あなたの職場に世界の経営学を 最新理論で「仕事の悩み」突破(宍戸拓人) の書評

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あなたの職場に世界の経営学を 最新理論で「仕事の悩み」突破
宍戸拓人
日経BP

本書の要約

経営学の最新の知識が、職場の課題を解決してくれます。イノベーションを起こす際や、ビジョンをわかりやすく伝えたいときには経営学の知見を活用しながら、広い視点から解決策を練るべきです。本書のケーススタディやアドバイスを活用することで、正しい解決策を見つけられるようになります。

最新の経営学をビジネスの現場に活用しよう!

職場の課題に直面したとき、「解決に向けて、自分の頭でしっかり考える」ことは、もちろん大切なことだ。しかし、限られたメンバーで考えても、そこから出てくる解決策にはおのずと限界がある。むしろより広い視点から解決策を練るべきだ。その点において、世界の経営学を活用する意義は非常に大きい。(宍戸拓人)

最新の経営学の知識を蓄積することで、ビジネスの課題を解決できるようになります。学者でもあり、CDOとして会社の経営に関わる宍戸拓人(武蔵野大学准教授)氏のアドバイスは実践的で、ビジネスパーソンも活用しやすいものになっています。

私も大学でビジネスに使える理論やフレームワークを教えていますが、多くのケーススタディを日々インプットしています。これが、自分が社外取締役やアドバイザーをしている企業の課題解決に役立っているため、宍戸氏のメッセージには共感を覚えます。

仕事で注意散漫になるということは、悪いことだと考えがちですが、イノベーションにおいては、この注意散漫が役立つことがあります。実は、多くのイノベーターは注意散漫になった時に、新たなアイデアを生み出していたのです。

決まった目標や成果に向けて意思決定する場合には、整理整頓された情報を集めることが合理的かつ効率的な選択になりますが、創造性においては、どのような情報が役立つかは事前にはわかりません。

既に手元にある事実や経験が何の役に立つかも「アイデアが降りてきた瞬間」まで分からない。だからこそ、創造性を発揮するためには、違和感を解消しうる機会が降りてきた瞬間に、たとえ周囲から注意散漫だと思われたとしても、アイデアを逃すことなく確実につかみとることが求められる。そのためには、「ひねくれ者の思考」の下で生まれた違和感を常に頭の片隅に置き、解消の機会が偶然訪れるタイミングを待ち続ける必要がある。

ワシントン大学のマーカス・ベア氏らは、「創造性を発揮するため、注意散漫が満たすべき2つの条件」を明らかにしました。  

①注意散漫による意識の矛先は、目の前のタスクとは直接関係なくとも、何らかの形で仕事上の課題とつながっている必要があります。

②プロ意識を兼ね備えた人とは、仕事で価値を生むことにコミットしており、周りの評価や地位の高さを得ることではなく、仕事に取り組むこと自体に意味や楽しさを感じている人を指します。仕事に熱中するギークの注意散漫は創造性にあふれているため、ここから新たなイノベーションが生まれることが多いのです。

一方、プロ意識が欠けている社員は、注意散漫による意識が仕事上の問題へ向いたとしても、それを創造性につなげられなかったのです。

他の多くの研究においても、「会社組織よりも自分の専門性に対して強くコミットしているプロフェッショナルな社員は、高い創造性を発揮している」ことが明らかになっています。

ライス大学のエリック・デイン氏は18年の論文において、注意散漫がネガティブ感情を伴う場合、創造性の妨げになると指摘します。雑念が入ることで、「周囲から変人だと思われないだろうか」と不安や心配になったり、「上司は保守的過ぎて新しいアイデアに耳を傾けてくれない」という怒りの感情が湧いたりします。こういったネガティブな情報で頭を支配されると創造性は発揮できません。

注意散漫を創造性の糧とするためには、注意散漫の対象が何らかの形で、仕事上の課題とつながっている必要があります。また、雑念(ネガティブな思い)に惑わされないような確固としたプロ意識を持つことで、イノベーションを起こせるようになります。

創造性を発揮するには、注意散漫による偶然の出合いが求められますが、その出会いがいつ訪れるかは事前に分かりません。そのため創造性を発揮する際には、先延ばしすることも効果があるというのです。

特に、「楽しいからこそ、先延ばししたくなる」と思える仕事においては、先延ばしは創造性に貢献します。創造性につながる注意散漫が促される限り、仕事のある程度の先延ばしは新しい知識の探索を促します。また、多くの情報を得ることで、多面的な視点を持てるようになり、オリジナリティーのあるアイデアが生まれる可能性が高まります。

創造性を発揮したければ、ポジティブな注意散漫と情報と情報をつなげるための先延ばしが効果的であることを最新の経営学が教えてくれています。

ビジョンはイメージの力を活用し、わかりすく伝えよう!

