マッキンゼー流 最高の社風のつくり方
ニール・ドシ
日経BP
マッキンゼー流 最高の社風のつくり方(ニール・ドシ)の要約
楽しさ、目的、可能性を最大化し、感情的圧力、経済的圧力、惰性を最小にすると、総合的動機(ToMo)の数字が高まります。ToMoは高業績を生む組織文化の土台となるのです。経営者はToMo指数の数値を高めることに注力すべきです。結果、企業文化がよくなり、売上と利益にポジティブな営業を及ぼします。
企業文化を評価するToMo指数とは?
ToMoが高い社風は、生産性に富み、利益をもたらす。そのような会社では、社員も顧客も株主も、満足度が高い。(ニール・ドシ)
多くの企業は、金銭的報酬を通じて業績を向上させようとしていますが、人々の動機はそれだけでは説明できません。人々が仕事を選ぶ背景には、様々な理由や価値観が存在します。業績を真に向上させるためには、それらの多様な動機を理解し、尊重する必要があります。
高業績の組織を築くためには、まず、スタッフが何に動機づけられるのかを知ることが大切です。そして、その答えを探ると、非常にシンプルな事実に気づきます。それは、人々が「なぜ」その仕事を始め、そして続けるのかという深い理由や価値観です。この理解を基に、組織はより強固な絆や共通の目的を持つことができ、結果として持続的な業績向上を実現することができます。
働くのが楽しいというのは、労働の動機として最も強力です。労働には、以下の6つの基本的な動機があります。それは、楽しさ、目的、可能性、感情的圧力、経済的圧力、惰性です。
このうち最初から3つめまでの直接的動機は業績を向上させ、後の3つの間接的動機は業績を下げる傾向があります。しかし、社風によって楽しさと目的と可能性を最大にし、感情的圧力と経済的圧力と惰性を最小にすると、総合的動機(Total Motivation=ToMo)が最高レベルに達することが分かっています。
まず、楽しさとは、業務内容そのものを楽しむことができているかを指します。仕事が自分にとって興味深く、やりがいを感じられる場合、楽しさの動機が働きます。
次に目的ですが、仕事の目的がはっきりしているかが重要です。仕事には目標や使命感があることで、やる気を引き出す効果があります。そして可能性とは、自分自身の将来につながるかを意味します。自己成長やキャリアの発展に繋がる仕事は、意欲を高めます。
一方で、感情的圧力とは、周囲の感情や雰囲気に流されて仕事をしている状況を指します。他人の評価や承認を求めることで、仕事へのモチベーションが左右されることがあります。
また、経済的圧力は、給料のために働いているかどうかを意味します。生活費や家族のために働くことは重要ですが、給料のみを目的とすると、モチベーションが低下することもあります。最後に惰性ですが、なんとなくダラダラと働き続けている状態を指します。やる気や意欲がなく、仕事に対する責任感が薄れることがあります。
間接的な動機は、業績にマイナスの影響をもたらすことが多いです。 感情的圧力は、失望や罪悪感、羞恥心からくる動機です。これは、自分の内なる信念や他者からの期待によって生じるものです。高い業績を目指す組織は、この感情的圧力を低減することが必要です。
経済的圧力は、報酬を目的として、または、懲罰を避けるために働く動機です。この動機は、仕事の本質や自分のアイデンティティから離れたものとなります。金銭は必ずしも良い動機とは言えません。その価値は、報酬や懲罰がどれほどの影響を持つかによって変わります。
惰性は、特に明確な理由なく行動する動機です。これは、単に慣れや習慣からくるもので、業績にとっては最も低いレベルの動機となります。驚くことに、多くの従業員は、明確な理由なく仕事をしていると感じています。
ザッポスは、この問題に対して独自のアプローチを取りました。新人研修後、退職を希望する従業員には1ヶ月分の給与を支給することで、本当に働きたいと思う従業員だけを残す方針を採用しています。 このように、真の動機を理解し、それに基づいて組織を運営することが、持続的な業績向上の鍵となります。
総合的動機(ToMo)を最高レベルに達するためには、楽しさと目的と可能性を重視し、感情的圧力と経済的圧力と惰性を抑えることが重要です。社風や組織文化が働く環境に大きな影響を与えるため、働く人々が楽しさや目的を感じられるような環境づくりが求められます。このようなバランスが取れた状態で働くことで、効果的なモチベーションを持ち、業績向上に繋がることが期待されます。
著者の研究から、動機に関する2つの重要な原則が浮かび上がりました。
①直接的な動機は業績を上げる一方で、間接的な動機は業績を低下させる傾向がある。
②動機が仕事に密接に関連しているほど、業績は良くなる。例えば、楽しさは仕事と直結しているため、最も強い動機となる。目的は少し離れているため、次に強い。そして、可能性はさらに離れているため、3番目に位置づけられる。
これらの原則を基に、「ToMo(総合的動機)」という概念が定義されました。ToMoが高い時、人々は直接的な動機を強く感じ、間接的な動機を少なく感じます。そして、ToMoは高業績を生む組織文化の土台となるのです。 私たちの発見から、動機の「なぜ」が変わると、仕事の「いかに」も変わることが明らかになりました。
直接的な動機を持つスタッフは、以前よりも熱心に仕事に取り組むようになります。 直接的な動機、すなわち楽しさや目的、可能性に駆り立てられる組織文化の中で働く社員は、最高の業績を達成するでしょう。
逆に、間接的な動機、例えば感情的圧力や経済的圧力、惰性に影響される組織では、業績は低くなる可能性が高いです。 この2つの原則は普遍的であり、「ToMo指数」として示されることができます。これは、組織の業績を評価・向上させるための有効な指標となるでしょう。
診断の結果は、マイナス100からプラス100の範囲で数値化されます。高い点数は、直接的動機が間接的動機よりも強く影響していることを示唆しています。逆に、低い点数は、間接的動機が直接的動機よりも優勢であることを意味しています。この数値により、どのような動機が主に働いているのかを明確に把握することができます。
アップルやザッポス、スターバックス、ノードストロームのような企業文化のある会社は、ToMo指数が高いと著者は指摘します。
仕事を楽しむことが企業文化をよりよくする!
