超進化経営 勝ち続ける企業の5つの型 (名和高司)の書評

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超進化経営 勝ち続ける企業の5つの型
名和高司
日本経済新聞出版

超進化経営 勝ち続ける企業の5つの型 (名和高司)の要約

伝統の中には革新の萌芽が内包されています。それを読み解き、開花させ、企業自らが変態することが進化企業の腕の見せ所です。伝統だけにしがみつかず、新しい波にも飛びつかず、自社の強みから異結合を生み出すことで、自社独自のイノベーションを起こせるようになります。

企業進化の5つの型とは?

豊かな未来を切り拓くためには、企業は持続可能性を経営の主軸にしっかりと位置づけなければならない。(名和高司)

日本の上場企業の中には、創立100年を超える長寿企業が少なくありません。これらの企業の多くは、PBR(株価純資産倍率)2倍を超える健全な財務状態を維持しています。パーパス経営のスペシャリストで京都先端科学大学教授の名和高司氏は、日本の上場企業に焦点を当て、長寿企業の成功の秘訣を探求しています。

本書の中心的な主張は、企業が長期的に勝ち続けるには、自社の強みを深掘りし、それを活かすことが重要であるということです。この主張を裏付ける根拠として、著者は膨大なデータを分析し、長寿企業の共通点を見出しています。

本書では、独自のフィルターを通じて「超進化企業トップ50社」をランキングしました。トップ50社の中で、18社(つまり3社に1社)が100年を超える長寿企業です。

例えば、1872年創業の資生堂(15位)は150周年を、1887年生まれの花王(39位)は135周年を、それぞれ2022年に迎えました。  SCREEN(45位)1868年創業 島津製作所(23位)1875年創業 任天堂(30位) 1889年創業 これら3つのの企業は、歴史の都・京都を誇る老舗企業です。彼らは「寿命30年」の壁を越え、進化を続けてきました。この通説が正しいとすれば、100年以上続く長寿企業は、少なくとも3回以上の進化を繰り返してきたことになります。

50社の中から特に注目すべき企業として著者は、島津製作所、SCREEN、味の素、ロート製薬、ポーラを取り上げます。これらの企業を通じて、企業進化のパターンを5つの類型に分類し、それぞれの成功と失敗の法則を論じます。

1. オクトバス型(例:島津製作所)

・コアコンピタンスからのビジネス発想
自社の中核資産(コアコンピンタンス)を見極め、それをずらし続けることが重要です。自社の強みをよりどころにした「パーパルオーシャン(隣接領域)」を生み出すことが成功の秘訣になります。

・事業の新陳代謝
複数の事業を持ちながらも、時代に合わせて事業の太さを調整し、新陳代謝を促進しています。・柔軟な適応力
事業領域を柔軟に再編集し、必要に応じて事業の組み替えを行っています。増やすだけでなく、削ることもしっかりと行なっています。

質の高い資産を、従来事業から新規事業へとずらすことで、従来事業では「引き算」を徹底する。そして新規事業で生み出した新しい可能性を、従来事業に融合させることで、「掛け算」による乗数効果を生み出す。この「引き算」と「掛け算」こそが、10X(テンエックス・桁違い)の進化を生み出す経営の極意である。

2023年3月には、創業150周年に向けて、「世界のパートナーと共に、プラネタリーヘルスを追求し続けます」と宣言し、パーパスを進化させています。同社のパーパスは、時代を先取りして、進化し続けているのです。

「同社の事業の邪魔になる人」「家族を滅ぼす人」という訓語が示す通り、同社は昭和的な美徳を守りながら、イノベーションを起こしています。

2. ピボット型(例:SCREEN)

・軸足の固定
バスケットボールの足さばきのように、主要事業(軸足)を固定し、他の事業で多角化を進めます。同社はピボットを続け、155年間進化してきたのです。そして、本業が絶好調の時にピボットを行う攻めの姿勢が同社の強みになっています。

・パーパスの強化
企業の存在意義を明確にすることで、軸足がより強固になります。「人と技術をつなぎ、未来をひらく」というパーパスが、空間軸上では開放系を時間軸上では非線形を示しています。このパーパスを社員が自分ごと化することで、同社はイノベーションを起こし続けているのです。

SCREENは印刷事業が縮小に向かう前から、転写技術の「ずらし」を応用して新たな事業領域に進出してきました。例えば、半導体産業の黎明期にシリコンウエハーの洗浄装置を開発しました。この技術は、印刷事業で培った表面洗浄技術がカギとなっており、ウエハーに設計回路を正確に転写するために重要な役割を果たしたのです。

現在、半導体事業が成長の最盛期にある中、SCREENは次なる成長分野としてエネルギーやライフサイエンスに注力しています。「思考展開」を基軸に、150年以上にわたり事業のピボットを続けてきた同社の真髄がここにあります。

3. クロス型・異結合(例:味の素)

