デジタルテクノロジー図鑑 「次の世界」をつくる
comugi
SBクリエイティブ
本書の要約
web3は非中央集権を基盤とし、ユーザー自身がデータを所有・管理することを目指します。これにより、個人がデータを独立してコントロールできる未来が開かれます。アバターなどで表象された「デジタルな私」が、「フィジカルな私」もろともデジタル空間に入り込み、さまざまな経済・社会・文化活動を行うようになります。
web3とは何か?
デジタルテクノロジーは、新しいものが個別に生まれては消えてきたのではなく、進化が一歩ずつ積み重ねられてきたものです。つまり、すべてがつながっているということであり、つながっているものは、つながったまま理解することが重要です。(comugi)
デジタルテクノロジーは、新しいものが個別に生まれては消えてきたのではなく、進化が徐々に積み重ねられてきたものです。このような視点に立ち、デジタルテクノロジーの進化の流れを全体的に見ることで、テクノロジーのクオリティを向上させることができると著者は述べています。
本書の著者であるcomugi氏は、シンガポール拠点のWeb3ファンド「Emoote(エムート)」の共同創業者として活躍しています。以前は、ビジネス書の編集者やグローバルWebメディア日本版の編集長を務めた経験もあり、最新のテクノロジーをわかりやすく解説してくれています。
テクノロジーを 俯瞰的・文脈的に理解することで、自分とデジタルテクノロジーとのつながりが見えてきます。例えば、デジタルテクノロジーによって社会はどのように変わるのか、自分の生活や生き方、仕事や働き方にどのような影響があるのかが明らかになります。
文脈をつかみ、全体像を把握することで、私たちはデジタルテクノロジーを「自分事」として捉えることができます。それによって、私たちはより具体的な行動や判断をすることができるのです。 デジタルテクノロジーは日々進化しています。私たちはその進化の流れを俯瞰的に見つめ、文脈を理解し、全体像を把握することで、デジタルテクノロジーとの関わりを深め、より豊かな未来を築いていくことができるのです。
これから起ころうとしているのは、デジタルネイティブなもの自体が「価値」を帯びる世界が形成されるという革命、いわば「価値革命」といえます。デジタルテクノロジーがまた一層進化することにより、企業、社会、国家、通貨、資本主義など既存システムが生み出し確立してきた価値が根本から変容していく、その過渡期に私たちは立っているのです。
web3の登場は、インターネットの使い方や考え方に革命をもたらすものとして、多くの人々の注目を集めています。web3の核心にあるのは、”所有”という概念になります。web3は「read/write/own(所有する)」ことで、web2以前とは一線を画します。
これまで私たちは、Web上での自分の行動や情報、投稿などのデータを、実際には自分自身が所有しているわけではなく、サービス提供者やプラットフォームが中心となって管理・所有していました。 web1の時代は、情報を受け取ることが中心でした。
それがweb2の時代になると、ユーザーも情報を発信する側としてアクティブに参加するようになりました。しかし、こうしたユーザーのアクティビティの背後には、GoogleやFacebookといった大手企業があり、彼らがデータの所有権を握っています。
web3では、その考え方が一変します。非中央集権化がキーワードとなり、個人が自らのデータを真の意味で所有し、それを自由に利用できるようになることを目指しています。
web3は、「非中央集権化(分散化)」を根本思想に持つものです。これは、Web2で構築されてきた中央集権的な構造の支配を脱却し、個々のユーザーが自らのデータを所有し、管理することを目指しています。 このようなweb3の考え方は、データの所有権が個人に帰属することを重視するため、プラットフォームに依存せず、自分自身で自らのデータをコントロールできるというメリットがあります。
また、データのセキュリティやプライバシーの保護にも繋がります。 しかしながら、web3にはいくつかの課題も存在します。例えば、データの管理やセキュリティに関する技術的な問題や、個人情報の漏洩などのリスクがあります。また、現在の中央集権的なプラットフォームからの移行や、web3の普及には時間がかかることも予想されます。
トークンが変える未来
従来の経済圏とは別に、さまざまな価値を「トークン」化したものが流通する経済圏が築かれていることから、web3は経済活動のネクスト、資本主義のネクスト、さらには民主主義のネクストを示しつつあり、やがては社会そのものを変えていく可能性すら含んでいます。
