これからの生き方 揺らぐ世界で何度でも立ち直る力(マーティン・セリグマン,ガブリエラ・ローゼン・ケラーマン)の書評

書籍:これからの生き方 揺らぐ世界で何度でも立ち直る力
著者:マーティン・セリグマン,ガブリエラ・ローゼン・ケラーマン
出版社:総合法令出版
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これからの生き方 揺らぐ世界で何度でも立ち直る力の書影

『TOMORROW MIND これからの生き方』書評:AI時代の激変を生き抜く意思決定と創造性のメタスキル

テクノロジーの進化は加速度的に進み、生成AIは知的生産のあり方を根本から変えつつあります。文章作成、情報整理、分析、企画立案といった仕事の多くが、AIによって短時間で処理されるようになりました。私たちは今、これまでの経験則や常識、成功パターンがそのまま通用しにくい世界を生きています。

こうした時代に問われるのは、単に新しいツールを使いこなす能力だけではありません。膨大な情報と絶え間ない変化に飲み込まれず、自分の思い込みを疑い、判断の質を高め、変化の中でも前向きにキャリアを築いていく力です。環境が不安定だからこそ、内側にある思考の軸や、困難から立ち直る力が重要になります。

今回取り上げる『TOMORROW MIND これからの生き方 揺らぐ世界で何度でも立ち直る力』は、まさにこの問いに対する科学的かつ実践的な解答を示してくれる一冊です。本書は、変化に「耐える」だけでは不十分だと説きます。

重要なのは、困難な状況の中でも学び、適応し、成長し続けること。つまり、変化に屈服するのではなく、変化の中で「繁栄(Thriving)」する力を身につけることです。

本書の最大の魅力は、心理学の世界的権威と、最先端のビジネス現場を知り尽くした実務家による共著である点にあります。理論だけに偏らず、現場感覚だけにも寄りすぎない。学術的な裏付けと実務で使える実践性が、高いレベルで融合しています。そのため、自己啓発書として読むだけでなく、リーダーシップ、組織開発、キャリア戦略のテキストとしても有用です。

マーティン・セリグマンは、ペンシルベニア大学心理学部教授であり、「ポジティブ心理学」の創始者として知られています。学習性無力感やうつ病研究でも大きな功績を残してきた、心理学分野の世界的権威です。人が困難に直面したとき、どのように希望を持ち、前向きに行動できるのかを長年研究してきました。

もう一人の著者であるガブリエラ・ローゼン・ケラーマンは、ボストン・コンサルティング・グループ(BCG)のエキスパート・パートナーです。ハーバード大学を卒業後、医学博士号を取得し、精神科医・神経科学研究者としても活躍してきました。ビジネス、医療、神経科学の知見を横断しながら、変化の時代に人と組織がどう適応すべきかを探究しています。

本記事では、本書のエッセンスを抽出し、単なる要約にとどまらず、ビジネスの現場や日々の意思決定にどう活かせるのかを掘り下げていきます。さらに、AIに代替されにくい「創造性」や「レジリエンス」をどのように鍛えるのか、変化の激しい時代に自分らしいキャリアをどう設計するのかについても考察します。

『TOMORROW MIND』は、未来を正確に予測するための本ではありません。不確実な未来に対して、何度でも立ち直り、学び直し、前に進むための思考法を与えてくれる本です。AI時代に必要なのは、完璧な計画ではなく、変化に応じて自分を更新し続ける力なのです。

この記事でわかること

・現代の職場にはびこる過度なストレスの根本原因は「個人の弱さ」ではなく「構造的変化」にあるという事実 ・AI時代を生き抜くために不可欠な5つの統合的能力「PRISM」の全体像と実践的意義
・「計画錯誤」を防ぎ、判断の質を上げる「WOOP」フレームワークの活用法
・AIに代替されない「創造性」を生み出す脳のネットワークと、レジリエンス(回復力)の深い相関関係
・被害者になるか、主体的に未来を構想するか。変化に適応し「繁栄」を手にするための思考法

30秒でわかる本書のポイント

【結論】
・激動の現代を乗り越えるには、「PRISM(5つの心理的能力)」を意図的に鍛え、変化を味方につける必要がある。
・個人の成長と組織変革は切り離せないものであり、人間の持続的能力への投資が必要不可欠である。
・AI時代において、人間に残される最大の武器は「創造性」であり、それは一部の人の才能ではなくすべての働く人の必須能力である。