・相乗効果の創出

クロス・カプリング、すなわち異結合は、イノベーションの真髄です。

味の素は創業100年を超えてなお、クロス・カプリング(異結合)というイノベーションの仕組みを駆使し、非連続的な進化を遂げ続けています。味の素は異なる事業や技術を掛け合わせることで、新たな価値を創造し続けています。

例えば、食品事業で培ったバイオ技術をデジタルと融合させることで、半導体基盤の絶縁市場という新たなマーケットを開拓しました。同社は半導体のサプライチェーンで重要な役割を担っています。

異なる技術や事業を組み合わせるクロス・カプリングは、企業が新たな成長機会を発見し、競争力を高めるための強力な手段です。

・持続的なイノベーション
一度の成功に満足せず、常に新たな組み合わせや技術を模索し続けることで、進化を遂げています

・非連続的な進化
既存の枠にとらわれず、大胆な組み合わせを試みることで、飛躍的な成長を目指します

・強みの活用
自社の研究開発や技術の強みを見極め、それを新事業に活かします。味の素は食品の技術からアミノサイエンスを生み出し、グリーン革命やデジタル革命のプレーヤーに変化を遂げています。

クロス・カプリングを成功させるための最大の鍵は、「未来」に照準を合わせることです。現状の延長線上ではなく、未来の「ありたい姿」を構想することが重要です。これこそが、「パーパス」の本質です。

「異結合(クロス)」型進化を生み出すためには、自社ならではの次貝産の進化が必須となる。言い換えれば、「異結合(クロス)」型を目指す前に、それぞれの事業群の「軸旋回(ピボット)」、そして「深耕(カルト)」型への進化が必須なのです。

未来に向けた能力の磨き上げ 単に未来を夢想するだけでなく、自分たちの能力をその未来の実現に向けて磨き続けることが必要です。言い換えれば、「未市場」と「未能力」を掛け合わせることで、初めて異結合による進化が始動します。その際、一流同士の異結合が成功の秘訣になることを忘れないようにしましょう。

4. デコン(脱構築)型(例:ロート製薬)

簡単に言えば、「こわす(破壊)」ことでも「おこす(新生)」ことでもなく、「ずらす (差延)」こそが、脱構築の本質なのである。

成功の法則
ロート製薬の社員が大切にしている信念は「NEVER SAY NEVER」です。このコーポレート・スローガンは2016年に掲げられましたが、100年以上にわたり脈々と受け継がれてきたロートのDNAです。「絶対にあきらめない」という思いが込められています。成功するために大量の失敗を繰り返し、あきらめない姿勢で成功を手に入れたのです。

同社は、胃腸薬や目薬などの日本初のマス商品を育て上げてきました。また、メンソレータムをM&Aして参入したスキンケア領域では後発でありながら、医薬で培ったサイエンスの力を活かして次々にヒット商品を生み出しています。

ロートも、「生活者の課題に真摯に向き合う」「科学の力で解決する」という創業当時からの静的DNAを、124年間、貫き通している。一方で、生活者の課題も、科学の力も時代とともに進化する。そこで「人がやらないことをやる」という動的DNAを発揮させることで、他社に先駆けて非連続な進化を目指し続けているのである。

・既存資産の再評価
まず、企業が持つ既存の事業や資産を再評価します。これにより、現在の強みと潜在的な価値を見極めます。

・新しい組み合わせの創出
再評価した資産を基に、新しい事業やプロジェクトを立ち上げます。このプロセスでは、既存の枠にとらわれずに自由な発想で組み合わせを考えることが重要です。

・実体を伴った変革
新しい組み合わせを実行に移す際には、単なる表面的な変更ではなく、実体を伴った変革を目指します。これにより、持続的な成長と革新が実現されます。 

「脱構築(デコン)型」の進化は、企業の潜在的価値を引き出し、新たな成長を切り開く方法です。ロート製薬の例から学べるように、既存の資産を再評価し、若い力を活用することで、企業は老化を防ぎ、持続的な成長と革新を遂げることができます。このプロセスには、強い信念と実体を伴った変革が不可欠です。

5. カルト・深耕・一意専心(例:ポーラ)

現状に満足することなく、貧欲に新しいことに挑戦し続ければ、アイデアはまさに井戸の水のように湧き出し続けるのである。逆に、次々にくみ上げない限り、新しい水は出てこない。常にくみ上げ続けるから、出てくる。これだけのアイデアを出したから、もう終わりということはない。くみ上げ続けるのが大事ということだ。

・専門性の深化
特定の分野での専門性を深め、共感を高めることでブランド価値を強化します。共感に基づくコミュニティが同社の強みになっています。

・顧客の先導(マーケットアウト)
マーケット・アウト戦略とは、顧客のニーズにただ応えるだけではなく、顧客がまだ気付いていない潜在的なニーズを先取りし、リードする姿勢です。これにより、企業は市場を牽引し、新しい価値を提供し続けることができます。