トークンという言葉を聞いて、多くの人は「デジタル通貨」といったイメージを持つかもしれません。しかし、web3の世界では、その役割や意義はさらに多岐にわたります。 ユーティリティトークン、名前の通り、特定のユーティリティやサービスを利用するための「チケット」のような役割を果たします。これは、特定のプラットフォーム内でのみ使える「通貨」として機能することが多いです。
一方、NFT(Non-Fungible Token)は、文字通り代替がきかない独特の価値を持ったトークンです。それはデジタルアートだけでなく、音楽、コレクティブル、あるいは何らかの独特のデータの所有権を示すことができます。NFTは一つとして同じものが存在しないため、その所有権は特定のトークンと直結しています。
ガバナンストークンは「ガバナンス=統治」の名の通り、コミュニティの統治のために発行されるトークンです。しかし、一般的なヒエラルキーのある組織の統治とは異なり、web3では「DAO(分散型自治組織)」と呼ばれるコミュニティが多数存在しています。
DAOでは、メンバーが対等に活動し、テクノロジーの力を借りて自律的に運営されます。このようなDAOでは、ガバナンストークンが「投票権」として使われることがあります。また、DAOの価値が上がれば、ガバナンストークンの価値も上がるため、ある意味でガバナンストークンは「証券」的なトークンとも言えます。
SBT(Soul Bound Token/ソウルバウンドトークン)は、お金では買えず、お金でも売れないトークンです。技術的にはNFT(Non-Fungible Token/代替不可能トークン)の一種であり、NFTと同じく代替不可能性を持っていますが、NFTは売買が可能なのに対して、SBTは譲渡が不可能です。
では、SBTはどのような機能を果たすのでしょうか?それは、「自分という存在」にひもづいたものを表現するためのトークンです。例えば、学歴や職歴などの証明書として使用することができます。 さらに、web3では、様々な種類のトークンが複合的に流通し、トークンノミクスが形成されています。トークンの種類と機能を理解することで、web3という新たな経済・文化圏に対する理解度は一気に高まるでしょう。
SBTは、個人の価値や経歴をトークンとして表現することで、その存在をより確かなものにすることができます。また、トークンの譲渡不可能性により、信頼性や信用性を高めることもできます。 SBTは、今後のトレンドとして注目されており、web3の発展において重要な役割を果たすことが期待されています。これからの時代、SBTを活用することで、個人の価値や経歴をより効果的に表現し、新たな経済・文化圏における自身の存在感を高めることができるでしょう。
このように、トークンは単なる通貨としての機能だけでなく、ユーティリティや非代替不可能なアセット、統治権限など様々な機能を持っています。web3の進化によって、トークンの活用方法も多様化していくことが予想されます。
イーサリアムの登場により、改ざん・コピーができない証明書つきのデジタルデータという概念が生まれました。これによって、通貨的な価値だけでなく、さまざまな「価値」をトークン化することが可能になりました。
イーサリアムはDappおよびスマート・コントラクトを実現するためのプラットフォームであり、さまざまなプロジェクトがイーサリアムのプラットフォームを用いて立ち上がっています。これによって、トークンが行き交う「トークノミクス」が形成されることとなります。
トークンの維持と成長のためには、以下の3つの要素が欠かせません。
1、ユーティリティトークンの安定
ユーティリティトークンは、特定のサービスやプロダクトの利用権を持つトークンであり、その価値の安定が重要です。
2、ガバナンストークンの上昇
ガバナンストークンは、プロジェクトの意思決定や運営に関与するトークンであり、その価値の上昇がトークンホルダーにとって重要です。適切なガバナンスメカニズムを持つことが、トークンの成長につながります。
3、拡大(人口増)
トークンの価値は、需要と供給によって決まります。より多くの人々がトークンを利用し、需要が高まることで、トークンの価値は上昇します。そのため、トークンの普及や利用者の増加が重要な要素となります。
イーサリアムの登場によってトークン化が可能となり、それを支える要素として「ユーティリティトークンの安定」「ガバナンストークンの上昇」「拡大(人口増)」が重要となります。これらの要素をバランス良く維持し、成長させることで、web3プロジェクトは持続的な発展を遂げることができるでしょう。
NFT、ユーティリティトークン、ガバナンストークンという3つの異なるトークンは、それぞれ異なる役割を持ちながら、一つのエコシステムの中で相互に作用します。運営側は、このエコシステム内でのトークンの流通や需給を適切に調整することで、健全な経済圏を維持・発展させることができるのです。
