書評 川上昌直氏の「つながり」の創りかた: 新時代の収益化戦略 リカーリングモデル

サブスクリプションはブームとなりましたが、リカーリングモデルとつながりを実現する形で運用されていないものが目立ってきました。それでは結果的に課題の解決にも、将来像を達成することにもなりません。(川上昌直)


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ユーザーとのつながりを強化しよう!

川上昌直氏の「つながり」の創りかた: 新時代の収益化戦略 リカーリングモデルを読了しました。経営者は、リカーリングモデル(継続収益)とつながりを意識することで、顧客との長期的な関係を築けるようになると著者は指摘します。リカーリングレベニュー(Recurring revenue)とは、「収益が繰り返す」という意味で、一度製品を売って終わりではなく、顧客から継続的に収益をあげるビジネスモデルのことを指します。今話題のサブスクリプションはリカーリングモデルという収益モデルの一つなのです。

しかし、つながり(ユーザーとの関係性)がなければ、サブスクリプションはうまくいきません。企業がユーザーに寄り添わない限り、顧客は離脱し、サブスクリプションモデルは早晩破綻します。

アメリカでは早くからこのサブスクリプションモデルが話題になり、多くの企業がビジネスモデルを変えています。売り切りモデルからリカーリングモデルに転向した代表的事例が、アドビシステムズです。2013年に売り切り型のドル箱ソフトウェア「クリエイティブ・スイート(CS)」を、月額定額で使い放題のサブスクリプションの「クリエイティブ・クラウド(CC)」に全面移行しました。アドビ劇的にビジネスモデルを変革し、売上、営業利益ともに過去最高を更新し続けています。

契約で縛るのではなく、いかにユーザーに喜んで続けてもらえるのか、いかにユーザーが自発的に利用したくなるようにするのか、それこそが重要なポイントなのです。

リカーリングモデルでは、売り切りモデルとは比較にならないほどのつながりの強さが必要となるのです。「リカーリングモデルは、強いつながりを継続的に収益化する仕組みと」と著者は定義し、ユーザとのつながりをつくらなければ、企業は生き残れないと述べています。

ユーザーは自らの生活をアップデートするために、プロダクトやサービスを購入します。ユーザーの生活のアップデートに最適なものは何かを考え、既存のプロダクト以外のソリューションを提案する企業が、ユーザーから求められているのです。ユーザーの課題を解決する企業こそが、真にユーザーに寄り添った企業になり、両者のつながりは強くなります。

イノベーションの焦点は、プロダクトではなく、人々がジョブを片づけようとしているプロセスです。ジョブは、ユーザーの立場に立ち、ユーザーに寄り添う姿勢がなければ認識できません。そのうえで、ユーザーが自社プロダクトを購入して、当初のジョブを達成し、生活をアップデートできたのかを確認する必要があります。

積極的なユーザー対応(カスタマーサクセス)によって、企業は顧客を成功させています。ユーザーのジョブが解決され、アップデートが達成されている状態が「サクセス」だと捉えましょう。サブスクリプションでは、解約(チャーン)が最も収益性に打撃を与えるため、カスタマーサクセスに特に注意を払う必要があります。

 

サブスクリプションモデルでは、タッチポイントが重要な理由

ユーザーの活動チェーンは、ユーザーが購入するまでの活動がわかるだけでなく、ユーザーがいかに生活をアップデートし、さらにアップグレードしようとしているのか、そのプロセスを詳細に可視化します。カスタマージャニーが購入以前を詳細に分析するのとは対照的に、ユーザーの活動チェーンでは、購入以降の活動のほうに比重を置いているのです。

当然、ユーザーを成功させるために、タッチポイントを意識しなければなりません。しかし、企業側がタッチポイントを多く取ると、手間もコストもかかります。様々なタッチポイントを増やせば、確かに利益を圧迫しますが、「つながりを強化する」という視点で見れば、タッチポイントを広く取ることは、2つの意味で企業に収益増大のチャンスをもたらします。

1つ目は、成熟化が激しい業界や、同質化した業界において、その企業独自の差別化要因を見出せることです。成熟化が進んだ業界では、プロダクトそのものでの差別化は困難を極めます。他方で、ユーザーのアップデートやアップグレード支援に目を移せば、プロダクト、すなわち、購入以外の活動に何らかの補助をして寄り添うことで、ビジネスモデルに価値を付加できます。その補助活動を無料でサービスすれば、飽和状態の中にあっても差別化が可能となるのです。もちろん、その際には、そのコストを単純にプロダクトの価格に上乗せして利益回収をするか、あるいは、価格はそのままでもスケールを拡大することで、利益獲得をするというやり方をとる必要があります。2つ目は、ビジネスチャンスが拡大することです。広く取ったタッチポイントに寄り添うことは、ユーザーにとって有益なプロダクトになる可能性が高いのです。つまり、数あるタッチポイントのうち、どこかを新たに課金ポイントとして収益を獲得します。それは、「ユーザーの未解決を解決する」という新たなビジネスにつながります。

