新消費をつくるα世代 答えありきで考える「メタ認知力」(小々馬敦)の書評

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新消費をつくるα世代 答えありきで考える「メタ認知力」
小々馬敦
日経BP

新消費をつくるα世代 (小々馬敦)の要約

2034年には2034年にはミレニアル、Z、α世代が市場の約7割を占めます。今後、マーケターにはメタ認知、アート思考、テックリテラシー、オープンマインド、状況倫理の5つの素養が求められます。上の世代の経営者は彼らの声を尊重し知見を活かすことで、世代を超えた価値創造と持続可能な社会の実現が可能となります。

α世代が変える消費行動

今から10年後、34年の生産年齢人口を図に描いてみると、新しい時代の社会の景色とビジネス機会が見えてきます。生産年齢人口は概算で6400万人。24年よりも1000万人規模縮小します。生産年齢人口が市場経済の規模と近しいと前提すると、ミレニアル世代・Z世代・α世代の合計は4400万人となり、市場経済全体の7割を占める規模になります。特にミレニアル世代とZ世代が購買力を備えたボリューム層に育ち、市場経済の中核となります。(小々馬敦)

株式会社ブランドエンジニアリング 代表取締役の小々馬敦氏は、世代間のダイナミクスと消費行動の変化について、重要な知見を示しています。特に若年層の価値観形成期における企業やブランドとの関係性構築が、将来的な顧客生涯価値(LTV)に大きな影響を与えることを指摘しています。

現在、α世代(2010年~24年頃に生まれる世代)は人格形成期にあり、2024年時点で14歳以下の若年層を指します。一方、Z世代は性格が確立していく重要な青春期を迎えています。この時期に企業やブランドとの間で形成される共感や感情的なつながりは、成人後のLTVの増大に寄与し、事業価値と企業価値の最大化という持続経営の命題を支える重要な要素となっています。

2034年の日本社会を俯瞰すると、生産年齢人口は約6400万人にまで減少し、2024年と比較して1000万人規模の縮小が予測されています。しかし、より注目すべきは、4つの世代(団塊ジュニア・ミレニアル・Z・α世代)の共生という特徴的な社会構造です。特に、「団塊ジュニアとZ世代の親子」「ミレニアルとα世代の親子」という2つの特徴的な家族像が浮かび上がってきます。

これらの世代は、従来の世代と比較して家族の絆が強く、共に過ごす時間が長いという特徴があります。例えば、買い物中にLINEでリアルタイムにコミュニケーションを取り合い、互いの購買決定に影響を与え合うような行動が一般的となっています。

親世代は子どもの自己実現を重視し、逆に子ども世代の価値観や行動が親世代に影響を与えるという、双方向の影響関係が形成されています。

2025年からのパラダイムシフトはさらに加速すると予測されています。その兆しは既に現れており、2020年を境に、かつての最大消費ボリューム層であった団塊世代が生産年齢人口から徐々に離脱を始めています。社会・企業における意思決定層の世代交代により、消費行動、働き方、価値判断基準が大きく変容していくことが予想されます。

特に、SNS、AI、DXが日常となった環境で成長するZ世代とα世代の感性と行動規範は、2030年代の新たなスタンダードを形成していくでしょう。多くの企業がSDGsの達成年である2030年を見据えた未来ビジョンを掲げる中、2025年からはポストSDGsの時代を見据えた新たなビジョン構築が活発化すると予想されます。

この変化に対応するため、企業はマーケティングや人材育成などあらゆる活動において、新しいアプローチへのアップデートが必要となります。ミレニアル世代、Z世代、α世代で市場全体の約7割を占める2034年に向けて、各企業は自社の存在意義とビジョンの再定義を迫られています。

新しい時代のマーケティングにおいては、世代間の関係性への深い理解が不可欠です。特に、デジタルネイティブ世代の特性を活かしたコミュニケーション戦略の構築や、家族間の影響関係を考慮したマーケティングアプローチの開発が求められています。企業は、この大きな社会変革期を、単なる市場縮小のリスクとしてではなく、新たな価値創造の機会として捉える必要があります。

