機能を持つ複雑なコミュニティとして機能しています。そこでは、様々な出来事が同時に起こり、従業員と組織の双方に利点をもたらしています。 多くの人にとって、職場は重要な社会的安息の場所となっています。各個人が自分らしさを発揮し、いわば「自分の踊り」を踊る場所です。

ここでは、専門性を活かしたり個性を表現したりする機会が提供され、個人のアイデンティティや自尊心の強化につながっています。 また、職場は一部の人にとって家庭生活のプレッシャーからの避難所としての役割も果たしています。子育てや家事の負担から一時的に解放され、異なる側面の自分を表現できる場所となるのです。これは、仕事と家庭のバランスを保つ上で重要な役割を果たし、個人の精神的健康に貢献しています。

さらに、職場は同僚との交流を通じて、共通の課題や経験を共有し、互いに慰め合ったり成功を祝ったりする場所でもあります。これにより、個人の問題解決能力が向上し、チームの結束力も強化されます。 特に注目すべきは、職場が多くの人にとって孤独から逃れる場所となっている点です。

現代社会における社会的孤立の問題に対して、職場は日常的な人間関係を提供する貴重な場となっています。 組織にとっても、このような多面的な職場環境は大きな利点をもたらします。従業員の帰属意識や忠誠心が高まり、創造性やイノベーションが促進されます。

また、従業員のメンタルヘルス改善にもつながり、組織全体のパフォーマンス向上に寄与します。 しかし、このような職場の多面的な性質を活かすためには、組織側の意識的な取り組みが必要です。オープンなコミュニケーションを促進する文化の醸成や、快適な共有スペースの設置などが重要となります。また、リモートワーク増加の中で、これらの社会的機能をどのように維持するかも課題となっています。

本書のコアメッセージは、組織運営において単なる効率や生産性の追求を超え、人々の帰属意識と他者とのつながりを重視することの重要性です。この視点は、人間の生物学的特性、特に「社会脳」の機能に基づいています。

進化の過程で、人間の脳は約150人の集団に適応するよう発達してきました。これは「ダンバー数」として知られ、私たちが効果的に社会的関係を維持できる人数の上限を示しています。この生物学的な制約は、現代の大規模組織にも影響を及ぼしています。


組織を強くするスライブ・モデル

組織は人が成功してこそ繁栄する。繁栄を可能にする環境には6つの要素がある。これらの要素は人間関係がもっとも実り多いものであるとき、すなわち円の中心でいちばん強力になる。外側の円に行くにっれて、効果は薄くなる。

組織の成功と繁栄は、その中で働く人々の成功に深く結びついています。この考えに基づいて提案されている「スライブ・モデル」は、組織を強化し、人々が繁栄できる環境を創出するための6つの重要な要素を提示しています。

これらの要素は、人間関係が最も充実している状態、つまり組織の中心部において最も強力な効果を発揮します。一方で、組織の外縁に向かうにつれて、その影響力は徐々に弱まっていきます。

まず、「つながり」は組織を強化する最も基本的な要素です。これは、組織内で強力な人間関係と信頼の絆を形成することを意味します。人々が互いに理解し、支え合う関係性を築くことで、協力的な環境が生まれ、個人と組織の両方が成長することができます。

例えば、定期的なチームビルディング活動や、オープンなコミュニケーションを促進する職場文化の醸成などが、このつながりを強化する方法として考えられます。

次に、「帰属意識」は組織の一員としての自覚を深め、真の関係性を築くことを意味します。これは単に組織に所属しているという形式的な意味ではなく、組織の一部として自分が価値ある存在であると実感できることを指します。平等な参加の機会を提供し、個々の貢献を認め、評価することで、この帰属意識を高めることができます。

「目的」は、組織の未来を形作るための共通の方向性を明確に示すことです。明確で魅力的な目的は、組織のメンバーにインスピレーションを与え、日々の業務に意味を見出すことを可能にします。この共通目的は、個人の目標と組織の目標を結びつけ、全員が同じ方向に向かって努力する動機づけとなります。

「価値観」は、組織全体で共有される基準と原則を指します。これらの価値観は、意思決定の指針となり、組織の行動規範を形成します。メンバー全員がこれらの価値観を理解し、受け入れることで、一貫性のある行動と判断が可能になり、組織の一体感が強化されます。

「文化」は、共有されたアイデンティティを形成し維持するための習慣、働き方、行動を開発することを意味します。これは、組織の日常的な運営方法や、メンバー間のインタラクションの特徴を決定づけます。強力な組織文化は、メンバーの行動指針となり、新しいメンバーの統合を促進し、組織の独自性を形成します。

最後に、「学習」は組織の適応能力と革新性を高める要素です。新しいアイデアを歓迎し、難題も機会として受け入れる姿勢を持つことで、組織は常に進化し、環境の変化に対応することができます。継続的な学習と成長を奨励する文化は、個人の能力開発を促進し、組織全体の競争力を向上させます。 これらの6つの要素は相互に関連し、影響し合っています。

例えば、強いつながりは帰属意識を高め、共通の目的は価値観の共有を促進します。また、学習を重視する文化は、新しいつながりの形成や目的の再定義にもつながります。 組織のリーダーは、これらの要素を意識的に育成し、強化することが求められます。リーダーは定期的なフィードバックセッションの実施、透明性の高い情報共有、継続的な学習機会の提供などを行うべきです。

また、これらの要素は組織の中心部で最も強力に作用するという点も重要です。つまり、トップマネジメントやコアチームにおいてこれらの要素が強く実践されることで、その効果が組織全体に波及していくのです。

次世代の繁栄を実現する組織は、単に効率や生産性を追求するだけでなく、人間の潜在能力を最大限に引き出し、個人と組織の共生を実現する場となります。そこでは、多様性が尊重され、創造性が奨励され、継続的な学習と成長が当たり前となります。

このような組織こそが、変化の激しい現代社会において真の競争力を持ち、長期的な成功を収めることができるのです。 組織の変革は一朝一夕には成し遂げられません。しかし、リーダーの揺るぎない信念と全メンバーの協力があれば、実現可能です。人間性を尊重し、個人と組織の成長を両立させる文化を根付かせることで、次世代の繁栄への扉が開かれるのです。

最強Appleフレームワーク


 

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