たとえば会計事務所では今まで、税務業務や記帳代行によって課金してきました。しかし、同業者も多くサービスが同質化し、フィンテックが劇的な進化を遂げることでさらに同質化が進み、価格低下が止まらなくなっています。それを解決するために、記帳代行で課金をするものの、簡単な経営コンサルティングまで行うことで差別化をはかる会計事務所が現れています。彼らはクライアントのジョブを解決することで、成功を手に入れたのです。

節税提案や決算申告しかしない会計事務所が多い中で、経営者に寄り添うアドバイスを行うことで、経営者の支持を得ているのです。別途コンサルタントに頼めば課金されるところを、記帳代行プラスァルファの料金で提供すれば、他の事務所より支払いが高くついても、差別化要因となります。それによって、良質な顧問先が確保でき、しかも、料金を上げてビジネスを拡大できるのです。

ビジネスをサブスク化し、最初からコンサルティング活動で課金し、展開することでその会計事務所はグループ化し、その中には既存のクライアントとコンサルティング業のクライアントが存在することになり、それぞれで独立採算を取れるようになります。これは新たな課金ポイントになるだけにとどまらず、新規事業を生むことにもなります。クライアントの課題解決をはかるジョブ達成を支援するビジネスによって、事業領域が拡大します。サブスクリプションの導入によって、売り上げも安定します。申告業務だけにとらわれず、クライアントに寄り添うことで、業績を伸ばせることをこの会計事務所は証明しています。

最近ではメンバーシップを導入する企業も増えています。メンバーシップはプロダクトを通じた企業とユーザーとの関係ではなく、ユーザーの成果を達成するために、企業が継続的にユーザーに寄り添う関係性を意味しています。それが日常的に認識できる状態でなければ、ユーザーはメンバーとしての恩恵を感じなくなり、メンバーシップがダメになります。次のテスラの事例を読むと購入後のつながり(メンバーシップ)の重要性を理解できます。

テスラのプロダクトを購入したオーナーに対して、メンバーシップを展開しています。1つは、コネクテッドカーの観点から見たメンバーシップです。4ドアセダンのモデルSやSUVのモデルXは、インターネットに接続しており、車両自体がアップデートされます。これにより納車後に自動運転の精度を向上させたり、諸設備を最新機能へとアップデートすることが可能になりました。そのため、小規模な変更であれば、車両を買い替えずとも、対応できるのです。

メンテナンスについても、不具合の多くがオンラインアップデートによって修復できます。そもそもEVはガソリン車に比べて部品が少なく、そのため機械的なトラブルが圧倒的に少ないのです。問題はほぼソフトウエアで対応できるので、テスラ車のモニターからホットラインに無料で電話をつなげば、車両の状態を見ながら、メンテナンスをしてくれます。

もうーつのメンバーシップは、メンバーだからこそ優越感を味わえる排他的なサービスです。テスラ車には専用の駐車スペースがあります。高級リゾート地やホテルでは、入り口から近い場所にテスラ車しか、駐車できないスペースがあり、どれだけ混んでいても、あるいはどれだけ一般、駐車料金が高額であっても、テスラ車だけは無料でストレスなく駐車でき、その場で充電もできるのです。

このメンバーシップを強化することが企業の資産になります。タッチポイントのアセタイズ(資産の強化)によって、ユーザーは企業のファンになります。購入後まで含めたあらゆるタッチポイントを充実させることが、サブスクリプションモデルを成功させるためには必要なことなのです。ここからユーザーが企業を信頼するようになり、将来のマネタイズに貢献します。

まとめ

リカーリングモデルはマネタイズの問題と捉えがちですが、実はユーザーとのつながりの問題なのです。つながりを強化し、ユーザーのジョブを解決することが企業に求められます。ユーザーから飽きられないために、タッチポイントでのアセタイズ(資産の強化)を行い、カスタマーを成功させることを目指しましょう。

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この記事を書いた人
徳本昌大

■複数の広告会社で、コミュニケーションデザインに従事後、企業支援のコンサルタントとして独立。
特にベンチャーのマーケティング戦略に強みがあり、多くの実績を残している。現在、IPO支援やM&Aのアドバイザー、ベンチャー企業の取締役や顧問として活動中。

■多様な講師をゲストに迎えるサードプレイス・ラボのアドバイザーとして、勉強会を実施。ビジネス書籍の書評をブログにて毎日更新。

■マイナビニュース、マックファンでベンチャー・スタートアップの記事を連載。

■インバウンド、海外進出のEwilジャパン取締役COO
IoT、システム開発のビズライトテクノロジー 取締役
みらいチャレンジ ファウンダー
他ベンチャー・スタートアップの顧問先多数 

■著書
「ソーシャルおじさんのiPhoneアプリ習慣術」(ラトルズ)
「図解 ソーシャルメディア早わかり」(中経出版)
「ソーシャルメディアを使っていきなり成功した人の4つの習慣」(扶桑社)
「ソーシャルメディアを武器にするための10ヵ条」(マイナビ)
など多数。
 
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