李智慧のチャイナ・イノベーション2 中国のデジタル強国戦略の書評


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チャイナ・イノベーション2 中国のデジタル強国戦
李智慧
日経BP

本書の要約

中国は国家レベルで、デジタル国家になることを長期ビジョンに掲げ、それを確実に実現しています。2017年以降は、 AIをその基軸においています。今回も「デジタル・社会ガバナンス」という中国特有の政策を実施し、新型コロナウイルスの患者を一気に減らすだけでなく、経済を成長させることにも成功します。

コロナを撃退させた中国の「デジタル・社会ガバナンス」とは何か?

中国が新型コロナを短い期間で封じ込むことができたのは、挙国体制で厳しい施策を実施したことが功を奏したからだ。その一連の取り組みの中には、透明性のある情報公開の実施、感染者の追跡と感染の疑いのある人のモニタリング、健康コードといったデジタル証明書による市民の健康状態の可視化などを迅速に導入した効果が大きい。(李智慧)

今回のコロナ禍で日本のDXの遅れを痛感しました。感染防止、ワクチン接種、緊急事態時の支援金の配布などさまざまな場面で、中国との差を感じていました。

中国フィンテック研究の第一人者である中国人研究者である李智慧氏は、コロナ禍で中国政府とテクノロジー企業が互いに協力し、感染拡大を防いだと指摘します。

著者は「ビッグデータの収集、データ分析と可視化といった最先端のデジタル技術を社会のガバナンスに活かす取り組み」を「デジタル・社会ガバナンス」と定義し、中国はこのガバナンスが日本に比べ、圧倒的に進んでいると言います。

中国は国家レベルで、デジタル国家になることを長期ビジョンに掲げ、それを実現しています。2017年以降は、 AIをその基軸においています。
■2020年までに、AIの技術水準及び応用全体が世界の先進国と並び、AI産業を新たに重要な成長分野とし、AI技術の活用を民生改善の新たな手段とすることをめざす。
■2025年までに、AIの基礎理論で重大なブレークスルーを実現し、一部技術及び応用が世界トップ水準に到達することをめざす。AIが産業の高度化と経済構造転換の主要な原動力となり、スマート社会の建設が進展することをめざす。
■2030年までに、AI理論、ハードウェア製造、ソフトウェア開発、技術及び応用のすべての分野で世界のトップ水準に到達し、中国が世界のAーイノベー ションの中心地になることをめざす。

中国では次世代AI発展計画推進室によって、次世代人工知能発展計画において最初に実現すべき4つの重点分野が定められ、分野ごとに牽引企業を選定した。4分野と選定企業は以下の通り。
▼自動運転…百度
▼スマートシティ…アリババ
▼医療分野…テンセント
▼音声認識…アイフライテック(iFlytech)

民間企業がAI発展の主体となって、各産業における新規サービスを創出し、政府は成長したリーディング・カンパニーに政策や規制対応などの面から支援を行う官民一体型のイノベーションを創出するのが中国の戦略です。

コロナ禍での中国では、中央政府、地方政府、市町村のあいだで各種データを共有することにより、迅速な意思決定と機敏な行動を実現したました。騰訊(テンセント)、アリババ、百度といったメガテックや、京東(JD.com)、華為技術(ファーウェイ)、アイフライテック(iFlytek)、北京字節跳動科技(バイトダンス)、依図科技(YITU)などの先端企業も相次いで参画し、企業の社会的責任を果たしたのです。

テック企業は、地方政府と協力して自社の先端技術を活用して各種感染症関連の情報の収集・整理・可視化を推進しました。政府は、交通機関、病院などの公共部門のオープンデータを公開し、メガテック企業がそれらを地図データ、位置情報データと統合して、ソーシャルメディアの微信(WeChat)、決済アプリの支付宝(アリペイ)、百度地図などのプラットフォーム経由で、感染者情報を公開することにより、感染防止につとめたのです。  

感染を防ぐため、中国では感染者と接触した人の連絡先の特定、隔離と管理を徹底的に行っています。接触者の追跡作業には、テック企業のAIソリューションが活用されています。

DXで一気に経済を復活させた中国

音声認識AI大手のiFlytekは自社が開発したアウトバンド(発信)型ロボットを地方自治体に提供し、健康調査から簡単な問診まで行い、追跡作業を支援しました。  

1月24日から3月5日までに、累計2725万人にアウトバンド(発信)型ロボットが電話での調査を行いました。湖北省の通信キャリアの協力の下、1分間で900回線の同時通話が可能で、6時間で20万人の調査ができると言います。

調査結果は、音声認識によって自動記録するため、少なくとも湖北省の政府職員8000人分の仕事を代行し、コロナ禍で存在感を示しました。また、この発信ロボットは通信キャリアのコールセンターにも導入され、オペレーターに代わって質問対応や住民への注意喚起のコールを計1.34億回処理しました。

