世界秩序の変化に対処するための原則 なぜ国家は興亡するのか(レイ・ダリオ)の書評

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世界秩序の変化に対処するための原則 なぜ国家は興亡するのか
レイ・ダリオ
日本経済新聞出版

世界秩序の変化に対処するための原則 なぜ国家は興亡するのかの要約

経済の不透明性が高まる中で、資産の保全と成長に向けた戦略立案には歴史からの教訓を活用することが欠かせません。最悪の状況を想定し、受け入れがたい結果を避けるための手段を講じることが求められます。今後10年間は、短期的な債務や経済の周期、国内の政治変動、米中対立の激化と双方の相互依存度の低下を注視すべきです。

歴史を学び、柔軟ば思考と原則で変化に適応できる力を養える!

これからの時代は、これまでに経験してきた時代とは大きく異なるだろう。とはいえ、同様のことが歴史の中では何度も起きている。(レイ・ダリオ)

レイ・ダリオは、投資の世界において最も尊敬される人物の一人であり、彼の著作PRINCIPLESは数多くのビジネスリーダーや投資家たちに影響を与えています。ダリオが設立したブリッジウォーター・アソシエーツは、世界最大級のヘッジファンドとして知られており、その成功の背景には彼の深い経済と市場の理解があります。

ダリオは経済史の研究者でもあり、彼は過去500年の政治的・経済的な激変について深く研究してきました。彼の研究は、過去に発生したさまざまな歴史的事象からパターンを抽出し、それらのパターンが将来再び現れる可能性があるという着眼点に基づいています。

ダリオは、市場の将来的な動きをある程度予測することができるとしています。 ダリオの指摘する根本的変化とは、例えば大国間の競争の激化、技術的なパラダイムシフト、財政政策と金融政策の転換点、社会的不平等の増大などです。これらは歴史上何度も見られた事象であり、それぞれが経済や市場に大きな影響を及ぼしてきました。 彼は、これらの歴史的事象が再発することにより、未曽有の変化が近い将来にも起こり得ると警鐘を鳴らしています。

しかし、ダリオは単に歴史を振り返るだけでなく、これらの変化に備えるためには柔軟な思考と原則に基づいたアプローチが必要だとも述べています。

国との貿易水準、軍隊、そして通貨などの金融市場。こういったものが帝国を作り上げていることが見えてきた。こういったものは周期的に動き、互いに絡み合っている。たとえば、国家の教育水準は生産性水準に影響を与える。それは他国との貿易水準に影響する。貿易ルートを守るのに必要な軍事力の強さに影響する。それが通貨や市場に影響を与え、その他多くのものに影響を与える。それらの動きがまとまって、長期的な経済そして政治のサイクルを作り出す。大きな成功を収めた帝国や王朝はそのサイクルを200年や300年継続している。私が研究した帝国や王朝はすべて典型的なビッグ・サイクルの中で興隆し、衰退していった。

著者のレイ・ダリオは、長年にわたる研究を通じて、経済の歴史を大きく2つの周期に分類しています。彼はこれを「ビッグ・サイクル」と呼び、以下のように説明しています。

①平和で繁栄する時期
この時期は創造性と生産性が花開き、人々の生活水準は大幅に向上します。新しい発明や技術革新が社会にポジティブな影響を与え、経済的な豊かさがもたらされることが特徴です。ダリオは、このような時期が比較的長く続くと指摘しており、その安定と成長は人類の進歩を象徴しています。

②不況・革命・戦争の時期
この時期は、社会の緊張が高まり、富や権力を巡る争いが顕在化します。結果として、不況が発生したり、革命や戦争が勃発し、貴重な資産や人命が失われることになります。

ダリオは、これらの動乱の時期が人類の歴史の中で短い移行期として現れることが多いと述べ、その比率がおおよそ5対1であると説いています。つまり、平和で創造的な時期が5倍ほど長く続くというのです。

彼は、このようなビッグ・サイクルの認識を通じて、不安定な時期に備えることの重要性を訴えています。しかし、同時に彼は、平和で創造的な時期が持続することの喜びとその時期を最大限に生かすことの大切さも強調しています。彼の理論は、投資戦略だけでなく、私たちが社会の将来に向けてどのような準備をすべきか、という指針を提供しています。

