リアライン: ディスラプションを超える戦略と組織の再構築
ジョナサン・トレバー
東洋経済新報社
本書の要約
戦略的リアラインのSAFのフレームワークを正しく活用することで、企業は飛躍的に成長できます。ビジネスがその目的を達成するために、3つの要素(パーパス、戦略、組織)が整合させる必要があります。自社のパーパスのもと、長期的な組織の能力と戦略を同期すること、変化に適応することが経営者に求められています。
企業にアラインが重要な理由
企業パーパスのもとで1つになればなるほど──アラインすればするほど──、人々が熱心に働き、意欲とロイヤルティを証明し、戦略上望ましいとみなされる行動をとる可能性が高い。(ジョナサン・トレバー)
著者のジョナサン・トレバーは、オックスフォード大学のサイードビジネススクールで教鞭を執る傍ら、日本を含む各国で企業幹部の育成やコンサルティングも行っています。
著者は高度なアラインが達成されている企業は一般に明確な目的を持ち、顧客とのアラインに優れ、競争力を持った企業になると言います。従業員のエンゲージメント・スコアは最高で、表明された企業の価値に対するコミットメントも最大になるのです。
アラインが実現している企業には以下の特徴があります。
・パーパスが一致している
・ビジョンを共有している
・エンゲージメントが高い
・ロイヤルティが強くコミットメントが大きい
・信頼できる環境が整っている
・戦略上望ましい行動をとる
・組織がまとまっていて結束が固い
・組織のコンピテンシーが際立っている
・変化に対応し、時代に取り残されないよう努力している
・回復力が高く、長期にわたって活動できる
マクドナルドとアームは、アラインの強い企業です。マクドナルドは高度な業務遂行を、アームは高度な技術革新を得意としており、どちらも他の企業が容易に模倣できないほど際立って高い能力を発揮しています。このため、両社は惜しみなくリソースを投入してきました。
マクドナルドは、組織の文化、構造、プロセス、人材、そしてテクノロジーを含め、選択した戦略の実行を支えるために会社が組織されています。優秀な人材を採用し、ITを活用した業務運用管理システムを導入することで、貴重なリソースを最大限に活用しています。
マクドナルドは、おいしさだけでなく、人の笑顔もより豊かにすることを目指しています。そのために、充実した最新の教育設備を備え、社員の人材育成に力を入れています。教育およびシステム開発を通じて、社員の能力向上を支援しています。
一方、アームは高度な技術革新を追求しています。アームには優秀なエンジニアや研究者が集まり、知のネットワークが社内外に形成されています。メンバーが時代の変化に適応し、最新のテクノロジーを駆使してイノベーティブな製品を開発しています。アームの技術はエヌビディアやクアルコムなどの先端企業で高い評価を受けており、その強みを活かしてグローバルな事業展開を行っています。
時代が変化する中で、アラインだけでなく、リアライアンが重要になってきています。デジタルディスラプションとポストパンデミックの時代において、事業戦略と組織の再構築が重要であることは間違いありません。多くの人がパーパスと戦略、組織との整合性の重要性を理解している一方で、それを実現するための具体的な方法や解決策には困っているという現状があります。
すべてのリーダーシップ・チームに課された最大の責任は、企業をアラインさせて可能な限り業績を向上させ、その後も移り変わりの激しい事業環境のもとでパーパスに適応した行動をとりつづけるために、必要に応じてリアラインすることである。アラインとリアラインは戦略上重要な課題だ。
リアラインで重要なのは「戦略的アラインフレームワーク(Strategic Alignment Framework:SAF)」という新しい考え方です。トレバーは、企業のパーパス、戦略、組織を整合させることの重要性を強調しています。彼は、企業が短期的な目標やリターンの達成にのみ焦点を当てるのではなく、自社のパーパスのもと、長期的な組織の能力と戦略が同期させる必要があると述べています。
■パーパス:あらゆる組織の存在理由です。それは方向性を提供し、その上で戦略が開発されます。明確なパーパスは、すべてのレベルでの意思決定をガイドします。
■事業戦略:市場でどこでどのように勝利するかに関する選択を行うことです。それは独自の価値を創出し、企業の競争上の優位性を理解することについてです。
■組織:企業の能力、構造、ガバナンス、文化をカバーしています。企業の組織がその戦略を効果的に実行するように設定されていない場合、その目的を達成するのは難しいでしょう。組織を考える際には、組織ケイパビリティ、組織アーキテクチャー、経営管理システムの3つの要素に分け、自社の状況に合わせて、SAFを活用して設計すべきです。
経営者はSAFを適切に適用することによって、真に自社に合った戦略を構築することができます。ビジネスがその目的を達成するために、3つの要素(パーパス、戦略、組織)が整合していなければならないのです。これらの整合性が欠けると、非効率、混乱、低いリターンが引き起こされる可能性があります。
SAFのフレームワークを実践すること=組織のパーパスと戦略、そして組織の整合性を重視し、具体的な解決策を実行することで、企業は成功に近づくことができるのです。
戦略的リアラインとは何か?