最近、特に注目されているのが、「X to earn」モデルになります。これは、ユーザーが特定の活動を行うことで報酬を得ることができる仕組みを指します。
例としては、人気の「アクシーインフィニティ」や日本で注目を集めた「ステップン(STEPN)」がありますアクシーインフィニティ』は、ブロックチェーン技術をベースとした仮想世界のペット育成・対戦ゲームです。このゲームは、Sky Mavisという企業によって開発されました。
アクシーインフィニティの特徴的な要素として以下の点が挙げられます。
・アクシー
ゲーム内でのキャラクターであり、これらのアクシーはNFT(Non-Fungible Token)としてブロックチェーン上に存在します。NFTはそれぞれ一意のデータを持つため、アクシーも一匹一匹が異なる特性や外見を持ちます。
・Play to Earn(プレイして稼ぐ)
このゲームの最も革命的な要素は、プレイヤーがゲーム内の活動を通じてリアルの収益を得られることです。バトルを行ったり、新しいアクシーを繁殖させたりすることで得られる報酬やトークンは、特定の取引所で現実の通貨に交換することが可能です。
・バトル
プレイヤーは自分のアクシーを使って他のプレイヤーと対戦します。このバトルの結果に応じて報酬が得られます。
・繁殖
二つのアクシーを組み合わせて新しいアクシーを生み出すことができます。この繁殖によって生まれたアクシーも、市場で売買することが可能です。
・ブロックチェーンとの連携
ゲーム内のアセットはイーサリアム上のスマートコントラクトを使用して管理されています。これにより、ゲーム内のアセットの所有権や取引履歴が確実に記録され、透明性が確保されます。
アクシーインフィニティの成功により、ブロックチェーン技術を活用したゲームや、Play to Earnのモデルが注目されるようになりました。
もう一方の「ステップン」はユニークなコンセプトで注目されました。ユーザーはデジタルの「スニーカー」をNFTとして購入し、それをもとに現実で歩くことで報酬を得られるというモデル。このように、「動いて稼ぐ」ことを「Move to Earn」と称し、日常の活動をエンターテインメントと経済活動として捉える新しいアプローチが提案されました。
トークノミクスは、従来の経済モデルに新しい風を吹き込む存在として期待されています。ユーザーが活動や参加を通して直接的な報酬を得ることができるこの新しい経済モデルは、今後さらなる進化や多様性を見せることでしょう。
デジタルテクノロジーがもたらす新たな未来とは?
パソコンからスマホに移り変わり、デジタルデバイスは、より自分の身体に近いものとなりました。それがメタバースのヘッドマウントディスプレイになった日には、もはや「体の一部」どころではなく、デバイスを身につけた体ごとデジタル空間へ主観的に「没入」することになります。
アバターなどで表象された「デジタルな私」が、「フィジカルな私」もろともデジタル空間に入り込み、さまざまな経済・社会・文化活動を行うようになります。それが当たり前になる未来は、確実に近づいていると著者は指摘します。
デジタルな世界に移るほど「私」という人間のアイデンティティは、複雑かつ多様化します、私たちの活動圏がリアルな世界からデジタルな世界に広がることで、私たちのアイデンティティも変化していくのです。
例えば、仕事という観点から見ると、リアルな世界では多くの人が特定の組織に属していますが、デジタルな世界ではそれぞれの個人が自分自身のアイデンティティを持ち、自己表現をすることができます。 また、「私」は人種、年齢、性別などのあらゆる縛りから解放されると考えられます。
デジタルな世界では、アバターとして自分を表現することができるため、外見や身体的な制約に縛られることなく自由に自己を表現できます。さらに、コミュニケーションの手段も多様化し、物理的な制約を超えて人々と繋がることができます。これにより、人種や性別による偏見や差別も少なくなり、より多様な人々が平等に参加できる社会が実現されるはずです。デジタルとフィジカルな両方の世界で働くことで、自分の可能性を広げられます。
一方で、デジタルな世界に移ることで生じる新たな問題も存在します。プライバシーやセキュリティの懸念、情報の操作やフェイクニュースの拡散などが挙げられます。私たちはこれらの問題に対して適切な対策を講じる必要があります。デジタルな世界での活動がますます重要になる中、個人のアイデンティティや情報の管理に対する意識を高めることが求められます。
本書は、Web3やメタバースの入門書として非常におすすめです。インターネットやweb2の歴史、NFTやビットコイン、そしてメタバースなど、最新の解説を専門家から学ぶことができます。
コメント