名著の予知能力
秋満吉彦
幻冬舎
本書の要約
私たちは名著に接することによって、先人たちが生み出した普遍的な知恵や洞察力を追究し、現代社会においてもその価値を受け継いでいくことが可能となります。名著は、現代人が犯す過ちや愚かさ、憎悪や歪みといった問題を正しく把握する上で非常に貴重な役割を果たしてくれます。
名著の予知能力とは?
予知しているかのように見えるのは、先人たちが自らの直観を研ぎ澄まし、人間や社会の本質をつかみとろうとあがき続けたからこそ、獲得できた普遍性があるからだ。そして、人間の本質は、時代が流れても全く変わっていない。普遍性を獲得した名著は、繰り返さゆがれる人間の愚かさや過ち、蛮行、憎悪のうねり、社会の歪みを妥り出してくれるのだ。(秋満吉彦)
秋満吉彦氏の名著の予知能力は、『秋満吉彦氏の名著の予知能力』は、NHK Eテレの『100分de名著』で特集された作品と、著者や関係者との対話に基づいて、名著の魅力について解説しています。秋満吉彦氏は、9年間にわたって名著の選定を担当するプロデューサーを務めており、本書では現代社会に通じる名著の意義とその背景について、詳細に記述されています。
「名著は現代を読む教科書である」という明確な基準で、著者は毎回一冊の本をセレクトします。私たちはこの番組に触れることで、先人たちの知恵や洞察力から生まれた普遍性を追求し、現代まで引き継ぐことができるのです。現代人にとっても繰り返される愚かさや過ち、蛮行、憎悪のうねり、社会の歪みを妥り出してくれる名著は、本当に貴重な存在です。
古典や名著と呼ばれるものには、必ず現代人の生き方や現代社会を読み解くための鍵が潜んでいる。この鍵を浮かび上がらせること。それがこの番組のミッションだ。世界に名だたる名著だからといって、その鍵を見出せなければ、その読み解きは単なるお遊戯だ。
現在進行中のショック・ドクトリンにおいて、一般大衆が資産を奪われる状況を踏まえ、私たちはマルクスの資本論を再読すべきです。
以前の社会では、農民たちは共有地を共同で管理し、労働や生活を行っていました。土地は個人的な所有物ではなく、共同体全体で管理されるものでした。このような共有地はイギリスでは「コモンズ」や「コモン」と呼ばれていました。人々は「コモン」において果実、薪、魚、野鳥、きのこなど、生活に必要な資源を共有し、共同で利用していました。 しかしこのような「コモン」の存在は、資本主義社会とは相容れませんでした。
なぜなら、個人が無料で生活に必要なものを調達できる場合、市場での商品の需要がほとんどなくなってしまうからです。そのため、「コモン」は囲い込みによって徹底的に解体され、排他的な私的所有物に転換される必要がありました。 この囲い込みの過程によって、共有地での共同利用が奪われ、資本主義社会において私的な所有権が強調されるようになりました。
農民たちは共有地から追い出され、土地や資源を個別に所有する必要が生じました。これにより、商品の売買が促進され、市場経済が発展していくのです。 このような歴史的な変化は、資本主義社会の発展と密接に関連しています。農民たちが共有地での共同利用を行っていた時代から、私的な所有権が重視される資本主義社会への移行が進んだのです。
暴力的な囲い込みにより、農民たちは住まいや生産手段を奪われ、都市に仕事を求めて流入することとなりました。彼らは資本家にとって都合の良い労働力となり、賃労働者として働くことを余儀なくされました。言い換えれば、「囲い込み」は資本主義の発展を準備する一因となったのです。
マルクスは「本源的蓄積」という概念を歴史上一度だけ起こる現象として述べていますが、人新世の「資本論」の著者である斎藤幸平氏はそれが資本主義社会においてあらゆる時代と場所で繰り返される現象だと主張しています。
例えば、飲料メーカーがミネラル豊富な水が湧く地域を買い占め、それを商品としてペットボトルに詰めて販売すると、以前は人々が無料で利用していた水汲み場は立ち入り禁止となり、水を手に入れるためにはスーパーやコンビニで買わなければならなくなります。これが身近な例である「コモンの解体」です。
そして、これはただの一例に過ぎません。 資本主義社会における「コモンの解体」は、さまざまな形で広範に起こっています。土地、資源、知識、文化など、共同で利用していたものが私的な所有物となり、市場で商品化されることで、利益を追求する仕組みが構築されるのです。このような変化は、資本主義の本質的な特徴として考えられています。