【原因】
・私たちの脳は狩猟採集民の環境に最適化されており、現代の急激な変化のスピードと不確実性に追いつけていない。
・現代人が抱える不安や抑うつといった心理的苦痛は「個人の弱さ」ではなく、「環境の構造的変化」がもたらした集団的影響である。
・未知の事態に直面すると、脳は過剰に防衛反応を示し、最悪の事態ばかりを想像する「破局化」や、安易に計画に飛びつく「計画錯誤」といったメンタルな誤りを犯しやすい。

【対策】
・中核となるメタ・スキル「プロスペクション(未来予想)」を鍛え、未来を想像し、評価し、創造的に対応する。
・「WOOP」などのフレームワークを用い、目標達成のプロセスを精神論ではなく「構造で考える」。
・経験への開放性を高め、「認知的敏捷性」を養うことで、失敗から立ち直るレジリエンスを創造性の原動力に変換する。

本書の要約

アメリカの労働者の約76%が燃え尽き症候群(バーンアウト)に苦しみ、職場での過度なストレスが莫大な医療費と不必要な死を招いているのが現代のリアルです。

本書は、この悲迫した状況の根本原因を、個人の心の弱さではなく「狩猟採集民として進化した脳と、現代のテクノロジー主導の環境とのミスマッチ」に見出します。

現代の心理的苦痛は「環境の構造的変化」の結果なのです。 この過酷な環境で「繁栄」するために著者が提唱するのが、繁栄のための統合的能力である「PRISM」です。

これは、未来予測(Prospection)、回復力と俊敏性(Resilience & Agility)、革新と創造(Innovation & Creativity)、迅速な関係構築(Social Connection)、自分の存在意義の感覚(Mattering)の5つの要素から構成されます。

これらを総合的に鍛えることで、私たちは不確実な変化を予見し、挫折から素早く立ち直り、自身の可能性を最大限に発揮できるようになります。

さらに本書は、AI時代に不可欠な「創造性」が限られた天才のひらめきではなく、脳内ネットワークの協働とレジリエンスによるプロセスであると解き明かします。

本書は、激動の潮流の中で被害者になることを拒み、主体的に適応するための強力なOSを脳にインストールしてくれる実践的ガイドブックです。

こんな人におすすめ

・生成AIの台頭や自動化の波など、ビジネス環境の激変に対して漠然とした不安を抱えている方
・新規事業やスタートアップの経営に関わり、先が見えない中で意思決定の質を上げたいリーダー
・「個人の弱さ」を責める精神論を脱却し、プロアクティブで強靭な組織文化を作りたいマネージャー
・日々の業務に忙殺されず、自分なりの「創造性」を発揮してキャリアの「意味」を再構築したいビジネスパーソン

本書から得られるメリット

・自分が感じているストレスが「環境とのミスマッチ」と「構造的変化」によるものだと理解でき、無駄な自己嫌悪から解放される
・「破局化」や「計画錯誤」などの心理的罠を回避し、プロジェクトの成功確率を高める科学的なアプローチが身につく
・リモートワーク等で希薄化する人間関係に対し、迅速に深い信頼を築く「ラピッド・ラポール」のヒントが得られる
・「WOOP」フレームワークを通じて、目標達成に向けた行動を継続・習慣化しやすくなる
・行動科学の知見を活用し、被害者としてではなく、未来を構想する主体者として変化に適応できる思考が身につく

農耕革命からAI時代へ:脳の進化と「構造的変化」のミスマッチ

農耕革命を起点として、私たちの脳はもはや日々の仕事(自分たちの仕事)に合わないつくりになってしまったのだ。成功する(生き抜く)ためには、なお意味を持つ心理的遺産の部分に頼り、同時に、望ましくない結果のリスクを高める部分には対処しなければならなかった。(マーティン・セリグマン,ガブリエラ・ローゼン・ケラーマン)

本書「これからの生き方 揺らぐ世界で何度でも立ち直る力」が扱うテーマはAI時代にこそ重要である、と断言できます。なぜなら、生成AIが論理的思考や情報処理の多くを代替していく中で、人間が直面する最大のハードルは「技術的なスキル不足」ではなく、「激しい変化に対する心理的な適応不全」になるからです。

人間の脳は、もともと狩猟採集時代の環境に適応するよう進化しました。そのため、農耕社会の誕生以降、そして産業革命やデジタル革命を経た現代では、仕事や生活の環境が脳の設計を大きく上回るスピードで変化しています。