α世代の5つの特性

α世代の行動プロセスは、まず「答え」を確認することが特徴で、その答えを実現するためのアイデアや技術スキルを持っている仲間が集って協力することで、目的を達成できるという成果志向の強さを感じます。「答え」をどのように導き出すかに関してですが、何が正解なのかを問う姿勢には、Z世代とα世代で違いがあるように思います。

著者はα世代の5つの特性を明らかにしています。
①AIとの親和性が高い
α世代は生まれた時からデジタルデバイスに囲まれ、AIを生活の常識として受け入れています。Z世代がテクノロジーへの不安感を持ち、人からの情報を重視する「ヒューマン志向」であるのに対し、α世代は人間味を感じられればロボットやアバターともコミュニケーションできる「ヒューマニティー志向」を持っています。テクノロジーを社会課題解決の手段として自然に捉える傾向があります。

②リアルとバーチャルの境目なく生活する
α世代はオンラインゲームなどのバーチャル空間での活動時間が長く、Z世代が別世界として認識するのに対し、リアルとバーチャル空間を区別なく往来しています。コロナ禍の影響もあり、バーチャル空間を自然な生活圏の一部として受け入れ、そこでの交流や活動を楽しんでいます。

③世界を描き出すクリエーター
想像力と再現力に優れ、頭の中の世界観を具体的に表現できます。未来の構想も、抽象的なイメージではなく、テクノロジーを活用した具体的な解決策として描き出せます。将来的には、理想の世界をまずバーチャル空間に創造し、それを現実世界の目標とする発想も生まれる可能性があります。

④答えありきで考える
α世代は社会的に正しいことが正解と考えます。また、AIが編集した情報を自然に受け入れ、最短経路で答えを求める傾向があります。Z世代が情報を慎重に吟味するのに対し、α世代はAIのリコメンドを積極的に活用し、情報収集の時間を最小限に抑えようとします。α世代の思考はタイパ(効率重視の思考)を重視するのが特徴的です。

⑤社会課題を解決する成果志向

今の小学生の考え方はシンプルです。「社会的に正しいことが正解」と考えています。人びとの価値観が多様であることを前提とするのであれば、みんなにとってより良いこと、社会的に正しいことが「正解」という考え方です。やるべきことは明快なのだから、直ちにみんなで答えを共有し、その解決や実現に向けて結集しようというマインドが主流となっていく流れを感じます。

「社会的に正しいことが正解」という明確な価値観を持ち、答えを見つけたら直ちに実現に向けて行動を起こす傾向があります。Z世代が多様な価値観の中で答えを模索するのに対し、α世代は社会にとって正しい解決策を見出し、それに向けて協力し合うという成果志向が強いです。これには新しい教育方針やSTEAM(Science、Technology、Engineering、Mathematics)教育の影響も見られます。

Z世代のマーケティングに必須なEIEEBモデルとα世代への活用法とは?

現代の消費者行動は、デジタル技術の進化とともに劇的に変化しています。特に、Z世代は、SNSを駆使して情報を収集し、購買行動を行う傾向が強まっています。こうした背景の中で、著者が提唱する「EIEEBモデル」は、若者世代の購買行動を深く理解し、マーケティング戦略を最適化するための有力なフレームワークとして注目を集めています。

EIEEBモデルは、SNSを通じたα世代の購買行動を5つのステップで捉える新しい消費行動モデルです。このモデルは、従来の直線的な購買プロセスとは異なり、循環的かつインタラクティブな要素を持つ点が特徴です。

1. Encounter(出会い)
Z世代がSNSのタイムラインを自然に閲覧している際に、思いがけない商品との出会いを経験するフェーズです。彼らは意図的な検索を行うのではなく、AIによって精緻にパーソナライズされた情報の中で、自分にとって意外性のある商品に出会うことに価値を見出します。この偶然の出会いを彼らはスマホに保存し、慎重に購入を検討します。

2. Inspired(インスパイア)世界観に共感し自分ごと化する
保存した商品にときめきを感じれば、商品情報を集め、自分の世界観に合っているかをチェックします。UGC(生成されたユーザー作成コンテンツ)の投稿者のライフスタイルや、その商品が織りなす世界観に共感し、それを自分の生活に取り入れた未来を具体的にイメージします。彼らが商品を通じて描かれる理想の世界観を鮮明に思い描くことができるかが、この段階の特徴です。