このビッグ・サイクルの理解は、経済的な波がどのようにして社会全体に影響を及ぼすのかを理解する上で貴重なものです。

ダリオは、国や帝国の興亡を通じて、物事には終わりが来るという普遍的な法則を解き明かしています。彼は、歴史を振り返ることで、スペイン、オランダ、イギリスといったかつての大国が経験した隆盛と衰退のサイクルを分析し、現在のアメリカも同じような段階にあると指摘しています。

アメリカは相対的な衰退の途上にあり、中国が再び興隆してきている。

中国とアメリカは現在資本戦争を行なっています。テクノロジーや知財、カルチャーなど様々な分野で争いが起こり、最近では地政学リスクも高まっています。

過去の歴史を見ればわかるように、アメリカは確実に衰退期に入っています。アメリカという世界をリードする大国が、現在重要な分岐点に立たされていると言えます。国内に生じた亀裂は、その影響を世界各地にも及ぼし、不安定さを増しています。このような状況がさらに悪化すれば、過去の歴史が示すように、深刻な破壊をもたらす可能性があると考えられます。

アメリカが今後、この困難を乗り越えて立ち直ることができるのか、それともさらなる衰退の道を歩むことになるのかは、今後の政治的、経済的な対応にかかっています。

今後の10年で最も影響力のある動向は、短期的な債務、資金、経済のサイクル、国内政治の動向、そして米国と中国との間で高まる対立と、お互いの依存度を低減しようとする動きになるとダリオは言います。これらは世界経済における重要なダイナミクスであり、投資家はこれらの要素を慎重に観察し、戦略を調整する必要があります。

富と権力を決める8つの決定的要素

歴史を学んだ人なら誰でも知っているが、政治制度や経済制度、貨幣、帝国が、永遠に続いたことはない。それなのに、制度が破綻すると誰もがまさかと思い、メチャメチャにされてしまうのだ。

著者の専門は、変動する経済環境の中で資産価値を維持し、増やすことです。彼の分析は、過去の繁栄期だけでなく、壊滅的な時代にも通用する普遍的な原則を見出すことに焦点を当てています。

ダリオは、経済が混乱し、市場が不安定な時期においても、資産を保護し、成長させるための戦略を練るためには、歴史を通じて成功した手法を理解することが不可欠だと説いています。 そのために彼は、過去に発生した大規模な経済危機や政治的動乱の時期を徹底的に研究し、どのような資産が価値を保ち続け、またどのような戦略が有効だったのかを分析しています。

ダリオは、投資におけるリスク管理と柔軟性の重要性を強調し、経済サイクルや政治的変化がもたらす可能性のあるシナリオを予測して、それに対応するための資産配分の重要性を説いています。このような研究と分析は、投資家が市場の変動に対応し、長期的な視点で資産を守りながら成長させるための貴重な指針となっています。

彼は、国の富と権力を決定づける8つの重要な要素を特定しています。これらの要素は、国の国際的な地位とその国の市民の生活水準に直接的な影響を与えます。

・教育
人材の質は教育システムの強さによって形成されます。よく教育された労働力は生産性の向上に不可欠であり、経済成長の基盤です。

・競争力
ある国の産品やサービスが国際市場で競争できる程度を指し、競争力が高いほど、その国はより多くの貿易を促進し、富を築くことができます。

・イノベーションとテクノロジー
革新的な思考と最新のテクノロジーは、経済成長を加速させ、国際的なリーダーシップを強化します。

・経済生産高
国内総生産(GDP)は、国の経済規模とその経済活動の活発さを示す指標であり、経済力の大きさを示します。

・世界貿易におけるシェア
世界貿易市場でのシェアが大きいほど、その国は世界経済において影響力を持ちます。

・軍事力の強さ
強力な軍事は、国の安全保障を保障し、国際的な交渉において有利な立場を確保するために重要です。

・金融センターとしての強さ
主要な金融市場を抱える国は、世界経済における重要なハブとなり、国際的な資本の流れを引きつけます。

・準備通貨の地位
国の通貨が準備通貨として広く受け入れられている場合、その国は国際貿易や金融取引において大きな利点を持ちます。

これらの要素は相互に関連し合い、強化し合っており、国の総合的なパワーを形成しています。ダリオは、これらの要素が各国の長期的な経済戦略における重要な焦点であると強調しています。