私たちは、狩猟採集時代につくられた脳のプログラムを理解する必要があります。現代社会は、そのプログラムが想定していなかった環境だからです。

仲間と協力する力や危険を察知する能力など、今も役立つ特性は積極的に生かすべきです。一方で、変化を過度に恐れたり、不安やストレスを必要以上に感じたりする傾向は、現代ではかえってマイナスに働くことがあります。そのため、自分の思考や感情を意識的にコントロールすることが欠かせません。

さらに現在は、AIやデジタル技術の進化によって、仕事や社会の変化はかつてない速度で進んでいます。新しいツールや働き方を次々と学び、絶え間なく情報やタスクに対応することが求められています。

しかし、このようなスピードと複雑さは、もともと数十人規模の共同体で暮らしていた人類の脳にとっては、本来想定されていない環境です。 だからこそ、AI時代を生き抜くためには、意志の力だけに頼るのではなく、休息や運動、学び、人とのつながりを意識的に取り入れながら、自分の脳が本来持つ強みを引き出し、弱みを補う仕組みをつくることが重要なのです。

ここで重要なのは、私たちが抱える不安、抑うつ、孤立といった心理的苦痛は「個人の弱さ」ではなく、「環境の構造的変化」の結果であるという事実を受け入れることです。

自分が疲弊しているのは能力が低いからではなく、脳のスペックに対して環境が過酷すぎるからです。この構造を理解し、思い込みに騙されないことが、すべてのスタートラインとなります。

私たちは過去の人類とは異なり、行動科学や心理学の蓄積という「歴史的優位性」を持っています。すでに「どう適応すればよいか」を科学的に知っている時代に生きているからこそ、精神論に逃げるのではなく、人間の持続的能力への的確な投資を行うべきなのです。 

環境の変化が止まらない以上、問われているのは私たちが「どう適応するか」です。単なる事後対応型のメンタルヘルス対策ではなく、未来に向けて成長するための「PRISM」という統合的能力を鍛える必要があります。

・Prospection(未来予測):中核となるメタ・スキルであり、未来を想像し、評価し、創造的に対応する力。
・Resilience & Agility(回復力と俊敏性):逆境から立ち直り、新たな状況へ柔軟に適応する力。
・Innovation & Creativity(革新と創造):一部の天才のものではなく、すべての働く人の必須能力。
・Social Connection(迅速な関係構築):流動的な環境において、即座に心理的安全性を作り出すラピッド・ラポールの力。
・Mattering(自分の存在意義の感覚):自らの存在が大きな目的に貢献しているという感覚。

レジリエンスやウェルビーイングは、問題が起きてからではなく、事前に鍛えるべき資源である

生成AIの普及やテクノロジーの進化によって、企業は一夜にしてビジネスモデルの転換を迫られ、仕事の進め方も大きく変わっています。チームは解体と再編を繰り返し、働く人は次々と新しいプロジェクトへ参加する時代になりました。

このような環境では、「変化に強い人」と「変化に振り回される人」の差が、ますます大きくなります。その違いを生み出すのが、本書で繰り返し強調されるレジリエンス(回復力・適応力)です。

多くの人は、レジリエンスを「生まれつき精神的に強い人が持つ資質」と考えています。しかし本書は、その考え方を明確に否定します。レジリエンスとは才能ではなく、後天的に身につけられるスキルの集合体なのです。 その核心にあるのは、困難な状況でも「自分には選択肢がある」と考え、自ら行動を選び続ける力です。

環境はコントロールできなくても、自分の受け止め方や次の一歩は選ぶことができます。この主体性こそが、レジリエンスの土台になります。

そしてレジリエンスは、一つの能力だけで成り立つものではありません。感情をコントロールする力、未来への現実的な楽観性、状況に応じて考え方を柔軟に切り替える認知的敏捷性、自分を責めすぎないセルフ・コンパッション、自分なら乗り越えられるという自己効力感など、複数の能力が組み合わさることで育まれます。

パンデミックは、その重要性を世界中に示しました。レジリエンスとは、単なる「危機対応力」ではありません。不確実な未来を前向きに生き抜き、変化を成長の機会へ変えていくための基盤となる能力なのです。