米ペンシルベニア大学ウォートン・スクールのアンドリュー・カートン氏だ。カートン氏は、複数の調査を通して、「ビジョンによって効果を上げるには、イメージを伝えるべき」という事実を明らかにしています。

例えば、1年間に飢餓で亡くなる子供の人数を知ったとき、多くの人は心を痛めますが、飢餓の実態を伝える1枚の写真があったならば、より多くの人の心に伝わります。

カートン氏らは2014年の論文において、カリフォルニア州の300以上の病院を対象に調査を実施しました。その結果、ビジョンに具体的なイメージを与えながら医師と看護師に伝えている病院ほど、心臓病で再入院する患者の割合が減ることが明らかになったのです。

人はビジョンを語る際に「イメージ」ではなく「言葉」へ過度に注目してしまいます(曖昧ビジョン・バイアス)。この「曖昧ビジョン・バイアス」が生じてしまうのは、実は人の持つ2つの認知システムが好ましくない動きをするからなのです。

私たちの頭の中には「言葉や意味を処理するシステム」と「知覚や映像を処理するシステム」の2つが共存しています。問題の「曖昧ビジョン・バイアス」は、「知覚を処理するシステム」ではなく、「言葉を処理するシステム」が過剰に活性化することで生み出されます。

「言葉」「フレーズ」「言い回し」へ意識を向けている時点で、頭の中にある「言葉を処理するシステム」が活性化し、生み出されるものは全て言葉にとどまります。

その結果、ビジョンの内容自体はそれなりに分かりやすくなりますが、ビジョンによって社員の心に火をつける効果に至ることはないのです。

これを避けるためには、頭の中の「知覚を処理するシステム」を活性化させるようにすべきです。その際、カートン氏は「メンタル・タイム・トラベル」を行うとよいと言います。メンタル・タイム・トラベルとは、「ビジョンが実現した社会を想像しながら、その世界を旅すること」を意味します。

理想のあるべき世界を旅しながら、写真を撮ると考え、どのような場面を写真に収めたいかを考えます。この写真こそが、「知覚を処理するシステム」が捉えた最も伝えたいビジョンとなります。

イメージが固まってから、「言葉を処理するシステム」に脳を切り替えることで、そのイメージを最も効果的に伝える表現を創り出すようにします。

カートン氏らは18年の論文において、英国のEU離脱(ブレグジット)が決定した直後に英国の政府職員を対象に調査を実施しました。「メンタル・タイム・トラベル」を行った職員たちによって語られたビジョンはそれ以外の職員のビジョンに比べて、将来のイメージがより明確に伝わる内容だったのです。

社員がビジョンを「言葉遊びにすぎない」と感じたとき、リーダーがビジョンを語れば語るほど、社員の心がますます離れていくと言います。会社のビジョンが、「現在の問題を解決する」もしくは「改善する」ものいう近い将来にばかり目が行った場合、社員の心を引きつけるのは難しくなります(近視眼的ビジョン・バイアス)。

現場をよく知るリーダーほどこのに近視眼的ビジョン・バイアスに陥りやすいことがわかっています。現場を無視したビジョンは社員の心に届きませんが、直近の課題に寄り添うだけではビジョンとして受け止めてもらえません。

リーダーは曖昧ビジョン・バイアスや近視眼的ビジョン・バイアスに陥らないようにして、自らのビジョンを語るべきです。

経営者は「メンタル・タイム・トラベル」を使い、概念を具現化することで、未来についての具体的なイメージを描くようにしましょう。「抽象的な概念を示す言葉」と「具体的なイメージ」をうまく使い分けながら、ビジョンをわかりやすく伝えることで、大きな目標を達成できるようになります。結果、顧客やパートナーからの支持される企業になれるのです。


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