生産性の増加によって富が蓄積し、生活水準が向上するという時期は、国の繁栄が築かれる時になります。この段階では、国の基盤は堅固で、債務水準は比較的低く抑えられ、富や価値観、政治的な差異も小さいものとなります。国民は繁栄を支える質の高い教育や社会的な基盤を享受し、能力のあるリーダーたちが効率的な協力体制を築き、国民は一丸となって努力します。世界の大国が導く平和な秩序の下で、この時期は楽しい時代となるのです。

しかし、こうした繁栄が行き過ぎると、常にそうなるように、破壊と再構築の辛い時期が訪れます。債務が膨らみ、富の不均衡、価値観の相違、政治的な格差が大きくなり、異なる思想や利益を持つ集団が協力することが難しくなります。教育制度や社会インフラが低下し、拡張しすぎた帝国は新興勢力の挑戦に直面し、維持に苦しむようになります。

これらの基本的な弱点から戦争や崩壊の苦しい時期へと移行し、その後で新たな秩序が構築され、再び繁栄の構築が始まります。これらの段階は、普遍的で論理的な因果関係の中で時空を超えて繰り返されます。

ここから、国の現在の位置や健康状態を把握する指標を作ることが可能です。もし指標が強く良好な状態なら、国は現在良い状態にあり、将来も継続して良い可能性が高いでしょう。逆に、指標が弱く不安定なら、その国は危険な状態にあり、将来さらに問題が深刻化する恐れがあります。国家は興隆期、繁栄期、衰退期のビッグ・サイクルを繰り返します。

すべてのものごとと同様に、内部秩序と世界秩序はつねに進化し、時とともに前進する。現在の状況がいろいろと関わりあい、それに反応する力が出てきて、新たな状況を生み出す。

将来を見通し、それに適切に対応する力は、変化の背後にある因果関係を把握する力と、その因果関係が過去にどのような変化を引き起こしたかを学ぶ力に大きく依存しています。レイ・ダリオは、経済や市場の動向を正確に予測するためには、歴史的なパターンや出来事から学び、それらの知見を現代の文脈で応用することが不可欠だと説いています。

ダリオは、過去の事例を鑑に将来を見据え、危機に対処するための原則を持つことが、個人や組織が成功へと導かれる鍵だと説いています。

投資戦略を練るにあたり、全ての可能性を広く知ることの重要性を強調しています。最悪のシナリオを想定し、それが現実となった場合に許容できない結果を回避する戦略を考え出すことが不可欠です。

さらに、リスクを分散させることで不測の事態への耐性を高めるべきだと彼は説きます。また、他者の専門知識や見識を積極的に取り入れ、自己の考えに固執せず、常に柔軟な姿勢を保つことが成功につながるとダリオは提案しています。

巻末の著者のコンピュータ分析によると10年後のアメリカのビッグ・サイクルは若干、不利な状況にあり、日本は逆に若干有利だと言います。インド、中国などが様々な指標で評価が高くなる中で、どこへのどんな投資が正しいのかを本書を参考にしながら、自分の頭で考えてみたいと思います。

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この記事を書いた人
徳本昌大

■複数の広告会社で、コミュニケーションデザインに従事後、企業支援のコンサルタントとして独立。
特にベンチャーのマーケティング戦略に強みがあり、多くの実績を残している。現在、IPO支援やM&Aのアドバイザー、ベンチャー企業の取締役や顧問として活動中。

■多様な講師をゲストに迎えるサードプレイス・ラボのアドバイザーとして、勉強会を実施。ビジネス書籍の書評をブログにて毎日更新。

■マイナビニュース、マックファンでベンチャー・スタートアップの記事を連載。

■インバウンド、海外進出のEwilジャパン取締役COO
IoT、システム開発のビズライトテクノロジー 取締役
みらいチャレンジ ファウンダー
他ベンチャー・スタートアップの顧問先多数 

■著書
「ソーシャルおじさんのiPhoneアプリ習慣術」(ラトルズ)
「図解 ソーシャルメディア早わかり」(中経出版)
「ソーシャルメディアを使っていきなり成功した人の4つの習慣」(扶桑社)
「ソーシャルメディアを武器にするための10ヵ条」(マイナビ)
など多数。
 
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