戦略的アラインは、極めて健全で最高の業績を上げることができる企業の最適な均衡状態と考えていいだろう。対して戦略的リアラインは、企業がアラインを強化する、あるいは事業環境が変化しても目的に適合しつづけられるように企業を変革するプロセスだ。言い換えるなら、戦略的アラインは、現状をよりよくするために何を実行すべきかということであり、一方、戦略的リアラインは現状をよりよくするためにいかに実行すべきかという方法である。
戦略的アラインメントは「何を達成すべきか」というビジョンや目標を明確にするものであり、戦略的リアラインメントは「その目標に到達するための方法やプロセスは何か」という実行の戦略を考えるものです。 これらの考え方を取り入れることで、組織は目的と戦略の間のギャップを最小限に抑え、持続可能な成功へと導くことができるようになります。
アラインとは適応度の同義語であり、環境の要件に最も適応している種が最も強いとされています。この考え方は、生物学や生態学の分野での「適応」という概念と深く関連しています。適応とは、環境に適した特性や能力を持つことを指します。具体的には、ある環境下での生存や繁殖が有利となる特性を持っていることを意味します。
そして、我々が住むこの世界は、常に変化しています。この変化する環境の中で、生物が生き残るためには、適応する能力(リアライン)が不可欠です。ダーウィンが示した「変種」という概念も、この考え方を補完するものです。
企業が環境の変化や競合に対して継続的に対応していくためには、単なる表面的な変更や短期的な取り組みでは不十分です。真の競争力を持続的に高めるためには、戦略的リアラインを通じて、短期、中期、長期の視点で企業内のバリューチェーンの全ての要素を根本的に変革することが求められます。
戦略的リアラインは単に事業活動の流れや業務プロセスを見直すだけではありません。真の意味での変革を実現するためには、組織アーキテクチャーも見直す必要があります。具体的には、人材の配置や育成、組織の構造、企業文化、業務プロセスなど、組織の基盤となる要素全てを再検討し、新たな事業戦略に合わせて最適化する必要があります。
また、これらの取り組みをサポートするためには、経営管理システムの見直しも欠かせません。これには、戦略の策定、実行、評価をサポートするツールやフレームワーク、KPIなどの指標の設定とモニタリングが含まれます。
タバコ業界は、過去数十年にわたり多大なネガティブな変化を経験してきました。健康リスクへの認識の高まりや公衆衛生の議論が前面に出る中、多くのタバコ企業はその存在意義やビジネスモデルについて再考を迫られることとなりました。 この状況下で、ポピュラーブランドタバコ(PBT)のリアラインの取り組みは注目に値します。PBTは、かつては最高品質のたばこ製品を誇りとしていましたが、時代の変遷とともにその目的と戦略を大胆に変革してきたのです。
同社が新たなパーパスとして掲げたのは、「健康とライフスタイルの質を高める」こと。PBTは、科学的な研究をベースに、低リスクが証明された製品の提供を始めました。そして、有害なたばこ製品を根絶することを企業のミッションと定め、社会に対して新しい価値を提供する方針を打ち出しました。
この変革は、PBTが「たばこ会社」から「ライフスタイル企業」として再定義されるきっかけとなりました。これは、ただのブランド戦略やイメージ戦略ではなく、社会のニーズに真摯に応え、持続可能な事業モデルを築いていったのです。
PBTは、採用も若い技術者と開発者中心になり、オフィスも開放的になったと言います。これは、事業環境のディスラプションを乗り越えるために組織をリアラインさせようと試みた結果です。バリューチェーン全体を抜本的にリアラインすることで、PBTは変化に適応したのです。
若い技術者や開発者は、新しい視点やアイデアを持ち込み、革新的な商品やサービスを生み出していったのです。オフィスの開放的な雰囲気は、コミュニケーションやアイデアの共有を促進し、チームの協力を強化します。戦略的なリアラインを実践することで、PBTは生き残ることができたのです。
戦略的アラインフレームワークとは?