アリババ・グループのアント・フィナンシャル(現アント・グループ)は、浙江省健康委員会などと共同で、支援物資のマッチング・プラットフォームを開設し、医療物資の供給と配分を追跡して公開する取り組みを行いました。このプラットフォームは、ブロックチェーン技術を活用し、支援物資が寄付された時点から輸送・受領までの記録をすべて参照可能にし、物資を確実に配分しました。

湖北省を除く中国各地の新規感染者数が減少に転じると、各地で仕事の再開に向けた動きが広まります。経済活動の再開と感染防止を両立させるため、アント・グループの本社がある浙江省杭州市では、個人の健康状態を証明するデジタル証明書、いわゆる「健康コード」を提供しました。

利用者がアリペイ・アプリで名前・国民ID・電話番号・詳細な健康状態および旅行情報を申告すると、感染リスクが緑、黄、赤の3段階で示されます。利用者の自己申告に加え、政府が持っているデータとアリペイのビッグデータを照合し、外出可否を判定します。

健康コードは、都市間の移動、もしくは、駅や商業施設などの公共の場へ出入りする許可証として、さまざまな場面で活用されました。この健康コードは浙江省だけでなく、利便性が評価され、短期間で全国300以上の都市に導入されたと言います。

旧正月明けに再び始まった民族大移動では、何回もの検温や健康状態の申告の手間が省かれたことで、健康コードは実質的にデジタル通行証の役割を果たしました。「デジタル・社会ガバナンス」によって、中国では迅速な対応が可能になり、短期間でコロナとの戦いに勝利できたのです。

デジタル消費券の順調な配布は、国民IDによる公的個人認証基盤と連動する決済インフラの存在が大きい。決済アプリで受領した個人を認証し、受領回数の管理、不正受領、横流しによる不正利得の防止もできる。また、モバイル・ネットワークをはじめとしたデジタル経済を支えるインフラの整備も大きな役割を果たしている。

アリババ、テンセントのようなメガテックのプラットフォームは、中国人のほとんどが利用することから、各種情報を国民に届ける「入口」のような役割を果たしています。今回のデジタル消費券の発行では、新型コロナへの対応のため、メガテックが自社のビジネス・インフラを無償で提供しました。

中国はスピーディにデジタル消費券を配布することで、生活に苦しむ国民を救います。日本とは異なり、地方政府と民間でDXの連携が進んでいたため、コロナ禍で力を発揮します。

例えば、河南省鄭州市が4月3日に発行した1回目計 5000万元(約8億円)の消費券は、150秒で配布が完了したと言います。杭州市が4月3日に発行した1.5億元(約24億円)の消費券は、配布完了まで100秒を切っています。

コロナ対策として日本でも地方自治体がプレミアム付商品券などを発行しましたが、その方式は事務局を設けて従来通り人手による事務処理であるため、スピードが遅く混乱も生じました。

一方、中国ではアリババ、テンセントのメガテックプラットフォーム上で決済から精算まで完結できることから、事務処理が少なく、即座に配布可能です。消費券の利用状況などのビッグデータの解析を通じて政策の有効性を検証できます。

中国のデジタル戦略は、トップダウンによって作成された長期的なグランドデザインに沿って、官民連携で進められてます。日本政府も政治家がテクノロジーをもっと理解し、長期戦略に基づき国家運営を行なってもらいたいものです。DXを活用することで、困窮する国民を救えるのですから!

李智慧のチャイナ・イノベーションの書評

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この記事を書いた人
徳本

■複数の広告会社で、コミュニケーションデザインに従事後、企業支援のコンサルタントとして独立。
特にベンチャーのマーケティング戦略に強みがあり、多くの実績を残している。現在、IPO支援やM&Aのアドバイザー、ベンチャー企業の取締役や顧問として活動中。

■多様な講師をゲストに迎えるサードプレイス・ラボのアドバイザーとして、勉強会を実施。ビジネス書籍の書評をブログにて毎日更新。

■マイナビニュース、マックファンでベンチャー・スタートアップの記事を連載。

■インバウンド、海外進出のEwilジャパン取締役COO
みらいチャレンジ ファウンダー
他ベンチャー・スタートアップの顧問先多数
iU 情報経営イノベーション専門職大学 特任教授 

■著書
「最強Appleフレームワーク」(時事通信)
「ソーシャルおじさんのiPhoneアプリ習慣術」(ラトルズ)
「図解 ソーシャルメディア早わかり」(中経出版)
「ソーシャルメディアを使っていきなり成功した人の4つの習慣」(扶桑社)
「ソーシャルメディアを武器にするための10ヵ条」(マイナビ)
など多数。
 
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