図書館、水道、電力、住宅、公立病院などの民営化は、料金の高騰を招き、暮らしや命に直結する大切な資源や知的リソースに、人々が気軽にアクセスできなくなる恐れがあります。貧しい人は、本来共有財産であるはずのものから締め出されてしまい、命の危険にさらされるかもしれません。マスクやアルコール消毒液も、民営化された場合、高騰する可能性があります。
これらの事態は、資本による「コモンの解体」であり、社会から豊かさを失わせゆく忌むべき事態です。 斎藤さんは、これらの「コモン」の重要性と、「コモン」を市民の手に取り戻すためのヒントを、マルクスの『資本論』から学ぶことができると述べています。
この概念をきちんと理解すれば、新型コロナ禍で起こっていたマスク不足や医療資源不足といった深刻な問題とその解決法が見えてくるはずです。 水、食料、エネルギー、住居、知識など、人類にとっての共有財産「コモン」を、暴走し続ける資本主義は、ことごとく「商品化」して単なる利潤追求の手段にしてしまっています。この流れを逆転させ、「コモン」を市民の手に取り戻し、その領域を再び拡大していくことが重要です。
バルセロナの市民政党による「コモン再生」など変化のうねりが起こっています。今、世界のさまざまな都市や地域で、こうした運動が始まっています。真に豊かな社会を創っていくためには、コモン再生が効果がありそうです。
オルテガから現代人が学べること
大衆の時代である現代、人々は自分とは異なる思考をもつ人間を繊滅しようとしている。自分と同じような考え方をする人間だけによる統治が良い統治だと思い込んでいる。それは違う、とオルテガは言うのです。自分と真っ向から対立する人間をこそ大切にし、そういつ人間とも議論を重ねることが重要なのだ。(中島岳志)
「大衆の反逆」の著者であるオルテガ・イ・ガセットは、自由主義を徹底的に擁護する保守的な哲学者であり、彼の言葉には深い洞察力があります。彼の有名なフレーズ、「敵とともに生きる!反対者とともに統治する!」は、彼のリベラルを守ろうとする信念を表明しています。この言葉は、リベラル主義の核心となる原理である寛容や平等に基づいています。
オルテガは、自由主義の真髄は「異なる他者への寛容」にあると考えていました。彼は、多数派が少数派を認め、その声に注意深く耳を傾けることが重要であると主張したのです。また、敵とともに共存する決意こそがリベラリズムの本質であると述べました。 オ
オルテガの考えは、現代社会において、ますます重要性を増しています。現代社会は、大衆化の時代であり、人々は自分とは異なる思考を持つ人々を排除しようとしています。しかし、オルテガは、自分と異なる人々こそを大切にし、議論を重ねることが重要であると説いています。 オルテガの考えは、私たちに、異なる人々を寛容に受け入れ、共存する大切さを教えてくれます。
熱狂を疑え!(西部遭)
SNSの普及により、熱狂するな人が増加し、あやうい世論が形成されやすくなっています。その興奮が極度のものになると、妄信にとらわれ、他者を排除する心理に陥ることもあります。その上、ある事件が発生すると、人々は集団的にその一点に集中し、時間が経過すると、それを忘れてしまうという傾向があります。
しかも、政治指導者たちは、このような状況を利用して、自身の意図を実現しようとすることがあります。このような一方的な世論形成に対抗するために、私たちは冷静に見極め、疑問を持つことが必要です。他者の意見を認められなければ、やがては独裁が始まります。
オルテガは、大衆社会における民主主義の劣化を食い止めるために、「多数派が少数派を認め、その声に注意深く耳を傾ける寛容性」や「人間の不完全性を熟知し、個人の理性を超えた伝統や良識を座標軸に据える保守思想」が必要であると主張しています。
民主主義社会においては、多数派が政治的な力を持つことが一般的ですが、オルテガは多数派の中においても少数派の意見を認め、その声に耳を傾ける寛容性が求められると主張しています。これによって、異なる意見や立場を尊重し合う社会が形成され、多様性や個別の権利を保護することが可能となります。
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