この考え方は、個人だけでなく組織にも当てはまります。レジリエンスの高いチームは、変化への適応が速く、新しい挑戦を恐れず、イノベーションも生まれやすくなります。また、レジリエンスを備えたリーダーは、不安が広がる状況でも冷静に意思決定を行い、組織全体に安心感と前向きな文化を生み出します。

さらにAI時代には、もう一つ重要な能力があります。それがラピッド・ラポール(短時間で信頼関係を築く力)です。 プロジェクトごとにメンバーが入れ替わり、国や企業を越えた協働が当たり前になる時代では、何年もかけて人間関係を築く余裕はありません。

初対面の相手やオンライン上のチームであっても、相手を理解し、共感し、心理的安全性を素早く生み出せる人ほど、高い成果を上げられるようになります。

つまり、これからの時代に求められるのは、困難から立ち直るレジリエンスと、人と素早く信頼関係を築くラピッド・ラポールを併せ持つことです。AIが情報処理を担う時代だからこそ、人間にしか発揮できない「適応力」と「関係構築力」が、競争力の源泉になっていくのです。

これからの生き方 揺らぐ世界で何度でも立ち直る力の書影

判断の質を上げる「プロスペクション」と構造で考えるWOOP

「優れたプロスペクター」は、楽襯性、自己効力感、レジリエンスか高く、不安や抑うつは有意に低いことが示された。プロスペクション能力は、生産性および人生満足度とも相関している。優れたプロスペクターは、仕事において21%高い生産性を示し、人生全体の満足度は25%高かった。

激しい変化の時代を生き抜くうえで、PRISMの中核となるのがプロスペクションです。これは単なる未来予測ではありません。複数の未来シナリオを描き、それぞれに備え、状況に応じて柔軟に行動を選び直す力です。 本書で紹介される研究では、プロスペクション能力の高い人ほど、楽観性、自己効力感、レジリエンスが高く、不安や抑うつは低い傾向が示されています。さ

らに、優れたプロスペクターは仕事の生産性が21%高く、人生全体の満足度も25%高いとされています。 この能力は、個人だけでなくチームや組織にも大きな影響を与えます。

リーダーのプロスペクション得点が高いチームでは、エンゲージメントが19%高く、イノベーションは18%高く、認知的アジリティも25%高いという結果が示されています。

特に注目すべきは、優れたプロスペクターほど「計画」に多くの時間を使っている点です。プロスペクション得点の高いリーダーは、そうでないリーダーに比べて、職場で159%多くの時間を計画に充てていました。

また、組織へのコミットメントも高く、離職する可能性は33%低いとされています。 つまり、変化に強い人や組織は、未来をただ待っているのではありません。起こり得る変化を想像し、複数の選択肢を準備し、自分たちで次の一手を選べる状態をつくっています。

プロスペクションの価値は、業績向上だけにとどまりません。予測困難な時代において、「自分たちは未来に対して何もできない」と感じることは、無力感を生みます。

一方で、未来を想像し、備え、行動を選べる感覚は、私たちに主体性と希望を与えてくれます。 だからこそ、これからのリーダーやビジネスパーソンに必要なのは、未来を正確に当てる力ではありません。不確実な未来に対して、複数の可能性を描き、柔軟に備え、行動を更新し続ける力なのです。

プロスペクションには、DMN(デフォルト・モード・ネットワーク)を働かせて理想の未来を発散的に空想する第1段階と、それを現実の行動へ落とし込む第2段階があります。

ここで私たちが最も陥りやすい罠が「計画錯誤(planning fallacy)」です。将来の課題に要する時間と費用を、過小見積もりしてしまう人間の根源的な傾向を指します。

この錯覚を乗り越え、実行力を高めるための実践的なツールとして本書が推奨するのが「WOOP」フレームワークです。
・Wish(願い):達成したい目標を特定する
・Outcome(結果):目標達成がもたらす結果を検討する
・Obstacles(障害):その達成を阻む障害に焦点を当てる
・Plan(計画):計画を定める 熱意や根性に頼るのではなく、プロセスを「構造で考える」こと。

障害をあらかじめ計画の中に組み込んでおくことで、私たちは困難な状況下でも足を止めず、安定した成果を出し続けることができるのです。 

AI時代において、人間に残される最大の武器は「創造性」です。創造性が今日不可欠な理由は、それが自動化の影響を最も受けにくい技能であり、急激な変化の中で組織が生き残るための必須条件だからです。