SAFが斬新なのは、企業パーパス、事業戦略、組織設計の考えを一貫性のある1つの概念上のフレームワークに統合しているところである。
戦略的アラインフレームワーク(SAF)は企業内バリューチェーンの動的な要素すべてを結びつけるゴールデン・スレッドです。
このフレームを活用することで、企業のリーダーは長期的な目的を達成するために企業の事業戦略、組織ケイパビリティ、組織アーキテクチャー、経営管理システムを戦略的にアラインまたはリアラインする方法を理解することができます。
SAFの核心は、2つの主要な組織能力の軸から成り立っています。一つは「安定性」と「俊敏性」、もう一つは「自律性」と「連携性」です。 これらの軸は相反する価値観を持つ連続体であり、その間の様々なポイントで企業が位置を取ることができます。そして、これらの軸の組み合わせによって、事業戦略や組織アーキテクチャーなどの視点から、企業の戦略的アプローチが明らかになります。
しかし、SAFの最も興味深い特徴の一つは、一つの事業部門では2つの相反する能力を同時に最大限に伸ばすことができないという前提にあります。つまり、製品やサービスの一貫性を追求することで安定性を高めると、その部門の製品やサービスのカスタマイズに関する俊敏性が制約される可能性があるということです。
この点から、企業は戦略を決定する際に、市場での製品やサービスの標準化とカスタマイズの両方を同時に追求するのは難しいと理解することが重要です。要するに、企業はその戦略の中心となるケイパビリティを明確にし、それに基づいて自らの位置を明確に決定する必要があります。
以下に4つの典型的な戦略的アプローチを紹介します。
■エフィシェンシー・マキシマイザー(効率の徹底追求)
安定性と自律性。 競争上の強みは、計画した戦略を競合企業よりも効率的に実行すること。同じことを繰り返し、徐々に改善していきます。そのためには、優れた実行力のある組織を作る必要があります。具体例 マクドナルド
■エンタープライジング・レスポンダー(大胆進取な環境対応)
俊敏性と自律性。競争上の強みは、競合企業よりもきめ細かく顧客に対応すること。そのためには顧客に俊敏に対応できる組織づくりが求められます。具体例 スイスのプライベートバンク
■ポートフォリオ・インテグレーター(企業ポートフォリオの統合)
安定性と連携性。競争上の強みは、競合が模倣できない方法で種類の豊富さを活用すること。異なる事業部門、機能、地域の価値あるつながりを活用して成功を得ます。そのためには縦の階層に重点を置いたピラミッド型絵はなく、組織の壁を超えた水平連携が欠かせません。
比亜迪(BYD)は大規模な投資をし、自動車、半導体、バッテリー製造をそれぞれ専門とする子会社3社のリソースを集約しました。これにより、BYDは技術や人材、組織ケイパビリティを統合し、短期間のうちに成長著しいハイブリッド電気自動車市場への参入を果たせたのです。
BYDは従来のリソースを新しい方法で連携させることで、厳しい価格競争に直面しコモディティ化した従来の中核市場に替わる、新たな成長手段を創出しました。このような取り組みにより、BYDは自動車、半導体、バッテリーの3つの分野で競争力を強化し、市場の変化に対応する柔軟性を持つことができたのです。
■ネットワーク・エクスプロイター(ネットワークの最大活用)
俊敏性と連携性。競争上の強みは状況を変える力になります。ウーバーやエアビーアンドビー、アマゾンといったプラットフォーム・ビジネスがこれにあたります。ネットワークを最大化するためには、組織の高い連携性と俊敏線を構築する必要があります。
SAFを活用した戦略的組織づくりについて 企業が永続的に存続するための第一歩は、企業パーパスに見合った製品やサービスの選択です。
製品・サービスの見直しのために以下の質問への回答を考えます。
・すでに提供中の製品・サービスで、コモディティ化のリスクがある、または今後の成長が難しいものは、どれか?
・どの製品・サービスが、どんな困難な状況下でも、会社のコアバリューを反映し続けるものか?
・技術革新や市場の成長機会を捉え、新たに提供すべき製品・サービスはあるか?
・これら新しい製品・サービスは、国内市場、特定の海外市場、あるいは国際市場のどれに投入すれば最適か?
・さらに、どの市場に投入することで、競争力を最大限に発揮できるか?
次に戦略的アプローチを選択します。 企業が成長し競争優位を獲得するためには、エフィシェンシー・マキシマイザー、エンタープライジング・レスポンダー、ポートフォリオ・インテグレーター、ネットワーク・エクスプロイターの中から、最適な戦略的アプローチを選ぶことが重要です。 選んだアプローチを基に、イノベーションを実現するための具体的な戦略や手法を考えてみましょう。
戦略的アプローチの選択は、企業の成長や競争優位を確立する上でのカギとなる要素です。企業が成功するためには、自社の状況や目標に最適なアプローチを見つける必要があります。 しかし、その選択は一概に「これが正解」とは言えないものです。各企業の置かれている状況や目的、そして市場環境は異なるため、一つの正解が存在しません。SAFが示す戦略的アプローチの軸やそのバリエーションは、優劣を競うものではありません。それぞれのアプローチは、企業が持つ強みや弱みに合わせて選択されるべきです。
重要なのは、一つの正解を探求するのではなく、自社の状況や目標に最適なアプローチを見つけることです。そのためには、市場の要件や競争環境を分析し、企業としてのパーパスを最大限に発揮できる方向を探る必要があります。
しかしこの選択は一度きりのものではありません。市場や環境は常に変動しています。そのため、柔軟にアプローチを見直し、常に最良の戦略を追求することが企業の持続的な成長のためには不可欠です。
最後に組織ケイパビリティを確立します。 企業の事業戦略を実現するためには、それをサポートする組織ケイパビリティが不可欠です。戦略を実行できるチームを作り、最高の結果を目指すのです。 戦略の選択と組織ケイパビリティの一致は、企業の成長と成功の鍵です。SAFのフレームワークを活用して、最適な戦略と組織を構築することを心がけましょう。
コメント