著者によると、これまでに調査した大手企業の中で、サウスウエスト航空のToMo指数は最も高く、41という数値を記録しています。これは、4万6000人を超える大企業としては驚異的な数字であり、多くの中小企業や新興企業でもこの数値に迫ることは難しいと言います。
一方、調査対象となった航空会社の中で最もToMo指数が低かった会社は22でした。差別化が難しい航空業界で、サウスウエスト航空は他社と比べて2倍のToMo指数を持っているのです。 サウスウエスト航空は、ToMoが単に社員の幸福度だけでなく、顧客満足度にも大きく影響するという考えを実践しています。
著者は、4つの航空会社の社員のToMoと顧客満足度を比較しました。その結果、サウスウエスト航空は同じ設備を使用しながらも、他の3社よりも高い顧客満足度を持っていることが明らかになりました。
仕事の楽しさを追求するという動機が、サウスウエスト航空の社員たちを駆り立てています。彼らは、それぞれの顧客との特別な関係を築くことを心がけています。そして、顧客との信頼関係を深めるという共通の目的のもと、全員が一丸となって取り組んでいます。その結果、何か問題が発生しても、顧客は寛大な態度で接してくれるのです。
多くの成功している組織は、ToMoの考え方を取り入れています。これらの組織のリーダーたちは、人々のモチベーションを引き出すためには、単なる報酬や脅しではなく、仕事における楽しさや目的、可能性を感じさせることが最も効果的であると認識しています。
一般的に、生産性や効率は組織のパフォーマンスを測る指標として重視されますが、それだけでは十分ではありません。真に高いパフォーマンスを持つ組織を築くためには、「戦略的パフォーマンス」と「適応的パフォーマンス」という2つの異なる側面を理解し、最大限に活用することが必要です。
多くのリーダーが見落としているのは、パフォーマンスにはこの2つの側面が存在することです。戦略的パフォーマンスは、計画通りに物事を進める能力を指します。一方、適応的パフォーマンスは、予期せぬ状況や変化に柔軟に対応する能力を意味します。これらは相反する性質を持つものであり、そのバランスをとることは容易ではありません。
現在、多くの組織は、業績管理のプロセスを通じて戦略的パフォーマンスを最大化することを目指しています。しかし、その結果として適応的パフォーマンスが疎かにされることが多いのです。特に、急速に変化する業界においては、この偏りは組織の存続に大きなリスクをもたらす可能性があります。 成功する組織は、2つのパフォーマンスを適切にバランスさせることができるリーダーシップを持っています。
しかし、ToMoは従業員の心を動かすだけではない。それは適応的パフォーマンスを刺激するので、影響は顧客にも及ぶ。組織が一人ひとりの顧客に応じたアプローチをすれば、顧客は大いに満足する。
ToMoと顧客満足度との密接なつながりは、銀行業、航空会社、ケーブルテレビ、小売業など、多くの産業のあらゆる場所で見つかった。これは何故なのでしょうか?
それは、ToMoが企業の営業力、問題解決能力、シティズンシップ(市民としての責任と良識)、回復力、創造力など、あらゆる適応的パフォーマンスとつながっているからです。
ToMoを通じて、企業は顧客との関係を築き、営業力、問題解決能力、シティズンシップ、回復力、創造力などの適応的パフォーマンスを高めることができます。これにより、顧客満足度を向上させ、企業の成長と利益の最大化を実現することができるのです。
顧客満足度の向上には、従業員の満足度も重要な要素です。従業員が仕事に楽しさや目的、可能性を感じていると、顧客へのサービスも向上し、顧客満足度が高まります。ホールフーズの従業員についての調査では、彼らは同業他社の従業員よりも楽しさ、目的、可能性を感じており、感情的圧力や経済的圧力、惰性を感じることは少なかったという結果が出ました。
その結果、ホールフーズの顧客満足度は、ライバル3社の平均値よりも3倍も高かったのです。 この高い顧客満足度は、ホールフーズが従業員に対して意図的に「直接的動機」を組み込んでいるからです。
例えば、店舗ごとに決定権のあるチームを作り、従業員に仕事の楽しさを倍増させています。また、各部署が雇用や仕入れを決めることで、従業員の意欲を高めています。このような独自の手法により、ホールフーズは従業員に家に帰っても仕事について考えさせ、業界のリーダーとなっているのです。
顧客満足度の向上は企業にとって重要な目標です。ホールフーズの成功事例を見ると、従業員の満足度を高めることが顧客満足度向上につながることがわかります。企業は従業員の働きやすさややりがいを考慮し、直接的動機を取り入れることで、顧客満足度を向上させることができるのです。
組織づくりの際には、報酬や昇進の機会を提供するだけでなく、従業員が仕事に対して情熱を持ち、自分の役割の価値を理解し、それを楽しむことができる環境を整えることが重要です。
従業員の意見や提案を尊重し、新しいアイディアや取り組みを奨励する文化を築くこと、チームワークを重視し、互いの成功を祝う風土を作ることなどが考えられます。 真にモチベーションの高い組織を築くためには、従業員が「仕事の楽しさ」を感じられる環境を整えることが最も効果的であると言えます。
ToMo指数の数値を高めることで、企業文化をよくすることができ、結果、売上と利益にポジティブな営業を及ぼします。
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