創造性とは、3つの異なる大規模脳ネットワークによって統率された、多様な認知能力が織りなす交響的な産物である。脳ネットワークとは、脳のある中枢群から別の中枢群ヘメッセージを送る、高速道路網のようなものだと考えればよい。

創造性は限られた天才のひらめきではなく、3つの異なる大規模脳ネットワークの「交響的な産物」であると説明されています。

・デフォルト・モード・ネットワーク(DMN):白昼夢や自発的な思考を生み出し、時間と場所の制約を超えて未来を思い描くネットワーク。

・実行制御ネットワーク:特定の外的課題を統括し、目的を持って考えるための「司令塔」。DMNから生まれた斬新なアイデアを論理的に結びつけ、洗練させます。

・サリエンス・ネットワーク:優先すべき信号を見つけ、DMNと実行制御ネットワークを切り替えるスイッチの役割を果たします。

真の創造性は、DMNによる発散的な「ひらめき」だけでも、実行制御ネットワークによる論理的な「詰め」だけでも生まれません。この3つの脳内サイクルを意識的に回すことが、AIには模倣できない人間ならではの知的生産を生み出す鍵となります。

本書の結論部は、私たちに力強い問いを投げかけます。変化は止まらず、雇用の喪失や職種転換、スキルの陳腐化は今後も加速していくでしょう。しかし、これは絶望の理由にはなりません。

創造性は、一部の天才だけが持つ特別な才能ではありません。心理学では、人の思考や行動の傾向を説明する代表的なモデルとして、*ビッグ・ファイブ(Big Five)という5つのパーソナリティ特性が知られています。
・経験への開放性(Openness to Experience):知的好奇心が強く、新しいアイデアや未知の経験を積極的に受け入れる力
・誠実性(Conscientiousness):自己規律を持ち、計画的に物事をやり遂げる力
・外向性(Extraversion):他者との交流を楽しみ、活発に行動する傾向
・協調性(Agreeableness):他者と協力し、良好な人間関係を築こうとする姿勢
・神経症傾向(Neuroticism):不安やストレスなどのネガティブな感情を抱きやすい傾向

この中でも、創造性と最も強い相関を示すのが「経験への開放性(Openness to Experience)」です。 経験への開放性が高い人は、未知の分野に興味を持ち、多様な価値観や異なる専門領域に積極的に触れます。「これは自分には関係ない」と切り捨てるのではなく、「まず試してみよう」「なぜそうなるのだろう」と考える姿勢を持っています。

AI時代には、知識そのものの価値は相対的に低下していきます。一方で、異なる分野の知識を結び付け、新しいアイデアを生み出す能力の価値はますます高まります。その意味で、創造性とは才能ではなく、好奇心を持って新しい経験を受け入れ続ける姿勢から生まれる能力なのです。

だからこそ、本書が伝えたいのは、「もっとクリエイティブになろう」という精神論ではありません。日頃から新しい人と会い、新しい本を読み、未知の場所を訪れ、自分とは異なる価値観に触れること。その一つひとつの経験が、「経験への開放性」を育み、変化の激しい時代を生き抜く創造性の土台になっていくのです。

この開放性の高さが新しいアイデアへの好奇心を生みます。重要なのは、この開放性は遺伝の影響がわずか21%にすぎず、訓練で伸ばすことが可能だということです。相反する情報を同時に許容する「認知的敏捷性」を養い、失敗から立ち直るレジリエンスを高めることが、創造性の真の土台となります。 私たちは過去の人類とは異なり、科学的知見という歴史的優位性を持っています。

「どう適応すればよいか」をすでに知っている時代において、変化の波に飲み込まれる「被害者」になるか、それとも未来を構想し主体的かつ創造的に適応する「主体者」になるかは、私たち自身の選択にかかっています。個人の成長と組織変革は切り離せません。

変化の加速は、仕事、スキル、人生設計を同時に不安定にしています。雇用の喪失、職種転換、役割変更が増え、これまで通用していたスキルも短期間で陳腐化しやすくなっています。

その結果、不安や孤立、心理的な負担を抱える人が増えています。しかし、これは単なる「個人の弱さ」ではありません。急激な不確実性と社会構造の変化がもたらしている、構造的な問題です。

一方で、私たちは過去の人類にはなかった強みを持っています。それは、行動科学や心理学の蓄積によって、「人は変化にどう適応できるのか」を科学的に理解し始めていることです。 これからの時代に重要なのは、効率化を追うだけではありません。