進化力に不可欠の4E(クァトルE)パワー

未来に向かうためには、まず現在を大きく構造変革しなければならない。その際には新しい資産の「足し算」だけでなく、古い資産の「引き算」、そしてそれらを異結合(Rimix)していかなければならない。新陳代謝がカギを握るのである。

既存企業が持続的に成功するための唯一のパスは、資産の組み替えです。これは、既存事業に関わる資産を見直し、新規事業に振り分けることを指します。特に、最も価値のある資産を新しい成長機会に活用することが重要です。

資産の組み替えとは、企業が現在保有する資産やリソースを再評価し、それを最適な形で再配置するプロセスです。

企業が持続的に成長し、新規事業を成功させるための効果的な戦略として、トップ人材の活用があります。この戦略では、トップ人材を既存組織から一時的に外し、新規事業のインキュベーションを担当させます。そして、事業化の見通しが立った時点で、再び既存組織に戻します。これにより、既存事業と新規事業の双方が強化され、企業全体の成長が促進されます。

日本には100年以上の歴史を持つ長寿企業が数多く存在します。これらの企業が長きにわたって成功を続けるためには、進化力が不可欠です。進化力は「4E(クァトルE)パワー」と呼ばれる4つの力から成り立っています。

1. 学習力(Emulating Power)
学習力は、他社の成功事例や失敗から学び、それを自社に適用する能力です。市場の変化に敏感であり、競合他社の動向を注意深く観察することで、自社の成長戦略を練り直すことができます。この力を活かすことで、企業は常に最新の情報を取り入れ、進化し続けることが可能です。

2. 編集力(Editing Power) 編集力は、情報やアイデアを整理し、新たな価値を創造する能力です。多くの情報が氾濫する現代において、重要なのは有益な情報を選別し、それを効果的に活用することです。編集力を持つ企業は、情報を単なるデータとして扱うのではなく、それを価値のある形に再構築し、製品やサービスに反映させることができます。

3. 実装力(Embodying Power) 実装力は、学んだことや編集したアイデアを具体的に実行に移す能力です。新しいアイデアや戦略を考えるだけではなく、それを実際のビジネスに落とし込み、結果を出すことが求められます。実装力を持つ企業は、迅速に行動し、変化を実現することで、競争力を維持します。

4. 引込力(Engaging Power) 引込力は、ステークホルダーを巻き込み、共に成長する能力です。企業が持続的に成長するためには、従業員、顧客、パートナー企業など、さまざまなステークホルダーとの良好な関係が不可欠です。引込力を発揮する企業は、コミュニケーションを重視し、ステークホルダーとの信頼関係を築くことで、協力して目標を達成します。 まとめ 日本の長寿企業が成功を続けるためには、各成長モデルの成功法則を理解し、失敗を避けることが重要です。

特に「4E(クァトルE)パワー」を活用することで、持続的な成長と進化を遂げることができます。企業はこれらの法則を取り入れ、自社の強みを最大限に引き出し、競争力を高めることが求められます。 学習力で外部の知識を取り入れ、 編集力で情報を価値に変え、 実装力でそれを実行し、 引込力でステークホルダーを巻き込むことが重要です。

伝統の中には革新の萌芽が内包されています。それを読み解き、開花させ、企業自らが変態することが進化企業の腕の見せ所です。伝統だけにしがみつかず、新しい波にも飛びつかず、自社の強みから異結合を生み出すことで、自社独自のイノベーションを起こせるようになります。4つのEを効果的に活用することで、企業は時代の変化に対応し、永続的な成長を遂げることができるのです。

この記事を書いた人
徳本

■複数の広告会社で、コミュニケーションデザインに従事後、企業支援のコンサルタントとして独立。
特にベンチャーのマーケティング戦略に強みがあり、多くの実績を残している。現在、IPO支援やM&Aのアドバイザー、ベンチャー企業の取締役や顧問として活動中。

■多様な講師をゲストに迎えるサードプレイス・ラボのアドバイザーとして、勉強会を実施。ビジネス書籍の書評をブログにて毎日更新。

■マイナビニュース、マックファンでベンチャー・スタートアップの記事を連載。

■インバウンド、海外進出のEwilジャパン取締役COO
みらいチャレンジ ファウンダー
他ベンチャー・スタートアップの顧問先多数
iU 情報経営イノベーション専門職大学 特任教授 

■著書
「最強Appleフレームワーク」(時事通信)
「ソーシャルおじさんのiPhoneアプリ習慣術」(ラトルズ)
「図解 ソーシャルメディア早わかり」(中経出版)
「ソーシャルメディアを使っていきなり成功した人の4つの習慣」(扶桑社)
「ソーシャルメディアを武器にするための10ヵ条」(マイナビ)
など多数。
 
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