3. Encourage(後押し)購買の不安を解消
投稿に付随するレビューやコメントが購買の不安を解消する重要な役割を果たします。若者世代はAIのレコメンドを信頼する傾向が強く、他者の評価や体験談を通じて自分の選択に確信を持とうとします。これにより、実際の購入に向けた後押しが強化されます。

4. Event(イベント)ときめく購買体験
商品を手に入れること自体を特別なイベントとして捉えるフェーズです。ライブコマースでの購入や限定販売への参加など、購入プロセスそのものに特別な体験価値を見出す姿が描かれています。これにより、購買行動が単なる取引ではなく、記憶に残る体験へと昇華します。

5. Boost up(共有・拡散)ときめきを高め合う
自らの体験を新たなコンテンツとしてSNSに投稿します。これは単なる商品の紹介ではなく、自分が感じたときめきや感動を他者と共有したいという純粋な思いから生まれるものです。UGCは、次の消費者の「Encounter」段階となり、新たな購買行動サイクルを生み出します。

 Z世代向けに開発されたEIEEBモデルは、α世代特有の特性を考慮することで、より効果的なマーケティング戦略として機能します。その中核となるのが「居心地の良さ」という概念であり、これは以下の3つの環境要素から構成されています。

まず、「自分らしさの尊重」という要素があります。α世代は生まれながらにしてデジタル環境に親しみ、自己表現を日常的に行ってきた世代として、個々の独自性や個性が認められる環境を本質的に求めています。

次に「情報の信頼性」が重要です。α世代はAIによるレコメンドを自然に受け入れる一方で、所属する界隈内での情報の信憑性を重視します。この信頼性は、コミュニティの価値創造の基盤となっています。

そして「ヒエラルキーの不在」が挙げられます。上下関係のないフラットなコミュニケーション環境は、α世代の活発な意見表明と交流を促進し、彼らの「ヒューマニティ志向」とも合致します。

ここで特筆すべきは、企業やブランドが担う新たな社会的使命です。それは、界隈コミュニティーから生まれる価値やアイデアを経済価値へと変換し、市場経済に接続する役割です。

この過程で、2つの異なるタイプのコミュニティが重要な役割を果たします。 1つは従来型のファンコミュニティーです。これは主にコアなファン顧客のライフタイムバリュー(LTV)を最大化する場として機能し、市場経済により近い位置で運営されます。

もう1つは、より緩やかにつながる界隈コミュニティーです。企業やブランドがこのコミュニティーの活性化を支援することで、より広範な生活者からの支持を獲得することができます。

これら2つのコミュニティ間の流動性を高めることで、価値の循環が生まれます。界隈コミュニティーでの活発な交流は新たな価値やアイデアを生み出し、それがコアファンコミュニティーの熱量を高め、結果としてブランド事業の持続可能性を向上させる好循環を形成します。

α世代の「バーチャルとリアルの境界のない生活様式」は、このような重層的なコミュニティ構造との親和性が高く、EIEEBモデルの各段階においてシームレスな価値共創を可能にします。

また、α世代の「社会課題を解決する成果志向」は、コミュニティ内での価値創造をより実践的なものとし、それが経済価値への転換を促進する原動力となります。

このように、企業やブランドは単なる商品やサービスの提供者を超えて、コミュニティの価値創造を支援し、その価値を市場経済へと接続する触媒としての役割を担うことが求められています。この新たな役割を果たすことで、より深い信頼関係を構築し、持続的な成長を実現することが可能となります。

マーケターに必要な5つの素養

EIEEBモデルに示したようなときめく顧客体験をデザインするには、メタ認知で捉えた普遍的な社会倫理と、個々人が置かれている状況に即した倫理の双方の調和を取りつつ、最適な解を提案する力量がマーケターに期待されます。