技術は便利さや富を生み出しましたが、それだけでは人の繁栄は実現しません。鍵を握るのは、心理的、社会的、創造的な能力です。

なかでも中核となるのが「プロスペクション」です。これは、未来を想像し、複数の可能性を評価し、創造的に対応する力を指します。変化の激しい時代には、この力を持つ個人、チーム、組織が強くなります。

創造性も、一部の天才だけの才能ではありません。観察し、異なるものをつなげ、小さく試しながら学ぶ力は、すべての働く人に求められる基本能力になっています。 つまり、揺らぐ世界で繁栄するためには、プロスペクションを中心としたメタ・スキルに投資し続けることが不可欠なのです。

コンサルタント 徳本昌大のView

大学で教鞭を執りながら、コンサルタントや個人投資家としてベンチャー企業の経営・IPO支援に携わる中で、私は常に「知識をいかに実務という行動に落とし込むか」を重視しています。

本書『TOMORROW MIND』は、進化心理学や行動科学の「教養」、WOOPやPRISMといった「実務」的フレームワーク、AI時代という「時代性」、そしてそれを体系化した「要約」力の4つの方向から見て、極めて完成度が高く、いま読むべき必然性のある一冊です。

私自身、日々、出張し、全国を移動しながら仕事をする「体験的学習」を実践しています。この移動と非日常の体験は、まさに本書で言う「経験への開放性」を刺激し、DMN(デフォルト・モード・ネットワーク)を活性化させる最高の手段です。

意図的に環境を変え、新しい文脈に身を置くことで、凝り固まった思い込みに騙されることなく、ビジネスの新たな兆しを観察し、つなげる力(創造性)を養うことができます。

また、急激な成長とIPOを目指すベンチャー組織の現場では、変化のプレッシャーにより経営陣自らが最悪の事態ばかりを想像する「破局化」の罠に陥り、「計画錯誤」でリソースを枯渇させるケースを幾度となく見てきました。

本書が指摘するように、個人の成長と組織変革は決して切り離せません。イノベーションを起こし続けるプロアクティブな組織を作るには、リーダー自身が「WOOP」のような構造的な思考を持ち、失敗を許容し跳ね返す「創造的自己効力感」をチーム全体に醸成していく必要があります。

私は毎朝のタスク管理を徹底し、長年にわたり1日1冊の読書やブログを通じた知的生産を継続してきました。これも決して気合や根性によるものではありません。起こりうる障害をあらかじめ予測し、システムとして実行する(WOOPのアプローチ)という、脳のメカニズムに沿った規律の賜物です。

テクノロジーがどれほど効率と富を生み出そうとも、それ自体が私たちの「繁栄」を生むわけではありません。繁栄の鍵は、心理的・社会的・創造的能力にあります。時代の波に流されるのではなく、自らの意思で未来を構想し、判断の質を上げたいと願うすべてのビジネスパーソンに、強くおすすめします。

FAQ

Q1. 「WOOP」フレームワークは、日々の小さな業務にも使えますか?

A1:はい、非常に有効です。例えば「明日の朝、重要な企画書を書き上げる(Wish/Outcome)」という目標に対し、「つい別の仕事のチャットを見てしまう(Obstacles)」という障害を事前に想定し、「PCを開いたらチャットツールを起動せず、まずPowerPointを立ち上げる(Plan)」と決めておくことで、思い込みに頼らず実行確率を格段に上げられます。

Q2. 創造性は才能だと思っていましたが、本当に誰でも鍛えられるのでしょうか?

A2:本書が示す通り、創造性は一部の人の才能ではなく、すべての働く人の必須能力です。創造性の核となる「経験への開放性」は遺伝による影響が21%にすぎず、訓練で伸ばすことが可能です。アイデアを出す時間(DMNを働かせる時間)と、それを形にする時間(実行制御ネットワークを働かせる時間)を意図的に分けることで、誰もが知的生産の質を高めることができます。

Q3. チームにネガティブな思考をするメンバーがいる場合、どう対応すべきですか?

A3:無理にポジティブになれと強要するのは逆効果です。彼らの不安が「環境の構造的変化」による自然な反応であることを理解した上で、シナリオ・プランニングを使い「最悪のシナリオ」「最高のシナリオ」「最も起こりそうなシナリオ」をチーム全体で構造的に書き出すワークショップを行うと良さそうです。曖昧な不安が視覚化されることで、チームの心理的安定と認知的敏捷性につながります。

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