現代のマーケターには、5つの重要な素養が求められていると著者は指摘します。
1,メタ認知
プラスサムな社会を実現する界隈マーケティングにおいて、マーケターには人、企業、社会、地球環境を俯瞰的に捉える力が必要とされます。個人の思いが界隈を通じて社会全体のムーブメントへと発展していく過程を支援し、促進する役割を担うのです。

2,アート思考
これは従来型のマーケティングとは異なる特徴的なアプローチを持ちます。マーケターや開発者自身の思いを起点として、その実現過程で生活者の意見を取り入れていくという順序性を持つ点が特徴的です。マーケターには、アート思考、デザイン思考とロジカル思考を組み合わせ、顧客からの共感を得ることが求められます。

3,テックリテラシー
特にα世代との関わりにおいて、テクノロジーへの深い理解は不可欠です。彼らのデジタルネイティブな特性を理解し、適切に対応するための基礎となります。

4,オープンマインド

「社会課題を解決したい思い」が中心に置かれ、賛同する企業・組織・人が結集するプロジェクト形式のオープンな組織が形成されて、活動が推進されます。企業の思いやパーパスを表明することの重要性はさらに高まります。

顧客の課題を解決するための企業間コラボレーションを積極的に行う必要があります。

5,状況倫理
EIEEBモデルが示すような感動的な顧客体験をデザインするには、普遍的な社会倫理と個々の状況に即した倫理との調和が不可欠です。

これらの素養を活かしつつ、上の世代には特に重要な役割が課せられています。まず、若い世代の声に真摯に耳を傾け、その意見を尊重する姿勢が基本となります。これはα世代の「自分らしさの尊重」という価値観とも合致します。

また、経験から得られた知見を共有する際には、押し付けではなく選択肢として提示することが重要です。α世代の「答えありきで考える」特性を理解しつつ、彼らが自主的に選択できる環境を整えることが求められます。

さらに、若い世代が選択した方向性に対して寛容な姿勢を持ち、その実現に向けて協働する姿勢も必要です。α世代の「社会課題を解決する成果志向」を支援し、共に成果を追求する姿勢が重要となります。

最も本質的なのは、よりよい社会の実現という共通の目標に向けて、世代の違いを超えて応援し合う関係性の構築です。これは、企業やブランドが界隈コミュニティーの価値をマネタイズし、市場経済へとつなげていく過程においても重要な基盤となります。

このような世代間の協働は、単なる知識や経験の伝達を超えて、新たな価値の共創へとつながっていきます。それは結果として、持続可能な社会の実現と、より豊かな市場の創造につながっていくでしょう。このような視点を持ちつつ、マーケターは自身の素養を磨き、世代を超えた価値創造の触媒となることが期待されています。

2034年に向けて、日本の市場は大きな構造変化を遂げていきます。この変化を的確に捉え、新しい時代に即したビジネスモデルを構築できる企業こそが、次の10年の市場で主導的な役割を果たすことができるでしょう。人口減少は確かに課題ではありますが、それ以上に、市場の質的な進化をもたらす契機として捉えていく必要があります。

最強Appleフレームワーク


この記事を書いた人
徳本

■複数の広告会社で、コミュニケーションデザインに従事後、企業支援のコンサルタントとして独立。
特にベンチャーのマーケティング戦略に強みがあり、多くの実績を残している。現在、IPO支援やM&Aのアドバイザー、ベンチャー企業の取締役や顧問として活動中。

■多様な講師をゲストに迎えるサードプレイス・ラボのアドバイザーとして、勉強会を実施。ビジネス書籍の書評をブログにて毎日更新。

■マイナビニュース、マックファンでベンチャー・スタートアップの記事を連載。

■インバウンド、海外進出のEwilジャパン取締役COO
みらいチャレンジ ファウンダー
他ベンチャー・スタートアップの顧問先多数
iU 情報経営イノベーション専門職大学 特任教授 

■著書
「最強Appleフレームワーク」(時事通信)
「ソーシャルおじさんのiPhoneアプリ習慣術」(ラトルズ)
「図解 ソーシャルメディア早わかり」(中経出版)
「ソーシャルメディアを使っていきなり成功した人の4つの習慣」(扶桑社)
「ソーシャルメディアを武器にするための10ヵ条」(マイナビ)
など多数。
 
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